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第78話 求愛 -side零司

体調がすぐれない為、長い間執筆できませんでした。

ひょっとしたらいるかもしれない、楽しみにして待って下さっていた読者の皆様、申し訳ありません。


あまり書けなかった為、前回の話を大幅に加筆修正した上で再度掲載することにしました。

ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。


「そうだよな…… よからぬことを考えている奴の仕掛けかもしれない。警戒しつつ接近しよう」


 街道のすみに寄っている馬車に近づいて様子を伺うと、片側の車輪が壊れていることに気付く。

 エレメンタルシューターを構え、警戒しつつ馬車の周囲を大きくぐるりと一周してみたが、馬車内はもぬけの殻だ。


 無人の馬車に近づき軽く調べてみると、エリアス家が所有しているものと同じ高級なランド―馬車の類のようだが、これはより大型の6人乗車可能な特注仕様だった。 こういった種類の馬車は、貴族でも財力に余裕のある者でなければ所有できないシロモノだ。


 更に周囲を調べると、複数の足跡が馬車を囲むように出来上がっていることに気付く。



「乗っていた連中は何処へ行ったんだ?」


 

 耳を澄ますと、何処からか怒号らしきものや金属がぶつかり合う音、衝撃音のようなものが聞こえてくる。


 視界内に表示されているオーバーヘッドマップを縮小表示し、音が聞こえてきた方向へスクロールすると、馬車の背後に広がった林の先に、生物をあらわす赤い点が複数表示されている。 それは、ここからたっぷり300メートルは離れた場所だ。


 林を構成する木々は密生せず、まばらにそそり立っている。

 しかし、奥の様子はまるでうかがえなかった。 なぜなら、木と木の隙間をきっちり埋めるかのように、大人の背丈ほどもある雑草が青々と生い茂っているからだ。


 それはまるで街道の片側を草木の壁が支配しているかのようだった。

 よく目を凝らしてみてみると、馬車の背後に広がる雑草の一部が踏み潰され、道のように奥に続いていた。これは人が立ち入ったと見ていいだろう。


 

 ここまでの情報を統合すると、どうやらオレたちを待ち伏せていたとか、罠にかけようとしていたとかではないらしい。


 状況から察するに、この馬車の持ち主が何者かに襲われて、近くの林に逃げ込んだとみたが……。

 正直、関わりたくはないが、エリスに話した手前、そういうわけにもいかないだろう。



「この林の奥か…… 行ってみるしかないか」



 林の奥に行くため、オレは雑草群をかき分け踏破していく。

 100メートルほど進んだところで徐々に視界が開けていく。そして、背の高い雑草帯を抜けた途端、青々とした草原の光景が飛び込んできた。


 

「オーバーヘッドマップに映っていた人影はアレか」



 200メートル先に賊らしき集団が数人の男女を取り囲んでいた。

 囲まれている男女は合わせて5人。初老の男が膝を着いて呻きながら腹部を押さえていて、その男に寄り添う2人の女性。ひとりは幼さの残る少女、もうひとりはメイド服を着た若い女性だ。


 その3人を背中に庇い、立ち塞がるふたりの男。


「来い! 薄汚い賊めが! その肉体を頭から両断してやろうではないかっ!」



 賊に罵声を浴びせたのは、大柄で筋骨たくましい無骨そうな男だ。 彼は大剣を構えて睥睨(へいげい)し賊を牽制していた。


 もうひとりは見目麗しい長身の優男だ。よく手入れされていそうな艶のあるダークグレーの長髪を束ね、上半身はルネッサンス調のシャツ、下半身はぴったりとしたとブラウン色の長ズボンを穿いている。

 そして左右の手にはそれぞれ長剣が握られており、彼は大柄な大剣の男と同様に賊を牽制していた。



 彼らが対峙する賊は11人。

 それぞれが長剣やモーニングスターで武装しており、中には弓を構えている者もいる。

 

 皆、柄が悪そうな連中ばかりだ。 人相の悪さは人格にも影響すると聞いたことがあるが、この連中はどうだろうか。


 オレは茂みに身を遮蔽し、耳を澄まして彼らの様子を伺っていた。



「おい! とっとと金目のモンをわたしゃあいいんだよ! ムダな抵抗すんじゃねえ!」

「たった二人で俺らに勝てるとでも思っていンのかあ?! 武器を捨てて大人しくしてりゃあ痛い思いはしねえぞ!」


 安い脅し文句を並べる賊たち。

 目が血走り息遣いは荒く、戦いを前にして全身にアドレナリンが巡って高揚しているようにみえた。。



「悪いが金目の物など無い! あったとしても貴様らごとき賊に渡すとでも思っているのか?!」

「来るがよい下劣極まりない賊めが! 切り捨ててくれるッ!」


 賊どもの恫喝に一切屈せず、対峙する2人の男。

 

 やがて、にらみ合いの均衡が崩れ、賊のひとりが動いたのと同時に、その場で武器を持った者全員が動き出すと、やがて剣戟の音と怒声が飛び交うさまへと発展していく。


 大柄な大剣使いは持つだけでも大変そうな得物を軽々と振り回し、二刀流の優男は二本の長剣を巧みに使いこなし賊どもを翻弄しているが、状況は芳しくない。

 ふたりの剣士は老人と少女とメイドの3人を守りながら戦わなくてはならないため、かなり不利な展開を強いられているのだ。


 そのときだ、一瞬の隙をついて賊のひとりが少女を奪い去った。


 賊は少女を抱きかかえたまま、彼女の喉元に短剣を突き付けている。

 少女は泣き叫び、若いメイドは喚声を上げた。初老の男は腹部の傷口を押さえた状態で、ぐったりと膝を着いたままだ。


 賊を睥睨しつつも、ふたりの剣士は動けない。

 人質を取られたためだ。

 ここまでの展開を見た上で、オレは思案する。



「そうだな……なんていうか、どっちが悪などと問う必要もない光景だな」


 どうする? 助けるか、それとも見なかった事にしてエリスたちの所へ戻るか?

 わずかに逡巡するとオレは行動を起こす為、エレメンタルシューターを取り出し構える。



――EFスキル:複数同時捕捉(マルチロックオン)光射(シュート)


 この技なら最大8人までイケる。これで同時に賊どもを倒したあと、人質の女のコに突き付けられている短剣を単発射ちで弾き飛ばしてやろう。


 幸いにも賊たちは戦いに夢中で、こちらの存在にはまったく気づいていない。

 狙撃にはもってこいの状況だった。 


 EFスキル:複数同時捕捉(マルチロックオン)光射(シュート)をスキルランチャーから選び発動させると、視界内に複数同時捕捉(マルチロックオン)光射(シュート)専用の特殊なターゲットマーカーが出現したので、ターゲットマーカーを8名の賊に合わせていく。


 殺してしまって、やっかいな状況を作り出す可能性があるかもしれない事を考慮し、威力は出力を絞り最低レベルにしておく。 それでも当たればタダではすまないハズだ。


 賊ごときのために配慮しすぎのような気もするが、幼い少女が見てる前で賊連中の小汚いアタマを吹っ飛ばすよりはいいだろう。


「よし、複数同時捕捉(マルチロックオン)光射……(シュート) 発射」


 エレメンタルシューターの発射口に集約されていた光の粒子が、発射と同時に8発の光弾に変化して一斉に放たれる。


 8発の光弾はほぼ時間差なく着弾すると、8人の賊たちは声を発する間もなく、弾き飛ばされるかのように宙に舞い、草地の感触を味わうことになった。


 とっさの出来事にオレを除く全員があっけにとられていた。次の攻撃に移行する為、間髪入れず中腰姿勢のまま移動する。

 他の者が射角に入らない位置につくと、少女を人質にとっている賊にエレメンタルシューターを向け、狙い定める。


 今度は通常攻撃。ターゲットマーカーを賊の持っている短剣に合わせる。

 出力は今回もギリギリに絞る。外すことはないだろうが、万が一を考慮しての措置だ。

 目的はあくまで短剣を弾き飛ばすことなのだから。


 標的との距離が有効射程距離ぎりぎりの為、射撃補助システムとオレがつけた狙いに微妙に誤差が発生し、ターゲットマーカーが細かく振動していた。

 オレは落ち着いてタイミングを計ると、意を決して弦を開放する。



「うがっ!!!」


 エレメンタルシューターから放たれた光弾は少女をかすめると、賊の短剣を持っている手に着弾して、光弾は消失する。

 着弾の衝撃により短剣は何処かに飛んでいき、賊は態勢を崩すと同時に抱きかかえていた少女を放してしまった。


 少女の安全を確保する為、隙を逃さず倒れた賊に追撃をかけようとしたが、それはどうやら杞憂だったらしい。

 短剣を弾き飛ばされた賊は、手に受けた衝撃が相当効いたらしく、ダメージのあった手を押さえながら地に倒れてのたうち回っていた。


 オレは茂みから姿を晒し、賊たちに向かって歩みを進めながら大声で警告する。

 もちろん、いつでもエレメンタルシューターを放つことができるよう、射撃姿勢を維持したままだ。


「おい! 賊ども! 無駄な抵抗はやめて、すぐにここから失せろ!」




 残りの賊は3人。 有利だったはずの状況が一瞬で(くつがえ)され、3人の賊は唖然といった様子で立ち尽くしていた。


 やがて我に返ったひとりの賊が罵声交じりに問うてくる。


「なっ?! なんだテメエわぁっ! 何者だぁっ! このクソアマァッ!!!」


 なんというつまらない口上か。前に映画館で見た、リーアム・ニーソン主演のB級アクション映画に出て来たザコ敵の方が面白かった。 やはり脚本上のキャラのほうが良い台詞を言うのな。

 そんなことを口の中でつぶやきながら、オレは前進し続けて賊たちの近くまで行くと、もう一度賊どもに警告する。



「オレが誰かなんてどうでもいいだろう? それより、たった今みせた技は手心を加えての結果だ。本気でやれば、お前らを一瞬で殺せたんだ。 理解できたのなら宜しくない考えは捨てて、大人しく消え失せろ」


 オレの口上もセンスがないなと思いながら、残った3人の賊をにらむ。

 恐怖と焦りなのか、3人の賊は口々に何だか喚くように言いはじめる。


「あ、あの女がやったというのかよ! 1度に8人もやられちまったぞ! あの魔法みたいな光の球は……? まさか……仙晶武具か?!」

「ま、マジかよ! それじゃあ……アイツは白金級(プラチナ)以上ってことかよ?!」

「ウソだろ?! なんでそんなヤツがこんなところにいるんだよ?!」


 仙晶武具を知っているということは、それを持つ者の力量を理解しているということだ。話が速く進みそうで助かる。


 

 賊どもの喚くような会話を聞き、唐突にある()()が脳裏を過ぎる。


 ――仙晶武具。

 これは仙晶石を用いた武具が使用者から仙練された仙気を取り込み。増幅させた上で何らかの属性を付与した効果をもたらすことができる装備だ。

 当然、エネルギーとして仙気を消費する。


 このアーマメントの身体で使用できる【EFスキル】だが、ゲーム上の設定ではEF(エーテルフォース)と呼ばれるエネルギーを消費して使えることになっている。

 だが、これは()()()()()()()()()の話だ。


 ならば、()()()()()()では何を消費してEFスキルを行使しているのだろうか?


 繰り返し言うが、EF(エーテルフォース)というのはCULO(ゲーム)の中でのみ存在する概念なわけであって、現実には当然存在しないワケで……。

 

 思いつくのは、やはり…… この世界の基本的なエネルギーの概念のひとつであり基本でもある“仙気”を仙晶武具と同様、エネルギー源として使用しているという考察が妥当なのだろうか……。


 賊の言葉が原因で、いま必要でもない瑣末な事に思考が囚われそうになる。


 しかし、賊のひとりが動きを見せた為、オレはソレに向けて意識を向けることにした。



「く、クソッ! お、オイ! お前ッ! う、後ろから撃たないよな?! 撃たないだろうな?!」


 怯えた顔を見せながら確認してくる賊に対して、わざとらしく安全を保障する台詞を追加することにした。



「安心しろ。下手にお前たちを()()して、ヤケになるかキレて混戦になったりしたら、彼らも一緒に射るハメになるかもしれないからな。

 大人しく引くなら何もしない。オレは敵の背中を射るのは趣味じゃないのでね。

 理解したなら、さっさと倒れている連中を起こして、この場から消え失せろ」


 この間、オレはエレメンタルシューターを賊たちに向けたまま威嚇した状態だった為、この場の雰囲気に気圧されたのかどうなのかは知らないが、他の者たちは声ひとつ上げることはなかった。


 オレの言葉を聞いた五体満足の賊たちは、つぎつぎと倒れている者たちを引き起こしたり、気を失っている者たちに治療を施し正気にさせるなどの行動をしていった。


 やがて全員が歩けるようになると、賊たちはおぼつかない足取りで街道の方へ向かうと、背の高い雑草帯に入り、姿が見えなくなっていった。


 オレはエレメンタルシューターを下ろし、ふぅ、と一息ついた。

 その様子を見た妙齢のメイドが歩みを進め、笑顔を見せながら近づいて来る。

 どうやらオレに礼を述べるつもりのようだ。


 が、その前に先に動いたヤツがいた。


 まるで殺気が無く、自然で、なめらかで、素早く、かつ警戒心を持たれないような優雅な動きでオレの近くまで移動した二刀流の金髪優男は、オレの正面にひざまずく。

 それから彼は、そっと両手でオレの左手を握る。



 そして…… 信じられないような…… おぞましい一言をオレに告げたのである。



「美しく、可憐で、いと強き貴女…… 惚れましたッ! 僕とッ! 結婚してくださいッッ!!!」


 優男がやってのけた、あまりに突然の行動に理解が追い付かなかったオレは、そのあとたっぷり30秒近くの間、思考と身体が硬直していたのは言うまでもない。



 少しでもトラブルを軽減するための別行動だったはずなのに……。

 

 何故、こうなったのだろうか……。




 








 


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