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第7話 オヤジウスは待ち望む -願い


 CULOにおいて、ギルドを設立するためには、最低でもプレイヤーが3人必要となります。ギルド拠点はギルド設立と同時に、運営から与えられます。詳細が記載された拠点への招待メールが、ギルド長であるプレイヤーに送られますので、そのメールの指示に従ってギルド長が運営を行ってください。

 ギルド専用クエストと呼ばれるものを受注し、クエストを完了すると、ギルドポイントが獲得できます。ポイントを使用して、拠点施設内に置く設備などを購入したり、拠点を拡張したりできるようになります。

 たくさんのギルド専用クエストを達成し、みなさんだけのステキなギルド拠点を作りましょう。

 

 ≪CULOオンラインマニュアル、項目[ギルドについて] より抜粋≫




◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 





 簡素な金属製の壁と、白色一面の天井と床で構成された色気の無い部屋。それがこのギルド拠点に、初めて入室した者の感想だろう。


 天井に埋め込まれた、室内灯は無機質な白色で、室内を照らしており。その他に目につくのは、ホログラム式の大型投影装置や、13人が座れる大きな円卓があり、それぞれの席にはホログラムモニターが埋め込んである。このギルドは、あまり装飾にはこだわりがないらしい。



 このギルド【(スウィート)(メモリー)(パワーズ)】のギルド長である桜野圭一は、操作するキャラクター【オヤジウス・オッサンディア】になりきり、入り口から一番離れた席、つまり上座に座り。えっへんと偉そうにふんぞり返っていた。


 オヤジウスの職業(ジョブ)は【テクノプリースト】という上位職だ。神官職らしい回復は勿論のこと、攻撃手段は殆どないが数種類の防護領域を展開することが可能な、回復と防護のエキスパートだ。


 オヤジウスの見た目は、あまり見ていて気持ちのいい造形ではなかった。初めて目にする人間の感想は、巨大な肉玉のような人間が歩いている。そう思うことだろう。


 ツルツルの頭部、いわゆるスキンヘッド。ちょび髭を生やし、右眼窩にはモノクルがはめ込まれており、その部分だけはダンディさを醸し出していると言えなくもない。

 アゴヒゲはなく異様に二重あごがツルツルしていた。微妙に入ったシワといい、顔は何処からどう見ても中年男性だった。

 肉の球体から手足が生えたような印象を与えるのは、膨れ上がった巨大な腹部だった。

 超絶肥満体に設定された肉体は、身長186cm、体重180kgという数値になっており、中の人のリアル数値だと知ったとき、多くの人間は驚愕する。


 主な装備はIG(アイテムグレード)130の、クラフト(製造)された最高性能を誇る(ロッド)。そして課金装備でしか存在しないタイプの防具、一式防具(オールインワン)に該当する神官服だ。

 本来、その神官服は重厚な装甲が組み合わさったうえ、威厳を感じさせる装飾が施されており、厳格さと神秘さを感じさせるデザインの一式防具だった。


 しかし、今のオヤジウスの姿は、まるでそんな防具を装備しているようには見えなかった。

 ピンク色のブーツと小さなストール。そして、きわどい女性ものの下着のようなデザインをした、豪奢な装飾が施されたレギンス。それだけが、オヤジウスが身に付けているものだ。

 なお、()()()()()()()()は、お尻がほとんど丸見えになるようなデザインであり、見てしまった多くの者は、吐き気を催すことが多い。


 半裸のピンク変態オヤジ。彼を見た、多くの人たちが抱く感想だろう。


 本来、CULOの装備品には、そのような破廉恥な装備は無い。倫理規約に抵触する為だ。

 

 数年前、プレイ人口が減っていった際、運営はCULOに刺激を加えたかったのか課金アイテムとして、特殊なアクセサリー装備を販売する。


【オリジナル外装データ投影アクセサリー】と呼ばれるそれは、低性能だが、好きな見た目の防具や衣装のデータを取り込み、自由に組み合わせて見た目だけ、プレイヤーキャラクターに反映させることができるのだ。


 そして、ここからが、この課金アイテムの良いところではあるが、それはCULOの凋落を感じさせる要素でもあった。


 それは、プレイヤーが外部エディターを使用し作成した外装データを取り込むことができることだった。


 そうなれば当然、倫理規約に抵触しそうなデザインにするプレイヤーは後を絶たなかった。運営はそれを、プレイヤーの判断に委ねることでグレー扱いにしたのだ。


 たまに見せしめと、検閲しているというアピールの為、一部のプレイヤーアカウントをBANしていた。

 しかし【オヤジウス・オッサンディア】の格好は、倫理規約に抵触していないらしい。

 ただ単に、運良く運営の監視から逃れ続けただけなのかもしれないが。




 何にせよ、桜野圭一の分身【オヤジウス・オッサンディア】は、1年ぶりの仲間たちとの再会を楽しみにしながら、この拠点で待ち続けている。


 様々な理由で、ギルドメンバーが辞めていったとき、声には出さなかったものの悲しかったオヤジウス。ある者が仕事で、ある者はCULOに対する不満で、ある者は別のゲームに移住したせいで。


 だが、今回。オヤジウスはすべてのメンバーに声を掛けた。たしかな返答をもらえたのはごく一部だ。

 それでも来てくれるだけで、彼は嬉しかった。


 約束の時間まで、あと少し余裕がある。

 彼は机に埋め込まれたホログラムモニターを起動させる。かつての冒険を記録した動画を、日付別に分けておいた中から選び出す。


映像が再生される。日付は今から2年前のものだ。



「おお、これは地底湖に居るレイドボス、氷火山(ひょうかざん)恐竜(きょうりゅう)を倒しに行ったときのか」


 薄いピンク髪のストレートヘアの少女が、大型のペンギンを連れながら、氷の石つぶてを回避する。

 淡い桃色の唇、小柄だが長い手足。その肢体を魅力的にアピールしたデザインの可愛らしいワンピースに似た服を着ていて、それは華やかな装飾品で彩られている。


 莉亜が作成したキャラクター【リア・ニゴレイアル】だった。


 リアの使役する惑星獣(わくせいじゅう)が、風の防護領域を纏ったまま、氷火山恐竜に向かっていく。【リア・ニゴレイアル】はビーストテイマーだ。レイジと同じ野伏(レンジャー)から転職できる。

 リアは氷火山恐竜が放つ氷弾を避けながら、コウテイペンギンによく似た惑星獣(わくせいじゅう)との距離を保ちつつ、物理タイプの弓で支援している。ビーストテイマーのアビリティ【信頼】を有効活用するため、一定の距離から離れないように立ち回っている。こうすると、惑星獣(わくせいじゅう)のステータスが向上するのだ。


「いやン、妹ちゃんうまいよね。ゲームってモンをさ、よくわかってる()だヨン」



 動画内のカメラ視点が切り替わり、別のプレイヤーになる。


 長身で筋肉質の大柄な魔術師が、大魔法を撃とうとしていた。が、氷火山恐竜が放つ氷弾が直撃、EFスキル詠唱がキャンセルされる。また、回避が間に合わず喰らい。更に変な間合いで、適切では無い魔法を撃とうとするため、敵の攻撃をもらってしまう。明らかにうまいプレイとは言い難い。更なる攻撃を喰らった魔術師はあっさりダウン状態になった。


 他のパーティプレイヤーが助けに入る。HPが0になり、ダウンして10秒以内に助け起こせば死亡は回避されるのだ。


 この上位魔術師(フォルティスマギカ)は高場裕次郎が作成したプレイヤーキャラクターだ。プレイヤーネームは【カオティック・デス】ギルドメンバー屈指のヘタクソプレイヤーである。



「あらら、高場ちゃんてばホントヘタクソ。もうカワイクなるくらいだヨン」



 更にカメラは変わる。


 光芒の矢が連発で放たれ、それは氷火山(ひょうかざん)恐竜(きょうりゅう)の弱点である、背中の氷火口付近にすべて着弾する。氷火口付近には、特殊な氷の壁が防護領域となっており、わずかな裂け目から遠距離攻撃をしなければならなかったが。

 このプレイヤーは正確にすべての光芒の矢を命中させていた。

 氷火山(ひょうかざん)恐竜(きょうりゅう)巨大な強靭な四つ脚がダメージによりグラついた。


 美しい金髪を持った男性プレイヤーキャラクターが、それをやってのけた。

 職業は【ギャラクシーハンター】だ。EF武器と呼ばれる特殊な光芒の矢を放つ弓型の武器であり、燃費は悪いが威力は高い。効率の為にも高い命中精度が要求される。このプレイヤーは相当な腕だった。一発の矢も外しはしなかった。高ダメージの氷のつぶてが降ってきても、冷静に対応している。


 高いプレイヤースキルと知識もある。有名なゲームプレイヤー【KOSAME】が作成したキャラだった。プレイヤーネームは【kosamegu】。

 

 怒り狂った氷火山(ひょうかざん)恐竜(きょうりゅう)は、氷の粒子砲を尻尾の先から放ってくる。

 粒子砲の当たらない近距離まで近づき、首元にショットアローを連発。大ダメージを与えていた。



「おほほ、KOSAMEさんやるねー 惚れちゃうヨン♪ やっぱ一流は違うね」




 他のギルドパーティの動きを邪魔せず、それどころか立ちまわりやすい状況まで意図的に作っていた。

 よくゲームを理解しているプレイヤーだ。それなのに、ほぼPvP(ランクマッチ)専というから、恐れ入る。


 KOSAMEはレイジが憧れるプレイヤーだ。ネット上では、FPSや格闘ゲームで名を馳せている。

 彼がギャラクシーハンターを使用していた為、レイジはその職業を選んだほどだ。

 

 ちなみに、以前からレイジはKOSAMEのファンであった。



「おっと、そろそろ時間かな」



 オヤジウスこと桜野圭一は、動画の再生を止める。それからまもなく、机から投影されていたホログラムのディスプレイが消失する。



「ふう、面白い動画だった。美しい思い出だゾよ。フォフォフォ、久々の冒険、たのしみたいなあ。何人くらい来るかな」



 彼のセリフに悲壮感は無い。柄ではないのだ。


 ただ、楽しもう。彼は前向きに思う。楽しかったあの時の話題で盛り上がるのだ。

 

 やがて約束の時間が近づいてくる。もうすぐだった。





新瀬零司(17) 主人公。シスコン転生者。今回の話には登場しない。


桜野圭一(17) オヤジウス・オッサンディアというプレイヤーキャラクターを作成した。CULOで結成したギルド【スウィートメモリーパワーズ】のギルド長。職業はテクノプリースト


リア・ニゴレイアル 新瀬莉亜が作成したCULOにおけるプレイヤーキャラクター。職業はビーストテイマー。コウテイペンギンに似た惑星獣を使役する。


カオティック・デス 高場裕次郎が作成したプレイヤーキャラクター。職業はフォルティスマギカ。不器用が災いして、ロクに使いこなせていない。


KOSAME ネット上で伝説のゲーマー。FPSと格闘ゲームで名を馳せる。桜野圭一が自身のギルドにスカウトした。使用するキャラクターの職業はギャラクシーハンター。凄まじい腕を持つ。プレイヤーネームはkosameme


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