第59話 質問 -side莉亜
「ペイッ、ペイッ、ペイッ♪」
あたしたちは、それぞれ馬に乗せて貰っていた。武子ちゃんはジャックさんの馬に。あたしとユージィはアンナさんの馬だ。
ユージィは馬に乗ったのは初めてらしく、とってもご機嫌みたい。
「ユージィ、よかったね~ 楽しい~?」
「ペイッ♪」
しゅた! と右のフリッパーを挙げて答えるユージィ。
馬に乗るペンギン…… シュールだなあ。
「あの、リアちゃん。リアちゃんたちって…… いえ、その……。 あ、そうね、リアちゃんは“獣使い”なの?」
この世界には獣使いという職業があるらしい。あたしのコトをアンナさんはそう思っているということね。
否定したら面倒なことになるのかな? あたしはそうだと答えるコトにする。ウソをついているワケではないよね。いちおう【ビーストテイマー】なワケだし。
ん~ アンナさんたちって、あたしたちのコトを不審に思っているのかな? 本当は別のコトを聞きたそうだったし。
まあ、不審者だよねえ。特にあたし、美少女すぎるもんね♪
「あ、うん。そんなカンジ…… かな」
無意識のうちに隠そうとしていたのかな? なんとなくハッキリしない言い方をしちゃった。
アンナさんは少し無言になった後、気を取り直したように言葉を返す。
「あっ、その、ごめんね? なんか探るような言い方だったよね。助けてもらったのに失礼だよね、ホントごめんね。リアちゃんの使役する獣…… えっと、ユージィちゃんだっけ? 一撃でバジリスクを倒しちゃう程だったから、ああその、それだけじゃなく! どうしても訊きたくなるというか…… その……」
「え、えっと? 別にいいですよ、なんていうか、あたしたちやっぱり変にみえるだろうし。えっとぉ~ あんまり話せないのは事実なんですけどぉ。とにかく悪いコじゃないですよ。あたしたちっ!」
アンナさんは振り向き、一瞬ぽかんとした顔をすると、耐えられなくなったように笑いだす。
「ぷっ、アハハハ! ごっ、ごめん。フフッ、ハハハ!!!」
何かがアンナさんのツボに入ったらしく、吹き出しっぱなしだ。何がそんなにおかしかったのかな?
「アハハッ、あ、ごめんごめん。自分で悪いコじゃないって、そんな事言うとは思わなくてさ。いや、可愛いなリアちゃんは」
うん、カワイイのは自他ともに認めるトコロだからいいとして、何がそんなにオカシイのかな?
アンナさんは言葉を続ける。
「冒険者の暗黙の了解として、必要以上に相手の事を聞かない、というのがあるのよ。私とした事がどうかしてたわね」
どうやら、これ以上あたしたちのコトを探らないでくれるみたい、よかった。オンラインゲームやっていたら、よくわからない世界に来ました。なんて、まず信じちゃくれないよね。
あ、これは聞いていいのかな? “ここは何処ですか? 地名はなんていうのですか?”
うん、ダメだね。知らないのに何故あの荒野にいたのか? とか色々疑問を持たれるだろうし。いや、もう怪しまれているだろうけど。
せっかく納得してもらったんだし、蒸し返すのはよくないよね。なので、もう少し自然に聞こえるコトを訊くことにしてみる。
「あの、皆さんが行く“ギルド”って何処にあるんですか?」
「あ、うん。私たちのチームが在籍する冒険者ギルドは“アスターシャ”にあるのよ。これでもドルフィーラ地方じゃ一番規模の大きいギルドなんだから」
「アスターシャ? なんだか人っぽい名前みたいね」
「え?! リアちゃん、本気で言ってる?」
あ、マズイ。なんかヤバい事言った? あたし?! ひょっとしてこの世界じゃ常識って事だったりするの?! ヤバイ、チョーヤバイ!
どうしよう? なんか誤魔化す手はないかな~ あ、ダメ思いつかない~ 美少女莉亜ちゃん大ピンチッ!!!
あたしが目をぐるぐる回す勢いで困惑していると、アンナさんは深いため息をついてから、口を開く。どうやら説明してくれるようだ。
「ええとね。カスパート公爵家の直轄領の名前が“アスターシャ”というのだけど。この名前はカスパート公爵家の祖先“癒しの絶仙アスターシャ”から取られているのよ。人の名前っぽいのは当然でしょ?」
「な、なるほど。だから、人の名前なんだぁ」
えっ? 説明それだけ? かすぱーとこうしゃくけ? いやしのぜっせんあすたーしゃ? なにそれ? そもそも“ぜっせん”ってなにさぁ?! あたしの頭の中にクエスチョンマークが乱れ飛んでいる。ヤバイ、全然わからん。あ、マズイ、スッゴイ疑いの目を向けている。せっかく誤魔化せそうだと思ったのにッ!
「えっと、リアちゃんたちって、ドルフィーラ地方の何処かの出身かと思ってたんだけど。ちがうの?」
「え、えっとぉ…… お、乙女の秘密…… あ、アハ」
うわ~ なんという言い訳、あたしのバカ! 美少女すぎるあたしのバカ!
「……まあ、私たちはアスターシャの出身だから、知っていて当然かもね。他領の出身者はあまり興味がないことが多いし。あ、ごめんね。変な事言っちゃって」
アンナさんはアスターシャの出身なのか。
「あ、そうだ。あと冒険者ってなんですか?」
「リアちゃん…… 一体どんな辺境から来たの? そんなこと訊かれたのは初めてなんだけど」
ヤバ、流石に常識なさすぎたぁっ! でもでも、しょうがないじゃん! 知らないんだしっ! 美少女すぎるあたしなら『まあ、そんなことも訊いちゃうの? しょうがないなあ』ってカンジの軽いノリで済ましてくれると思ったのにぃ!
「い、いや~ 田舎モンだべ~ だべさっ!」
な、なにを言ってるのぉっ! 美少女すぎるあたしぃぃっ!!!
「……うかつに人の背景を訪ねるなと、ギルド登録したときに言われたけど。リアちゃん、あなたって……」
「うわー すいません! すいません! 変なこと訊きましたっ! ごめんなさいっ!」
「……まあ、いいけど。ええっと、冒険者というのはね、凶獣と呼ばれる人々の害になるバケモノをお金をもらって退治する仕事よ。簡単に言えば凶獣退治専門の傭兵ね。各領地を守る騎士や軍では、発生する凶獣事案が多すぎて対応できない事があるのよ。それで私たち冒険者へ仕事が回ってくるという訳ね」
明らかに変で痛い子であるにもかかわらず、丁寧に説明してくれるアンナさん。優しい、マジ惚れる。
そのあとも、あたしは不審がられるような非常識な質問を連発し、アンナさん達を困惑させてしまった。あたしはアンナさんたちに、不信感を与えていないかヒヤヒヤだった。
「まさか、リアちゃんたち冒険者になりたいとかいうんじゃないでしょうね?」
「え、いやー お金を稼がないといけないかな~って あたしたち一文無しなので」
あたしたちは、ますます不信の目を向けられてしまう。でもしょうがないよね、お金を稼がないとやっていけないじゃん。
そんなことをやっていたら、あっという間に時間は過ぎていき、気付けばあたしたちはカスパート家の領地“アスターシャ”に近づいてきた。
れーにぃ、いるかな。早く会いたいな。あたしは実の兄との再会を、これほど待ち望むようになるなんて思いもよらなかった。
あたし、知らない間にブラコンになっていたのかな?




