第十一話 北からの訃報
第十一話 北からの訃報
「いやー、何事もなく終わって良かったですね」
宮に戻った季翠と四狛は、そのまま室にある卓にそれぞれついた。
四狛は流石に皇子の前だと緊張したのか、卓に上体を伏してへばりついている。
季翠は黙って、目の前に先程受け取った玉佩を掲げ見た。
見事な細工の玉だ。
色も大きさも品質も最上級の翡翠をまるごと使って、鶯が掘られている。
飾り紐も同じく上質な絹を染めたものだろう。
間違いなく、季翠が今まで持ってきた物のなかで最も高価なものだ。
「それがあれば、基本どの関も査察なしに通れるそうですよ。流石皇宮使者の証。たく、西牙からもくれればいいのに」
あの虎親父。
帝都までの苦労した道のりを思い出したのか、いまだ卓にへばりついたままの四狛がげんなりとした顔をする。
「……私に務まるでしょうか」
季翠はぽつりと不安を零す。
姉と違い、兄からは厳しい印象を受けた。
皇子としてならあれが当然で、自他共に厳しいという評判通りだが、皇族としてまともに過ごしてきたことのない季翠には、まだついていけない気がした。
自分は、兄の期待や求めるものに応えられるのだろうか。
「大丈夫ですよ」
四狛は少し体力が戻ったのか、ようやく体を起こす。
「それに、使者って言ってもそんな頻繁に駆り出されないでしょう。姫様は姫様なんですから、そんな重く考えずに、どーんと構えとけばいいんですよ」
「そうでしょうか」
「そうですよ。僭越ながら俺もいますし」
そう言うと、四狛は自分の胸を叩き、不敵な笑いを季翠に向ける。
季翠もそのおどけた姿に思わず吹き出す。
「そうですね。私には姉上もですが、四狛殿がおられました」
「そうですとも」
うんうん頷く四狛は、ふっと真剣な顔になる。
「……姫様、よく笑われるようになりましたね」
「え……」
「良いことですよ。子どもは笑ってなんぼなんですから」
「……私は子どもではありません」
「子どもですよ、十四歳なんて。もっと子どもらしく甘えてください」
そう言う四狛が、まるで父か兄かのような優しい目を向けてくるものだから、季翠はなんだか居た堪れない気持ちになった。
「にしても、あの殿下の傍に居た男は誰なんですかね。覆面なんかして」
「さあ……」
皇子の傍近くに控えているくらいだ。
側近の中でも地位が高いのは確かだろう。
しかも覆面で顔を隠すことを許されているくらいだ。
それとも兄の影武者か何かか。
しかし――――。
季翠に向かって勅命を告げたあの美しい声、なぜか耳に残って離れなかった。
季翠が鶯俊との謁見を終えて宮に戻った後、一頭の早馬が急報を携えて酉の門を通ったところであった。
春になってしばらく経つはずの大影帝国に、今だ冬の名残を感じさせる北からの冷たい風が吹きこもうとしていた――――。




