第二話 波乱の道中
第二話 波乱の道中
一行は順調に道を進み、帝都を出てすでに二週間が経っていた。
現在は、北陵の手前にある町に差し掛かっている。
「すごい賑わいね!」
「北部最大都市の北陵ほどではないですが、ここも北で有数の大きな都市の一つだそうですよ」
馬車から見える景色に蒼鈴がはしゃぐ。
それに対して、従者の楚英起が物知り顔で答える。
「少し市場を見てみませんか?従姉上」
季翠はつい従姉に提案する。
彼女があまりにも馬車の外に興味津々だったからだ。
すると案の定、季翠の提案に蒼鈴は目を輝かせる。
「いいの?」
「いけません!!馬車を降りて歩くなど、何かあったらどうしますか!」
しかし、即座に英起から厳しい反対の声が上がる。
蒼鈴の表情が一気に沈む。
「せっかくだと思ったのですが……」
大きな問題もなく順調に道のりを進み、今は旅程に余裕もある。
少しくらい良いのではないか。
「――硬てぇこと言うなよ。少し店をひやかして見るぐらいいいだろ」
馬車の外で馬に乗っている四狛が、窓の外から顔を出す。
「嫁入り前の姫様に何かあったらどうしてくれるんですか!」
「それがないように、俺たちがいるんだろ」
助け舟を出した四狛に噛みつく英起を軽くあしらい、四狛は道の端に一行を止めさせると、馬車の扉を開けた。
「さ、どうぞ姫様方」
「ええ!」
「あ!ちょ、姫様!」
「英起、お説教は後で聞くわ!」
蒼鈴は引き止めようとする英起の手をひらりと躱すと、待ってましたとばかりに馬車の外に出る。
呆気に取られてぽかんとする英起に少々申し訳無さを感じながらも、季翠もそれに続いて馬車を降りた。
「わぁ!すごいわね!季翠ちゃん!」
「本当ですね」
「わたくし、町に出るのなんて初めてよ!あ、あれは何かしら?」
「あ、従姉上、お待ちをっ」
駆け出して行く従姉を追いかけようとした季翠だが、すぐそばの露店にあった商品の文字に目を奪われ、思わず足を止めてしまった。
店の前で立ち止まった季翠に、店主だろう親父が即座に話しかけてきた。
「お!お嬢ちゃんも恋愛小説に興味があるかい?」
「そいつは新刊だよ!若い女の子に人気でね、ちょうど今日再入荷したんだ」
「偉大なる皇帝陛下と、その御寵愛を一身に受ける皇后陛下の恋物語を題材にしたやつさ!」
「皇帝と、皇后……」
店主の客引き言葉に、季翠はぼんやりと呟く。
そのままその小説を吸い寄せられるように手に取ろうとしたが、自分を呼ぶ従姉の声にはっと我に返る。
「季翠ちゃん!こっちに来て!」
「あ、はい!従姉上」
慌てて従姉のことを思い出し、彼女の傍に駆け寄る。
「何か気になる物でもあったのかしら?」
「……いいえ。別に」
きょとんとする蒼鈴に、季翠は何でもないように笑いかけると彼女に続いた。
*
蒼鈴は一通り市場を見て回ると満足し、二人は無事に馬車に戻った。
その後は不機嫌極まりない状態で待っていた英起のお説教を二人仲良く聞く羽目になったが、それ以外は平和で順調な道のりがその後も続いた。
そんな平穏が狂ったのは、今夜の宿とするもう一つの町に着く直前の、夕刻の薄暗い街道でだった。
しばらく平坦な道を馬車は何事もなく進んでいた。
蒼鈴は昼間に市場ではしゃぎ過ぎたのか、うつらうつらとしている。
季翠もそれにつられ少し眠気を感じながらぼんやりとしていたが、馬車がいきなり停まり外が突如騒がしくなると、その穏やかな空気が霧散する。
「四狛殿?何か起こったのですか?」
季翠が呼びかけると少し強張った四狛の声が返ってくる。
「賊です‼」
蒼鈴と英起も、その声にばっと体を起こす。
「従姉上、ここに居てください。扉も窓も、絶対に開けないでください」
「き、季翠ちゃん⁉」
季翠は驚く蒼鈴の声に背を向け、護身用に持っていた剣を片手に取ると馬車の外に飛び出た。
その時馬車に賊の一人だろう男が近づいてきたところであった。
季翠はそのまま男に斬りかかり、腹に足で一発叩き込むと剣の柄で後頭部を打ち昏倒させた。
そのまま四狛たち護衛に交ざり賊に対処する。
互いに互角で事態が膠着状態になるが、一団の頭格らしき男が何か聞き取れない言葉を上げると、一気に賊が後退していく。
季翠が昏倒させた男も、仲間の一人に抱えられ逃げていく。
「待て!」
季翠は丁度斬り合っていた賊の男を逃がすものかと踏み込むが、避けられ服を切っただけに留まり逃がしてしまう。
その時、男の懐から何か零れ落ちた。
しばらくすると、剣戟の音が止み、賊が完全に姿を消す。
護衛たちが周囲の安全を再確認する。
季翠の傍に、四狛が寄ってくる。
「姫様、お怪我はありませんか?」
「はい。四狛殿は」
「ないです。多少手こずりましたけどね」
「しかし、姫様。ああいう時は馬車の中で隠れててくださいよ。飛び出してこられて冷や冷やしましたよ」
「中に居ても外に居ても変わりませんよ」
しかも、あの時まさに馬車に賊が近づいていたのだ。
季翠が外に出なければ、狭い馬車の中で戦うことになっていただろう。
季翠の返答に四狛は渋い顔をしたが、改めて真剣な表情になる。
「……北方異民族ですかね?」
「そうですね……」
四狛に答えながら、季翠はその場にしゃがみ込む。
「これは……」
先ほど服を切った賊の一人の懐から零れ落ちた物だ。
――――亀が刻まれた木製の装飾品。
帯飾りか何かか、裏に紐が通せるような穴が空いている。
謎の集団。
異民族の言葉。
そしてこの亀の紋章。
「……」
目的地・北陵を目前にして、きな臭い雰囲気が漂ってきた。
読んでいただきありがとうございます!
いよいよ二章も内容に入ってきました。
ここまで自分としては結構長く書いてきているので、そろそろ読んでくださっている方の感想や、作品の客観的な評価が知りたいです。
お時間があればぜひ感想や評価をお願いします!




