第8話 帰還 -side零司
何気に第二章です。ただ章の管理機能をつかってみたいだけだったりw
いよいよ、主人公のご帰還です。
――頭が痛い、特に後頭部が。きっと、毒島に投げ飛ばされた時の後遺症だろうか……。
視界は真っ暗だ。オレは今眠っているのだろうか?
こうしているのも暇だ。せっかくなんで、眠る前のことを思い出してみよう。
えーっと、そうだ! サービス終了記念のイベントがあるから、1年ぶりSVRMMORPGである【CULO】をプレイすることになったんだ。
でも結局、ギルドのメンバーは殆ど来なかった。来たのは、ほぼリアルに顔を知っている連中だ。36人もいたギルドだったんだが……。
だけど、文句を言える立場じゃない、オレだってCULOを去ったのだ。
来たギルドメンバーは…… オレと莉亜、毒島、高場、桜野…… そしてオレが尊敬するゲームプレイヤー【KOSAME】さんだ。
まさかPvPメインのあの人が来てくれるとは思わなかった。有名な超カリスマプレイヤーがわざわざ来てくれたのだ。
そもそもなんでそんな有名人が、オレたちのギルドに入っていたのかというと、ステーション内で、たまたま、ポツーンと佇んでいた【KOSAME】さんに桜野が声をかけたのがきっかけとは聞いていたがホント、桜野の行動力には恐れ入るな。
――???
……いや、おかしい。
おかしいぞ? これが夢ならば、ここまで意識がはっきりしているのは変だ。ひょっとして明晰夢ってやつか?
いや、違う。オレの意識は確実にある。寝ていた人間が目覚め、覚醒している感覚をオレは感じていた。
オレは、ゆっくりと目を開けようと、まぶたを動かそうとする……。だけど、なかなか動かない。金縛りなのか? それでもなんとか動かそうと、オレは苦心する。
いいぞ……。少しずつ、動いてきた。光が目に差し込んでくる……。同時に、身体の感覚も戻ってきているらしく、オレの五感が機能し始めているのがわかる。
そして、まぶたが開かれた。
「――ッ!」
眩い光。暖かな陽光が目に差し込み、一瞬オレは怯む。怯んで反射的に閉じてしまったまぶたを、もう一度ゆっくりと開く……。
視界に入ったのは木々がざわめく姿だった……。木漏れ日が目に差し込んでいたらしく、慣れてくるとそれほど眩しさは感じなくなる。
オレはゆっくりと身体を起こす。視界を左右に走査する。どうやら、ここは森のようだ。いや、おかしい。何故こんなところにいる? とりあえず、現実なのは間違いない。この感覚は夢ではない。
きちんと鼻孔が香りをとらえている。空気のにおい、生い茂る草木のにおい、土のにおい。太陽のひかりの匂い……。
おもむろに立ち上がり、同様に周囲をうかがう。やはりここは森の中だ。鳥や虫の鳴き声、木々のざわめきが聞こえてくる。
はて、何故こんな場所にいる?
――え?
背筋にぞわり、と寒気がした。 恐る恐る、自分の身体を見下ろし、オレは驚愕する。
視界に映ったのは、2つのたわわに実った双丘。
「オッパイいィィィィィ?!!!!」
反射的にそいつつかんで揉んでしまうオレ。
「え? ナニ? 何故こうなってる? え、ええ?!」
発狂しそうになる精神をどうにか理性で保ち、モミモミしながらも、必死に考える。
信じたくないが、とにかくこれは現実のようだ。
オレの五感がそう告げていた。いや、信じたくはないが。
モミモミを止め、もう一度、自分の体を見る。改めて、調べることにした。
手足は長く、腰回りなんか折れそうな程に細い。白く透き通ったみずみずしい陶器のような肌は、古傷どころかシミや黒子、吹き出物などは一切見られない。
肌が露出した二の腕や、太もも、腹回りを触ってみる。痩身ではあるが筋肉質というか、絞り込まれた身体をしていた。
胸や尻など、女性らしいところはしっかりと健康的な肉がついている。
男から見たら魅力的な肢体だろう。
莉亜が見たら、抗議してくるかもしれない。
まるで作り上げたような、理想的な女性の体型だった。
そして服装。
豊かな胸を押し上げているのは、鮮やかなブルーの軽装鎧。胸の谷間が見える肌の露出度が多いデザインだ。
次は足元から調べていく。両足とも茶色のブーツを履いていて、それは地味な見た目に見えたが、よくよく見ると複雑な紋様と意匠が施されており、何か機械的な装置らしきも組み込まれているように伺えた。
ブーツから伸びる足には膝まである白のニーソックスを履いており、それはこの身体の脚線美を強調することに寄与していて、腰には軽装鎧と同じ色をした女性用の水着ショーツに近い形状のレギンスを履いていた。
背中には、ブーツまでかかる程の丈がある純白のマントを羽織っていた。このマントがどういう構造になっているのかオレには分からないが、こちらの意志で背中から垂らすだけのサイズに変化させることもできれば、身体を完全に包むように形状を変化させることができた。
左右の指には指輪がはめ込まれていて、装飾用ではなく何かの効果があるのだろう。
ここまで調べたら流石に思い当たることがあった。
目下の俺の姿、それはCULOでオレが作り上げたプレイヤーキャラクター【ジスエクス・ニゴレイアル】と同じ特徴をしていたのだ。
これは本当に現実か? いやいや待て待て。桜野が好きな、異世界ホモ小説のようなことがあってたまるかよ。
オレは最後の望みをかけて、自分の頭部に触れようとする。現在の状況が、CULOの世界であるということ。つまり、SVRヘッドギアが仮想世界を見せているのではないかという、一縷の望みにかけることにしたのだ。
これが仮想世界なら、ヘッドギアの感触があるはずだ。
ゆっくりと両手が頭に触れる……。 そこにあったのは柔らかで艶やかな髪の感触。長い髪の毛だった。
この状況がSVRによる仮想空間ならば、手にはSVRヘッドギアの感触があるはず。そもそもSVRヘッドギアが見せる仮想現実に、嗅覚と触覚や味覚は無い。
あくまで視覚と聴覚を利用して没入感を演出した仮想現実なのだ。コントローラーを使わず思考だけで操作できるのが現実を越えた仮想現実というセールスポイントだったはず。
すごい技術ではあるが。言ってしまえば、その程度のものだ。
現実と区別がつかない程のリアル感を、SVRヘッドギアが見せることはできないのだ。
――わからない。頭がヘンになりそうだ。
オレはおもむろに、ふらふらと歩き出す。一秒たりとも、この場所に居たくなかったのだ。
そして、オレは打ちひしがれた。ほんの数歩、移動しただけで視界にあるものが表示されたのだ。
それはCULOによく似たインジケーターやマップレーダーなどの各種情報が表示されていたのだ。
左上部に、小さい文字でプレイヤーキャラクターの名前と現在のBase.LvとJob.Lv。そのすぐ下にHPゲージとEFゲージ。右上には現在地の地形や場所を表示するオーバーヘッドマップ。左下にあったはずのチャット欄は消えて無くなっていた。右下にはスキルブーストゲージ。
それだけ各インジケーターが表示されているにもかかわらず、視界を妨げて見づらいと思うことはなかった。きちんと本来の視界は見えていると、頭が認識しているのである。
「どうなってんだ……。これは……」
起きてからの事を統合すると、つまり……。CULOと現実がドッキング? ありえない事態に放心しかけるのを何とか堪える。
ふふ、落ち着けオレ。気づいたら別の世界にいました。そんなことは二度目じゃないか。
「う? なんだ、これ」
視界の左下、以前ならば文字チャット欄があった部分だ。その部分に代わり緑色の小さい文字が点灯している。
《Armament __ON》
「あー、まーめんと……? ナニこれ?」
オレは完全に困惑していた。
目を覚ましたらCULOのキャラになっていて、SVRヘッドギアも着けていないのに、視界にはCULOのゲーム画面と同じようなモノが表示されているのだ。
「あ、そうだ!」
オレは逸る気持ちを押さえ、メインメニューの【コミュニケーション】から【パーティ】を開く、目が覚める直前まで、あいつらといっしょにプレイしていたはずなんだ。
「そんな、ない……」
ひとりも名前は表示されていなかった。
「そんな…… この世界に来たのはオレだけだってのか……」
絶望感が全身を蝕む。思わずへたり込んでしまった。
「こっ、こんなことってあるかよ……」
前世で死んだと思ったら、日本人に転生して、次はゲームの中に転生だと……。
ふざけるな、ふざけるなよ。こんなひどい話があるかよ。
夢なら覚めてほしい。
「……あ、もしかして」
メインメニューを開く、視界上部横一列に各種項目が表示される。一番右端のシステムを選び、そこから下に続く項目一覧から一番下を選ぶ。
「あった……。システムログアウト、あったよ……」
ログアウト、CULOを終了するコマンド。そうだよ、これを選べば元の世界に帰れるんだ。
きっとログアウトすれば、そこは新瀬家のリビング。ソファーには毒島と莉亜がいて、ふたりとも笑いかけてくる。いつもの日常がある、きっとそうだ。
オレはログアウトを選ぶ。
≪ ARMAMENTを解除します。よろしいですか? YES/NO ≫
表示されたログアウト警告メッセージは、いつもと違っている気がしたがオレは構わず選択する。
当然、YESだ。
「あっ?!」
すると全身から細かい光の粒子が幾つも発生し、粒子は空へと昇っていく。
ああ、これはCULOのログアウト演出エフェクトだ。
そうだ、きっとこれで元の世界に帰れるんだ……。
オレの視界は閃光に包まれていった。
ジスエクス・ニゴレイアル…… 目覚めたレイジがなっていた姿。CULOで自身が作成したプレイヤーキャラクターそのままの外観をもつ。
ギルドメンバーへの連絡は不可。CULOと違うのは、左下にある【ARMAMENT】という表示があるということ。