表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/80

第77話 他人の空似 -side零司

 朝早くクロリガの集落を発ったオレたちは、馬車を使って次の目的地“サルダム”を目指していた。

 

 出発する直前、サルダムへ向かう老人と偶然にも知り合ったオレたちは、金を払って相乗りさせてもらうことになった。

 老人の名は“ミゲル”といって、採れた作物を業者に卸すため、サルダムへ行くらしい。


「いやはや、こんなに若くて綺麗な娘さんたちと道中を共にできるとはのう、いやはや、いつもの退屈な道中が嘘のように楽しいのう」



 ミゲル老はご機嫌だ。

 彼が口にした“娘さんたち”の中に、アーマメント化したオレも含まれていることについては、やはり引っ掛かりを感じざるを得ない。

 

 慣れなきゃいけないのは分かってはいるが、どうやっても収まりが悪いのだ。


 これはどうしようもないことではあるし、飽きずに何度も同じことを言っている自分が本当に女々しいと思う。

 あ、いや、姿は女だけどさ。


 しかもどういうわけか、ミゲル老は3人の中でオレが一番お気に入りらしい。

 オレをチラ見する回数が明らかに多いのだ。


 このスケベめ。

 男は何歳になっても変わらないのな。


 ミゲル老は慣れた手つきで御者を務めつつ、オレたちとの会話を楽しんでいた。

 聞くところによると、奥さんを6年前に亡くし、それ以来、独り身の生活を送っているそうだ。

 1人娘がいたらしいが、流行り病で早世したとのこと。娘のことを想ったのか、話し終えたときミゲル老は目元を拭っていた。


 

 そういえば、敵らしい影はまったく認識できなかった。

 オーバーヘッドマップをにらみつつ、周囲を警戒していたが、襲撃どころか凶獣などの気配すらない。

 反応といえば、ときおり旅人にすれ違うくらいで、何の問題も起こらず平和そのものだ。


 農夫が所有しているような馬なので進行速度はゆっくりとしており、荷馬車には屋根も付いていなければサスペンションもない為、快適とは程遠かった。

 しかし、昨日の苦労を知っているためか、エリスもレシーカも文句は言わなかった。


 幸いなことに今日の天気は快晴だ。気温も程よく暖かく、ときおり吹く風が気持ちよく感じるだろう

 空は雲一つなく澄み切っており、これぞまさに蒼穹と表現していいほどだ。

 その光景を見たレシーカは“創造神ゼーヴェの贈り物”みたいだと言っていた。


 そのときだ、珍しくエリスが話題を振ってきたのだ。

 

「昨日の夜、ジスエクスさんによく似た人とお会いしたのですよ」


 ドクリ。

 心臓が飛び跳ねる。



 俺は平静を装っていたが、内心うろたえていた。


 昨日の今日でどうしてこんな話をする? 何故だ? まさか気付いた?! 

 いや、ありえない。


 今のオレはどう見ても女じゃないか、本当の姿とは似ても似つかない。

 ひょっとして、ただ話題に出したかっただけか?

 

 落ち着いた口調でエリスに質問する。 ごく自然に、違和感のないように。


「へえ、オレに似た()()か。 そんなに似ていたのかい? ()()()()()



 必要以上に“女性”という単語を強調する。多分、自然に映っているはずだ。多分ね……。

 エリスは少し不思議そうな表情でオレを見ると、ほほえみながら説明する。



「そうですね…… その方は男性なのですが……」

「お、おいおい…… ()()()()()()…… お、男と間違えるな、なんてヒドイじゃないのよう」


 いかん、自分で言っておいてダメージ受けてる。

 しかも語尾がおかしいし。


 いいか、レイジよ。ごく自然に、自然に何事もなくこの会話が終了するように仕向けるのだ。

 そう、自然だ。



「すみません。ただ、その方の喋り方や仕草がとても似ていたんです。まるで……その…… いえ、おかしいですね。私、何を言っているんだろ」


 

 え、なに、その言葉に詰まるカンジ、ちょっと、やめてくれよ。

 エリスさん、あなた察しが良すぎませんか?



「は、ま、まあ、自分と似ている人間は世界に3人はいるというし? 世間は狭いと言うし? 男と間違えられるのはいやよねえ……」


 ぎゃあああ!

 不自然すぎるっ!

 何故、こんな喋りをしちまったんだオレ!

 こんなところでアドリブがきかない不器用さが出てしまうとわっ!


「ジスエクスさん、どうかされまして?」


「姐さん、どうしたの? 様子が変だよ?」



 エリスとレシーカがオレを見ている。きっと不審がっているに違いない。

 どうしよう、桜野がいればなんとかうまいこと誤魔化してくれたかもしれないが……。


 

「おや、あれは何かのう? 馬車が道の脇に寄って停まっているのじゃが……何かあったのかのう?」



 ミゲル老が言った通り400メートルほど先に馬車が土路の隅に寄って停まっていた。

 

「ご老体、見晴らしがいいとはいえ、よく見えるな」

「近いものはダメじゃがのう、遠くのものはよく見えるのじゃよ」



 どうやら何かあったらしい。これは誤魔化すチャンスではないか?

 

 ……いや、流石に不謹慎すぎるか。

 早速エリスに、発生したばかりのホットなニュースを振ることにした。



「エリスよ、ほら、誰かが困っているっぽいぞ、助けなくていいのか?」



 予想通り、早速エリスが喰らい付いてきた。

 そして、他の領地だろうと救うのが貴族の務めだの、知らない相手だろうと手を差し伸べるのがアスターシャの教えだのとエリスはのたまい、彼女のテンションはどんどんヒートアップしていく。


 いつもならばエリスの行動に呆れているところだが、コトをはぐらかす良い機会が訪れたことを感謝した。


 そういうわけで、当然、エリスに対するオレの反応は、きわめて肯定的だ。



「エリスさん。かわいそうなので助けましょう。当然の務めなんでしょう? そういうわけでいってまいります」


「え? へ?」


 呆然したような様子のエリスを横目に、オレは荷馬車から飛び上がると、前方の停止した馬車まで駆けていく。


 駆けだしたとき、ふとした疑念が頭をもたげる。


 あの馬車は、オレたちを引き寄せるための罠ではないのか、と……。






 


読んでくださってありがとうございます。


ブックマーク・評価をして下さった皆様のおかげでモチベーションが保てております。


心より感謝いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ