第55話 毒島武子 -side莉亜
武子ちゃんらしい女性は、垂直に地面に突き刺さっていた。も~ それはそれは、見事なほどに。
あたしは引っこ抜くことにした。おばあちゃん家の畑で育った大根を引っこ抜く感覚を思い出しながら、慎重に力を入れていく。まさか途中で折れちゃうことはないと思うけど……。
「おっ、ちょうどいいところに掴むところがあるじゃない。よっ、と」
むにゅん、とハリがあって柔らかな感触が、あたしの右手に伝わってくる。クッソ、いい乳してますなあ、お姉さんやい。
あれ? この身体はCULOのアバターだから違うかな? でもバストサイズは本人のだから、間違ってもいないのかな? あたしが武子ちゃんを騙して、本人の数値を入れさせたんだよねー うん? やはり本人のおっぱいとは違うなぁ。そもそも、柔らかさというか、武子ちゃんのは瑞々しさがあるのよねー
あたしは逆さになった武子ちゃんを右手で掴みながら、左手を添えるようにして抱えると、一気に引き抜く。
スポッ、という音はしなかったが、そんな感じのノリで埋まっていた地面から、武子ちゃんは解放された。
武子ちゃんの体重は54キロだ。彼女の身長を考えると、女のコとして羨ましい数値だけど、それでも小柄なあたしが武子ちゃんを持ち上げるのは難しいだろう。でも、よゆーで大丈夫だ。
あたしは、いとも簡単に武子ちゃんを抱える上げ、軽々と武子ちゃんを静かに下におろす。そして地面に横たわる武子ちゃんを、しげしげと眺めた。
武子ちゃんは数日前に作成したアバターの姿をしていた。艶やかで流れるような黒髪をポニーテールにしていて、これは中身の武子ちゃんと同じ髪型だ。
武子ちゃんのキャラクターを作った際、出来る限り本人によく似た見た目になるようにしたんだ。おかげで時間がスッゴクかかったケド。
身体には、ダッサイ見た目で好評の課金装備【六点対応一式防具】を着ている。例の終了イベントで手に入ったモノだね。
いつまでも、こうしてはいられないので、あたしは武子ちゃんのそばで腰を下ろすと、彼女を起こすべくイロイロやってみることにした。
「た~ け~ こ~ ちゃん! ホラ、起きて!」
軽く武子ちゃんの頬をひっぱたく。でも無反応だ。
武子ちゃんは、まるで起きない。でも、息はちゃんとある。それどころかニヤニヤしたり、歯ぎしりしたりしている。これは健康的だね。
「え、エヘヘ……。あ、あらせ…… そ、そんなトコ触ったらダメだってばぁ……」
いったいどんな夢を見ているのやら、それも思いっきりテンプレな寝言なんてイマドキ流行らないよ。
あたしは武子ちゃんのムダに大きいオッパイを揉むことにする。突き刺さっていた武子ちゃんを見つけた時、スグに女性だと分かるくらい、このオッパイは大きいのだよ。
しっかし、デッカイな~ 武子ちゃん本人もコレと同じくらい大きいなんて、ホントに腹が立ってくるね。
モミモミと両手で揉みまくる。まるでパンをこねるように。
丁寧に丹精込めてこねていると、ようやく眠り姫は目を開けてくれたみたい。
「う、ん……? あ、あれ? ここ、どこだい? あれ、私は何故、外にいるのだ?」
ようやく起きたか、この爆乳ポニテ剣豪JKめっ。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「え? リアちゃん、何を言っているのだ?」
武子ちゃんの顔は、はてなマークだらけだ。そりゃあそうだよね、あたしだって信じられないんだから。
「だからぁ、CULOの世界に入っちゃったかもしれないの。何度も言わせないでよぉ、あたしが痛いコみたいじゃない」
「痛いコ? 何が痛いのだね?」
「あ、イヤ、知らないならいいや。とにかくさ、あたしたち、よくわかんないトコに来ちゃってるの。わかった?」
武子ちゃんは目を丸くして、あたしを見つめている。だよねー そうなるよねー わかってたってば。
「リアちゃん……。 私は世間知らずだと周りからもよく言われるよ。新瀬にも言われたよ。でもね、そんな私でも、リアちゃんが言ったことが非現実的だという事ぐらい分かるよ。いつものように私をからかっているというなら……」
ああ、だよね、だよね、そうなるよねえ。わかるよ、あたしだってこんな事ってアリエナイと思っているしね。
でも、しょうがないじゃない。そんなアリエナイ事が起きちゃったんだからさ。
ああ、もう! チョット腹が立ってきましたよ! どうすればこのオッパイJKは信じてくれるのかな?!
「ホラ、タケコちゃん! 一日だけだけどCULOやったから分かるでしょ?! ぜんぜん感覚違うじゃない! みて、このリアル感! いや、完全な現実! チョー エキサイティ~ング!!!」
よく分からない事をハイテンションで言っちゃう、美少女なあたし。
武子ちゃんはジト目で、こっちを見返してくる。
「むむ、やはり私が無知なのを知って、からかっているのではないか? ほら、その、なんだ。げーむもーどの変更とか、VR設定の変更とか、そういったことでプレイヤーが受ける感覚が変わるとかいう事ではないだろうね?」
「なっ?! いつのまに! 初心者のクセにそれっぽいことをっ!」
「以前、あ、新瀬の会話を聞いた時に、そういう事を言っていたのでなっ」
「……なんでそんなコト覚えてるのよ。キモいんですけどぉ」
「たっ、たまたまだよっ。そう、たまたま……」
「愛のなせる業ですか、フフッ…… なるほどなるほど」
「あ、愛ぃぃっ?! だ、誰が新瀬に対してそんなっ! いや、べつに嫌いとかじゃなくてそのぉ……」
武子ちゃんはブツクサ言いながら、人差し指同士をくっつけてモジモジしている。いやあ、バレバレですからね? アナタの気持ちは。
あたしは大声で叫ぶようにして、武子ちゃんにもう一度説明する。
「だ~ か~ らぁ! 超リアルなゲームの世界に来ちゃったかもしれないんだってばあ!」
「リアちゃん…… もう、14歳なんだから、いい加減、現実離れは辞めないといけないよ……」
あっ? なんか可哀そうなものを見る目で見られた気がする。ちょっとムカつく。このオッパイ娘め!
ふと、自分の言った言葉が気になり、言葉の意味を考える。
そうだ、超リアルなゲームの世界なら、ゲームの世界とは違うリアルな感覚が味わえるというワケなのかな?
もし、そうだとしたら……。
あのコを呼び出したら、どんなことになるのだろうか。
好奇心がちょっと出てきた。せっかくだ、やってみてもいいじゃない?
あたしはスキルランチャーから、ある項目を選ぶ。それは【使役惑星獣の召喚】だ。最初はまず、通常状態での召喚にしておく。戦闘モードで呼び出すのは、なんとなく怖いからヤメておく。
さっそくソレを選び、発動させる。
あたしが扮するキャラ、“リア・ニゴレイアル”は【惑星獣使い】だ。EFスキルを使用して、使役している惑星獣を呼び出せるのだ。
すると、目の前に光の柱が現れると、それは眩い光を放っていた。そして、その光は光柱が消えていくのと共に収まっていく。
消え去った光柱の中から、一匹の生物? が出現する。CULOでは、あたしの相棒であり、ギルド内において、マスコット的な存在だった。
「ペイッ!」
変な鳴き声と共に、右手? いや、ひれ状のフリッパーをシュタ! と挙げて挨拶してくれた。
その姿はペンギンだった。正確には、CULOの世界に登場する【惑星獣】だ。
ビーストテイマー“リア・ニゴレイアル”の相棒【ユージィ】だ。
リアルな、この世界で見たユージィの姿を、あたしは心からカワイイと思ってしまうのだった。




