第十話 第一皇子
第十話 第一皇子
――――戌の刻、第一皇子・鶯俊の室の前に、季翠は四狛と共に訪れていた。
室の前には、それぞれ朱色と、青色の鎧を纏った武官が二人控えていた。
「お待ちしておりました、姫様」
「どうぞ、中で兄君がお待ちです」
ギイィと、重たい扉が開かれる。
季翠は顔を伏せ、ゆっくりと足を踏み入れた。
「久しいな、翠」
声がした方に顔を上げると、上座に一人の青年が堂々とした居住まいで座っていた。
季翠は、自然とその場に膝まづき、最敬礼をした。
「お久しぶりに、ございます……」
「兄上……」
*
「元気だったか」
「はい」
大影帝国が第一皇子・鶯俊。
御年二十歳。
季翠の兄で、碧麗の双子の兄である。
文武両道にして、自他ともに厳しく、第一皇子として民の尊敬を集める。
周囲の者を自然とひれ伏せさせる、そんな強者の雰囲気を持っていた。
まさに、皇帝の器の持ち主といった人物だ。
「早速本日の本題である、姫様の今後についてでございますが、」
上座に座る鶯俊の傍らには、一人の覆面の男が立っていた。
彼は良く通る綺麗な声で、書簡を読み上げる。
「今後は鶯俊様の側近配下の一人に加わっていただき、皇宮からの使者としての任を拝命していただきます」
「使者……?」
「皇宮の意向を伝えるのが、お前の役目だ」
「現在、陛下は帝都に居られぬ。主だった政務は俺が任されている」
鶯俊の言う通り、皇帝は現在西の国境近くの駐屯地に滞在していた。
帝都に戻るのは、夏の終わりごろの予定だそうだ。
「皇宮の意向、ひいては俺の意向を、各地もしくは各将軍に伝えるのがお前がすることだ」
「この大影の皇族の一員として、お前も帝国のために誠心誠意努めるように」
そして鶯俊は席から立つと、膝まづく季翠の前に来ると玉佩を手渡す。
その玉は見事な翠色の翡翠でできており、鶯が彫られていた。
飾り紐は黒だ。
大影では皇帝と、それに連なる者しか身につけることができない緑と黒の禁色の組み合わせだ。
季翠は慌てて口上を述べ、恭しく受け取る。
「は、はっ。第二皇女・季翠、謹んで皇子殿下より皇宮使者のお役目、拝命いたします!」
「頼んだぞ」
任命の儀が終わったのか、ほんの少しだけ鶯俊が、その整った精悍な顔立ちに浮かべた表情を緩める。席に戻らず、季翠にも立つように促す。
「碧麗とは、もう会ったか」
「!は、はい!」
「姉上は変わらずお元気そうで。よろしければ兄上も今度ご一緒に……」
兄妹としての兄の顔を見せた鶯俊に、季翠は嬉しくなってお茶に誘おうとしたが、それを遮り鶯俊からは厳しい言葉が返ってくる。
「姉と仲良くするのはいいが、お前の皇宮における保護者は俺だ。今後は何事も、俺を優先に報告するように」
「!は、はい……」
「くれぐれも皇族としての自覚を持ち、軽はずみな行動はしないようにしろ。いいな、翠」
「はい……」
「話は以上だ。下がっていい」
「失礼、いたします」




