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第68話 抜刀 -side莉亜(改訂)

今朝上げた内容が納得いかなかった為、大幅に加筆した上で再度上げなおします。読者の皆様にご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 ドアを蹴破るくらいの勢いでやって来たのは、どうやらエルメリアさんのお兄さんみたい。

 まさに怒り心頭といった様子のエルメリアさんのお兄さん。

 なんでそんなに怒っているのかな。


 お兄さんのルックスは、目鼻がはっきり整った顔立ちで、金髪の髪を整髪料か何かで後ろに撫で付けていて、雰囲気だけは貴族らしく育ちの良さを感じる。

 体形はスラリとしていて、れーにぃと同じくらいの身長かな。品の良いオシャレなジャケットとスラックスといったラフな格好だ。日本で街を歩いていたら、女の子の視線を集めるくらいイケてるんじゃないかな?


 ひとつ違和感があるとしたら、腰から剣をぶら下げていることだ。  

 こういうのを見てしまうと、この世界はあたしのいた日本とはまるで違うんだなって、嫌でもわかってしまう。


 それでだけど、そんなイケメンお兄さんの顔はとってもケワしくてコワい。

 あと声がデッカイ! ホント、うるっさいなあ。


「おい、エルメリア! 絶仙会議からの召喚状が届いた事を何故黙っていた?! 俺に黙っていたとはどういうことだ?!」


「お兄様が一体何を仰っているのか、まるで存じ上げません! たとえそんなものが来ていたとしても、お兄様にわざわざ言ったりはしませんわ! そんなことより見てわかりませんか?! 来客中ですよ?! お客様に失礼ではありませんか! 早く出て行ってくださいまし!」


 エルメリアさんはとってもお怒りだ。

 お兄さんが怒っているのは、エルメリアさんが“ぜっせんかいぎ”とかいうトコから何か届いコトを黙っていたからみたい。そんなことでどうしてそこまで?


「出ていけだと?! 何を生意気な! 何時まで経っても嫁ぐことすらしない行き遅れめ! 公爵の娘としての責務を果たさぬ穀潰しがっ! 俺様に向かって偉そうに言うでないわ!」


「はっ?! お兄様は穀潰しの意味をお分かりになっていないのではありませんこと?! わたくしは法術式の開発や治療薬などの実施料や、その他の事業収益をカスパート家の収入に計上しているのですよ? そういうお兄様はカスパート家のために何かしていらっしゃるのですか?!」


 昨晩、宿屋で食事をしていた時、アンナさんに訊いた話だけど。

 エルメリアさんはゼルフィア大陸で一番と言っていいほどの“法術師”なんだって。


 みんなの役に立つ“法術”や“治療薬”の新型や改良型をつくったり、栽培の難しい薬草の生産をしたりしてたくさんお金が入ってくるんだってさ。

 “アスターシャ商会”っていう会社? の代表も務めているとか。20代前半で社長?! キャリアウーマンじゃん! マジ尊敬しちゃうよ!

 公爵のご令嬢というだけでもスゴイのに、自分でお金を稼いでいるなんてホントスゴイ。

 あと、恵まれない人のために自分でお金を出して慈善活動もしているなんて、マジやさしい。


 うん、そうだよ。こんなにスゴいエルメリアさんの事を、ごくつぶしって言ったフルレドさんの言葉はおかしいよね。


 あ、ちなみにあたし“ごくつぶし”の意味わかっているからね。


 そんなエルメリアさんは顔を真っ赤にして、険しい顔をしていた。

 完全に頭にキちゃっているらしく、彼女の勢いは止まりそうにない。


「フルレドお兄様こそ、素性の分からない怪しげな者たちを連れて、いつまでブラブラなさっているのです?! お父様が病に伏せっているのをいいことに、勝手にお金を持ち出して毎日遊び惚けているではありませんか?! これこそカスパート家にたかっている穀潰しではないですか! 

 お体の弱いフェルドお兄さまですら、家臣と共にアスターシャの経営に励んでいるのですよ!? フルレドお兄様は何もやってらしゃらないではないですかっ!」


「なん…… だとぉ……」


 フルレドのお兄さんの表情に小さいけど変化があった。なんか、目つきがヤバイ。エルメリアさんはさらに言葉を続ける。


「大体、お父様が倒れたというのに、ほとんどお見舞いに行かないではないですか?! お兄様は頭がどうかしていますっ! お兄様あなたは……」


「あ、兄に向ってその態度は何だァァッ!? エルメリアァァァ!!!」


 フルレドさんは発狂したかのように、雄叫びを上げると、腰の剣を抜こうとする。

 えええ!? 実の妹に斬りかかるつもりぃ?! キレるの早すぎっしょ?!


 だけど、フルレドさんが剣を抜くことは無かった。彼の手は剣の柄に置いたままで静止しているみたいに動かなかった。


 いや、違う。剣を抜かなかったんじゃない、()()()()()()()()


 それは、刀の切っ先がフルレドさんの剣の柄に突き付けられていたから。

 刀を抜いた人物は、あたしの横に座っていた武子ちゃんだ。


 武子ちゃんは、あたしが…… いや、違う。

 この場にいた誰もが気づかないうちに刀を抜いて、フルレドさんの剣の柄に突き付けたんだ。


 武子ちゃんの刀、たしか名前は“空名(くうめい)”だっけ?

 鞘に収まった状態を見たカンジだと、柄も鞘も黒くてごく普通の刀だと思っていたんだけど、刀身が見える今の状態を見たかぎり、あたしの感想は間違いだったことが理解できた。


 それは刀身がヘンな色をしていたからだ。

 普通の刀だったら、テレビや映画でみるようなギンギラギンの光る銀色なのにもかかわず、“空名”の刀身は黒が混じったような灰色…… う~んガンメタ? とにかく変な色の刀だった。


 あれ? このシチュエーションってマズくない? フルレドお兄さんてば、武子ちゃんにいきなりこんなことされたら、ますますブチキレちゃったりしない?


 でも、意外な事にフルレドお兄さんは落ち着いていった。ただ、フルレドお兄さんの鋭く睨む目はエルメリアさんから武子ちゃんへと移っていたけど。


「女、速いな。剣を抜いた瞬間を捉えることすらできなかったぞ。貴様、何者だ? 名を名乗れ」


 武子ちゃんは静かに口を開く。

 それは、いつものポンコツな武子ちゃんじゃなかった。

 クールで一切の隙が無い様子の剣士。そんな感じだった。

 それは、あたしが見たことが無い、もうひとつの武子ちゃんの姿だ。


「ブスジマ…… いえ、タケコ・ブスジマと申します」


 武子ちゃんはそうやって静かに答える。

 いつものように噛んだり詰まったりすることは無かった。


 毒島武子、彼女が先祖代々続く古流剣術の使い手だということを、何故か忘れていたことにあたしは気付く。


「その美しく艶のある黒髪、じつに珍しい。そこの女、俺の問いに答えよ、貴様の出身はどこだ?」


 問われた武子ちゃんは視線を合わせぬまま質問に答える。


「はるか北方にあるニホンという名の村にございます」


 武子ちゃんの応対はとっても丁寧だ。あ、なんかちょっとお嬢様っぽい。どうやら武子ちゃんはそれをこの世界での公式プロフィール設定にするみたい。うん、あたしもそれでいこう。


「北方…… だと。なるほど、例の蛮族国家“クリーヴ”か。なるほどな、面白い。

 どうだタケコとやら、俺の部屋に来て剣について語り合わぬか? エルメリアよりも貴様をもてなしてやるぞ」


 武子ちゃんの突きつけた刃先にはまったくと言っていいほど、ブレる様子はない。武子ちゃんは目も合わさぬまま返答する。


「申し訳ありません、私はエルメリア様にご招待して頂いた客人にございます。いくら兄君であるとは言え、横槍を入れるかのような所業はいかがなものでしょうか。

 それに私の居た村では、嫁入り前の女性がひとりで男性の部屋に入ることは許されないことでした。せっかくのお誘いではございますが、何卒ご寛恕くださいますようお願い申し上げます」


 武子ちゃんの言葉遣いは丁寧だが、言葉の端々に日本刀のような鋭さが見え隠れしている気がした。そして話している間も、武子ちゃんはフルレドお兄さんに刀を突き付けたままだった。


「フン、まあいいだろう! 今日の所は引いてやろうではないか。タケコ・ブスジマよ貴様の名前、覚えたぞ。また会おうぞ」


 そう捨て台詞を吐いたお兄さんはアッサリと引き下がり、ドスドスと音を立てて部屋を出て行った。

 フルレドお兄さんが部屋を出て行ったのを確認した武子ちゃんは、鞘に愛刀“空名”をゆっくりとした動作で収めた。


 エルメリアさんは深く息を吸い込むと、息をゆっくりと大きく吐く。極度の緊張から解放されたせいか、エルメリアさんの表情には疲れがみえた。


「兄が皆様に無礼を働きました。代わってわたくしがお詫びいたします。どうかご容赦を」


 エルメリアさんは姿勢を正すと、あたしたちに向かって謝罪してくれた。

 別に謝らなくてもいいのに、謝るのはあのフルレドとかいうお兄さんじゃないの。


「タケコ様、兄を諫めて下さって心より感謝します」


 武子ちゃんは軽く首を左右に振り、気にしていないことを身振りで伝えると、エルメリアさんに問いかける。


「フルレド殿はいつも、()()なのですか?」


「そう、ですね…… 子供の頃はあれほど酷くは無かったのですか……。

 剣と仙技士の修業を始めたあたりから、激情的な性格に変質してしまいました。そればかりか、兄は絶仙の持つ圧倒的な力に憧憬の念を抱くようになったのです。

 昔のフルレドお兄様は…… 昔のお兄様はあんな人では無かったのに……」


 エルメリアさんは失意の表情を見せ、うなだれていた。

 そんなエルメリアさんの様子を見たアンナさんは、いたたまれなくなったのか話を変えようとした。


 だけど、話の内容がマズかった。

 別の話題にすべきだったと、のちにアンナは反省することになるんだけどね。


「ま、まったく。フルレド様の言葉は見当違いもいいところです。“ごくつぶし”とか“行き遅れ”とか、まったく本当に的外れもいいところですよね! そう思いますよね、エルメリア様! ……エルメリア様?」


 アンナさんはエルメリアさんの異変に気付き、彼女の様子を伺う。エルメリアさんはと言うと、ますます(うつむ)き、前髪が垂れて表情が見えにくくなっている。そして、彼女が何か小声でブツブツ言っていることにあたしは気付く。


「え、エルメリアさん?」


「……わたくしだって好きで行き遅れたわけではありません……」


「え?!」


「お父様がお倒れになって、それでなんとか回復していただこうとわたくしは必死に治療法を模索して…… 殿方と出会う機会など…… でも…… なんとかお相手を紹介していただいても、話が合わなくて上手くいかなかったり…… わ、わたくしだって殿方と……」


 エルメリアさんは早口でブツブツ何か言いながら、足元を見つめていた。その目には光が灯っていない気がしてとってもコワかった。


「あ、あのエルメリアさん?」


 あたしはユージィを抱きかかえたままソファーから立ち上がり、恐る恐る彼女に近寄ると、エルメリアさんは突然、バッ! と顔を上げた。その顔は、どうにも表現しようのない強烈な表情だった。


 どうやらフルレドお兄さんは言ってはいけない事に触れたらしく、アンナさんはソレをほじくり返したみたいだね。


「リアちゃん! 今すぐ、ユージィちゃんを貸してくださいましっ! 少しの間だけでいいですからっ! 早く! 早くなさってっ!」


「ヒ、ヒェッ?! は、はいっ、ど、どうぞっ!」


「ペイッ?」


 あたしはユージィを両手で持ったまま差し出すと、エルメリアさんは奪い取るようにユージィを受け取った。

 そして、さっきまであたしがしていたように膝に座らせ、後ろから抱きかかえるエルメリアさん。


「ああ…… 可愛いですわぁ、癒されますわぁ~」


 ユージィを抱えた途端、エルメリアさんの激しい表情は瞬時に消え去り、彼女の顔には安らぎが溢れ始める。

 

 その様子を見たあたしたちは、ひとまず安心することができた。


 でも、エルメリアさんが言った“少しの間”という意味が、まさか30分以上もユージィを抱っこすることだとは……。


 これは、流石にあたしも予測できないことでした。


 


 

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