第5話 転職作業 -その2
「殺す気かッ! この銃刀法違反ポニテJK侍がッ!!!ああ?! ナニコラタココラ?!」
「ごめん……。うう……すまない、気が動転していたんだ……」
上目遣いで、目に涙をうかべ許しを請う武子。
毒島武子は正座し、その前には仁王立ちしたレイジがいた。額に血管が浮き立ちそうなほど、憤っている。レイジが意識を取り戻したのは5分ほど前のことだ。レイジを締め落とした後、正気を取り戻した武子が、涙目になりながら介抱し、なんとかレイジは黄泉の世界から帰還したのである。
「あやうく殺人事件の発生だったな。それでも女子高生による殺人未遂だぞコレ! 十分案件だからな? 反省しろよ」
武子をにらみながら一瞥するレイジ。
「うう……。わ、悪かったと言っているじゃないかあ……も、もうしないからぁ……」
「まぁまぁ、れーにぃもデリカシー無さ過ぎたっていうか、ホラ、れーにぃって脳筋なトコがあるわけだしぃ。ま、これからお互いきをつけるって事で。ねっ♪」
2人にウィンクを飛ばす、莉亜。
武子は『わたしの3サイズ知ってしまったのか?』とレイジに尋ねる。面倒なことは困ると考え、今後の関係性を踏まえた上で、レイジは無難な答えをだすことにした。
『締め落とされたせいで、覚えていない』とレイジは返答し、お互いこの件は口外しないことに決まったのである。
「ん? 待てよ? そもそも、こういうことになったのは別の原因があったんじゃ? え~と誰かが何か原因を作ったような……」
「まあまあまあまあ、れーにぃ、早く武子ちゃんのキャラの転職済ませちゃわないと。みんなと集合の約束、午後8時でしょ?あと2時間もないよ?」
腕時計に視線を落とし、時間を確認するレイジ。妹の言う通り、約束の時間まで2時間を切っていた。
レイジは莉亜に、とっとと作業を進めるか、と言い。妹はワザとらしく元気よくそれに答える。
その間、武子はジト目で莉亜をにらむ。莉亜は涼し気な顔で、それを受け流していた。
レイジは再々度、気を取り直すと。《ブスジマタケコ》を操作して簡易移動機能を使い、ステーション内の《戦術対策室》へワープする。
チュートリアルのトレーニングルームから移動、辺りの光景が変わり《戦術対策室》へ移動した。
他のプレイヤーの姿も、チラホラ見うけられた。灰色の殺風景な色気のない金属の壁と、SFチックな小道具で彩られた部屋だった。
《戦術対策室》とは、EFスキルチップの取得・改造、アビリティチップの取得・改造、職業の転職などを行える場所である。
《ブスジマタケコ》を操作して、レイジはカウンターの受付にいる、メカメカしい人型ロボットに話しかけた。
「ふむ、そのロボットに話しかけて転職するのか? ハイテクだなっ!」
サブモニターに表示されるロボット受付とのやりとりを見た、武子の気が抜けそうな感想である。
なんという言葉を返せばいいか判らなかったレイジは『ああ、そうだなハイテクだな』とテキトーに答えた。
「あ、そうだ。その前にイベント特典受け取っておくか」
メニュー画面を開き、《information》項目から《メールボックス》を開く。受信欄に【サービス終了記念!すべてのプレイヤーにありがとう感謝祭!!!】という件名のメールが送られているのを確認する。
目的のメールを開くと、イベントに関する説明が記載されており、それと一緒にイベント参加特典の課金アイテムと、Base.LvとJob.Lvがカンストまでの経験値取得データチップ、そしてゲーム上で使用される電子通貨1億ゼニーが添付されていた。
「はいはい、すべて受け取り、っと」
ピコン♪という効果音とともに受け取りが完了する。同時にBase.LV1だった《ブスジマタケコ》のレベルはLv115に一気にアップした。これで転職やスキル、アビリティなどの取得・強化が可能になった。
Job.Lvは任意でスキルやアビリティを取得する際に上がっていくので、まだLv数値に変動は無い。
ついでに課金アイテムの武器や防具を装備していく。課金装備は装備する際に求められる、レベル制限は無かった。これで今後の戦闘に問題は無かった。
「さて、毒島よ。一気に上位職に上げて行くわけだが、コンセプトはどうするんだ?」
「こんせぷと? 例を挙げてくれないか?」
「そうだな……」
軽く思索するとレイジは武子に説明する。
CULOはよくあるMMORPGのように、経験値を振り分け、育てるキャラクターのステータス振りはできない。
ただし、EFスキルツリー、アビリティツリーと呼ばれるものがあり、職業経験値を消費して、プレイヤーの好みにあったEFスキルやアビリティを取得していくことが可能だ。ただ、職業レベルを最大まで上げても、下位・中位・上位それぞれの職業の、全てのEFスキルやアビリティを取得することはできない。
今回はイベントでJob.Lv115までレベルアップ可能な職業経験値を取得できたので、いきなり上位職まで上げることが可能だ。Job.Lv40で中位職に。Job.Lv80で上位職に転職可能である。それぞれ転職する際は、転職クエストと呼ばれるものを受注し、そのクエストをクリアして転職完了となる。
「たとえばだな、この《ブスジマタケコ》が転職予定の【剣豪】だが、基本的に前衛職と呼ばれる、最前線で敵と近接攻撃で戦う職業なんだ。それでもタイプがある。大きく分けて攻撃回避型か攻撃防御型だ。毒島はどっちがいい?
「うむ、回避型だな。我が七芸毒島流は、流水の如く受け流すが基本だ。回避がいいな」
武子の意向を受け、レイジは攻撃回避型に適したEFスキルやアビリティを取得していく。どうせあと一か月後にはサービス終了なのだ。そこまで考えて取得する必要も無かった。あっさりと、Job.Lv40に到達した。
「ん? スキルチップ? アビリティチップ? チップとはなんだ? スキル、アビリティじゃないのか?おまえの説明した名称と違うぞ?」
「ああ、それは正式名称というか設定というか……ああ、もううるせーな。みんな面倒だから単にスキル・アビリティって呼んでんの。黙ってろよ」
「い、いいじゃないか?! 気になったんだから! 黙ってろとか酷いじゃないか! また締め落とすぞっ!」
「今度やったら通報すっぞ! あと絶交だ。いや、絶交も何も、妹の友達なんてタダの知人レベルだし、絶交という表現は違うか」
「わ、わかりましたぁ……絶交はやめてくれぇ……あと、今から友達ということでぇ……」
また涙目になる毒島武子。友達すくないから、数少ない交友関係を保ちたいから必死なのか? と、レイジは思った。なお、後半の武子のセリフは聞こえなかったことにする。
《ブスジマタケコ》を操作し、今度は別の受付に行く。今度は人の受付だった。
話しかけ、転職を希望と選ぶ、項目が表示され、下位職から転職できる中位職一覧が表示された。一覧から上位職【剣豪】へと転職できる中位職【野武士】を選択する。
「な、なあ! あ、新瀬! 何故、野武士を選んだっ! 私がなりたいのは【剣豪】だぞっ!」
「野武士からじゃないと【剣豪】になれないんだよ!」
「野武士なんて! 物資を強奪する山賊やら野盗の類ではないかっ! 無法者だぞっ! なんでそれが【剣豪】になるんだっ?! おかしいだろっ!」
「ゲームの設定に文句いうなよ! かの宮本武蔵だって、全国放浪時代は似たようなモンだろ?」
「き、貴様っ! かの剣聖を野武士呼ばわりするとわっ! 許さんっ! 成敗してくれるっ!」
武子は先ほどの誓約を忘れたらしく、レイジに裸締めを仕掛ける。背中に豊満すぎるたわわな感触が伝わった。
「ちょっとぉ~ 武子ちゃん、れーにぃにさぁ~ そのムダすぎるオッパイ押し付けるのヤメてよぉ~ ムリヤリ難癖つけて、れいにぃとスキンシップしたいだけでしょ~」
顔を真っ赤にし、武子は弾かれたようにバックステップ! いや、足運びで下がった。慌てていたのか、足を滑らせ尻餅をつきながらも、必死に否定し狼狽する武子。やれやれ、とばかりに頭をかくレイジ。
「武子ちゃんのオッパイは凶悪すぎるんだからぁ、もっと自覚しないとダメだよ? こっちとしては腹立つほど羨ましい細身の体型のクセして、たった1年でバスト84センチから、95のIカップなんて…… 一体何を食べたらそうなるのや……」
次の瞬間、武子が莉亜に向かって飛びかかった。莉亜と武子の間にあったテーブルを、助走もつけず、それどころか尻餅をついた状態から飛び越えるのは、流石の七芸毒島流後継者。驚異の身体能力である。
莉亜は武子が飛びかかってきた衝撃で、リクライニングチェアから滑り落ち、床に転がった。起き上がる隙も与えず、武子は莉亜の上にのしかかる。
「莉亜ちゃん言っちゃダメー!!!」
「もがっ!ムグググ!!!」
武子は両手で莉亜の口を塞ぐ。先ほどのレイジと似た状況になる。当事者は入れ替わったわけだが。
だが、レイジは非情な兄では無かった。間髪いれず、武子を引きはがしにかかる。
「て、てめっ! 俺ならともかく! いや、俺でもやめてほしいが……。 いや、ちがう! 妹にまで手をかけるとは! この銃刀法違反野武士暴力的JKめ! 莉亜から離れろ!!!」
重ねて言うが、レイジは普通の高校生ではない。
血に飢えた野獣と大差のない、一般的な男子高校生とは違うのである。
むしろ前世も含め、生来より性欲は薄く、この年頃の娘など子供なのだ。
だが、事故は起こってしまう。本人の意志とは関係なく起こってしまうのである。
武子を羽交い絞めにするレイジ。ふんわりとシャンプーの匂いだろうか、柑橘系の爽やかな匂いと若い女性特有の甘い匂いが混ざり、レイジの鼻孔をくすぐる。一瞬、気を取られそうになるレイジ。
それを頭から振り払い。再度、武子を莉亜から引きはがそうとする。
その時、事件は起こった。暴れた武子が姿勢を崩し、莉亜に向かって倒れそうになったのである。そして連なるかのように、レイジも武子と同様に倒れそうになる。
「え~ ちょっ! きゃっ!」
「う、うわっ! な、なんだっ!?」
「お、おい! あぶねえよ!」
ドスンという音とともに倒れ込む2人の男女。咄嗟にレイジが毒島武子を掴み横に転がったのである。おかげで莉亜は下敷きにならずに済んだのだった。
「いたた、肘を打ったかもしれん……えっ?」
横向きに倒れた武子。彼女が起き上がろうとした時、異変に気付いた。
レイジが武子の背中にぴったりと密着し絡みついた状態で、同じように横向きに倒れていた。
そしてレイジの両手が、武子のたわわに実り過ぎた双丘を、思い切り掴んでいたのであった。
比較的日本人としては大柄で、自身の手が大きい事を自覚していたレイジだったが。
その大きな手ですら掴みきれない程、武子の胸は大きかった。
「きゃああああああぁぁぁぁ!!!!!!!」
広い一軒家の天井が、ぶち抜かれるかと思うほどの悲鳴。武子は、レイジを振り払い、素早くして立ち上がると、己の身体を抱きしめるように両手で抱え、レイジを睨んだ。レイジは立ち上がり、頭を掻きながら気まずい顔をする。しかし、それだけでは終わらない。
完全に反射的な行動であった。
視界から消えたと錯覚する程の速さで、武子はレイジと密着するほどの間合いにまで接近すると。
片手でレイジの胸倉をつかみ、足をつかって重心を崩す。レイジの体はバランスを失い、一瞬、宙に浮いたかのような感覚を覚えた。次の瞬間、レイジの視界が1回転し、カーペットが敷いてあった場所に、ドシンという音と共に背中から叩きつけられた。
「がっ! はあっ! かは……」
呼吸ができなくなり、胸が張るような感触を受けたレイジ。同時に後頭部にも微妙な衝撃を覚え、意識が薄れていくのを感じるレイジ。
意識が消える寸前の刹那、レイジは思った。
やはり、これだけ大きい胸なら……。体重にも影響があるだろうよ、と。
新瀬零司(17) 主人公。転生者だった過去は忘れつつある、シスコン。
新瀬莉亜(14) 兄をいいように手懐ける悪女。零司と武子で遊ぶのが趣味。
毒島武子(16) 銃刀法違反ポニテJK侍。古くから続く古流武術道場の次期後継者候補。ちょっと零司のことが気になる年頃。無駄に爆乳。