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大影帝国記【完結!】  作者: aberia
第四章 玉璽争奪編
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第二十六話 私は母親なのだろうか

 リンリンリンリンリン‼‼‼‼

 


 口布に指が触れる直前。

 耳が痛くなるほどけたたましく、鈴が振り鳴らされる音が辺りに響き渡った。



 我慢ならず侍女から手を離し、両手を耳に当てる。

 その隙に侍女は逃げ出す。

 目で追うと、あの先頭を歩いていた女が鈴を振っていた。



 鈴の音を合図に、ばたばたと人が集まってくる気配がし始める。

 


 そうか、あれは。

「(あの鈴は連絡手段か)」



 しかし、何にせよ面倒なことになった。



 鈴の侍女と目が合う。

 彼女は何かに気づいたように目を見開くと、突然鈴を鳴らす手を止めた。

 が、すでに兵達がこちらに走ってきているのが後ろに見える。



「(捕まる前に皇帝に会うしかない……っ)」

 季翠は黒衣を翻すと、宮の奥を目指して駆けた。



 階段をがむしゃらに登る。

 途中階段ごと屋外に出て一気に冷たい空気の中に入ったが、構わず上を目指した。

 段の端には、雪が溶け残ってへばりついていた。



 やがて後ろの宮の入り口前にある、舞台に着く。

 こちらも前の宮同様、これでいいのかと心配になるほど護衛や警備らしき兵の姿が見当たらない。

 


 宮の中に入っている内に、いつの間にか月はまた雲の中に隠れていた。

 しかし次の瞬間。

 びゅうっ!と、風が強く吹いた。



 月光が、また再び宮を照らしだした。

 月明かりに照らされた奥の宮は、まるで……。



「(鳥籠のようだ……)」


 

 前の宮よりも、はるかに小ぢんまりとしている。

 二重、三重……何重にも御簾が掛けられたそこは、前の宮よりもはるかに閉塞的だった。

 見ているだけで、息が詰まりそうになる。



 正直なところ入りたくはなかったが、場所的にもここが皇帝と皇后がいる場所で間違いないであろう。

 それも、かなり私的な空間だ。

 兵に追いつかれる前に、身分を明かし、目通りを果たさなければならない。



 しかしいつの間にか、後ろから追ってくる気配はなくなっていた。

 

 

 そう……と、御簾の隙間に手を差し入れる。

 最初の御簾、その後少し空間が開いて次。

 そして三重目に手を掛けようとした、その時。





「――――誰だか知らないが、それ以上近づかない方がいい」



 本当に分からなかった。

 気づいたら、かき分けようとしていた御簾から刃の先が飛び出していた。

 その切っ先は確実に季翠の喉元に狙いを定めており、冷たく熱い感触が、喉に走った。

 


 状況が理解できず、口も頭も働かなかった。

 自分の偃月刀とどことなく似ているな、などと思考があらぬところに飛ぶ。

 しかしそんな風にぼうっとしている内に、いよいよ喉から胸元にかけて生温かい血が垂れてきて、本格的に命の危険を感じてようやく口が動き始めた。


 

「……ぶ、無礼をお許しください」

 ようやく出た言葉は、それだけだった。



 まずい、まずい。

 何か、何か早く言わないと。

 このままだと、問答無用で切り捨てられる。

 いや、実際密かに忍び込んだ身の為そうなって当然な状況ではあるのだが。



 それでは困るのだ。

「(私にはまだ、やるべきことがある……っ)」

 こんなところで、死ぬわけにはいかないのだ。

 季翠の手が、自身の偃月刀を握る力を強めた。



「――――季翠」



 刀を振りかぶろうという意志を持った手を止めたのは、女の声だった。

 名前を呼ばれたが、それはどちらかと言えば、呟きに近かったように思う。

 しかしそれと共にピタリと、首に食い込んでいた刃の進みも止まった。

 


 するすると中に戻って行く刀を呆然と見送っていると、衣擦れの音がした後、目の前で御簾が上げられていく。

 ……御簾の先から姿を現したのは、一人の女人だった。



 彼女は御簾を挟んですぐ、季翠の目の前まで出てきていた。

 その後ろの暗がりに、季翠のものとよく似た偃月刀を脇に置いている緑龍帝が見える。



 こんな夜中に、恐らく寝所と思われる場所に皇帝と共にいる女。

 ここは皇后の居所。

 状況と場所から考えて……。



「……ははうえ……?」

 


 ()()は、その呼びかけには答えなかった。

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