第76話 ギルドメンバー(改)
少し加筆修正したので上げなおします。いつものことながらご迷惑をお掛け致します。
このあと、77話をアップロードします。
よろしくお願いいたします。
「いったいどういうことなんですか! 勝手にお嬢様を…… いや、領主代行を連れて別行動など、我々に相談もなしに、こんなこと許されると思っているのですかっ!!!」
護衛隊長のアスライドは憤りを隠せない様子だ。
雇われ護衛の“ジスエクス・ニゴレイアル”とかいう何処の馬の骨とも知れない女に、自らが使える主の身を委ねるなどなんということか。 それが護衛隊をはじめとするエリスに仕える者たちの総意だ。
ジスエクス・ニゴレイアルに借りはあったが、それでもジスエクスが彼らに相談せずに行動したことはどうしても許せないことだった。
「何故です! オッサンディア殿! そしてリディア君! きみがついていながら、どうして別行動など許したのです?!」
本日の行程における二度目の休憩の際、エリスが護衛隊から離脱していたことが発覚した。
それは、オヤジウスがリディアを除く全員から責め立てられることを意味していたのだ。
オヤジウスが答える前に、リディアは普段と変わらぬ冷静な口調で述べる。
「私個人としては承服しかねる思いでした。しかし、エリス様の意思を尊重することにしました。私としてはエリス様の無事を最優先したく思いましたので」
リディアの見解に、その場いた者たちは不服の意を孕んだ視線で彼女を見る。
それから一拍置いたのち、全員の視線はオヤジウスに集まる。
めいめいの強い視線を浴びたオヤジウスはおもむろに口を開く。
「おワタクシたちの目的地や行動ルートが、襲撃者にバレているような感じがするのは皆さん気付いているとおりなのヨン。だから、ジスエクスたちは確実に信用できる少人数で独自行動することにしたのヨン。これなら、相手にもバレにくいのヨン」
全員から発せられていた圧力を気にせず、泰然自若といった様子のオヤジウス。
その場にいた彼の発言を聞いたうちの幾人かが反応する。
そのうちのひとり、アスライドはオヤジウスに詰問する。
「オッサンディア殿! その言いようでは、まるで我々の中に裏切り者がいるようではないですか!」
オヤジウスは立派に突き出た腹をパチンと叩くと、アスライドに向かって告げる。
「さあ、それは不明なのヨン。ただ、ひとつだけ確かなのはジスエクスたちもおワタクシたちと同じく“アスターシャ”を目指しているのヨン。
ただ、どういうルートを通るかまでは、おワタクシも知らないのヨン」
ジスエクスこと新瀬レイジがオヤジウスに伝えた内容。
それは皆に伝える際、敵に情報が漏れている理由として、一行の中に裏切り者が居るとはっきりと告げないようにすることだった。
少なくともそうすることで、エリス一行の中にいるであろう裏切り者を泳がせることになる。
そして、裏切り者から情報を受け取った襲撃者は、エリスの居場所を特定しづらくなるだろう。 エリスがいないと分かったならば、襲撃者は現在の一行を襲う可能性は低くなる。
仮に襲ってきたとしても、オヤジウスひとりで十分対応できる。
蜘蛛の子の拠点でやってのけた、オヤジウスの戦闘能力を見たジスエクスの評価だ。
その場にいる5人の騎士と3人の侍女たちは、困惑を隠せなかった。
やがて、オヤジウスとリディアを除くエリス一行は、エリスの意向を汲み取りアスターシャに向かうか、戻ってエリスを探すかという議論を始めることになる。
それを横目にオヤジウスは一人考え込む。
これからの道中、敵が襲ってきたとしても、オヤジウス・オッサンディアの力で十分に対処できる。
そうジスエクス・ニゴレイアルは言った。
オヤジウスも同意したのは、これまでに経験したCULOアバターが持つ戦闘力を経験したからだ。
それでも、オヤジウスこと桜野圭一には懸念があった。
それは、もし自分の力が通用しない敵が現れたら、彼らを守ることはできるのだろうか、と。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
この季節にしては珍しく冷たく湿った空気が辺りを支配していた。
鬱屈とした夜が明け、朝露が松の枝から滴り落ちる。
本来ならば、露が滴り落ちる音など聞こえるはずもなかったが、この哀れな男ホッジスにはそういった幻聴が聞こえたような気がする程、極度の緊張状態にあったのだ。
コルダートの命を受けた諜報員ホッジスは、彼の目に浮かぶ意思を読み取ろうと努めた。しかし、それは徒労に終わった。
ホッジスは自身に与えられた今回の仕事を、これほどまでに後悔したことはなかった。
仕事の内容は実に単純。 コルダートが雇っている仙技使いに情報を伝えるだけ、それだけのはずだったからだ。
コルダートに仕えて10年、どんな状況であろうと正確な情報を入手し、そして伝えるためホッジスは多くの修羅場をくぐってきた。
そう、ホッジスには並大抵の事には動じない自信があった。
しかし、この男“メメ”の周囲に広がる光景をみた途端、ホッジスのそれはもろくも崩れ去った。
メメから発せられている感情は驚くほど少ない。
ホッジスがメメから、わずかに読み取れたのは落胆や失望といった種類のものだった。
まるで買ってもらった玩具が期待していたほどの面白さではなかったかのように、メメはつまらなそうな様子だった。
「あ~ それで、何の用や? アンタさぁ、コルダートのオッサンの使いなんやろ? はよ言いぃ」
“メメ”の問いに答えようとするが、ホッジスは意図せず詰まってしまい咳払いをする。 それから向かい直そうと姿勢を正そうとしたとき、彼は視線に気づいた。
メメからではない。 もっと下のほうからだった。
よく見ると、メメの後ろに隠れるように幼い少女がいた。
まだ10歳にも満たないだろう、その少女は白い頭巾を被っており、茶色の前髪が垂れて風に揺れている。
白い肌がひときわ目立つ少女であり、顔立ちをみる限り将来が期待できそうだったが、無表情でホッジスを見つめる少女のさまは不気味でしかなかった。
苛立ちの混じった視線を感じ、我を取り戻したホッジスは、慌てて直立不動の態勢をとってメメに面する。
「は、はい! し、失礼しました……。お、お伝えさせていただきます。ご、ご当主様からの依頼がありまして……」
ホッジスはコルダートから受けたメメへの仕事内容を伝える。
その間、メメは目を閉じ、ホッジスに意識を割いていないかのように思われた。
しかし、こちらを見ていないのにもかかわらず、自身のすべてを見抜かれているような感覚に襲われたホッジスは、メメに対し更なる恐怖を抱かずにはいられず、震えを抑えるように自身の身体を抱える。
声が震えるのを必死に抑えながらホッジスは仕事の内容を伝えていく。
そのときだ、排除すべき標的対象の護衛者の名をホッジスが口にしたとき、メメが反応した。
それはホッジスが、初めて目にするであろう、この朴訥とした金髪の美しい青年メメが破顔した瞬間だった。
メメが見せた笑みは、彼の美しい顔からは想像できない程に凶悪でおぞましく、ホッジスはその場にへたり込みそうになるのを、必死に堪えなければならない程だった。
それからメメは口を開く。
「ジスエクス・ニゴレイアル、オヤジウス・オッサンディア…… 懐かしい名前や。 ワテ、久々に楽しめそうな気ぃするわ……」
ガクガクと震える脚を抑えながら、ホッジスはひそかに願う。早くこの場から立ち去ってしまいたいと……。
それはムリからぬことだった。
ホッジスが目にしている光景……。
それはメメの周囲に広がっているものが原因だ。
メメの回りには騎士や傭兵と思わしき死体と、それらからもたらされた夥しいまでの量の血と肉片がまき散らされていたからだ。
200人以上もいた仙技使いたちを、この男“メメ”は皆殺しにしたのだった。
「ほんまに楽しみや。なぁ、リコリス、おまえもそう思うやろ?」
リコリスと呼ばれた少女の口元が微かにほころぶ。口から上は無表情のままだった。
「そうか、おまえもそう思うかぁ……。ああ、ええなあ、ほんまええわあ……」
メメの眼差しには猛獣のような眼光がギラつき始める。
一連の光景を見たホッジスは、いまなお自分が正気を保っていられるのが、不思議だと思わずにはいられなかった……。
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