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第四話

 タフィ・ローズが帰ってきたのは朝の8時頃だった。ちょうど朝食を食べ終わったカノンは黒イルカをねぎらった。黒イルカはぐったりした様子でくの字に曲げながら宙を漂っている。


「あぁ~~~疲れた~~~」

「お疲れ様。どうでしたか?」

「どうもなにも――」

「だぁ!!あう~~~~~ばぁ~~~~~~~!!」


 タフィ・ローズはふわりと宙返りした。黒イルカのヒレをつかみそこねてもキャッキャッとソファーで嬉しそうに笑う狐耳の子はあの女性によれば、ファムというらしい。


「よしよし、さぁ、ミルクだよ」


ファムを抱いてミルクを飲ませているナネットを見ながら、寝不足ぎみの頭をグリーンティーでスッキリさせたカノンは情報を整理する準備を整える。


「タフィ・ローズ、糧をとって休んでと言いたいけれど、まずは調べてきた情報を教えてください」

「はいよ。人使い荒いなぁ」


 黒イルカはフワフワとカノンのそばにやってきた。


「まず一点目。カノンの言う通り、ドナウディア家じゃ一人も家族は消えていない。あそこには一族が十数人いるけれど、誰も大騒ぎしていないよ」

「・・・・・・・・」

「そして二点目、クロードとシャルローゼにはそれぞれ直属の部下がいるけれど、シャルローゼ殿の部下もクロードの元部下たち。夕べのアレも一部を除いて大半がクロードの部下だったみたいだね」

「・・・・・・・・」

「三点目、シャルローゼは独身だけれど、最近ドナウディア家の隣の領主のナッサウ家との縁談が進んでいるんだって。ナッサウ家は子爵の家柄でドナウディア家とはまぁまぁ釣り合うらしいけれど、それだけじゃなくてルロンド王家とのパイプがあるらしいね」

「なるほど、よくわかりました」


 カノンはうなずいた。夕べから考えていたことがだいたいの形でまとまりつつある。けれど、いくつかピースが足りない。

 それを埋めるには、とカノンは考える。やはりあの人に会うほかなさそうだ。


「ばあや」

「はい、お嬢様」

「今日は私が外に出てもいいですか?」

「おや、御珍しい。普段は街に出ませんのに。ええ構いませんよ。そこの黒イルカとこの子をお守していますから」

「ええ!?まだ働くの・・・夕べからずっと働きづめなんだけれど」


 タフィ・ローズの泣き言をナネットは鼻息一つで吹き飛ばす。カノンは宙で手を一振りさせた。淡い黒い光を放つ球が出現し、タフィ・ローズの目の前に来た。


「あ!!」


 パクリと飲み込むタフィ・ローズが途端に幸せそうな顔つきになる。


「ぷはぁ!!美味しい!!久しぶりの食事だよ」

「ま?あぼ~~~わ!!」

「駄目だね、君には数千年早いよ。どうしてもって言うなら一回死んで精霊になってからおいで」


 タフィ・ローズは興味を示したファムに宙返りしながらそう言った。


「馬鹿な事を言ってないで、さっさと皿洗いをしな!!」

「ええ?!やっとこれから眠れると思ったのに・・・・」

「皿洗いが済んだら洗濯物を干すんだよ!寝るのはそれからだ、いいね?」

「信じらんない・・・・」


 愕然とするタフィ・ローズをしり目に、カノンは立ち上がり、仕度をするために部屋を出ようとして、足を止めた。夕べからずっと働き詰めの黒イルカが泣き出しそうな眼をしている。


「ばあや、せめて皿くらいは私が洗います。タフィ・ローズを休ませてあげて」


** * * *

 大通りを歩いていたカノンは黄色の髪の男に呼び止められた。それがオニキスだとわかったカノンは軽く頭を下げた。


「買い物か?」

「はい」

「少し話があるのだが、構わんか?」

「ええ。もう終わりましたから」

「ならその荷は俺が持とう」


 カノンの返答を待たず、オニキスは荷を持つと先頭に立って歩き出した。どこに行くとも言わなかったが、足先は大通りの港の波止場近くのカフェで止まった。

 注文を取りに来た猫の耳をした獣人の女ウェイトレスにオニキスはレイン・ティーを、カノンはブルーアイスティーを注文した。


「夕べの話は聞いた。貴女、深夜に災難だったそうだな」

「ご存知でしたか」

「クロード卿はおかんむりでな。これ以上事実から目をそむけたくはなかったのだろう。シャルローゼ殿に対し散々説教だ。シャルローゼ殿はシャルローゼ殿でクロード卿に食って掛かる始末だ」

「・・・・・・・」

「俺もその場にいさせられてな、何とも気まずい雰囲気だった」

「・・・・・・あの」


 カノンはオニキスを見つめた。


「そろそろ本当のことを話してもらえませんか?」

「本当の事?」


 カノンは息を吸って呼吸を整えてから、おもむろに切り出した。


「あの子は誰の子ですか?そしてあなたは誰の命令で動いているのですか?」

「・・・・・・・」

「知らないはずはないと思います。あの宝玉の装飾の間に紙片を挟み込んだのは、あなたでしょう?」

「紙片?知らないな」


 カノンは静かに例の紙片をオニキスに差し出した。黄色の髪の男は無表情にそれを見る。


「これが宝玉の装飾の間に挟まっていました。あの宝玉を直接持ち込んだのはあなたですが、紙片をはさんだのはあなた以外に考えられませんでした」

「・・・・・・・・」

「もう一人考えられるとすれば、クロード卿ですが、卿はご自分でこうおっしゃっていました」


『貴女に渡す前に家中の細工師等に見させたが埒が明かなかったので、すぐにシャルルベルト殿にこちらに伺ってもらった』


「紙片をはさむことができた人間としては、卿かあなたしかいなかったことになります。これを隠したのが卿ということも考えられますが、その理由が不明です」

「不明というだけで、隠したのがクロード卿であることは否定できんだろう」

「残念ながら、あなた以外には考えられません」

「何故だ?」

「紙片に書かれた『ドナウディア家の主に注意すべし』の主というのが、他ならぬクロード卿だからです」


 オニキスはじっとカノンを見たが、やがて静かに口を開いた。


「どうしてわかった?」

「・・・・・・・・」

「言いたくないか、まぁいい。貴女の言う通りだ。そして付け加えるなら俺の本当の雇主はシャルローゼ殿だ。俺はクロード卿を監視している」


 オニキスの言葉に、カノンはかすかに首を動かして、


「その理由は、あの子の母親がシャルローゼ殿、だからなのですね。そしてそれは表ざたには出来ないもの」


「・・・・そこまで知っていたか」

「はい。あの夕べはいささか混乱させられましたけれど、まさか一人二役でいらっしゃるとは思えませんでした」

「一人二役?」

「そこまではご存じないのですか」


 カノンはあの夕べの話を詳しく話した。オニキスはその様子を知らなかったらしく、熱心に聞いていた。


「最初に来た正体不明の女性もシャルローゼ殿だったのです」

「・・・・・・・」

「必死で子供を守ろうとする母親を演じていましたが、その演技は真に迫っていました。そしてその後に捜索隊を率いて領主として私の家にやってきた。考えてみれば時間が早すぎますし、捜索そのものは唐突に私の家の周辺にだけ行われたかのようでした」

「何故、そう思ったんだ?」

「最後にシャルローゼ殿が仰った言葉『そう願いたいですわね』が、最初の訪問者の声色と似ていたからです。いえ、ほとんど同じでした」

「・・・・・・・」

「まさか、同じ人物だったとは最初は思いませんでした。その考えにたどり着いたとき到底信じられませんでしたが、一つだけそれを真実ととる道がありました」

「・・・・・・・」

「あの子を迫害していたのがシャルローゼ殿ではなくクロード卿だったとしたらすべてがつながります」

「・・・・・・・」

「でも、そもそもがわからない。どうしてこんなことになったのですか?」

「子を想わない母親などいませんわ」

 

 不意に後ろから声がした。振り返るとシャルローゼその人が取まきの数人の兵を連れて佇んでいた。


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