第64話 エルメリアへの報告1 -side莉亜
すみません、出来上がっていないものを誤ってアップロードしてしまいました。修正してもう一度アップロード致します。申し訳ありませんでした。
「まさか、この歳で魔法少女に変身したいという願望が叶うなんて…… いや、ビーストテイマーだけどさ」
再びリア・ニゴレイアルとなった身体のところどころを確かめながら、あたしはひとり呟く。
あたしは幼稚園の頃、“窓ふきまほう使いマギマドカ”にメチャメチャハマっていた。たしか世界中の人々の心の窓を汚そうと企む“ケガレソサエティ”と対決していく魔法少女、というストーリーのアニメだったような気がする。
可愛い園児だった頃のあたしの夢は、窓ふきまほう使いマギマドカの主人公“窓際麻都香”になることだった。
「マドギワオサラバマドギワオサラバエイテンシターイ! こんなカンジだったっけ?」
マギマドカの変身セリフをつい口走ってしまうあたし。
いったい何を言っているのかだって? それはほんのちょっと前にさかのぼるんだけどさ。
あたしは新瀬莉亜からCULOのアバター【リア・ニゴレイアル】になる方法を、武子ちゃんと一緒にイロイロ試していたんだ。
何気に後頭部に触れた時、金属のような小さな突起があることに気付いたんだよね。で、その突起に触れたら視界の左下に〚 Armament __OFF 〛と表示されている文字がピカピカ点灯していたんだ。
『あーまめんと? おふ? なにこれ? ああ、そういえばリア・ニゴレイアルだったときは“ Armament __ON ”と表示され……』
そんなことを呟いたとき、すっごい光が目の前いっぱいに広がったと思ったら、あたしは“リア・ニゴレイアル”に戻っていた。
そしてあたしはあることに気付いたんだ。うん、そうだよ。台詞を言ったら光をまとって別の人物に変身する。
これって昔あたしが見た魔法少女アニメそっくりのシークエンスだよね?
状況から察するに、どうやら、“ Armament __ON ”と言ったらアバターに変化するみたいだけど……。
むむむ、ビジュアル的にはカッコよくても“あーまめんと、おん”って言って変身するのはイマイチカッコよくないなあ。変身セリフがイヤ。
あたし的には“超絶美少女戦士リアちゃんメイクアーップ!”とか叫んで変身したいところなんだけどなあ。
「えっへっへ、どうよ、武子ちゃん? アバターに戻る方法。あたし見つけ出したぜ。アタマの後ろの突起を触ったあと“あーまめんと、おん”って言えば魔法少女みたいに変身しちゃうみたいね」
武子ちゃんは呆気にとられた顔をしていた。そしてひとこと。
「なんと奇怪な。非現実的にもほどがある……」
武子ちゃんは腕を組み、とても難しい顔をしていた。まあ、気持ちは分かるけどね。でもしょーがないよ、あたしたちにもどうしてこんな事になったか分からないんだし。どうしてこういう事ができるのか? なんて考えたってしょーがないよね。前向きにいこー。
とにかくアバターの身体に戻る方法が分かったのは幸いだったよね。戻れなかったら、アンナさん達に『ダレ? アンタ?』とか言われてこの部屋から追い出されるだろうし、それは勘弁だよー。
「ペイッ! ペイペイッペイッ!!!」
≪ リア! 何処に行っていたの?! あツし、リアがいきなり消えちゃって不安だったヨ!!! ≫
ユージィがヒョコヒョコと急ぎ足で寄ってくる。
あたしが元の姿に戻ったことは、ユージィにしてみれば“リア・ニゴレイアル”が消えたことになるってことなのかな?
「ユージィ、あたしが消えたあと、黒髪の女の子が出てきたでしょ? あの子もあたしだからね、ちゃんと覚えておいてね」
「ペイ? ペイペイッ?」
≪ え? それってどういうこト? ≫
ユージィはイマイチわかっていないようだ。あたしは強く言い含めておくことにする。
「とにかくさ、あの子もあたし、リア・ニゴレイアルだからさっ! ユージィ、仲良くしてあげてよっ! 言葉が通じなくてもさっ。お願いね!」
「ペイ? ペイィィッ……」
ユージィはしぶしぶ了解してくれたみたい。うんうん、やっぱいいコだね。
さて、あとは武子ちゃんだけど……。
「武子ちゃん、あたしがやったみたいにアタマの後ろの突起に触れて『あーまめんと、おん』って言ってみなよ。“ブスジマタケコ”のアバターに戻れるよ」
「やだやだやだやだ! “アレ”になっちゃったら“空名”が無くなっちゃう! だからヤダっ!」
くうめい? ああ、その御神刀の名前か。
Iカップのデカパイを揺らして、子供のように駄々をこねる武子ちゃん。ちょっとぉ~ その態度はどうかと思うよぉ~
「武子ちゃん、子供じゃあるまいし……」
「いやだっ!」
武子ちゃんは刀を抱きしめたままうずくまってしまった。侍JKとは思えない可愛さだとは思うけど…… このままではマズイよお、武子ちゃんだけ青空の下ひとりで野宿だよ?
「あ、そうだ。そうだよ! こうすればいいじゃん!」
あたしは妙案を思いつく。いや、武子ちゃんでも誰でも思いつくことなんだけど、こんな取り乱した状態じゃ無理か。
「武子ちゃん、あたしにその刀を渡せばいいじゃん? それからアバターに変身しなよ。そうすればアバターになってもその“空名”といっしょだよ?」
「……ふぇ?」
「さあ、武子ちゃん~ あたしにその“空名”ちゃんをよこしなさい~ イヒヒ~」
あたしはニンマリと笑うと、武子ちゃんに近づいていった。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
アスターシャを統治する、カスパート公爵の居城“アルスタヒア”白を基調とした外壁が美しい荘厳な城だ。
今から280年前に築城され、幾度にもわたる改修工事を行った結果、築城当初よりも大きな城となった。ドルフィーラ地方一帯に存在する城の中で、アルスタヒア城は最も大きな城である。
そのアルスタヒア城の一画にある応接間で、冒険者チーム“ルルエラの剣”のリーダー、ジャック・メンフィスはバジリスク討伐の成果である“バジリスクの肝”をテーブルの上に差し出した。
「エルメリア様、これがバジリスクの肝…… いや、“バジリスクの核”です。どうぞお納めください」
「まあ、これが…… これほどの大きさの核は初めて見ました。よほど大きな個体だったのでしょうね」
バジリスクの肝の中には“核”とよばれる赤褐色の物質が存在する。この“核”と呼ばれる物質はあらゆる病魔を癒す万能薬の素材になると言われており、また仙晶石と合成することにより強力な武具を作成することができる。
以上の理由から、バジリスクの核は非常に希少な素材であり、それこそ手に入れればひと財産になるのは頷ける。
また、その希少性から、肝の中に核があることを知るものは少ない。ただでさえバジリスクは全身が様々な素材として使われるが、本当に価値があるのが肝であることはあまり知られていない。意図的に情報を隠している者たちがいるのだ。
「まさに規格外の相手でした。ひょっとすると、あれが噂に聞く凶獣が更なる変化を遂げた先にあると言われている“狂獣”なのかもしれません」
「“狂獣”……ですって?! それほどの存在を相手になさったなんて…… ルルエラの剣の皆様には心より感謝を申し上げます」
ジャックは違和感を感じた。まだ、“黒の双剣”がやらかした失態について、何も語ってはいないのだ。この場合、彼らも含めて感謝を述べるものだと思ったのだ。
カスパート家の長女、公爵令嬢であるエルメリア・シィル・カスパートは軽く頭を下げて礼を述べると、テーブルの上に置かれたものを手繰り寄せる。それは幾重の油紙に包まれており、厳重に鍵付きの宝箱に入れてあった。
ジャックはエルメリアに宝箱の鍵を合わせて渡す。
エルメリアは鍵を受け取ると、あえて中身の確認をするような真似はしなかった。冒険者パーティ“ルルエラの剣”を信用しているのだ。
エルメリアはジャックに向き直ると、彼に言葉をかける。
「それにしても、本当に大変でしたね。たった4人でバジリスクと戦うなんて」
「え? 何故それを?!」
ジャックは思わず声がうわずってしまう。当然だ、その事実を知っているのは、あの場にいた者だけなのだから。
「先刻“黒の双剣”の方々が、わたくしが貸与した馬を返しに来られたのです。そしてわたくしに経過を伝えてくださったのです。彼らは任務中、恐怖のあまり“ルルエラの剣”の皆様を置いて逃走したことを、心よりお詫び申し上げておりました」
「そう、でしたか…… して、エルメリア様は彼ら“黒の双剣”にどのような沙汰を下すおつもりでしょうか?」
「沙汰ですか…… そうですね、今回の件をギルドに報告するつもりはありません。今回は情報が漏れることを踏まえ、準備期間が短い条件で皆様に指名依頼してしまいました。報酬はそのまま、お支払いいたします」
バジリスクは非常に危険度の高い凶獣だが、同時にきわめて希少な素材が取れることでも知られる。
今回はエルメリアが最も早く情報を入手した形となったが、時間の経過とともに他の冒険者や他のギルドなどにも知られてしまうだろう。
そのため、早い段階でエルメリアの息がかかった彼らに討伐させる必要があったのだ。
どうしても冒険者は規定上、ギルドを通さないと仕事を受けてはいけないことになっている。
そこで事前にエルメリアと繋がりのある“ルルエラの剣”に情報を伝え準備を行っておき、エルメリアがギルドに指名依頼をしたのち即時に依頼を受注し行動する。これで情報漏えいを少なくすることができたのだ。
「そんな?! 何も罰を与えないなど……」
冒険者ギルドの規定として、護衛任務において依頼人を置き去りにして逃げたり、凶獣などとの戦闘中に故意に一般民衆を犠牲にするなどの非人道的な行為に及んだりした場合、査問会議に処されたのちギルドから登録抹消されることになっている。もちろん、非人道的な行為を行ったと証明するだけの証拠が必要になるが。
「ギルドに報告して、余計なトラブルへ繋がることは避けたいと思いました」
「そんな、それではあまりにも!」
「いいえ、全員無事に戻ってきたのです。必要以上に追い詰めては更なる凶事を引き起こすことになるのです」
事実、過去に登録抹消された冒険者が恨みを抱いて凶行に及んだ例はある。登録抹消された冒険者が野盗や盗賊へ鞍替えしたり、裏ギルドに身を置きウェットワーカーとなる例は後を絶たない。
「エルメリア様はお優しすぎる! 罰を与えることで冒険者たちの規律が正されるのですよ!」
エルメリアは無言で首を振ると、ジャックを見つめ口を開いた。美しいブルーの瞳に見つめられ、ジャックは思わず狼狽しそうになる。
「彼らは分かってくれたみたいですよ? 彼らの報告を聞いた後、わたくしがギルドへ報告しないと伝えると、リーダーの方はおっしゃいました『今日中に“黒の双剣”を解散し、パーティメンバー全員がギルドに退会届けを提出する』と。そしていずれ再起を果たした後、改めて皆様の前に謝罪に訪れるとおっしゃっておりました」
ジャックは口から出掛かった言葉を飲み込んだ。納得はいかなかったが、エルメリアがそう言うのだからやむを得なかった。
ウォールナットの高級木材を使用して作られたテーブルを挟んで、ソファーに座るエルメリアは才気煥発としていて、美しさと優雅さを持った女性だが、派手な装いをしているわけではない。優れた己の能力をひけらかすことは決してなく、どんな相手にも慈愛を持って接することのできる人物だった。
民草の中にはそんなエルメリアを指し、“聖女”と呼び敬愛するものは多い。
エルメリアは続けてジャックに語りかける。
「ジャックさん、わたくしは許すという行為は非常に難しいことだと思っております。自身が受けた痛みが大きければ大きいほど、それは困難であると。それは自身にとってなんら利益があるわけではないのですから。
それでも思うのです、許すことで許した者の心はより大きく成長できるのではと。人として感情を抑えきれない状況に直面したとき、人は試されるのです。これは皆様に訪れた試練として、皆様には今回の件を考えてほしいのです」
正直な話“黒の双剣”が、すぐに謝罪に来ないことにジャックは怒りを覚えた。だが、一度心を静め、考えてみると得心がいかないわけでもなかった。
“黒の双剣”はアスターシャでも数少ない上位クラスの冒険者パーティの一つだ。その“黒の双剣”が、規格外の凶獣を前にして、我先にとルルエラの剣を置いて逃げてしまったことは、彼らにとって恥辱の極みであろう。
おそらく彼らは他の領地、もしくは他の地方へと行って一からやり直すつもりなのだ。第一、“黒の双剣”だけを責めるわけにはいかないだろう。
バジリスクの予想外の強さを目の当たりにして、自分たちだって逃げたのだから。
それにしても、エルメリアの慈悲深さにジャックは敬服していた。無制限に許すわけではなく、きちんと状況を見た上で判断を下しているのだ。
本来ならば、“黒の双剣”も言いがかりをつける事はできたはずである。だが、エルメリアの慈愛に触れて、自らを律したのだろう。
エルメリアが信頼するルルエラの剣をおとりに使ったと聞いても、このような判断を下した事にジャックはエルメリアに対し、心から頭が下がる思いだった。ジャックたちがアスターシャ入りした時点で、間諜を通じてエルメリアがジャックたち“ルルエラの剣”の無事を知っていたとしてもだ。
「……わかりました。エルメリア様の決定に従いましょう、異論はございません。ときに話は変わりますが、既にエルメリア様にある程度ご承知であるならば話は早い。実は今回の仕事のことでお知らせしたいことがあったのです。“黒の双剣”が知らないであろう、その先の顛末を」
「それはどういったことでしょうか?」
「実は…… その……バジリスクを倒したのは我々“ルルエラの剣”ではないのです……」
「ヘ? え、ええ?!」
エルメリアはピンク色の口紅に彩られた艶のある唇をポカンと開け、思わず呆然としてしまったのだった。




