第53話 討伐完了 -尋問
賊たちは味見と称して、比較的大人の女性たちを、上の階へ連れて行った。
しかし、本来ならば年齢にこだわらず、容姿の整った者を選び抜いて連れて行こうとしていたらしい。その中にはレシーカも入っていたという。
ただ、年若い者を守ろうと女性たちが率先して名乗り出た為、若いレシーカたちは毒牙に掛からずに済んだのだ。たとえ、それが時間稼ぎにしかならなかったとしても……。
総長を軽く小突き、脅し、女性たちの所在を訊きだす。
「お、奥の部屋だっ! 奥の部屋にいる……」
「こいつっ! オマエがっ! お姉さんたちをッ!!!」
憤るレシーカを抑え、なだめながら、オレたちは女性たちの元へ向かう。
部屋の前へ着くと、レシーカに向き直る。そして、彼女の両肩に手を置くと、オレは静かに語り掛ける。
「なあ、レシーカ。この先は見ない方がいいと思うんだ。オレが先に入るから、おまえは少し外で待って……」
言い終わる前に、レシーカは強く前に出て言った。
「大丈夫! そこまで子供じゃない。逃げたくないの」
オレはレシーカを連れ部屋に踏み込む。目に入った光景は筆舌に尽くしがたい光景が広がっていた。
怒りのあまり、飛び掛かりそうな勢いのレシーカを抑え、オレは部屋の中にいる全員に聞こえるように告げる。
「女の人たちはそのまま、男ども! パンツは履かなくていいから壁に一列に並べ」
壁に向けて、エレメンタルシューターを一発撃ちこみ、大穴をあけてみせると皆、大人しく従った。
シーツや毛布など、衣服の代わりになるものをかき集めると、女性たちの身にまとわせた。衣服は先ほど見つけた倉庫らしき場所にあったので、のちほど持って来ればいいだろう。
悲しみに暮れる彼女たちに、オレは掛ける言葉が見つからなかった。だが、レシーカは懸命に話しかけ、彼女たちに自分たちを庇ってくれたことについての感謝と“大丈夫だ”という言葉を何度もかけ慰めている。
裸の男たちは、全員持ってきていたロープで縛り上げる。何処からそんなに出したのか、疑問を持たれるのではないかとヒヤヒヤしたが、悲惨な状況がそれを生じさせなかったようだ。
オレは“総長”という男に詰め寄り、厳しい口調で訊く。
「訊きたいことがある。ごまかしは無しだ。ウソだと感じたら、ギルドに引き渡す前に殺す。わかったか?」
「ヴ、ヴリガ子爵に引き渡すわけではないのかっ!? ギルドはやめろっ!」
「ほう、ギルド相手だと都合が悪いのか。ここの領主と通じていたのだな、おまえは」
「ち、ちがうっ! わたしは通じていないっ!」
「ああ、面倒だ。単刀直入に訊くよ。エリス・エリアスを襲うようにお前に命じたのは誰だ? もちろんお前の単独ではない。 この拠点をこの場所に確保したやつがお前の背後にいるんだろ? そいつがエリスを奪うためだけに、ルヴロ村を襲うようお前たちに命じたんだろう。そうだよな?」
“総長”は全身から汗を流し、呼吸が定まっていなかった。かなり動揺しているようだ。仕方ないので、訊き方を変える。
「しょうがない、足の一本、二本はいらないか? いらないな?!」
ワザとらしく脅しをかけると、“総長”は必至に助命を懇願してきたので、オレはもう一度訊きなおす。
「き、キザシ・コルダート。アルカンシェラの領主、キザシ・コルダートが蜘蛛の子の上にいる存在だ!」
キザシ・コルダート……。
エリスが言っていた男か。エリスが治める領地、トゥトエラ付近にあるアルカンシェラを治める領主がキザシ・コルダートだという。
オレはキザシ・コルダートについての情報を得る為、この“総長”を連れ、彼の書斎へ向かう。
総長の名前はエイジオ・グラベルというそうだ。背丈はそれなりだが、さほど鍛錬はしていないのか、顔はむくみ、腹が出ている。無頼の集団の長というには、あまりそれらしさが見えない男だ。
エイジオの書斎は、悪趣味な部屋だった。立派な調度品がこれ見よがしにならび、成金趣味であることを分かりやすく表現しているかのようだ。
部屋をひっくり返し、コルダートに関する資料などを探してみたが、予想通りコルダートのコの字すら見当たらなかった。
指令書を見つけたが、コルダートの痕跡はみられない。ちなみに指令書にはとんでもない事が記載されていた。
本来の計画としては、ルヴロ村を100人以上の大人数で制圧し、人質を盾にオレ達に武装解除を迫るか、戦闘行為を行い。事が収束したのちエリスのみを連れ去った後、証拠隠滅の為、村ごと全て抹殺する計画だったようだ。
これだけでも、キザシ・コルダートという男が冷酷極まりない男だということが伺える
しかしながら、こいつらは指令書のとおりには作戦を展開しなかったようだ。そのおかげでこちらの作戦がうまくいったわけだが。
調べを進めていくと、ルヴロ村を襲った後、全員で村に駐留してエリス一行を待ち構えなければいけなかったのにもかかわらず、彼らは副業である人身売買の為、若い女性と子供たちを拠点まで運んだという。そればかりか、エリス一行の人数を聞いた彼らは侮り、50人もいれば十分と判断したらしく半分以上が拠点に帰ってしまったのだ。
さらに、他の村民たちも売り払おうと算段を立てていた為、露骨に人質を盾にしながら戦うのをためらったのも失敗の理由だ。他にも細かい問題点はあったが、指令書に従わなかったのが蜘蛛の子の敗因であり、こちらにとっては幸運であったようだ。
それにしても、不思議なことがある。
エリスは毎朝、行程に関してオレたち以外には誰も言っていないし、ましてや旅のルートは隊長のアスライドと相談して、その都度決めているのだ。ルヴロ村に宿泊するのを決めたのは当日なのだ。
何故、それを連中は知っていたのか。いや、正確にはキザシ・コルダートは、どうやってその情報を知ったのだろうか?
ふと、オレは、総長エイジオ・グラベルに目を向ける。オレの視線を感じたエイジオは目が泳いだ状態だ。なにか隠している、オレは直感的にそう感じた。
エイジオに迫ると、オレは恫喝するかのように、彼に隠していることを吐くよう、身体を使ってお願いする。
「ごぶあッ!!! やっ! やめてくれ! それ以上殴らないでくれ、わたすッ! それを渡すからっ! もうやめてくれ!!!」
それ? 渡す? 何だろうか? オレの中に生じた疑問は、ありがたいことに数秒後に解消された。
エイジオ・グラベル総長が取り出したのは、六角形型の鏡であり、鏡には仰々しいほどの装飾がしてある。ただの鏡かと思ったが、受け取ってみると、その認識が違うことに気付く。
そうだ……。これは鏡じゃない。これが何なのか、オレには心当りがあった。
この鏡らしきもの、これは通信装置だった……。
仙晶石を使用した道具の一種だ。オレが昔、仕えていた国で試作されたものだった。
なぜ、それをコイツなんかが持っているんだ……。




