第4話 転職作業 -その1
3人称になります。転生編までそれが続きます。
「はぁ……疲れた。おい、戻ったぞ」
「あ、れーにぃ、おかえりぃ~ 買ってきてくれた?」
「ああ、買ってきたよ。唐揚げセット【唐揚げ合体アゲカラーXV】ふざけた名前だよな」
莉亜から頼まれて、ウーロン茶の2ℓボトルとコーラの1.5ℓボトル。そしてポテチを3袋。そして、お目当ての【唐揚げ合体アゲカラーXV】を買ってきたレイジ。
【唐揚げ合体アゲカラーXV】いろんな味付けの、大きめの鶏のから揚げが15個入っている。
これは新瀬家から10キロ以上離れた某コンビニのオリジナル商品だ。レイジはこれの為に、わざわざ遠くまで買いに行かされたのだった。
バイク乗りのレイジでなければ、こなせないミッションだ。妹のいいように使われているレイジだが、当の本人はそんなことは気にしていなかった。この世界では身内には優しくする。
それは、レイジがこの世界で生きてゆくにあたって、己に課した決め事のひとつだった。
リビングでは莉亜と毒島武子が、それぞれリクライニングチェアに座っていた。莉亜は背もたれにリラックスした状態でもたれかかり『れーにぃ、大好きよ~』などと、心の入ってない労いの言葉をかける。
毒島武子はというと、SVRヘッドギアを装着し、CULOをプレイしているようだ。
レイジはコンビニ袋をテーブルにおろすと、『どっこいしょ』とばかりにソファーに腰を下ろす。
莉亜におっさんくさい、とからかわれるもレイジは気にしない。
前世と現世の人生を足せば、彼は中年の年齢に該当する。
「おおっ! 見てくれっ! 2人ともっ! わたし、かなり動けるようになったぞっ!」
毒島武子はCULOのトレーニングモードで、チュートリアルを受けていた。
レイジと莉亜の二人は、サブモニターからその様子を見ていた。CULOはサブモニターを併用する事も可能だ。
毒島武子の分身たる、黒髪ポニーテールの女性剣士が、突き、斬り、などの攻撃モーションやダッシュや回避などの動作モーションを見せる。じつに軽快な動きだ。なお黒髪ポニー剣士は、新規作成したばかりの為、まだ武器以外の装備がない。その姿は下半身が白色スパッツに、上半身は白色スポーツブラのみという寂しい恰好である。
ちなみに、新規作成したキャラが男性キャラの場合は、白色スパッツのみである。
CULOは新規で始めた場合、プレイヤーキャラクターには、最下級IGの武器のみ支給される。
「毒島、おまえ声がでかいよ。こっちもボイスチャットで聞いているからさ、あんまりデカイ声出すなよな。一軒家とはいえ、うるさ過ぎるとご近所にも迷惑だからな」
外部接続のヘッドセットを使用し、ボイスチャットで毒島に語り掛けながら、不快感を匂わせるレイジ。
【SVRヘッドギア】を被ったまま、手足をバタつかせ暴れている毒島武子。慣れてない初心者は手足を大きく動かすと言われている。【SVRヘッドギア】の最適化がされていないからだ。
毒島武子はCULO初心者用チュートリアルで3回目の基本操作を学んでいるところだった。
武子が選んだのは剣士。CULOで最初に選ぶ、いくつかある下位職の内の1つだ。
武子が剣士を選んだのは、本人が武士の家系だからだろう。レイジは思案する。
毒島武子。実家は鎌倉時代から続く家系であり、神道直伝七芸毒島流と呼ばれる古武術の道場を構えている。剣術、居合、柔術、棒術、槍術、薙刀術、砲術等、主に7つの武芸を伝承する総合武術であり、現在では主に剣術と居合を主に伝えている。
武子はその毒島流の次期後継者であり、その剣の腕は確かなものである。たまにレイジの通う学園の剣道部から依頼を受け、ピンチヒッター的に大会に参加し、素晴らしい成績を収めているらしい。剣道部では、唯一認められた幽霊部員だ。
「わ、わっ! お、おい、れ、レイ……あ、新瀬! ひとまず、これを脱ぎたい! どうすればいい?!」
武子がもがく、レイジはそっと武子のそばに寄ると、SVRヘッドギアの後頭部に位置する、緊急解除スイッチを押した。それから武子が被っていたヘルメットをゆっくりと脱がせる。
SVRヘッドギアは装着者をREM睡眠状態に近い状態にさせるため、本人や何者かが強制的に脱着すると、装着者の脳に悪影響を与える可能性がある。そのため、SVRヘッドギアが起動中に外部の人間が外す場合の緊急措置として、強制解除スイッチが設けられている。
「本当はCULOのシステムメニューからログアウトしてから、解除するんだぞ。これは緊急だからな?」
と、いいつつレイジも面倒な時は、スイッチを押して解除していたりするが。
武子は聞こえていないのか、レイジには答えない。
「はっ、はあ、はあ、いや、これはスゴイな。驚いた!」
「大丈夫か? 装着し続ければ慣れてはいくんだが。ムリはするなよ?」
「あ、あたりまえだっ! これでも毒島流の次期継承者だっ! このくらい何ともない! あ、か、肩に触れるなっ!」
リクライニングチェアにもたれかかる毒島武子の肩に、自身の手が触れていたことに気づくレイジ。
「ああ、すまん。不快だったな。悪かった」
「い、いや。じ、事前に通達しないからだっ、言ってくれれば構わない」
事前通達すれば、身体に触れてもいいのか?と、レイジは違和感を覚えた。
「ちょっとお~ イチャつかないで欲しいのですけどぉ~」
「な、な! し、してないぞっ! そんなことっ!」
リクライニングチェアに、ゆったりともたれながら、莉亜は楽しそうにケラケラと笑う。莉亜もレイジと同じく、武子の作成したプレイヤーキャラクターのチュートリアルを、サブモニターから見ていたのだった。
「ところでさ、今回のイベントでベースレベルとジョブレベルのカンストまでの経験値も手に入るだろ? 本来なら上位職まで最短でもウン百時間かかる所を、一瞬で転職できるわけだ。毒島、おまえ上位職はどれにするんだ?」
毒島に、希望する上位職を訪ねるレイジ。
「うむ、莉亜ちゃんに教えてもらったからな。すでに決めてある。私が選ぶ職業は【剣豪】だな」
「まんまじゃねえか」
「う~ん、武子ちゃんらしくイメージ通りだね」
ふふん! と豊満な胸を張り、誇らしげな仕草をする武子。彼女はブレザーを脱ぎ上半身はブラウス姿になっている。ブレザーの時と比べ、その豊か過ぎる胸のふくらみが、より際立ってしまっていた。
レイジはうっかり目に入ったそれを気づかれないよう、そっと視線を外した。
俺が世間一般の健全な男子高校生なら、正常じゃいられないぞ! と、心の中で独りごちるレイジ。
ふと、妹を一瞥するレイジ。莉亜はレイジの視線に気づいたらしく、両手で口を隠し、ニヤニヤと笑みをこちらに向けていた。苦虫を噛み潰したような表情を、莉亜に向けて一瞬みせると、レイジはサブモニターに向き直る。
「あーそのなんだ。毒島よ、先程とは打って変わって見違えたな。最初はどうなることかと思ったが。まぁ、よかったよ。そんなことをしただけで改善するとはな」
レイジは毒島武子が両手で握っているモノに視線を落とす。
それは日本刀だった。刀身が漆黒の鞘に納められているにもかかわらず、重厚で歴史の重みを感じさせる刀だった。正直、妖気のようなものを放っているんじゃないか?レイジは訝しむ。
全体を黒と基調した刀であり、派手な装飾の類はみられない。だからこそ、余計にその刀がもつ、底知れぬ深淵を感じさせるのだった。
「なあ、普段からソレ持ち歩いているのか?」
レイジが毒島武子のうわさを耳にしたのは、高校入学直後の頃だ。その噂の内容はというと。
『スタイル抜群の大和撫子が、日本刀をぶら下げて登校している』という荒唐無稽なものだった。
ただ、すぐに噂は収まった。それも不気味なほどの速さで収束したのだ。
因みに、毒島家といえば地元の有力者であり。レイジの住むこの街一帯の多くが、毒島家が所有する土地だと言われている。毒島家の親族はこの街のみならず、日本各地で支社をもつ古参の大企業をいくつも経営しており。その昔、毒島グループという名で、旧財閥の一つに数えられたこともある。
「あ、ああ、可能な限り携帯しているぞ。帯刀は武士の嗜みだからな」
「廃刀令からどれだけ経っていると思ってんだよ?西郷先生が泣いているぞ」
「じ、冗談だ。わ、わたしも正直これはどうかとは思うのだがな。次期継承者は当主となるその時まで御神刀を帯刀すべし。昔からの伝統だ」
「よくポリスマンに職質されなかったな。呆れるわ」
その台詞に続くように、武子がつぶやくように言った『いざとなれば中央に手を回して、キレイにもみ消せるとおじい様が……』という、恐ろしい台詞を聞いたような気がしたレイジは、彼女の台詞を忘れることにした。
「さて、気を取り直して……。毒島のキャラクターを上位職まで上げちまうか」
レイジはゲームパッドを持つと、武子のプレイヤーキャラクターを動かし始める。
CULOはSVRヘッドギアの使用を、一時間までと推奨している。健康を害する恐れがあるためだ。戦闘以外では、ゲームパッドなどのコンソロールとサブモニターでのプレイを推奨している。
何気にステータスを見たくなった為、メニュー項目からキャラクターステータスを開き、必要な部分だけ閲覧するレイジ。
《名前:ブスジマタケコ》《職業:剣士》《Base.Lv1 Job.Lv1》
HP 500 EF 100 STR 15 VIT 10 INT 1 MND 1 AGI 5 DEX 10 LUK 1
「ま、こんなもんだよな。レベル1だし……っていうか本名にしてるのかよ」
「え?莉亜ちゃんは、自分のキャラクターには本名をつけたと言って……」
流石にフルネームではつけていないぞ。と、レイジは心の中でひとりツッコむ。
ちなみに莉亜の作成したキャラの名は【リア・ニゴレイアル】だったりする。
ふとキャラクタープロフィール項目が目に入る。
特に見る必要はなかったが、何となく見てみることにするレイジ。
《Profile DATA》身長173cm 体重54kg 3サイズ:95・59・91
「わ、わわっ!? 見るんじゃない!」
突如、横でリクライニングチェアに座っていたはずの武子が、素早くレイジの背後へ回ると両手で視界を塞いでしまった。
「おい、見えないのだが?」
「ひ、ひとの肉体数値を許可なく見るんじゃない!破廉恥なっ!」
キャラクリエイトでキャラの身体のサイズを入力することにより、身体特徴を出して個性を出すことができる。それが何故、数値を見られたくらいで恥ずかしいのだろうか?レイジは首をかしげた。
「あ、れいにぃ、それはね。自分の身体データを入力しないと、SVRヘッドギアがキチンと作動しないとか何とか、あたしが嘘ついたからだよー
つまり、その身長、体重、3サイズは武子ちゃんのカ・ラ・ダ! そのままの数値って事だね♪」
ウィンクを飛ばし、レイジに説明する莉亜。武子は顔を真っ赤にし、ぷしゅう~ と顔から湯気がでそうな様子だった。
「別に人に見られて困る数値じゃないだろ? 女で身長173あって体重が54なら十分軽いだろ? 標準体型の俺と身長が5センチしか変わらないのに、体重は10キロ以上俺のほうが重いのだからさ、別に気にすることな……」
「い、言うなぁぁぁッッ!!!」
突如、両手でレイジの視界を塞いでいた武子が、レイジの背中にしがみつくと同時に、右腕を首に回し右手を自身の左上腕を持ちつつ締め付ける。すかさず左手のひらをレイジの後頭部に触れるかのようにして、両手で締め上げた。同時に両足をレイジの腰のあたりから差し入れ、腹の辺りで足首をクロスさせホールドする。これでレイジは逃げることができなくなった。レイジは立膝の状態だった為、そのまま武子にもたれかかる形で後ろに倒れた。
これが、総合格闘技、柔術、プロレスなどで使われる技、チョーク・スリーパー。
日本語名は裸締めである。一度決まってしまうと、脱出は困難。必殺の技として武術家、軍人など多くの格闘技者たちに知られている。
「ガ、ガハッ! お、おま……ちょ! り、あ……たす、け……」
莉亜に助けを求めるレイジ。非情にも莉亜は、もう一つのサブモニターを見ながら自身のキャラのカスタマイズをしていた。気付いているにもかかわらず、無視する非情な妹。理由は言わずもがな、面白いからだ。もう一度言う、非情な妹である。
「わ、わすれろぉぉぉぉ! 去年はぎりぎり50キロだったんだぁぁっ!それが今年になってから急に……いろいろ、大きくなって……気付いたら50キロを余裕で超えてっ!」
レイジの本能が警報を鳴らしている。このまま行けば確実に意識が落ちると……。
だが、その時。ふいに何故かレイジに去来したのは、少し前にクラスの男子がしていた猥談の内容だった。
『なあ、知っていたか毒島っているじゃん? C組の女子』
『ああ! 知ってる。美人だよなぁ。おっぱいメチャ大きくてさあ!』
『毒島の胸のサイズ知っているか?』
『え? 知らない! 知っているのかよ!?』
『噂なんだけどな……。Iカップらしいぞ……』
『マジかよ !っべえ !っべえよ! それえ!!! あ~俺もそのIカップの感触を知りたいぜ~』
『ハハ、バ~カ。殺されるだろぉ? そんなコトしたらさぁ』
『いや~殺されてもいいから、その感触を知りたいじゃないかぁ~』
何故、こんなバカバカしいことを思い出したのか。レイジにはわからなかった。
ただ一つ分かっていることがある。
目下、レイジの背中は毒島武子の豊かでハリのある、かつ柔らかな双丘の感触を味わっているということだ。だが、レイジ自身は、武子の裸締めにより途端の苦しみを味わっている最中だった。
そう、これはまさに天国と地獄! いや、多くの男子にとっては天国かもしれない。しかし残念なことに、レイジはおっぱい星人ではなかった。生まれてから17年間、誰にも明かしていない秘密はあるのだが。
「が、がは……ま、ず、い。か、完全に……入った……がは……」
「わ・す・れ・ろぉぉぉ!!!」
武子が締め落としにかかる。チョークスリーパーは完全に決まった。
レイジの意識が薄れていく……。
意識が途切れる最後の瞬間、レイジは考察する。毒島武子の体重が増加した原因を。
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