第62話 宿屋で…… -side莉亜
昨日、初めて感想を頂きました。とても嬉しかったです。ブックマークしてくださった方々の為にも、これからも頑張って執筆していきたいと思います。
どうか宜しくお願いいたします。
――乙女の祈り亭
元・冒険者だった亭主が開業した、わりと高級な宿屋だ。
アンナさんが用意してくれたのは2人部屋だ。宿泊料が高いだけあって、外観、内装ともにセンスが良い。
部屋に案内してくれた従業員のお姉さん曰く、高級木材をふんだんに使用して作られた室内、品の良い調度品、高価な繊維を用いた寝具など、宿泊客に充足感を与えるには十分な作りの部屋だった。
あ、このランプ、すっごい素敵♪ いわゆる北欧スタイルってやつ? おお~ このテーブル、すっごくオッシャレー! 三面鏡のドレッサーまであるじゃん! はぁ~ こんな部屋に泊まれるなんてっ……。
アンナさん、マジでありがとう~
あたしはお金を出してくれたアンナさんたちに感謝する。
「いや~ いい部屋だよねっ。ユージィ、タケコちゃんもそう思うでしょ?」
「ペイッ」
≪この部屋あツしも気に入ったゼ≫
右のフリッパーを挙げて答えるユージィ。物珍しいのか、ひょこひょこと歩き室内を見回っている。かわいい。
「ああ…… そう、だね……」
ユージィは気に入ったみたい。でも、武子ちゃんの反応は悪い。いったいどうしたのかな?
「タケコちゃん。どうしたの? この世界に来てからずっと様子がおかしいよ? 何かあった?」
武子ちゃんはベッドの縁に腰掛けたまま、まるで動く様子もない。そして深く落ち込んだように、彼女の表情は暗かった。『毒島家の女子たるもの気概を示さねばな。うむ!』とか決意表明してたのに、あれは一体なんだったのよ。
「タケコちゃん? どうしたの? なんかイヤなことでもあった?」
「リアちゃんは凄いな…… こんな状況でも自分を見失わないとか…… 私はダメだ! 刀を…… 家宝の御神刀が手元に無いだけで…… こんなにも私は……」
あ、落ち込んでいたのは、いつも携帯してる御神刀が無いからなのね。たしかに、武子ちゃんって常に本革製の竹刀袋に入れて持ち歩いていたからなぁ。
「あ、でもさぁ~ 体育とか朝礼とかさ。そういう時は御神刀から離れているでしょ? 中等部の校舎から御神刀もってないタケコちゃんの姿見たことあるよ」
「ああ、2、3時間くらいなら御神刀から離れても自分を保てるのだ。それ以上になると行動力が低下する……」
「タケコちゃんは充電式かよっ! 2、3時間しかもたないとか、どれだけ燃費わるいのさっ」
思わずツッコんでしまう美少女すぎるあたし。あたしのツッコミにも反応がないまま、武子ちゃんはヨロヨロとベッドに横たわる。そして微動だにしなくなる……。
「あ~あ、あたしよりお姉さんなのにだらしないなあ…… そんなんじゃ、れーにぃに会えないよ?」
武子ちゃんの体がビクッと動く。れーにぃと聞いて反応したのかな? カワイイのう。
「さて、人目につかない状況も作れたし、やりたかったことをやりますかね!」
ああ、べつに人目につかない状況だからってイヤらしいことをするワケじゃないよ? あたしの今の身体、アバターに関することで試したいコトがあるのさっ。
「ペイッ?」
あたしは視界内の上に羅列されたメニューバーから【システム】の項目を選ぶ。ポップアップメニューからシステムログアウトの項目を開くと、中央に警告メッセージが表示される。
≪ ARMAMENTを解除します。よろしいですか? YES/NO ≫
荒野からアスターシャへの移動中に、試しにやってみたらこんな表示が出たんだ。アーマメント? ナニソレって感じだけど、アンナさんの前でやってしまうのは何かマズイと感じてやらなかったんだよね。
「ん~ 本来ならCULOからログアウトするための項目なんだけど…… この操作をやった途端、ウチのリビングに戻ったら笑っちゃうんだけどね。まあ、いいや、えいっ!」
あたしはYESを選択する。
即座に全身から光の粒子が発生し、蒸発するかのように立ち昇っていく。いままでCULOを終了する際、数えきれないほど体験したログアウト演出エフェクトだ。
そして閃光が走ると同時に光が消失する。
そこにいたはずのビーストテイマー【リア・ニゴレイアル】の姿は見当たらなかった。いるのは【リア・ニゴレイアル】の中身である14歳の中学生、新瀬莉亜だ。
「お、お? あたしに戻ってるじゃん?! いぇい! 超絶美少女中学生! 新瀬莉亜ちゃんのご帰還だぜい~」
あたしは軽く自分の身体を見回してみる。うん、ちゃんとあたしになってるね。中等部指定の制服である白のブラウスに紺色のスカート。ああ、ブレザーは着てなかったんだ。
念のため、部屋に備え付けられているドレッサーの前に立ち、入念に身体をチェック。見たところおかしな所は見当たらなかった。カワイイを具現化したような顔立ちに、小柄だけどモデルとしてスカウトされちゃうほどの長い手足の肢体。とっ…… 歳の割には…… ふ、膨らみの少ない胸……。
う、うん。たしかにあたしだね。そうだ、間違いなく新瀬莉亜だ。
「ふ、ふん…… ママは大きいワケだし、い、いずれ大きくなるんだから」
望みがある以上、将来に期待しよう。あたしは武子ちゃんとユージィに呼びかける。
「ふたりともっ、ホラ、見て! ちゃんと元に戻れたよっ!」
「あ、そう…… よかった、ね……」
武子ちゃんは、まるで電池の切れかかった電動人形みたいになっていた。たかが日本刀が無いだけで何故そうなるよ!
「ペイッ? ペイイィ?」
「あ、しまった! ユージィの言っているコトわかんないや!」
それだけじゃない、ユージィはあたしのことが分からないみたいだ。考えてみれば当然だ、光に包まれたと思ったら、急にリア・ニゴレイアルが消えちゃって別の人間が出てきたんだから。
「ペイィ…… ペイィィ……」
ユージィは警戒しているみたい。部屋の隅に行き背中を壁に当てて、こちらを睨んでいるように見える。ユージィ悲しいよ、あたし。
でも、まあいいや。きっとそのうち分かってくれるよね? うんうん、きっとそうだよ。
「はあ、なんだかな~ 莉亜ちゃんに戻ったら疲れがどっと出たよぉ~」
あたしはベッドに倒れ込んだ。ああ~ すっごいふかふか、これはいいね~ 流石高級宿。改めてアンナさん、サンキューです。
ん~ それにしてもなんか眠くなってきたなぁ、このまま寝ちゃおうか。まだ陽は明るいけど、夕方までは時間ありそうだし……。
そのときだ、あたしの脳裏にあることが浮かぶ。
何気にスカートのポケットに手を入れるとハンカチが入っていた。これはあたしが普段から使っているお気に入りのひとつだ。これでますます好奇心が刺激されてくる。
CULOのアバターの中身があたしなのはともかく、身に着けていた服もそのままだった。と、いうことは? あたしだけじゃなく、身に着けていたものはすべてアバターの中に入っているということになる。
あたしの記憶が確かならば…… 武子ちゃんはCULOをプレイしている間、ずっと毒島家の家宝であり、次期継承者の証である御神刀を手にしていたハズ。そのほうが落ち着くという理由でだ。
だったら、現在の武子ちゃんの状態である【ブスジマ・タケコ】を解除して、中身である“毒島武子”に戻ったら御神刀が手に入るかも? そうすれば落ち込みダウン状態の武子ちゃんも完全回復するんじゃ?!
あたしは飛び起きると、となりのベッドに寝ている武子ちゃんに急いで駆け寄る。
「武子ちゃん! 武子ちゃん! 朗報ですよ!」
「ん…… なに……? リアちゃん、私なんかやる気が出なくて……」
「ふっふふ、武子ちゃんの大事なモノを取り戻してあげましょう」
「え? あ、あの……」
あたしはニンマリと笑うと、武子ちゃんに近づいていった。




