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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第四章 玉璽争奪編
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第二十九話 歪んだ夫婦

「残念だ。愛する妻に似ている子の方が、余程可愛いと言うのに」

 愛妻に似ていないと分かると、途端に緑龍は季翠への興味が半分以上失せたようだった。

 


 何よりの関心事である妻に顔を向ける。

 見えていないはずなのに、まるで見えているかのように的確に視線を合わせるその姿に、季翠は人知れずぞっとした。

 


 この男は、妻の目がどの位置にあるか覚えているのだ。



「なあ、君の方は俺に似ている子を可愛いと思ってくれるか?」

「……何を好ましく思うかは、人ぞれぞれでは」

「嘘でも可愛いと言ってくれれば良いのに、相変わらず冷たいな」

 ――――でもそんなところも好きだ。



 何だこの地獄みたいな会話は。

 よく分からない感情で体が小刻みに震えそうになるのを、必死に耐えた。



「(……気分が悪くなる、とは)」

 伯虎雄は、これを知っていたのだ。

 だから、ここに近づくことを忌避していた。



 彼は知っていたのだ。

 この夫婦の本質を。

 この檻のような宮を。



 …………気持ち悪い。

 父が母に向ける愛と、母の目の奥の感情があまりにもかけ離れていて、その差に身震いした。

 


「ああ……でもそうだったな」

「思い出した。翠があまりに俺に似ていたから、あれが嫌がったのだったな」



「なあ、雨鳥。あの時のあの子を憶えているか?雨の中三日三晩外で頭を下げ続けて、それなのにさっきはあんなに怒って……ここ数年で随分短気になったものだ。虎雄に似たのか?」

「私には、何とも……」



 その会話のほとんどが、季翠には分からなかった。

 ひたすら床を見つめて吐き気を耐えながら、会話が終わるのを待つ。



「それで――――」



「翠よ、お前は何をしに来たのかな?」

 父にようやく話題を向けられ、懐から玉璽を取り出す。

 それを恐る恐る母の方に差し出した。



 雨鳥が巾着を開け、中身を緑龍の掌にのせる。

「玉璽か」

「…………お返しに、参りました」



「これは俺が虎雄にやった欠片だな」

 まるで子どもが玩具を弄ぶように、軽々しく玉璽を人差し指と親指で摘まみ上げてみせた。

「それをお前が持っているということは、虎雄が渡したのか」

「はい」

 


 へえ……と真意の見えぬ相槌が返される。



「俺は四つの欠片を四方四家にそれぞれ託した。



 一つは粗野に見せて誰より思慮深い西の親友に、一つは野心を燃やす苛烈な老将に、一つは祖を同じくする東の同胞に、そして最後の一つは、北の古き戦友に」



 伯家、雀家、清家、玄家のことを、それぞれ言っているのだろうか。



 しかしそうなると、虎雄の手には一つしか渡っていないことになる。

「(じゃあ、あれは……)」

「これをわざわざ返しに来たということは、お前は皇帝にはなりたくないということか?」

 玉璽をひらひらと振る。



 最初に手にした玉璽のことに思考が飛び、一瞬反応が遅れる。

「は、はい」

「ふうん?」



「そうなのか、お前は俺の血を引く正統な子の一人なのに。お前の兄とされている第一皇子は皇家の血筋ではないのだから、遠慮することはないと思うのだがな」

 


 …………今。



「陛下――――」



 今、確かに言った。



「(ああ……やっぱり真実だったのか)」

 鶯俊は、季翠の兄ではない――――。

 

 

 覚悟していたとはいえ、実際に断言されると心にくるものがあった。



 物悲しい気持ちのまま、ぽつりと零すように問う。

「陛下は、やはり御存知だったのですね…………」

「御存知だった、とは?」



「鶯俊兄上が、偽りの皇子であると……」

「鶯俊?

 ……ああ、第一皇子の名か。そんな名前だったな、確か」

 御存知も何も。











「あれは俺が取り替えさせたのだから」

 思わず見惚れてしまうほど美しい微笑みを浮かべて、そう言った。

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