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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第一章 帝都編
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第十二話 勅命

第十二話 勅命


 今日は朝から皇宮全体が騒がしい。

 


 兄と謁見し、大任を任された昨日の今日でこの騒ぎに、季翠(きすい)は心休まらなかった。



 皇宮の奥にあり、寂れた状況の後宮にも騒ぎが届くほどだ。

表はどれほどの騒ぎなのか。



「姫様、戻りました」

 落ち着きなく待っていると、外廷まで様子を伺いに行っていた四狛(しはく)が戻ってきた。



「北を治める大貴族・玄家(げんけ)の当主が亡くなったそうです」

「玄家当主……」

「北の名門ですね」



 玄家とは、大影帝国の北部を治める大貴族だ。

西の伯家(はくけ)、東の清家(せいけ)、南の雀家(じゃくけ)、そして北の玄家。

この四つの家が、帝国で特に力を持っている家だ。

 


 大影帝国において、北は少々特殊な統治の仕方を取っていた。



他の東西南はそれぞれの地を治める大貴族の当主が城主を兼任している。

伯虎雄(はくこゆう)と、雀紅松(じゃくこうしょう)が例だ。

しかし、北は玄家とは別に、北の城に皇帝が信任した将軍が駐屯しているのだ。



北の城・玄武城(げんぶじょう)とその城が位置する北部最大規模の都市・北陵(ほくりょう)は、玄家ではなく、その玄武城将軍によって統治されている。



現在の北の将軍――通称「玄武将軍(げんぶしょうぐん)」と呼ばれる将軍は、確か()という姓の将軍だったはずだ。

 


 しかし、帝国の一翼を担う家の当主が死んだとなれば、それは確かに大事だろう。

加えて今は皇帝が帝都不在の中だ。皇宮が上へ下へと大騒ぎになるのも分かる。



「随分前から患ってはいたそうなんですが、とうとうって感じらしいです。しかも何とも厄介なことに、次期当主を決めずに亡くなったそうで」



「次期当主……?」

 四狛は顔を顰めて頷く。



「亡くなった玄家当主なんですが……何でも相当な艶福家だったらしく、十人以上子どもがいるそうなんですよ」



「子どもは正室の他に商家の娘やら農民の娘やら妓女やら……、まあいろいろな身分の女が産んだ子らしくて。そんな状況で後継者を決めずに死んだわけですからね。今玄家は葬儀ででもですが、跡目争いで揉めに揉めてるそうです」



「玄武城は?」

「それが……」



 そもそも玄家がそんな状況のため、今回の当主死去の報も玄家ではなく、玄武城から届いたのだそうだ。

 しかしその玄武城も報せを送ってきたものの、玄家への介入については皇宮の対応に任せるとの静観姿勢だという。



「現玄武将軍の葵将軍は、慎重な方だと聞きます」

 つまり皇宮側が動かなければ、玄武城は動かないということだ。



「北は私たち兄妹のうち、誰も育っていない地です……。皇帝陛下以外の皇族が訪れたところで、どこまで事態を収束できるのか……」

 


 そう。

季翠は西、姉の碧麗(へきれい)は南、そして兄の鶯俊(おうしゅん)は東と、皇家の兄妹は赤子もしくは幼少期をそれぞれの地で育った。

しかし北には誰も行っていない。



 つまり、まったくの領域外の地なのだ。

今回亡くなった玄家当主――もう先の当主と言うべきか――は、皇帝への忠誠心厚い人物だったと聞くが、はたしてその子どもたちはどうなのか。

 


 何より、季翠は嫌な予感がするのだ。

そしてそれは四狛も同じだろう。

二人は黙って何とも言えない顔を見合わせる。



 そして、その嫌な予感は見事的中した。



「姫様、使いがやって参りました」

侍従の声とほぼ同時に、先日訪ねてきた鶯俊の使いとは別の使いが入室してきた。



「第二皇女殿下、皇子殿下より御命令でございます」

 季翠は恐る恐る書簡を受け取る。



 勅命――――。

 第二皇女・季翠に命ずる。

北の大貴族・玄家の混乱を収め、次の玄家当主を定めよ。

また、皇太弟の第七子と、玄武将軍が子息の婚姻を承諾させ、北と皇家との結びつきを確固たるものにせよ。

 


 つまり……。



「玄家の次期当主を決めさせ、ついでに従姉姫の縁談も成立させて来いってことですね」

「無茶な……」



「北には鶯俊殿下も参られます。しかし、殿下は陛下の留守を任されていらっしゃる身、政務の調整をされてから出立なさいます。姫様には、先に玄武城に行き、現地の状況を把握しておいていただきたい」



「わ、私一人では……」

「御一人ではありません。そこにいる護衛武官殿はもちろん、皇太弟殿下の姫君も同行されます。その分、共も十分な数おります」

「北陵までは三週間はかかります。明日には出立を」



 委縮する季翠に構わず、用件を言いうだけ言った使いはすぐに退出していった。

 つまり、北の安定と従姉の今後は、季翠にかかっていると言っても過言ではないわけだ。



「「……」」

 十四年ぶりの帝都への帰還に息つく間もなく、季翠は動き出す運命の流れに乗るしかなかった。

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