第54話 転移 -side莉亜
まだ章を終わらせるつもりは無かったのですが、男側の話を書くのに飽きたため……ゲフンゲフン。伏線を早めに回収するため、女の子側の話をやることにしました。
既存の話の間に挟むことも考えたのですが、視点が飛びすぎるのも、ワケが分からなくなる危険性を孕んでいる為、ここで章をいったん終わらせて新章に行きたいと思います。
男側の視点を楽しみにしてくださっている方には申し訳ありませんが、少々お付き合いください。
あたしがCULOをプレイし始めたのは、実の兄である、れーにぃの影響だ。
れーにぃは昔から子供っぽさがない人だった。基本的にワガママも言わないし、聞きワケが良いし、家族に対しても優しい。あたしには、特に優しい。
でも、何処か……。 そう、何となくなんだけど、世間だけじゃなく家族に対しても一線を引いているような人だ。
あたしは、れーにぃが大好きだ。 無茶なことじゃなければ、あたしのお願いを聞いてくれるし、いつも気遣ってくれるから。
友達で兄がいる娘は大体仲が悪いみたい。兄妹の話題になると、大概は悪口がほとんどだ。
でも、あたしは悪口を言おうと思ったこともない。それを本当に嬉しい事だと思っている。
だからこそ、れーにぃが、ああ…… いや、兄が意図的に距離を作っていることに、あたしは寂しく思っていた。
CULOに兄がハマリ始めたとき、あたしは考えた。一緒のゲームをやれば距離が縮まるかもと、それは、ある程度うまくいったと思う。
去年、兄がCULOを辞めてしまった時、一緒に引退するつもりだったんだけど、結局、あたしはヤメそこねてしまった。なんていうか、兄との思い出が無くなっちゃうような気がしたのだ。
いつか、もう一度、兄とプレイしたいな。そんな思いがあっただけに、終了イベントを機に兄が復帰すると聞いた時は嬉しかった。たった一か月の間だけだけど、それでも良かった。
そう、あたしは一人でプレイしたいわけじゃないんだよね。
れーにぃとプレイしたいんだ。
こんな場所で、一人きりになるためにCULOをやり続けたわけではないのに……。
「え…… ナニコレ? 意味わかんないんだけど……」
視界いっぱいに広がるのは寂れた荒野だった。砂埃が風で舞いあがり、あたしに砂粒が降りかかる。土埃のにおいで、鼻がムズムズした。
こんなリアリティあふれるカンジ、CULOでは無かった。そーだよ! こんなカンジは今まで無かった!!!
目が覚めて起き上がったら、こんなカンジだった。寝落ちしたのかと思ったが、頭を触ったらVRヘッドギアの感触が無かったんだ。正直アリエナイと思ったよ。
「ハハ……。チョ、マテヨ。こんなん、ないっしょ、ありえないっしょ」
新瀬莉亜の本能が、アラートを鳴らし、警戒しろと言っている! あたしは周囲を見回した。でも、ダレも見当たらなかった。
これは、いったいどういう事なの? ふと、頭の中の記憶領域に、思いつく事が一件だけ該当する。
え、まさかだけど…… あたしはコレと似た状況を知っている。小説の中でのハナシだけど。
「えっと、桜にゃんの愛読書の……。なんだっけ? 異世界ホモ小説だっけ? ソレっぽい状況だよね。コレ」
桜にゃん、とは、れーにぃの数少ない友達【桜野圭一】くんの事だ。あたしは【桜にゃん】と呼んでいる。あ、そだ、その事を、れーにぃに話したら『あのキモヲタクソデブ! 締め落としてやる!』だって。仲いいなあホント。
それはともかく、この状況は桜にゃんから借りた異世界ホモ小説の内容と酷似しているのだよん。あ、今のは桜にゃんのマネね。
よし、まずは現状確認だ。
自分の身体を見回してみたけど、CULOで見覚えのあるアタシのキャラ【リア・ニゴレイアル】の姿だった。画面、いや、視界上部にあるメニュー欄から装備やステータス等を確認したら、ソコもCULOままだった。
あたしは、れーにぃが辞めた後もCULOを続けていたから、防具、武器、アクセサリー類に関してはシーズン最強クラスの武器と防具をクラフトし、装備している。ただ、CULOの最強装備は、どれも見た目がダサいんだよね~
それを解消するのが、特殊アクセサリーのひとつ【オリジナル外装データ投影アクセサリー】と呼ばれるモノを装備することで、低性能だけど好きな見た目の防具や衣装、自分で作った外装データをプレイヤーキャラクターに反映させることができるんだよね。あくまで見た目だけだけど。
いまの状態は、何故かアクセサリーの効果が発生していないのだ。現在の【リア・ニゴレイアル】の見た目は、全身ブクブクに膨れ上がったような重装備になっていて、いくらシーズン最強装備とはいえ、これはカワイクない! ダサイ! これはイケないね!
あたしはメニューから装備項目を開くと、アクセサリーの項目に表示されている、現在装備中のアクセサリーの中から、【ビジュアルプロジェクターリング】を選択。そこから表示されたポップメニューから、[効果を反映]をONにする。
全身が光に包まれると、それはスグにパッと消え去った。
「あらまー なんということでしょう~ 野暮ったい見た目だった美少女が、空前絶後のぉ~ 超絶可憐な美少女にぃ~ 大・変・身!!!」
何故か意識高い系ポーズをとりながら、イタい台詞を吐く中学生。新瀬莉亜、14歳。
「……イタい。痛すぎる、あたし。ま、いっか♪ ダレも見てないし」
孤独の美少女は思わずひとりごちた。うん、仕方ないね。あたしがカワイイのは自他ともに認めるトコロだし!
あたしは改めて、自分の姿を確認する。
薄いピンク色の髪を、ふんわりとしたツーサイドアップにしていて、メチャカワイイ。リアルのあたしには負けるけど。
小顔にクリクリとしたぱっちりとした目と、濃すぎない程度に鼻筋が通った顔立ち、そして小さな淡い桃色の唇。ローティーンの完全な美少女顔だ。ま、リアルのあたしのほうがカワイイけど。
小柄だけど長い手足をした肢体。そしてフリフリのリボンを派手過ぎないよう、抑えたデザインの可愛らしいゴスロリ調の衣装。ま、リアルのあたしが着ればもっと似合うだろうけどっ!
「……いかん。現実逃避しようとしているな、あたし。そうだよ、これも、れーにぃがココに居ないせいだよ。最愛の妹をほったらかして、あたしが寂しい思いをしているというのにまったく……。 あっ?! そうだ!!!」
あたしは、メインメニューを呼び出すと【コミュニケーション】を選び、【ギルド】の項目を選ぶ。そして【メンバーリスト】を選ぶとギルドメンバーを確認する。
「これは……。CULOの話だけど、オンライン状態なら名前が点灯しているんだよね……。ってことは?! みんな、この世界に来ているという事だよね?! そうだよね!」
あたしの心がチョットだけ強くなった。正直、あまり他人に頼るのは好きではないのだ。
頼るなら、れーにぃに頼ると決めている。それも全面的に!
悩むのは、あたしのキャラじゃないんだ! よし、キマリ! これからのアタシの方針は、れーにぃをはじめとするギルドのメンバーと再会することだ。ヨッシャッ!
さて、他に能力も試したいけど、ここでじっとしていてもしょうがないよね。移動しながら、試していこうか。
「さて、これから何処へ行こうかな。世界は広大だわ……」
……さっそく、一人でつまんないことを呟いてしまった。今日のあたしはどうかしているな、ホント。
そうだ、オーバーヘッドマップを見てみよう。どれどれ…… おお! CULOと操作方法はおんなじなんだねっ。ふむふむ…… 拡大、縮小、かいて~ん。
ナゼか、自分も回るあたし。うん、自分が回りながらマップを回転してどうするよ、いい加減にしようね、美少女すぎるあたし。
そのときだ、マップに赤い点が表示されている事に気付いた。
これは……。熱源反応だ。人か…… もしくはCULOならば惑星獣の……。
この世界がゲームの世界だったとして、この熱源反応を示す赤い点が惑星獣を指すのならば、当然、あたしと戦うことになるだろう。それは、このリアルな感覚の世界で生物を殺すということだ。
「イヤだなあ、ゲームならいいけど。リアルはちょっと……」
そんな事を言いつつ、足は熱源の方向へ向かっている。って! あたし速い!
足速ッ! れーにぃのバイクより、ずっとはやい!!
正直、危険なことは分かっていた。でも、この未知に対するワクワク感から、あたしのカラダは勝手に動いていた。
オーバーヘッドマップが示す地点まで近づいて行くと、何かが見えてきた。
人?! そうだ、人だ! 人が乾いた土の地面に、真っ逆さまに頭から突き刺さっていた。
あたしは一旦、立ち止まると、恐る恐る、その人に近寄っていく。
そして、その突き刺さった人の服装を見て、一人の人間が思い当たる。
「……タケコちゃん?」
そう、この地面に頭から、見事に逆さまに突き刺さっている女性の正体。
恐らくだが、それは、ついさっきまで一緒にCULOをプレイしていた、同じギルドに所属する女性プレイヤーだ。
その女性プレイヤーとは、あたしのリアル友達【毒島武子】ちゃんの可能性が高かった。




