第73話 別行動 -side零司
次の話と分割しようと思ったのですが、収まりが悪いと感じたため、大幅に加筆修正した上で朝上げた分を削除して、新たに上げます。
ご迷惑をお掛け致します。
「はっ、はぁっ…… ちょ、まっ、待ってください…… 少し、休憩を……」
エリス・エリアスは立ち止まると、腰を折り両ひざに手を着きながらオレに向かって声をかけてきた。 彼女は小休憩を望んでいるようだ。
「はっ…… おっ、お嬢様ってのは…… や、ヤワなんだね…… うっ……」
レシーカは気丈に振舞うが、かなり膝にキているらしく、やせ我慢していた。
「がんばれ、レシーカ・サールビー そんな体たらくじゃ新米冒険者の名が泣くぞ」
オレはワザとフルネームを呼び、彼女を鼓舞する。
徒行による移動は、お嬢様と新米冒険者にはキツいようだ。 だが、エリスは身柄を狙われている以上、多少無理してでも頑張ってもらわねばならない。 エリスの年齢は18歳と聞いている、これは十分ムリがきく年齢だ。
オレたち3人はサンスロティを抜け、次の目的地である“クローバティ”を目指していた。
“クローバティ”まで行くにはサンスロティから“アンゴナ街道”を使う必要がある。 もっともエリスの最終目的地である“アスターシャ”へ行くためなら、クローバティまで行く必要はない。 現在オレたちが使用しているルートは完全に回り道だからだ。
アンゴナ街道はキコーナ山地のガリアン峠を超えてクローバティへと至る街道であり、かなり古い時代に作られたものだ。
今現在、オレたちが歩いている“ガリアン峠”は、サンスロティとクローバティの境にある峠であり、つづら折りの少ない直線的な急勾配が続くことから“アンゴナ街道”における難所として有名だ。
サンスロティとクローバティのどちら側からでも勾配がきつい為、徒歩で通過する人間にとって苦行以外の何物でもないだろう。
頂上には小さな集落があって、そこでは宿屋や食堂などが営まれており、旅人にとって癒しの場所となっている。
「ジ、ジスさ、さまっ…… そ、そこに…… 腰掛けるには丁度の良い岩があります。 そこで少し休ませて下さいませんか……」
上目遣いに懇願してくるエリスを横目に、レシーカも無言で見つめてくる。 その目にはレシーカ自身も小休憩を望む意思が込められているようにみえたので、やむを得ず彼女らの願いを聞き届けることにする。
「しょうがないな、わかったよ。 少し休もうか」
オレの返答を聞くや否や、二人ともほどよい大きさの岩によろよろと近づき腰掛ける。 よほど足にきていたのか二人とも首を垂れると深いため息をついた。
オレはアイテムストレージから水が入った大型のフラスクボトルを取り出すと、彼女たちに振る舞うため更に2つの木製コップも取り出す。
マントの調整機能を使って首から下をほぼ包んでいる為、取り出した瞬間は見えないようになっている。 漆黒の亜空間が出現する様を堂々と彼女らに見せるワケにはいかない。
まあ、バレたところで彼女らがそう簡単にバラすとも思えないが。
エリスはこの短い期間とはいえ、オレに恩義を感じているだろうし。 レシーカに至っては自身を含む連れ去られたレヴロ村の女子供を救出したことから、オレに感謝しているのはさもありなんといったところか。
オレが突然、フラスクボトルとコップをマントの下から取り出したのを見た彼女らは、目を見開いてあっけにとられていた。
オレは無言でコップに水を注いでいくと、彼女らに手渡していく。
「えっ? 冷たい?! どうしてですか?!」
「ホントだっ! 冷たいよっ! なんで?!」
コップから伝わる水の冷たさに驚くふたり。 なお、これについての説明はしない。
いちいち説明を求められても、決してそれに答えるようなキャラじゃないということにしていくつもりだ。
「秘密。 いちいち訊くな、訊くなよ」
ルヴロ村の地下水を汲み上げてフラスクボトルに入れ、アイテムストレージに収納していただけなのだが、どうやらアイテムストレージに収納されたアイテムは、収納された直後の状態のまま保存できるようだ。
(本来なら、とっくの昔にぬるくなっているハズだが…… すごく便利だな、この機能は。 CULOをプレイしていた時には気付けない部分ではあるが)
「姐さんスッゴイ! ねえ、どうやってこんな!? コレ、どんなスゴイ手品なの?! 魔法なの?!」
めげないヤツだ。
面倒なので睨みながら無言の圧力をかけると、ビクッとレシーカは反応をみせると、彼女の勢いは薄れていき無言になっていき、どこか淋しそうに首肯した。
岩に腰掛け休んでいるエリスとレシーカを見るに、二人とも疲労困憊といった様子だった。
こちらとしては、せめて日が暮れるまでに頂上の宿場までは到達したいのだが。
やはりお嬢様と新米冒険者では体力と経験的に難ありだったか。
3人のパーティではあるが、仮にその辺の賊が襲い掛かってきても、このアーマメントという身体なら撃退しつつ逃走するのは可能だと思っていたが、少し甘かったかもしれない。
それでも裏切り者が居る以上。 あのまま馬車による快適な旅路を行くわけにはいかない。
エリスは自分で決めたのだ。その意志は貫いてもらわねば……。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「それで、どうして私の乗った馬車に乗ったのですか?」
オレと向かい合った状態で顔を覗き込むようにエリスが訊いてくる。
リディアはエリスの隣に座っていて、レシーカはオレの隣だ。
オヤジウスと共に貨物馬車に乗っていた時、レシーカから衝撃的な内容を聞いたオレは腹積もりが決まった。 いちはやくみんなを見つけ出し、この世界からおさらばしたいと強く思ったのだ。
そうしなければ、たった四年しか経っていないという事実は、オレに良からぬ行動を促すかもしれない。
オレは蜘蛛の子のアジトでみつけだし、訊き出した事実をもとにエリスにある提案をすることにした。
そこで途中の休憩の際、エリスに許可をもらい、レシーカ、エリス、リディアとオレの四人で彼女専用の馬車に乗ることになったのだ。
一緒の馬車に乗った理由は単純、他の人間に聞かれないためだ。
なお、オヤジウスとレシーカには今後の計画はすべて伝えてある。
エリスの問いにオレは答える。
「これから話す内容を他の人間に聞かれたくないからだ。 はっきりと言おう、この一行の中に裏切り者がいる」
二人の顔が驚愕する。 まず、ありえないといった様子だ。
抗議するであろうことは予想していたので、こちらの話を有無を言わさず進める。
「いいか? 何故、オレたちの行く先に蜘蛛の子とかいう賊たちは待ち構えていた? 毎朝ルートを決めて宿泊先もその都度決めていたのに。 どうしてヤツらはルヴロ村で時間をかけて面倒な仕込みをしてまで待ち構えることができたんだ? まるでオレたちがルヴロ村に訪れることを知っていたかのように。
エリス一行の誰かが伝えていたんだよ。 襲撃者である蜘蛛の子にな」
リディアが口を挟む。
「待ってください、一体、誰がそんなことを?!」
「オレの予測では侍女3人のうちどれか、もしくは3人ともだ。
騎士たちは既に裏切り者が出た後だし、今残っているのはある意味ふるいにかけられて残った5人だ。 彼らの中にいるとは考えにくい。
監視役として紛れている可能性も考えたが、ウェットワーカーたちと裏切り騎士たちによる襲撃は、オレが介入しなかったら終わっていた内容だ。 とてもそのあとの事を考えていたとは思えない」
ふたりの顔が厳しくなっていく。 侍女3人はふたりの信頼を得ているのだろう。
それなりに信頼関係を構築したとはいえ、オレは完全に部外者なのだ。 そんな人間に疑われたら不快なのは当然だ。
「侍女3人は襲われていましたよ? 襲撃者たちの仲間とは思えませんが?」
リディアが冷静に考えを口にするが、オレは即座に返答する。
「いや、単に現場の人間に伝えていないだけだろう。 大元の黒幕に直接伝えているか、もしくはその黒幕に近いものに伝えているのだろう」
「どうやってですか?! 使いの者と連絡を取り合うしかないのですよ?!」
声を荒らげるエリス。
そこでオレはあるものを懐から取り出すと、彼女らに見せた。
「これは…… 手鏡?」
「いや、違う。 偽装の為そうなっているがな」
オレは手鏡の側面にあったボタンを押すと、鏡の部分が変化を起こし色が変わり、暗黒に発色しはじめた。
それはまるで液晶モニターのようだった。
変化した鏡の部分に人差し指を当て、適当に文字を書く動きすると。 それに合わせて黒く変色した鏡の部分に文字が作られていった。
彼女らは驚愕していた。 驚くということは、この通信装置は一般世間には出回っていないのだろう。
オレの仕えていた国で試験的に作られたものだったが、それでも知っているのはごく数人だった。
これは仙気を利用して通信する仙晶石を用いて作られた仙晶通信機と呼ばれるものであり、国家機密のうちのひとつだった。
当時、音声通信に関しても研究が進められていたが短距離にとどまっていた。
これは長距離でも安定して情報を伝える為の装置だった。 短く単純な文字しか伝えられなかったが、使用者同士で暗号のように文字に意味を当てはめておけば十分使いモノにはなる。
通信装置に関して、その概要を可能な限りわかりやすく説明したが、エリスたちはきょとんとした様子で首をかしげていた。
まあ、そうなるだろう。
初めて仙晶通信機に関する説明を受けたとき、前世のオレですら理解するにはかなりの時間を要したのだから。
でも、おかげで日本に転生してからパソコンやらスマホを理解するのは早かった。 それでも別世界の技術に驚愕したのは言うまでもないが。
とにかくエリス達には旅の一行に裏切り者が居る以上、途中から黙って別行動をしなければならないことを丁寧に説明した。
騎士たちに告げず別行動し、ある程度の時間と距離を稼いだあと、馬車に残ったリディアが事情を説明するのだ。
ものすごく勝手な計画ではあるが、裏切り者が黒幕、つまりコルダ―トに報告したとしてもある程度こちらの行き先を誤魔化すことはできるだろう。
良くて難色を示すか、悪くてリディアを含め猛烈に拒否されるとは思ったが、意外な事にエリスの理解と判断は速かった。
「わかりました…… 私、行きます!」
「え、エリス様っ?! 危ないです! せ、せめて、わ、わたしもっ!」
リディアもついて行こうとするが、それは拒否させてもらう。
「ダメだ。 残って説明する人間が必要だ。 なんでこの件をあんたにも話したかというと、ずっとエリスとべったりで裏切り者の可能性がきわめて低かったからだ」
「い、イヤでございますっ!」
「リディア、お願い。 ジス様の強さと信頼は知っての通りですし、ジス様のおっしゃる通りにしたほうが良いと感じました」
それでもめげずイヤイヤと首を横に振るリディアだったが、エリスの説得により興奮が収まっていった。 どこまでもエリスに仕えたいという彼女の思いは本物らしい。
ちらっと聞いた話だが、リディアの忠誠心は絶対なのだそうだ。
エリスによると、着替えは勿論、風呂ですらついてきて手伝ってくれるらしい。 止めないとトイレだって付いて来るとか。
見上げた忠誠心だが、流石にそれは少し引く。
とにかくエリスが同意した以上、方針は決まった。
オレとレシーカとエリスの三人は別行動すると。
ただ、この走行中の馬車から飛び降りることを告げると、二人とも顔が青くなっていたが……。
この世界の標準的な馬でも、地球に存在するどんな馬よりも力強く速い。 馬にかぎらず、この世界の獣の身体能力は、地球に生息する同じような種類の動物同士で比べても歴然とした差があるのだ。
ゆえに、現在走行中の馬車のスピードはかなりのものであり、ここから飛び降りればタダではすまない。
「え、この速さで走る馬車から飛び降りるとか…… ウソですよね?」
「は、姐さん? 冗談キツいんだけど。 仮にうまく飛び降りることができても騎士連中にバレちゃうじゃん?!」
レシーカの言う通り飛び降りたら一発でバレる。
そこで偽装をしなければならないだろう。
「大丈夫、バレないさ。 オレの特技でどうにかなるさ」
「「え?」」
EFスキルランチャーを起動、EFスキル【認識遮蔽】
CULOの中位職野伏だった頃に取得したスキルだ。 自身や他のプレイヤーにも効果を施すことができる。
効果時間は60秒。
スキル使用ターゲットマーカーをエリスとレシーカ、そして俺自身に合わせると続けてEFスキルを発動させる。
すると2人の姿は徐々に薄くなっていき、それから綺麗さっぱりと消え失せてしまう。
オレも同様、彼女らと同じように【認識遮蔽】の効果で姿が薄くなっていく。
ただ、その効果は半透明状で留まった。 自身の身体は視認できるようになっているのだ。
「えええ?! これは、どういうことですの!?」
「なに、なになになに?! 姐さん! これ何なの?!」
「お嬢様っ?! 何処、何処ですっ?! あっ、ちゃんと感触はある! お嬢様っ! そこにいらっしゃるのですねっ!」
ご多分に漏れず、3人とも狼狽していた。
まあ仕方ないね。 驚くのもムリはないよな、MMORPG上でしかありえなかったものをこうして現実のものとして使えるのだから。
「リディア、いいから落ち着け、オレたちはそのままだ。 ふたりともよく聞け、自分の身体は半透明状で視認できているだろう?」
ふたりの姿は見えないが、かなり驚いているのだろう。 まだ落ち着いてはいないだろうが、とっとと行動しなければならない。 効果は60秒しか継続しないのだから。
オレは馬車の窓にかけられているカーテンの隙間から騎士の様子を伺う。 五人の騎士のうち三人が御者をつとめ、二人が馬に騎乗している。
騎乗している騎士は基本的に一人は隊列の先頭を務め、もう一人も同様だが、速度を落として最後尾についたりしていたのをオレは思い出す。
騎乗した二人の騎士は、ちょうどいいことに共に先頭を走っていた。 これはいいチャンスだ。
「ああ、これはタイミングのいい。 レシーカはひとりで飛べ。 オレはエリスを抱きかかえて飛ぶからさ」
観音開きの扉を開けると、強い走行風が入り込んでくる。 思ったより速い速度だ。
可哀そうだが、レシーカには錬仙功などで肉体強化なりなんなりをしてもらって、頑張ってもらうしかない。
大丈夫、ケガしてもエリスが直してくれるさ。 エリスは法術師らしいからな。
「リディア、レシーカが飛び出たあと、オレとエリスが出る。 そのとき合図するからすぐに扉を閉めてくれ」
リディアはしつこく抗議してくるが無視する。
「エリスすまん、お前を抱きかかえて飛ぶ以上、座った状態のままお前を抱っこしなきゃならん。 我慢しろよ」
彼女の姿は透明で見えなかったが、肉体はそこにあるのだ。 なんとか彼女の身体を抱き寄せる。
「え、ちょっ、変なところを触らないでくださいっ!」
抗議する彼女を無視して、レシーカに早く飛び降りるよう促す。
しかし、どうやらレシーカは躊躇っているらしく『いやだなあ』とか『こわいなあ』という具合に、どうもまごついているようだ。
「いいから、さっさと行け。 蹴るぞ」
「姐さんヒドイ! あ、あたしも抱っこして一緒に飛んでほしいのにい!」
子供じゃあるまいし、何故そうなる。
だが、いつまでもこうしていられないので、彼女の願いをあとで聞いてやることにした。
「わかったよ、あとでたっぷりしてやるよ。 ホラ、行け」
『姐さん! 約束だからねっ!』とレシーカは強い口調でオレに約束事を強調すると、ギシッという座席から立ち上がる音と共に、隣に座っていた彼女の気配がなくなった。
レシーカは勢いよく飛び出した…… ような気がした。 見えないのだから詳細は分からないが。
「さて、オレたちも行くか。 リディア、3、2、1の合図で飛び出すから扉を閉めろ」
オレは合図とともに勢いよく飛び出す。 エリスが悲鳴を上げそうになったので手を当て口を塞ぐと、彼女は『モガモガ』身じろぎしていた。
このアーマメントという身体は凄まじい。 こんなでたらめな跳躍でも転倒せず着地できるのだから。
姿はみえないが、レシーカも無事に着地できているといいが……。
もうすぐ【認識遮蔽】の効果は切れる。 彼女の姿を視認できるようになるだろう。
オレはそっとエリスを地に降ろし、遠ざかる馬車を見送ると、先に馬車から飛び出したレシーカと合流するため歩き出した。




