第61話 冒険者ギルド2 -side莉亜
「ァッたまきたぁぁぁッ!!!」
“怒り心頭に発する”とはこういう事を言うんだろーね!
あ、そだ。何かの世論調査で7割近い人たちが“怒り心頭に達する”だと勘違いしているとか。
ん? いやいや! そんなことどーでもいいっしょ! 超ムカついたせいでワケわかんないコト考えてしまう、美少女すぎるあたし。
「ちょっと、デカイおっさん! あたしの相棒に何してくれてんのよ?!」
「ああ? 出入口の前を畜生ごときが邪魔していたから蹴り飛ばしただけだぜ? 何が問題なんだ?」
「よけるか何か言えば済むことじゃない! 蹴るとかフツーありえないんですケドお!!」
「この俺がいちいち、よわっちいのに伺いを立てるワケねえだろうがァッ!? ああ?!」
ムキムキマッチョの素肌の上に胸だけ守る鎧をつけたオッサンが、偉そうにあたしたちを見下ろしながら怒鳴り散らしてくる。ムカつく!
周囲には騒ぎを聞きつけたのか、人が集まってきた。たぶん、みんな冒険者だろうね。一体何事かと、興味津々といった目で見ている人もいる。
武子ちゃんはというと、オロオロ、オタオタとしていた。この状況をどうすればいいかわからないみたいだ。でも、黙っているワケにもいかなかったらしく、恐る恐る口を開く。
「ふっ、ふたりともっ! 人の目もあることだし、とりあえず冷静になって……」
あたしは武子ちゃんを遮り、マッチョなオッサンに謝罪を要求する。
「タケコちゃんは黙ってて! あやまりなさいよ! あやまりなさい! カワイイの頂点たるペンギン様にあやまりなさい!!!」
「ぺんぎん? ああ?! あの飛んで行った畜生のことかぁっ?! この金級冒険者、“ゴルドノ・ゴルドン”様が畜生ごときに何故ワビなきゃならんのだっ?!」
金級冒険者? 金? なんかスゴそうだけど。
「は? ねえ、オッサン、金級冒険者ってスゴいの?」
「ふふん! 金級ってのはなあ! 帝国に属する冒険者全体で3割しかいないのだぜえ?! このゴルドノ・ゴルドン様はその3割しかいない金級冒険者(最近なったばかり)なんだぞおっ?! スゴいに決まっているだろうっ!?」
ゴルドノ…… えっとなんだっけ? ゴルゴル? まあいいや、ゴルゴルはスゴいらしい。ただ、あくまで自己申告のため、他の人にも訊いてみることにする。れーにぃ曰く『人のいう事をうのみにするな。何かを知り得たら、他の情報とすり合わせろ』とか言ってたしぃ。
丁度、近くにメガネをかけた、法衣姿の神官ぽいお兄さんがいたので訊いてみる。
「ねえねえ、おにーさん。金級冒険者って全体の3割しかいないってホント?」
急に話しかけられ、オドオドするおにーさん。あっ、これはあれだね? 美少女すぎるあたしに声をかけられたからドギマギ中だなっ? オイオイ、そんなに照れなくてもいいんだぜっ。
「えっ?! え、えっと…… い、以前見た冒険者向け広報誌によると、たしか4割近くに達する見込みだという記事があったような……」
「3割じゃないじゃん?! フカしたなっ?!」
マッチョゴルゴルは気まずそうな顔を一瞬だけすると、それを振り払うかのように再び怒りを露わにする。
「う、うるさい! 3割強だ! とにかく俺はスゴいんだっ! わかったか小娘ぇっ!」
「ペイイッ!」
可愛い鳴き声とともに、あたしの相棒ユージィがくるくると宙を回転しながら飛んでくる。そして見事に着地。うん! 9.90!ユージィ選手! 世界新記録です!
いや、ボケている場合じゃないや。あたしはユージィに駆け寄りその場にしゃがみ込む。
「ユージィ! 大丈夫?! ケガはない?!」
あたしはユージィの身体のあちこちに触れ、何処かケガが無いか見回した。するとユージィは何ごともなかったかのように言いのける。
「ペイッ、ペイッペイッ」
「えっ? 全然効いていないって? あんなのより、惑星蚊に刺されるほうが効くって? あはは、ゴルゴル全然ダメってことじゃーん」
ユージィはノーダメージだってさ、よかった。だからといって、あたしの怒りは収まらない! ちゃんと謝ってもらわないと!
「ちょっとゴルゴルサン、ユージィに謝ってよ。幸いケガが無かったみたいだから、謝るだけで許してあげるからさ」
「ちょっと待てい! ゴルゴルサンとは何のことだっ!? 人を変な名前で呼ぶんじゃねえっ!」
うー ゴルゴルサンはお気に召さないらしい。いやー 結構、呼びやすくていいと思うんだけど?
「え? ゴル……なんとかっていう名前プラス、オッサンを合わせたんだけど? 呼びやすいしょ? ねっ? ユージィもそう思うっしょ?」
「ペイッ」
「ホラ、ユージィもそう思うってさ。わかった? ゴルゴルサン」
「ば、ば、ば、バカにしやがって! 小娘がぁっ!」
ゴルゴルサンはあたしに攻撃するかと思いきや、再びユージィを蹴り飛ばそうとする。あたしは反射的に横にいるユージィに覆いかぶさり、ユージィを守る。
「ば、バカがっ!」
蹴りの勢いは止まらなかったらしく、ゴルゴルサンの蹴りはあたしの側頭をとらえ、そのまま蹴り上げられたあたしは、弾き飛ばされたかのように床に転がった。
「ペ、ペイッ?! ペイッィィ!!!」
「り、リアちゃん?!」
ユージィと武子ちゃんは、あたしに駆け寄ると心配そうな顔であたしの顔を覗き込む。
「だっ、大丈夫かっ?! リアちゃん?! ケガはっ?! いや、頭を蹴られた以上、安静にしてそのまま寝ていてくれっ! 今すぐ医者をっ!!!」
武子ちゃんは今にも飛び出していきそうなカンジだ。
「ペイッ! ペイッ! ペイペイペイッ!!!」
ユージィも両手? のフリッパーをぱたぱたと動かし、心配しまくりで慌てている。だいじょーぶダイジョーブ、心配ないって。
ふたりの心配をよそに、あたしは何事も無かったかのように立ち上がると、パンパンと両手で身体についたホコリを払う。
「うーん? なんか、全然痛くないや。ゴルゴルサン、意外に大したことないとか?」
それを聞いたゴルゴルサン。おお、まるでゆでダコみたいに顔が真っ赤だ。あたし、正直に言っただけなんだけどなぁ。
「きっ! き、き、き、きっさまぁぁ!!!」
ゴルゴルサンは怒りのあまり、あたしに対して拳を振り上げようとしているみたい。うわあ、やだ、コワイじゃん。
「何をしているの」
一瞬、周りの空気が止まった気がした。アンナさんだった。え? 一体いつのまに? 気付けば、周囲のざわつきもウソのように静まりかえっていた。
原因はアンナさんだ。
アンナさんの存在に、あたしも含めて周囲は気圧されていた。さっきまでのアンナさんとは完全に別人だ。無表情なのに、メチャメチャ怖い! なんなのコレ?
気のせいかもしれないけど、アンナさんの身体から何かが発生している気がする。それが周りをビビらせているような……。
「あなた、何をしているの? その娘何か用かしら? 私の身内なのだけど」
誰かのヒソヒソ話が聞こえてくる……。
「おい、あの人、たしか“金剛級”冒険者のアンナ・ハーヴェイだよな?」
「マジかよ、初めて見たぜ…… あの若さで金剛とはよぉ、しかも結構美人だな……」
「うへぇ、あの娘、アンナ・ハーヴェイの身内かよ。ゴルドンのやつ、終わったな」
なるほどなるほど、アンナさんってスゴイひとなんだね。あれ? そんな人を助けたあたしたちって結構スゴイ? いやいや、助けたのはユージィじゃん。つまり、ユージィはスッゴイ偉いってこと!
「すっ! すまん! カンベンしてくれ! あんたの身内とは知らなかったんだ!」
ゴルゴルサンは平謝り状態だ。でも謝るならユージィに謝りなさいよね。
「悪かったっ! カンベンしてくれえ! すまねえっ! すまねえええええっ!!!」
謝りながら、ゴルゴルサンは一目散に逃げてしまった。
まるでキャンキャンと泣きわめく子犬みたいに逃げちゃったよ。アンナさん、スッゴイ。
「ありがとうアンナさん。助かっちゃった。ホントにありがとう!」
「か、かたじけないっ」
「ペイペイッ」
あたしと武子ちゃんはペコッと頭を下げてお礼を言った。ユージィは左のフリッパーを挙げて『おう、ネエちゃんありがとうよ』と、これまた男前な礼だった。
「リアちゃん、大丈夫? 頭を蹴られたみたいだけど? ジャックに見せようか? あいつ法術師だから」
あらま、てっきりアンナさんが回復系かと思ったら、リーダーのジャックさんがそうだとは! 珍しいよね、じゃあアンアさんはどんな職業なのかな?
「いやー ホント大したことなかったよー ぜんぜん大丈夫だよっ! ホラ!」
あたしはその場でクルクルと回る。まるでなんともない事をアピールしちゃうぜ! 超絶美少女リア・ニゴレイアルちゃん14歳! てへるるっ♪
可愛くウィンクしながら、舌をチョットだけ出す仕草をしちゃうあたし。あ、ヤベッ! 調子に乗りすぎたっ! あたしったら、ちょっとイタい娘になってたような…… この世界に来てからというもの、あたしなんかオカシイよね? 気づかないうちに、テンションアゲアゲになってるのかな?
アンナさんは無表情だった顔が崩れたとたん、吹き出すように笑いだす。どうやら我慢できなかったみたい。
「プッ! アハハハッ! り、リアちゃんって、ほ、本当に面白い娘ね! はぁぁぁ…… 面白いなあ、フフッ」
アンナさんは晴れやかな顔をしていた。何がそんなに面白かったのかは知らないけど、喜んでくれたのならば幸いだね。アンナさんはいったん咳ばらいをすると、にこやかに話しかけてくる。
「リアちゃん、ごめんね。冒険者が皆、ああいう輩なわけじゃないから、誤解しないでね。でも、本当に大丈夫?」
アンナさんは必要以上に気遣ってくれる。あたしは自分が無事であることを丁寧に伝えると、アンナさんは納得してくれた。
「そういえばアンナさん。用事は済んだの?」
「え? ええ…… もう大丈夫よ……。 ところで話は変わるけど、今日泊まるところはどうするの? たしか、お金持っていないと言っていたけれど?」
そうだった! あたしたち一文無しなんだ! CULOのお金は電子マネーという設定だし、この世界って電子マネー使えるのかな? あたしは試しにアンナさんに訊いてみる。
「あの、アンナさん。お金の代わりに、電子マネーって使えるかな?」
「でんしまねー? なに? それ?」
あっ、ですよねー そんな都合のいいことありませんよねー クッソ、CULOの電子マネーなら30億以上あるのになあ。残念。
仕方ないので、あたしは先ほどの宿泊先の件に話を戻す。
「泊まるところ、決まってないです…… うわー どうしよう! あたしみたいな空前絶後のォッ! か弱い超絶美少女がッ! 野宿なんてェッ! ムリムリムリー あーん! ユージィ! どうすればいいのォォッ!」
あたしは、ひしっ! とばかりにユージィにしがみつく。
「ペイィ……」
「り、リアちゃん……」
ユージィと武子ちゃんはあきれ顔をしながら、可哀想なものを見る目をあたしに向けている。もちろん、自分でもイタいと思ったし、アホだとも思ったが、野宿だけはイヤなんだっ! ここは可哀想な美少女っぷりをアピールして、アンナさんに何とかしてもらおう! そんなずうずうしい思いを抱く、美少女すぎるあたし。
そんな状況に、アンナさんは一度、咳払いをして姿勢を正す。そして彼女は、あたしたちに朗報をもたらしてくれたんだ。
「えっとね。助けてもらったお礼をしたいのだけど。私の泊まっている宿でよければ、どうかな? もちろん、宿泊費はこっちで持つから」
あたしの願いが通じたのか、アンナさんは素晴らしい提案をしてくれた。ああ、超ステキ! アンナお姉さまっ!
あたしは自分の美少女っぷりと、普段の行いの良さを神様に感謝することにした。




