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第48話 村民奪還 -3 

「お願いッ! 上に連れていかれたお姉さんたちも助けて! きっと酷い事されてる!」



 赤い髪の少女はレシーカという。レヴロ村から連れ去られたうちの一人だ。


 年若い彼女は、意外な事に冒険者なのだという。


 たまたま故郷であるレヴロ村に帰省していたところ、運悪く巻き込まれ、こうして囚われの身になってしまったのだ。


 オレは全員に声や音を極力出さないように伝え、後ろからついてくるよう指示する。上の階にいる女性たちの安否も気にはなるが、まずはこの子たちの安全を確保すべきだろう。


 20人もいる為、敵に出くわした時、混戦になって被害が彼女たちに及ぶのは避けたい。オヤジウスが敵を引き寄せてくれることを祈りながら、先ほどの倉庫まで向かう。


 通路を慎重に進んでいると、上が騒がしくなってきた。どうやら、オヤジウスが仕事をしてくれているらしい。えらいぞ。


 倉庫らしき部屋に到着すると、レシーカが声を上げた。



「あ、これ、アタシ達の服だ。アタシの持ち物もある!」



 レシーカが連れ去られた村民の衣服や装備を見つけてくれたので、着替えるように指示すると、放り投げるように置かれた衣服に、みんな一斉に群がる。皆、我先にと早々に着替える中、レシーカだけが、一本の剣を見つめたまま立ち尽くしていた。


 レシーカに早く着替えるよう促そうと近づくと、唐突に彼女の目から涙が零れると、そのまま泣き崩れた。



「ど、どうしたんだ?! その剣がどうかしたのかよ?!」


「これ……。とうさんの剣なんだ。アイツらが村を襲った時さ、とうさんとアタシは戦ったんだ。とうさんもアタシも頑張ったんだ! でも、アイツら他人に無勢で! アタシ、ドジ踏んじゃってアイツらに捕まって……。 それでッ! と、とうさん……あ、アタシのせいで! アタシのせいでッ!!! うああああッツ!!!!!」



 どうやら、彼女の父親は蜘蛛の子に殺されてしまったようだ。レシーカはオレの胸に顔を埋めると、大声を上げて泣きじゃくる。

 村長が言っていたが、村民の中には戦える者が何人かいたらしく、わずかながら抵抗した者がいたが、いずれも殺されてしまったと聞いていた。

 

 まさか、その犠牲者の中にレシーカの父親がいたとは。

 正直、他人には感心が薄い性格のオレだが、こうして目の前で見せつけられると、流石にクるものがある。


 こんな大声で泣かれると、連中が殺到するのではと危惧したが、そんな動きは無かった。どうやらオヤジウスが頑張ってくれているようだ。



「おい、気持ちは分かるが状況を考えろ! 今は我慢しろ! いいな?!」


 

 レシーカは懸命に嗚咽を抑えながら涙声で答える。オレにしては珍しく彼女に同情してしまったので、着替えを手伝ってやることにした。


 彼女の装備は赤を基調とした軽装鎧だ。露出が多めで、動きやすそうな皮鎧の類だった。

 装備一式を身に着け終わると、父親の形見である鋼鉄の剣を、大事そうに腰に括りつける。



「ごめん、みんな、待たせた。もう、大丈夫だから」



 彼女は調子を取り戻したらしく、赤くなった目を擦りながら、気丈に振舞っている。



「よし、いくぞ。全員ついて来いよ」



 帰りは簡単だ。隠し通路から脱出すればいいだけだ。オレは床の一部をずらし、それを放り投げると、全員についてくるように命じた。


 子供もいるため不安が残るが、幸いなことに問題も起こらず、20人全員通路を抜けることができた。


 全員、炭焼き小屋まで出ることが出来たが、このあとどうしようか。正直、勢いで出てきてしまった為、実は救出後の事を、あまり考えていなかったりする。勢いというのは恐ろしい。


 何処か離れた場所に馬車でも用意するか、迎えを待機させておくべきだった。



 仕方ないので、ここから離れた場所に丁度よく茂みが集まった場所があった為、そこで待機してもらうことにした。


 オレは当然、オヤジウスの援護に行く。ヤツの性格だと、人を傷つけることに躊躇しているだろうから、対処に苦労しているはずだ。早急に現場に向かったほうがいいだろう。


 オレは皆に、仲間が注意を引き付けていることを告げ、この場を離れることを伝える。すると、レシーカが声を上げる。



「まって、アタシも連れて行って! とうさんの仇を取りたいの! お願い! 足手まといにはならないから」


「そういって足手まといになるのがお約束なんだよ! ここで待ってろ。女には無理だ」



 どうみても強そうには見えない。いや、あんな賊どもに捕まってしまうようじゃ戦力としては期待できないだろう。当然、オレは拒否する。


 すると、レシーカは強気にも食い下がってきた。



「あ、アンタも女じゃない?! どうしてだよ!」


「単純だ。おまえより強いからだ、圧倒的にな。さっき、オレは素手で賊ふたりを片付けたわけだが、それを見て何も感じないのなら、おまえにゃ無理だよ」



 ま、アーマメントと俺らが勝手に呼称している力のおかげなんですけどね。それでも、こんな年若い娘を連れていくわけにはいかない。身内主義のオレでも、流石にこの娘が目の前で死なれるのは勘弁願いたい。

 レシーカは唇を噛みしめながら、必死に耐えていた。己の中にある感情を発露したくて堪らないのだろうが、それを必死に耐えているようだ。


 レシーカは背を向けているオレのマントを掴むと、涙をこらえながら懇願する。



「おねがい…… します。どうか、連れて行ってください……。決して助けを求めたりしないから、アタシがやられても捨て置いていいから……」



 オレは振り向かない。それでも振りほどかないのは、情にほだされてしまったからなのか。



「……おまえ、歳はいくつだ?」


「え、じゅ、15です」


「なにぃ?! そんなに発育していて15だとぉ?!」



 おかしい、エリスのトコの侍女、スーリアもそうだが、この世界の若い娘は、いつからこんなにも発育がよくなった?!


 いや、ウチの莉亜が悪すぎるのか?! 相変わらず背は伸びないし、体つきも子供体型のままだ。セクハラではないが、身内として心配しているのだ。

 

 やはり、偏食なのがいけないのだろうか?! 晩飯はオレが作っているワケだが、何だかんだ言って莉亜の食べたい物中心で作ってしまっている傾向がある。


 オレが、バランス良く食べろと強制しないのがいけないのだろうか? うむ、きっとそうだ。今度からは栄養のバランスがとれたものを食べさせよう。

 あと、深夜に食っている夜食のおやつも禁止。午後11時には強制的に就寝させよう。決まりだな。



「あ、あの……。ダメ、ですか?」


 レシーカの絞り出すような声を聞き、我に返る。

 右手を胸元に、左手を鋼鉄の剣に置きながら彼女は、オレの反応を伺いながら、恐る恐る訊いてきた。


 レシーカがやられないようにやってのけることが、オレには出来るだろうか? いや、いいさ、やられちまったら、それまでだ。そこまで責任は持てない。ついてくるなら好きにすればいい。



「言っておくけど、助けないぞ。自分の身は自分で守れ、いいな?」


「わ、わかった。頑張るよ」


「頑張るじゃだめだ、やるんだ。いいな?


「う、うん…… わかった、やるよ! アタシ」



 オレはレシーカに向き直ると、彼女の瞳を見つめる。その瞳には怒りの炎と決意が表れていた。それなりに覚悟はあるようだった。



「わかった、しょうがないな。ついてこいよ」

「あ、ありがとう! アタシ、がんばるから!」



 頑張るじゃダメなんだよ。殺るんだよ! 戦いってのは、技量や体力や戦術も大事だが、実戦でもっとも大事なのは、その場の勢いだとオレは思っている。勢いが流れを作り、こちらに有利な展開をつくるんだ。

 戦場では歴戦の猛者が、勢いにノった名も無い戦士に討ち取られるなど、珍しいことではない。



 オヤジウスが外で引き付けている以上、拠点の中での警戒は、手薄になっていることだろう。


 内部から侵入し、もしいるのならば“蜘蛛の子”の頭である“総長”とやらをつかまえて尋問してやろうと思っている。


 オレは炭焼き小屋に向かって歩き出す。オレにつづく形で、レシーカも歩き出す。


 さあ、やるか。拠点内部で戦うとなると屋内戦闘になる。問題はないとは思うが、気を引き締める必要はあるだろう。



 これより実戦が始まるのだ。


 みてろよ蜘蛛の子とかいう賊ども、目にもの見せてやるからな!

 

レシーカ :15歳。年齢に似合わぬプロポーションの持ち主。実家を出て冒険者をしていたが、帰郷していたところを運悪く、蜘蛛の子に襲撃されてしまった。

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