冒険者の宿へ
河雨
「ここですね。」
ジュアン、ジュワン兄弟との戦いの後、ジュアンさんに紹介されたのは、来冒険者ギルド・・ではなく、冒険者の宿だった。
ジュアンさんが、「この街に来たばかりなら、宿がないだろう。」と教えてくれたのだ。
因みに、ジュアンさんの兄、ジュワンは自分の家を紹介しようとしたが、ジュアンさんが、「気ままにしたいだろう」と、気を利かせてくれたのだ。
紹介されて早速、冒険者の宿の前にきたのだ。
冒険者の宿の前には、看板が置いてあり、大きく、下手な文字で『飲み屋』と書いていた。
傘立てのような場所には、武器が突っ込んである。
外からは、中が丸見えだ。まあ、二階からは見えないようになっているが。
文字は日本語のようだが、何というか、つっこみどころが満載の宿だな。
冒険者の宿『飲み屋』に入った。
『飲み屋』の内装は『飲み屋』と言う割には、随分と落ち着いた雰囲気だ。
まあ、中にいる人達は全員騒いでるけど・・。
今は夜で、電灯が設置してあるが、眩しすぎず、暗すぎない、優しい光だ。
入ってすぐのところに、階段とカウンターがある。
カウンターには、大勢の筋肉ムキムキな人達がいる。
みんな、手には木のジョッキを持ち、楽しそうに喋っている。
グラスの中身は酒だろう。間違いない。
なぜ断言できるか?
それは、すさまじく酒臭いからだ!
同じ空間にいるだけで、酔いそうなレベルで酒臭い。
どれだけ飲めば、これだけ臭くなれるんだろう。
気になったので『神目(3日間限定)』で、ステータスの職業を見てみた。
彼らは全員、冒険者のようだ。
状態を見ると、『酒の呪い(もっと味わって飲め!)』が全員に付与されていた。
うわあ、飲んでもないのに、こんな呪いにはかかりたくない!
未成年だから、『酒の呪い』が憑くと、困る。
補導されてしまうからね。
しかも、保護者がいないから、もう家に帰れなくなっちゃうじゃないか。
まあ、前の世界でも、この世界でも、私に家なんてないけどね。
一度やってみたかったんだ。自虐ネタ。
私は入ったドアのノブに手を掛け、そっと『飲み屋』を出ようとする。
???
「いらっしゃい! 何か飲もうぜ!
今日は、あいつの仕事が成功してな!
今日なら、全部奢ってもらえるぜ!」
見つかっちゃった(汗)。
店のカウンターから、筋肉モキモキなスキンヘッドのお髭モシャモシャなおじさんが、笑いながらワイルドな声で、声をかけてくれた。
筋肉はムキムキではなく、モキモキとした感じだ。分かるかな?
ジュアン、ジュワン戦で相手の力量を計ることができるようになった私は、おじさんの気を感じて思ったことは、『この人は強い』という感覚だ。私は少しだけ、『戦ってみたい!』と思ったが、ジュアン、ジュワンと戦ってから、自分は接近戦は得意じゃないと、分かっているので、やめておいた。
私は接近戦は得意じゃないから、明らかに接近戦向けの身体つきをし、場数を踏んでそうな、このおじさんには近づかないほうがいい、本能がそう告げるけど、おじさんの『タダ飯食えるぜ』の言葉には逆らえない。
だって、今、お金を一銭も持っていないもん。これはチャンスだ!食べるしかないじゃないか!
私は、カウンターにダッシュしようとするが、
冒険者
「ビックさん!あんたのおかげだ!
あんたのおかげで、今、酒が飲めてんだ。
ビックさん。あんたも飲みなよ。」
奢ってくれる人(筋肉ムキムキの冒険者)がおじさんに話しかける。
なるほど。この人の名前はビックさんって言うのか。
ビック
「そんなことはねぇよ。全部、お前の実力だろ?」
冒険者
「ビックさん・・」
ビック
「さあ、あんたも『ボー』っとしてないで、飲みな。」
ビックさんは、私を掴んでカウンターの方まで連れていく。
私は手足を必死で動かし、抵抗する。
しかし、ビックさんの力は私の数倍あるようだ。
私の力じゃ、どうにもならない。
冒険者
「さあ、みんな!
今日は、飲み明かそうぜ!」
冒険者
「俺たちの英雄に乾杯だー!」
冒険者たちは酒を飲む。
私は・・
冒険者
「兄ちゃん!何飲むんだい?」
冒険者
「やっぱ酒だろ!」
冒険者
「馬鹿野朗!なに未成年に酒勧めてんだ!
ビックさんが怒られるだろ!」
うう・・ここ数年、加藤さん以外の人と話すことが余りなかったから、どう返せばいいのかわからないよ・・
そんな時、私は見てしまった。
一人、店の玄関先に黙って酒を飲んでいる人を発見したのだ!
あの人なら、静かそうだし、あの人の隣に座ろう。
私はそう思い、その人の隣まで移動する。
河雨
「お隣、失礼してもよろしいでしょうか。」
冒険者
「座りな。」
河雨
「ありがとうございます。私は河雨と言います。
あなたのお名前は・・」
アーベント
「俺の名はアーベント。」
私がアーベントさんに声を掛けると、周りの冒険者たちは、
「アーベントの兄貴が酒を飲んでいる時に話しかけただと!?」
「おいおい、兄ちゃん、酒を飲んでるアーベントの兄貴には近づかない方がいいぜ。」
などと言っている。
やばい。やらかした?
酒癖の悪い人っているからな。冒険者たちから兄貴って言われてるから、いい人なのだろうけど・・
アーベント
「気にするな。
前に、俺の酒に毒を混ぜた輩がいたから、殴り飛ばしただけだ。」
河雨
「そ、そうなんですか。」
まじか。みんなから慕われてる人の酒に毒混ぜるって、やばくね?
何があったのだろう。
ジュアン
「こんにちは。」
ビック
「おう。今日はジュワンは来ないのか?」
ジュアン
「ジュワンは、仕事熱心だからね。」
ビック
「ジュワンも来ればよかったのにな。」
ジュアン
「無茶は言えませんよ。
ジュワンだって一生懸命、仕事してくれてるんですから。」
ビック
「また、喧嘩したのかい?」
ジュアン
「なんだ。全て、お見通しか。」
ビック
「そりゃあ、お前らがチビの時から面倒みてきたしな。」
ジュアン
「ビックさんがいてくれたから、僕たちは育つことができたんですよ。」
ビック
「全く。お前は調子がいいなあ。
お前はチビのころから・・」
ジュアン
「さあ!飲むぞ〜!」
ビック
「こら!俺の話の途中に・・」
ジュアン
「だって、ビックさんの話って大概長くなるじゃないですか。
オデンください。」
冒険者
「お!ジュアンの兄貴!飲みましょうぜ!」
冒険者
「強い奴はいましたか?」
冒険者
「俺たちも戦いてえな!」
冒険者
「俺たちも強くなりたいぜ!」
ビック
「(;´д`)はぁ…。まあ、いいか。
ほらよ。おでんだ。よく染みてて美味いぞ。」
ジュアン
「ありがとう。」
へー。この世界にもおでんがあるのか。
しかし、ジュアンさんって、みんなから慕われてて、やっぱり凄い人なんだなーって、ジュアンさんを尊敬していると、扉が開いて誰かが入ってきた。
ジュワン
「ビック!元気してたか!」
ビック
「お前こそな。」
ジュワン
「俺はいつも元気よ!
じゃないと門番なんて、できんからな。」
ビック
「それは、お前らが門を通る奴の中に強い奴がいたら、模擬戦ふっかけるからだろ。」
ジュワン
「そんなことより、飯くれ!」
ビック
「兄弟で揃って・・
ほら、オムレツだぜ!味わって食いな?
お前は、口に入れたら、すぐに飲み込んじまうからな。」
ジュワン
「おう!ありがとな!
オムライスは飲み物だ!」
ビック
「そんな訳ないだろう!?」
ジュワンも『飲み屋』に入店だ。
冒険者
「どうでしたか!」
冒険者
「強い奴はいましたか!」
冒険者
「勝てましたか!」
ジュワン
「負けた。」
冒険者一同
「「「ええええええ!?」」」
ビック
「どうせ、本気は出してなかったろ。」
ジュワン
「まあな。
だが、あいつが強くなったら、また一戦する約束をしておいたぜ。
見ろ!これは、約束の時になると、青く光り、相手がどこにいようとわかる、伝説の水晶だ!」
な!なにー!
まずい。実にまずい。
これ、私が強くなったら、また戦わないといけないってやつじゃないか!
しかも、今回ので本気じゃなかったなんて!絶対、勝てないじゃん!
嫌だよ?絶対に。
そんなことを考えていると・・
河雨・ジュアン・ジュワン・ビック
「「「な、なんだ!この強力な気は!?」」」
私たちとは次元の違う何かがこちらに接近してくる。
その、気の圧力で押しつぶされそうだ。
私とビック、ジュアン、ジュワンは自然と構える。
そんな私たちを見て、他の冒険者たちも立ち上がり、武器を構える。
◇◇◇
ガチャ
◇◇◇
ドアのノブが回る・・
華夜狐
「すいませーん!
え!?な、なんですか!?」
ドアを開けて入ってきたのは、華夜狐だった。
華夜狐は、武器を構えた私達を見て尻餅をつく。
耳がたれて、尻尾が縮こまって、震えている。
なんだ、この小動物は!可愛すぎる!
河雨
「あ、華夜狐?」
華夜狐
「みなさん、武器を構えて、何があったんですか?」
河雨
「華夜狐こそどうしたの? 帰ってくるのは『3日後』って言ってなかった?」
華夜狐
「えー!! せっかく仕事を早く終わらせて帰ってきてあげたのですから、そこは喜ぶべきですよ!? もっと尊敬してください!」
ビック
「あんたの知り合いかい?」
河雨
「はい。」
ビック
「(;´д`)はぁ…。
心配して損したぜ。いや、こんな可愛い嬢ちゃんがきてくれたんだ。喜ぶべきだな。
酔いが冷めちまったからな。ほらお前ら!飲みな!
嬢ちゃん、酒は大丈夫かい?」
華夜狐
「はい。大丈夫ですが・・」
〜数分後〜
華夜狐
「かんぱーい!」
冒険者一同・ビック・ジュアン・ジュワン
「「「「かあ〜んぱ〜い!!!」」」」
華夜狐は何回乾杯すれば気がすむんだ。
冒険者や、ジュアンさん、ジュワンにビックさん、アーベントさんは、もう呂律が回っていない。
華夜狐も、顔が桃色に染まっている。
この数分でここまでとは・・どれだけ飲めばこうなるんだ!?
『酒の呪い(もっと味わって飲め!)』、マジ、こえーーー!?
河雨
「あの〜そろそろお開きにしません?」
ジュアン
「あ!カウく〜ん?
君も飲むかい? 僕たち絶対に明日は二日酔いだ〜。
ねえ、カウくん、君だけ二日酔いで辛い思いをしないなんて、不公平だと思わないかい?
飲みな〜!」
河雨
「え? いえ、遠慮しておきます。」
まずいぞ。
一番、真面目そうなジュアンさんまで完全に酔い潰れて、まともな思考ができていない。
こうなったら、元凶と話をするしかない。
ジュアン
「カウく〜ん?
どうしたんだ〜い?」
私は元凶・・華夜狐のところに向かう。
河雨
「華夜狐さま〜。 そろそろ、お開きにしません?」
華夜狐
「え〜!」
河雨
「『え〜!』じゃなくて・・皆さん困ってますよ。」
冒険者
「「「うい〜〜〜!!!」」」
華夜狐
「楽しそうですが〜?」
河雨
「と、兎に角、皆さん! 今日はこれでお開きにしましょう!」
ジュワン
「けち臭いこと言うなよ〜!」
ビック
「ジュワン、てめーらは、金だしてけよ〜!」
既に、冒険者はジュワン、ビックを除いて全員がダウンしていた。
私は空中の水分を圧縮し、水の布団を作って冒険者達に被せる。
ついでに水も飲んどいた方が、二日酔いにはなりにくいからね。
冒険者
「「「っっっっ冷い〜〜!!!」」」
冒険者は全員、目を覚ます。
それでも、ジュアンさんは、まだ寝ている。
どうしたものかと、考えていると・・
ジュワン
「カウ、大丈夫だぜ。 ジュアンは俺が背負って帰るぜ。
ビックじゃあな!」
ビック
「おう! お前らの金は、ツケとくぜ!」
ジュワンにはもう聴こえていない様子だった。
そりゃあ、あれだけ飲めばね・・
華夜狐
「スー。スー。」
いつの間にか、華夜狐も眠っていた。
河雨
「仕方ないなあ。」
私は、お金を持っていないのでこの宿に泊まることはできないから、家でも建てようかと、水を集め始める。
この水に少しだけ、熱を加える。
ジュアン、ジュワンとの戦いで、水の扱いに大分慣れてきたな。
ビック
「おい、あんたら、泊まってかねえのか?」
河雨
「でも、私、お金持ってませんし・・」
そう、繰り返すが、私は無一文なのだ。しかも、外に水の家を建設中である。
『泊まれ』と言われたら断る理由はないが、外にある水の家を解体しなくてはならないから、少し面倒だな。
ビック
「金なんて、いらねえよ。 この『飲み屋』は冒険者の宿だ。 駆け出しの冒険者もよく来るからな。
出世払いしてくれりゃあ、それでいい。
まあ、払った奴なんてほとんどいねえがな!」
そう言って、ビックさんは豪快に笑う。
ほとんどの人が代金払わないって・・よく、それでやっていけるね・・。
ビック
「その代わり!」
なんだ、やっぱり何かしらの条件があるのか・・。
ビック
「そんな顔するなって。 お前が成長したら、話を聞かせてくれ。 あと、何があっても、顔は見せに来いよ? 心配しちまうからな。」
そう言って、また豪快に笑う。
ビックさんって本当にいい人なんだなー。
冒険者達から慕われる理由が分かったような気がして、納得していると・・。
ビック
「ほら。」
河雨
「うわ!?」
ビックさんが、鍵を投げてきた。
ビック
「部屋の鍵だ。 二人一緒の部屋になるが大丈夫か?」
河雨
「特に問題ありません。」
〜四時間後〜
私は華夜狐をベットに横にした後、椅子に座って目を瞑り、能力の練習・・水を操作している。
さっきから、ずっとだ。
おかげで、『水の扱いは誰にも負けない』ぐらいの自信が付いてきた。
なぜ、ずっと寝もせず水の操作を行なっているかって?
聞いて驚くなよ!?
なんとこの部屋のベットは、シングルベットだったのだ!
思春期だからね。
女の子と一緒に寝るなんて、恥ずかしいじゃないか。
・・なんちゃってね。
みえをはってしまったけど、実は私も隣に寝てみようとチャレンジはしたのだ。そう、チャレンジは。
・・華夜狐は、寝相が悪いんだ。いや、悪いなんてもんじゃない!
どれほど寝相が悪いか・・それは、私が半径1m以内に入ると回し蹴りが飛んでくるほどだ。
これじゃあ、近づけない。神だけに、神がかっている。これぞ、鉄壁の防御だな。
そうこうするうちに、水を氷に変えることができるようになった。
氷の操作は難しい。水が氷になった瞬間に、操作不可になってしまうのだ。
私はずいぶん長い間集中していたらしい。汗塗れになっていたので、タオルで汗を拭く。
ふと、気になり、ベットを見てみると、華夜狐がいない。
まさか、誘拐にでもあったのだろうか。
心配になり、慌てて部屋から出て、周りの水を使って、華夜狐がどこにいるのかを探ってみると、『飲み屋』の屋根の上に、それらしき反応があった。
『飲み屋』は、意外と大きく、アパートほどの大きさがある。
私はすぐに、外に出て、足の裏から、水をジェット噴射して、屋根の上まで浮き上がった。
屋根の上は、サッカーグラウンドぐらい大きい。
椅子や机が沢山、設置されている。雨よけにパラソルまである。
後日、ビックさんに聞くと、冒険者達は高いところが好きで、酔っ払うと高い所に登って、その高さを競うそうだ。当然、この『飲み屋』の屋根にも登っていたらしく、ならいっそのこと、『屋根の上で、酒を飲めるように』とこんな風に作られたらしい。ビックさんは心の底から冒険者思いの優しい人だった。
屋根の上に着くと、華夜狐が空を見上げ椅子に座っていた。
華夜狐
「はぁ(;´д`)・・。」
華夜狐はため息を吐く。
こんなところで、どうしたのだろう。
寒くないのだろうか。
私は寒いが、狐の華夜狐も全身に毛が生えてるわけじゃないから、寒いはず・・ふさふさの尻尾があるから寒くないのだろうか。
取り敢えず、声を掛けてみよう。
河雨
「どうしたんですか?風邪を、ひきますよ?」
水で道を作り、その上を流れて移動して、後ろから静かに華夜狐に近づき、少し大き目の声をかける。
華夜狐
「ひゃあ!」
華夜狐は、いきなり後ろから声をかけられて、驚いて手足に残像ができるほど、手足をバタバタさせて、椅子から落ちる。
☆大成功☆
ふふふ、私は神をも驚かすことに成功したのだ!
最早、この私にイタズラで敵う奴はいない!
得意になりながら、華夜狐に手を差し伸べるが、華夜狐は動かない。
やばいんじゃない?
河雨
「生きてますか?」
と尋ねてみると・・
華夜狐
「ばあ!」
河雨
「・・・。」
華夜狐の耳がピクピク動いていて、尻尾が揺れている。
かわいいなあ。
河雨
「部屋に戻りましょう。」
華夜狐
「え?スルーするんですか? 驚いてくださいよ!」
いや、今のでは驚かないよ! あまりの可愛さに思うような言葉が出ない。
怒ってもかわいいなあ。
「ふう」大きく深呼吸した。
河雨
「ごめんなさい。でも、ずっとここに居たら風邪ひいてしまいますよ?」
華夜狐
「そうですね・・。酔いが覚めたら戻るので、先に戻っていてください。」
夜風に吹かれて、ほんのり赤い顔でボーとする顔も、またかわいい。
ん?そういえば、華夜狐は私のこと、一回も名前で呼んでくれてないな。
河雨
「華夜狐。私の名前言える?」
華夜狐
「言えますが?」
河雨
「言ってみて。」
華夜狐
「苗字が天之川で、名前が河雨ですよね。」
河雨
「知ってたんだ。
一回も名前で呼ばれてないから、忘れられたのかと思ってたよ。」
華夜狐
「別に忘れたりはしませんよ。」
河雨
「名前で読んでもらえませんかね?」
華夜狐
「嫌です。私と貴女だけなら、名前を呼ぶ必要がないので。」
河雨
「そうですか・・」
寂しく部屋に戻ろうと、足の裏に水を集め始まると・・
華夜狐
「あ、待ってください。実は、私も貴方に用があったのです。」
河雨
「なんですか?」
私は少し期待しながら、聞いてみる。
華夜狐
「実は、天界で転生神さまに会った時、厄介なことを頼まれてしまって・・。」
話の内容は、転生神様に「転移者同士で戦う『チートバトル』を開催する」というもので、どこの世界の神が優秀かを審査する為の戦いで、今回は6つの世界の代表が、この世界で戦うらしい。
その転生神さまは、私に戦って欲しいらしい。
転生者は、『神の力を発動し転生』するけど、転移者は『この世界のエナジーと、神の能力を使い召喚』する。
私(転移者)を召喚したから、華夜狐(この世界の神)の能力と、エナジーが不足してしまって、新しい転移者を呼ぶ余裕はないそう。
私の能力は『戦闘』向けではないと、華夜狐は転生神さまに訴えたが、私の能力なら、もう勝ちは確定と、あちこち自慢して回ったから、不参加は許さぬし、負けも許さぬと無理を言うらしい。
・・詰んだな。
ジュアンやジュワンと戦ってみた感じ、まだ新しい能力に慣れてないから、優勝は難しそうだが、一番の衝撃は「明日から『チートバトル』が始まる。」ということだ。
しかも、既に代表はこの世界に来ているらしい。
せめて、もっと早く言って欲しかった・・まあ、今日転移しての明日からだからね、大差はないかな。
一応、この『チートバトル』にはルールがある。
※ルールは下に箇条書きで書いておくね。
◯転移者以外はバトルに参加してはならない。
(その世界の人なら、3人までは許可。転生者は不許可。)
◯全力で戦うこと。
◯ドーピングは、自分で作成した者のみ、使用を許可する。
(作成チートの転移者が不利にならない為の応急処置である。)
◯転移者同士で組むことも作戦と認め、許可する。
◯転移者が死なないよう、戦う前に担当神が特殊な結界を貼り、戦いを始めること。
◯転移者を転移者が殺した場合、即失格となる。
◯転移者の近くには、監視として、転移者の担当神が常に近くにいること。
◯転移者が、負けを認める、気絶したとき、敗北となる。
◯転移者は、その世界の生物に対し、無駄な殺生はしない。
(その世界の生態系が崩れてしまう可能性があるため)
◯不意打ちも即失格となる。
(平等な審査ができないからである。
また、不意打ちを仕掛けるような、品のない人材を選んだ世界であると判断する。)
◯特殊なバリア。それに細工をした瞬間、その世界は反則となる。
◯戦った相手を侮辱した場合も、品のない世界と判断し、即失格とする。
◯相手に対して、敬意を払い行動すること。
そして、私は自然と回答した。
河雨
「出てみたい。」
私は戦うのが怖いから避けたかったけど、口が勝手に動いてしまった。
華夜狐
「いいんですか?! 話を聞いている時は、なんとも言えない表情でしたが・・」
河雨
「死ぬ危険がないなら出てみたいです。 いい経験値になりそうだから。」
自分ルールになるが、言ったからには、やり遂げる。
これが、私の自分ルールだ。
私は、自由なんてない過酷な生活から、自由を手に入れた。
自由な生活の中で、自分を保つ為には、自分の中でのルールを守ることが重要なのだと思う。
華夜狐
「ありがとうございます!」
河雨
「その代わりと言ってはなんですけど・・」
華夜狐
「なんですか?」
華夜狐は首を傾げる。
河雨
「実は、今日、白虎に会いました。すごく強くて能力の相性でギリギリ勝つことができました。
でも、能力の相性が悪かったら、助かりませんでした。
そんな私でも、勝てるように鍛えてほしい!」
華夜狐
「大丈夫ですよ。最初っから、『チートバトル』に参加するなら鍛えるつもりでしたから。
しかし、ジュワン、ジュアン兄弟はこの世界で最強クラスです。
手加減をしていたと言っても、それに勝った貴方を追い詰められるほどの白虎なんて、この世界にはいないと思います。」
河雨
「どういうことですか?」
華夜狐
「別の世界の誰かが、不正を働いた可能性があるということです。
私は、そのことを転生神さまや、他の神達に知らせてこないといけません。
今回はすぐに降りてきます。私の心配はいりません。」
河雨
「心配はしてません。
いや、自分の心配をしています。
そんな、神も知らないような生物に、もう一度襲われたら一溜まりもありませんから。」
華夜狐
「(;´д`)はぁ…。え!?」
私は華夜狐の吐いたため息が、吐き出される前に水で固めておいた。
華夜狐が吐き出したのは、ため息ではなく、シャボン玉の様になった。
華夜狐
「なんで、貴方はイタズラばかりするのですか!」
河雨
「いや、ため息ばかり吐いてると、幸せが逃げてきますよ?
可愛い子には、幸せになって欲しいから。」
華夜狐
「ありがとうございます。
でも、今度からは止してくださいね。驚いてしまうので。
また、明日会いましょう。」
別に悪気があったわけじゃない。
だけど、結果的に相手を困らせてしまうだけの結果となってしまった。
河雨
「はい。じゃあ、また明日。」
華夜狐は空に消えていく。
よし!それじゃあ、明日から気を引き締めていこう!
もしかしたら、転移者と出会ってしまうかも知れないからね。
ぽん
「ふふふ、痩せたぜ!」
紗輝サマ
「太ったように見えるのですが?」
先輩
「僕も、紗輝サマに同意です。」
ぽん
「私は狸をやめることによって、体重を落とし、その代償として、太って見えるのだ!
( ̄▽ ̄)ドヤ!」
紗輝サマ
「ドヤ顔で、言わないでください。」
先輩
「確かに、狸には見えない。
新生物誕生かな?
どこの博物館に展示してほしい?」
ぽん
「嫌だー!
どこにも行きたくな〜い!!」
紗輝サマ
「さあ、歩いてたら丁度、博物館が見えてきましたし寄って行きましょうか。」
ぽん
「嫌だー!!!」