第6話 チュートリアル
「カエレ……。二度とこの家の敷居を踏むなよ。さようなら」
「ま、まってくれ! つい、反射でやってしまったんだ! 悪気はないんだっ!」
「悪気が無くて、あんな異常な速さの踏み込みから、大の男を一回転させる投げを決めるかよ!!!
殺る気満々だろうが!!!」
「ち、違う。殺す気なら頭から落としていた。ちゃんと背中から落とした。ぎりぎり理性が間に合ったんだ」
「理性が間に合わなかったら、死んでたということかよ……。またてんせ……いや、昇天しちまうぞ。いてて、頭が痛いし、おまけに、投げられた以外の前後の記憶がほとんど飛んだのだが?」
後頭部をさすりながらレイジは言う。毒島武子は友達が少ない、と言われるのも得心がいった。
「お願いだっ! 許してくれっ! 身体が勝手に動いてしまったんだっ! 友達をやめないでくれっ!」
「まてまて、いつから毒島と友達になったんだ? 記憶が曖昧だ。マジ飛んでる」
「え~ さっき投げ飛ばされる前にぃ、楽しそうに武子ちゃんとお喋りしてぇ~ 『じゃあ今日から友人だな』って、れーにぃ言っていたじゃん? 記憶が飛んだから覚えてないんじゃない?」
そうだっけ? と記憶を辿るレイジ。残念なことに思い出すことはできなかったが、妹が言うのだから、そうなのだろう。とレイジは納得する。
「まぁまぁまぁまぁ、れーにぃ、それはおいておいてさぁ~ 事故とはいえ女の子の胸を揉むのは流石に悪いと思うよ?」
毒島の胸を揉んでしまったレイジ。セクハラ? チカン? 下手しなくても逮捕案件だった。
新瀬家に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。素直に謝ったほうが良いと判断する。
そうだな、たしかに悪かったな。と頭を掻きながら言う。素直に反省するレイジ。
「武子ちゃんも、そういうトコロ直さないと、好きな男の子に嫌われちゃうよ?」
なっ!? そ、そうだなっ! 今度こそしないぞ! 家名に誓うぞっ! と武子。
へえ、こんな銃刀法違反暴力剣豪JKにも、好きな男がいるのか。と意外な事実に、内心驚くレイジ。
「はぁ、何するんだったっけ? 記憶が飛んじまったよ」
「武子ちゃんのキャラクターの転職だよ。これから野武士に転職するところ」
莉亜の説明を聞き、武子のキャラクターの育成経過を思い出すレイジ。
「くっそ、もうこんな時間かよ。誰かさんのせいで、時間がムダになった」
「うう……。すまない……」
ふと、レイジの脳裏を過ぎる、誰かの言葉。
「あれ、そういえばさ。俺が投げ飛ばされた原因って? 誰かが何かしたせいじゃなかったっけ?」
「え~ そうだっけ? ま、時間もないしさ。早く作業、進めたら?」
莉亜が、レイジをに転職作業を促す。レイジはそうだな、細かい事は気にしていたらダメだな、と気にしない事にした。泰然自若をモットーとする、レイジらしいとはいえるが。
ちなみに武子は、莉亜をジト目でにらんでいた。
「ああ、そうだ。野武士へ転職のクエストやらなきゃいけないじゃないか。毒島、お前のSVRヘッドギア借りるぞ」
あ、ああ、使ってくれ、と武子は言う。
レイジはSVRヘッドギアを使用した操作に切り替えると、野武士への転職クエストに挑戦する。
転職クエストと言っても、難しいものでは無い。ゲーム内の設定であるジョブシミュレーターを使って、野武士を操作して指定された敵を倒したり、スキルを使用したり、その職業の特徴の説明を受けたりするだけだった。
数十分後、あっさりと野武士への転職が完了する。
レイジは《ブスジマタケコ》を操作し、定番と言われる野武士のスキルを、取得していく。軽快にJob.Levは上がり続け、やがて【剣豪】への転職条件である、Job.Lev80へと到達する。
武子はその様子を見守りながら、あまりよく分かっていないのにもかかわらず。罪悪感からなのか『へ、へえ、すごいなっ』『さ、流石だなっ』など不必要にレイジを持ち上げていた。
そして、いよいよ上級職である【剣豪】への転職である。
「毒島、ここからはお前がやれ。転職クエストってのは要するに、転職する職業のチュートリアルみたいなもんだ。これからおまえが使うプレイヤーキャラクターが【剣豪】になるわけだから、ここはおまえがやった方がいいんだよ」
武子はそれを了承し。SVRヘッドギアをレイジから受け取る。
SVRヘッドギアを装着し、CULOの世界へダイブする毒島武子。
「よし、じゃあ早速、やってみろ。最初の下位職のクエストとは違って、敵は一体だけだ。まあ、少し強い相手だけど、こっちの装備なら大丈夫だ。ガンバレ」
「う、うむ、分かったっ。がんばるぞっ! 見ていてくれっ!」
《ブスジマタケコは》【剣豪】の職業クエストを受注する。ステーション内の施設、鍛錬場のジョブシミュレータを使用し、クエストが開始された。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
《ふむ、誰もいないぞ? 敵が出てくるんだよな?》
《ブスジマタケコ》は職業シミュレーター内のバトルフィールドに、ただ一人佇んていた。
《そうだ、いまデータ読み込み中かサーバーの応答が悪いのか……。よくわからん、とにかくそのうち出てくるから、チュートリアルの指示通りやれ》
《と、ところでな、新瀬よ……。その、この剣なんだが……》
《ん?課金武器がどうした?》
《いや、その……これ、な……他のに出来ないのか?わたしは日本刀がいいのだが? 片刃剣なのは分かるのだが、これはちょっとださ……》
レイジは一拍置くと、息を吸い込む。
《ゼータク言うんじゃねえええ! 贅沢は敵だ、まず不服を言いますまい! 欲しがりません勝つまでは! IGは130! Base.Lv1から115まで装備できる課金武器だぞ?! 最初から最強相当っぽい装備を使えるのに文句言うんじゃない!!!》
レイジに怒鳴られ、武子は少し涙声で遺憾の意を表明する。レイジは当然無視だ。
《あ、EFゲージ残量には気を付けろよ、多分スキルを使うことになるだろうしな、わかったな》
《え? えーてふぉー? なんだ? それは》
そろそろ敵が出現すると、レイジは忠告する。
すると《ブスジマタケコ》の前に黒い影が浮き上がった。その影は徐々に実体化していき、それは大きな黒い巨人となっていった。そして敵の全容が明らかになる。
それは悪魔だった。正確に述べると、身長は3メートルを超え、悪魔の姿を模したデザインであり、全身をSFチックな装甲や武装で構成され、それはまるでSFアクション映画に登場するロボットだった。
CULOは、RPGと呼ばれるジャンルにおいて、細かく分けた場合。SFファンタジーアクションRPGというジャンルであるというのが、公式の発表で明らかになっている。
CULOの舞台は、現在の地球よりも遥か未来。宇宙へと人類が進出し、ハビタブルゾーンに該当する未開の惑星を開拓している宇宙開拓時代。いわゆるSFチックな設定のMMORPGだ。
プレイヤーは新発見された【ΣEZ550C】とよばれる惑星へ降り立った開拓者となり、惑星調査を行っている【地球統合軍宇宙開発公団】のバックアップを受けながら、未開の惑星を冒険していく、という内容になっている。途中、トラドル銀河連合軍という敵側の勢力が、プレイヤーに接触してきて、敵対したり協力したりというイベントがあったりもする。
この悪魔の形状をしたロボットらしきものは、CULOの設定ではトラドル銀河連合軍が保有する装甲機動兵という設定であり。名称は、【オルタードデーモン】。
推定レベルは80。ベースレベルカンスト状態で課金装備をしている、《ブスジマタケコ》の敵では無かった。
《ブスジマ、来るぞ!》
レイジがボイスチャットを使用して注意を促した。
《よ、よし! 来いっ!》
【オルタードデーモン】が突撃してくる、右手から発生したレーザーブレードが紅緋に輝きながら、《ブスジマタケコ》に迫る。
オルタードデーモンの斬撃を最小限の動きで、当たるギリギリで躱す《ブスジマタケコ》と、同時に横薙ぎに剣を振るう。ダメージが入る。
《おお、スゴイな、初心者の動きと思えねえ!》
《なんの、振りが単調すぎて余裕で捌けるぞ》
武子は余裕そうだ。が、次の敵の攻撃に反応してしまったのがまずかった。
もう片方の腕からパイルバンカーが射出される。彼女の反応速度ならば、余裕で回避できたのだ。
だが、あえて捌くという行為に出た。わざわざ完全回避するまでもない、とばかりに攻撃を捌いて、相手の態勢を崩し、そこを斬る。高度な技だ。実際の剣術ならば、という条件がつくが。
武子はパイルバンカーの軌道を剣で捌こうとするが……。
《え?!》
ダメージ判定。パイルバンカーは武子が持っていた剣を透過し、彼女の左肩を貫通した。
《な、なにぃ?! あ、新瀬、これおかしいぞ?! 剣が透けた? 不良品?!》
《何やってる?! ゲームなんだぞ、実戦と違う。俺、言ったよね? 回避型と防御型のどっちにするかって。ちゃんと回避しろ。捌くというか、カウンター技はEFスキル扱いだ。剣を使うときは基本的に攻撃の時のみ。回避する時はしっかり回避するんだ。防御はPVP専用の動作であるというか……。まぁ、いい。とにかく捌いたりする動作は、ゲーム側が受け付けないんだよ! いいから回避、ちゃんと回避!》
《先にいってくれ! そういうことはっ》
レイジのアドバイスを聞いた武子はその後、相手の攻撃をしっかりと回避し、的確にダメージを与えていく。途中、チュートリアルの指示どおりEFスキルも使用し、発動方法も覚えたようだ。
武子はあっさりと、オルタードデーモンを倒し、転職クエストが終了する。EFスキルを使ったのはたった一度だけだった。通常攻撃のみで倒してしまったのだ。剣術をやっているからとはいえ、ここまでうまくやってのけるとは。
レイジは毒島武子を見直したのだった。
それから《ブスジマタケコ》はステーション内の施設、鍛錬場に戻って来た。
レイジはまた武子が座っている、リクライニングチェアの後ろにそっと近づき、SVRヘッドギアの後頭部に位置する、強制解除スイッチを押す。これで安全にSVRヘッドギアを装着者から、外すことができるようになった。
しまった、CULOのメインメニューの項目にある、システム項目からログアウトさせたほうが、良かったのではないか。そうレイジは思ったが、面倒なのであとで教えることにする。どうせまたログインするのだから。
武子は『ふう……なかなか面白かった』と、ご機嫌だった。
レイジが武子に声をかける。
「よかったぞ。ときに毒島、そろそろ集合の時間だ。俺たちの【ギルド】が所有する【ギルド拠点】へ行くぞ」
毒島に転移機能を使って、ステーション内の広場へ行くよう指示する。待ち合わせにはよく使われる場所だ。ギルド拠点へは、広場にあるワープ中継器を使わないといけなかった。不便だが、やむを得ない。
ステーションとはCULOの設定では、開拓者と呼ばれるプレイヤーたちを支援する【地球統合軍宇宙開発公団】が建造した、一大拠点施設である。プレイヤーたちは、序盤からその先までずっとお世話になる施設だった。
レイジは早速準備を始める。
SVRヘッドギアを装着すると、ログインIDとログインパスを要求される。IDとログインパスを入力。IDもパスも記憶していた。
莉亜は既にログイン済みだ。
レイジはログインする。
視界に広がる光、おそらく脳のスキャンを開始しているのだろう。この時、僅かながら頭が重くなる感覚があるが、すぐに収まった。ログインの際は、スキャン状態になるとこういう感覚になる。
勿論、最初だけである。あとは、何の違和感もなく遊べるのだ。
レイジのプレイヤーキャラクターが拠点の広場に出現する。広場はログインした場合、最初の出現位置になるのだ。毒島のIDを入力、ボイスチャットに誘う。
どうやら、桜野から既にギルドへの招待を送られていたらしく、既にレイジたちのギルド拠点にワープできる状態にあるらしい。
そろそろ時間だ。毒島に指示を伝えた後、レイジは拠点へとワープする。
かのギルドメンバーが、もうすぐ結集する時間だった。
新瀬零司(17) 主人公。武子に投げられ叩きつけられ、危うくまた転生しかけるところだった。
新瀬莉亜(14) もはや、兄に疑われることはない。兄を意のままに動かす特殊能力を持っているようないないような。
毒島武子(16) 成人男子が一回転する程の投げ技を使える。ぎりぎり理性があれば手加減可。好きな男の子に嫌われないよう家名にかけて頑張るらしい