第三話 北の都・北陵(ほくりょう)と玄武城
第三話 北の都・北陵と玄武城
「……本当に無事で良かったわ」
蒼鈴が深い安堵のため息をつく。
「御心配をおかけしました。従姉上」
あの後、一行は周囲の安全を確認し次第、更なる襲撃を避けるため速やかにその場を離れた。
蒼鈴はしばらく恐怖で体の震えが止まらず、ずっと押し黙っていたが、その後何事もなく馬車が進み始めたのでようやく一息付けたようだ。
「季翠ちゃんは武術が得意なのね」
「……後見人に教えられたのです」
意外そうにそう言う蒼鈴に、季翠は苦笑して答えた。
虎雄は季翠を疎んじるのと同じだけ、彼女に様々なことを要求した。
それは主に皇子に望まれるような、武術や馬術、兵術の能力であった。
季翠に習得を強制し、時には試験と称して自ら指導をした。
その時のことは正直思い出したくない。
しばらくして宿の町に着く。
ようやく一行から完全に緊張が抜けた。
明日はとうとう、北の都に入る。
*
「ここが、北陵ですか」
朝早く宿を立ち、昼前にそうそうに目的地へと到着した。
北の都・北陵。
他の都市とはまた違った、しっかりとした軍事設備を備えながらも清廉された美しさを持つ。
無骨な西牙とも、綺羅びやかな帝都とも違う。
北の国境に近く、北方異民族の脅威に晒されやすい土地柄ながらこうも穏やかな風情を保っているのは、道中度々称賛の噂を耳にしたこの地を治める玄武将軍の采配によるものか。
一行はやがて、玄武城門に到達する。
巨大な鉄の城門に刻まれているのは、亀の体と蛇の尾を持つ神獣・玄武。
四狛が取次ぎをしようと馬から降りようとするが、その前に城門が開かれる。
「お待ちしておりました、使者殿」
城門の中から現れたのは、筋骨隆々のやや浅黒い大男。
敬語に馴れていないのか、どことなく違和感を感じる。
「玄武城将軍が側近・玖狼と申します。以後見知りおきを」
季翠たちも揃って馬車から降りる。
「お初にお目にかかります、第二皇女・季翠と申します。皇子殿下の命により馳せ参じました」
季翠が代表して挨拶すると、玖狼はほんの少しだけ意外そうに目を見開いたが、特に何も言わず、一行を城内へと誘った。
玖狼に続く一行だが、季翠は目の端に気になる物が映り、少し足を止めた。
あれは――。
城内から外に、なかなかの数の荷車が運び出されている。
覆いの端から見えるに、あれは穀物か。
「……」
「姫様?どうしました?」
「いえ。何でもありません」
四狛の呼びかけにそう答えながらも、季翠は何となく胸騒ぎがして、何気なく胸元に手を当てた。
懐には、昨夜賊が落とした品が入っていた。




