第46話 村民奪還 -1
ルヴロ村から北西の方角へ進み、穀倉地帯を越えていくと広範囲に広がる雑木林に突き当たる。
昔は、燃料となる木材などを調達する為の燃料材生産場となっていたらしいが、現在は他領から木材を輸入したり、仙錬洸などの新たな燃料が主流となって来た為に、あまり使われなくなってきたという。
もっとも、ここサンスロティの領主であるヴリカ子爵が立ち入りを禁止してからは、人の出入りはないことになっている。
この雑木林の奥に、蜘蛛の子の拠点があるのだ。俗な言い方をすればアジトだ。個人的にはこの呼び方は好きではないが。
拠点の何処かにルヴロ村から、さらわれた女性や子供がいるはずだ。
オレとオヤジウスは先へと急ぐ。ただ、直接、蜘蛛の子が居る拠点へは向かわない。ブルカノ・ブルカンから教えてもらった隠し通路から行くのだ。
雑木林に入って、ある程度進むとオヤジウスとは別れる。オレだけ隠し通路があるという場所へ向かう。オヤジウスは、そのまま進み拠点の様子が伺える場所まで移動する手筈になっている。速い話、オヤジウスはオトリになるのだ。
オヤジウスの職業、テクノプリーストは防護障壁を展開することができる。自身の肉体を守りつつも、逃げ回り、敵を引き付けてもらうには、うってつけと言える。
アーマメントが、この世界において頑丈な性能を持つのは、ある程度は実証済みだ。ルヴロ村を襲撃した蜘蛛の子という賊集団は、以前、知り合ったタブサ率いるウェットワーカーたちや、エリスを裏切った騎士たちより劣るのは、誰が見ても分かることだ。
だが、油断はできない。中途半端な強さしか持たない連中というのは、強者の力量を見誤ることが多い。
騎士たちやタブサたちは、オレの強さをある程度理解した為、素直に引いてくれたが。蜘蛛の子たちはどうだろうか?
ブルカノ・ブルカンを倒して、ようやく納得してくれたほどなのだ。すんなりとはいかないだろう。
オレが賊連中を圧倒した場合、激昂した連中が女子供を人質にしたりなど、こちらを倒すための手段として使う恐れがある以上、慎重にコトを進めなければならない。
本来ならば、真正面から堂々と戦えるスペックがオレのアーマメントにはある為、少々歯がゆい思いをすることになるが、仕方がない。
それに、殺し過ぎるとオヤジウスがうるさいからな。
林を進んでいくと、廃墟となった炭焼き小屋らしきものがあった。外観はひどく荒れており、長い間使われていないようにみえる。
ただ、違和感があった。どうも最近、人が居た形跡を感じられるのだ。
オレは小屋に近づくと、部屋の中に入る。ドアなどの入口は無い解放された設計だ。小屋の奥には炭焼き窯があり、これも長い事使われていないようだった。レンガを積み上げた土台に、土釜が被せられて作られた炭焼き窯は、中に人が入れそうなほどに大きかった。
「まさか…… ほんとうにそういうことか?」
オレはブルカノ・ブルカンの言葉を信じ、その中に入った。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
まさかのまさかだ。四つん這いになって、中に入れるほどデカい炭焼き窯だとはおもったが、そこから地下に通路があって繋がっていたとは!
なんでまたこんな面倒なことを? 純粋にそう思った。
隠し通路が目立った場所にあっても仕方ないし、ある意味はカムフラージュになっているのだろうか?
それにしたって、手が込み過ぎている。実に謎だ。
これだけ凝ったシロモノを構築できるほどの拠点を、こんな場所に作っているのを許容しているヴリカ子爵は明らかに怪しい。
蜘蛛の子と呼ばれる賊の集団には、スポンサーがいると訊き出したが、そのスポンサーがこの拠点を作らせる事を認めるようヴリカ子爵に黙認させたのだろうか?
ヴリカ子爵の騎士団が、ルヴロ村周辺を見回りしているとの事だが、この一週間姿を見せなかったのは偶然ではないだろう。
ヴリカ子爵はルヴロ村が襲われることを黙認したのだ。そう考えるのが自然だろう。
蜘蛛の子はオレたちを知っていた。そしてそのスポンサーの存在。
つまり、蜘蛛の子のスポンサーは“キザシ・コルダート”ということなのだろうか。
オレたちを襲うために、村ひとつを利用するとは、何を考えているのか?
これが本当に田舎領主ひとりがやったことだとしたら、大問題ではすまないと思うのだが。
キザシ・コルダートとは、そこまで力を持っているのだろうか? 自分より上の爵位を持つヴリカ子爵を従わせることができるのほど、何か弱みでも握っているということなのか?
オレは脳裏に浮かぶ考えを振り払う。
今はそんな事を考えるより、村民を救出することが優先だ。
オレは通路を突き進む。通路は狭く、光源は無いが、複合的情報解析が持つ、暗視機能により視界は良好だ。
暫くすると、壁に突き当たる。壁には、はしごがかけられており、そこから昇っていけそうだ。
部屋か通路にでも繋がっているのだろうか?
ブルカノ・ブルカンは問題なく拠点内部に侵入できるはず、と言っていたが。
オレははしごを昇り、天井にあたる部分を調べると、取っ手があったので、それに触れる。
どうやら横にスライドさせることで動かせそうだ。
ゆっくりと、天井を動かす。すると、完全な暗闇から薄暗いまでに視界が変化する。どこかに光源があるのだ。
複合的情報解析の暗視機能はそのまま、身を屈めつつ周囲をうかがう。
どうやら何かの倉庫らしい。食糧や燃料、武器などの物資が見られるが、いずれも乱雑に置かれており、この倉庫の担当者は整理整頓という考えがないらしい。
オレは不用意に音を立てないようにする為と、姿を見られないようにする為、【認識遮蔽】を発動する。名前の通り、自身をステルス状態へと移行させるEFスキルだ。
自身の姿を視認しづらくし、ある程度の動作音を抑えることができ、うまくやれば対象の近くまで寄っても気づかれにくい。
EFスキルが発動すると、オレの姿は暗がりに溶け込んでいった。
「地下の隠し通路を通ってきたはずなんだが……。まだここは地下なのか?」
ひんやりと、温度が低く、なんとなくだが湿度が高い気がする。複合的情報解析の計測モニターにもそれを裏付けるデータが表示されている。
オーバーヘッドマップには20人ほどの熱反応を示す、赤い点が表示されていた。これは賊なのだろうか、それとも捕らえられた村民なのだろうか。
隠し通路が倉庫に繋がっていたとすると、他の部屋はなんなのだろうか? オレは倉庫を出ることにする。幸いなことにドアにカギはかかっていなかった。ツイてる。
そとに出ると狭い廊下があった。きちんとコンクリートなどの材料を使い補強してあるのだ。改めて本格的な作りに、驚いた。賊集団のくせになまいきだな。
オーバーヘッドマップを見ると廊下には、いくつかの部屋があるが、オーバヘッドマップに熱反応はみられない。
さらに先を見ると、通路の先はT字路に別れており、もう一つは上へ行く為の階段があり、もうひとつは同じ階にある別の部屋へ行く道のようだ。同じ階の部屋には熱反応が複数あり、わずかだが、話声が聞こえる。
この小さな音声は複合的情報解析の力なくして、拾うことが出来なかっただろう。
熱反応のある通路を進むとことにする。
その通路に近づいていくと、匂いがした。人の匂いだ、たちこめた体臭が通路まで漏れているのだ。薄暗いのは奥に光源があるからだろう。僅かな光が漏れているようだ。オレは、ゆっくりと歩を進める。
通路を進み、その部屋の前まで来る、ドアは無いのでそのまま入る。
そこは牢屋だった。オーバヘッドマップの熱反応は、ここに囚われていた女性や子供のものだったのだ。
通路を挟むように両側に牢屋があって。女性と子供が一緒に囚われていた。
逃げ出す気を失わせるように仕向ける為、みんな下着姿などの半裸にされており、その様子は見ていて痛ましさを感じさせる。
囚われている女性たちは皆、妙齢の女の子ばかりだ。子供は男の子と女の子が一緒の牢に入れられていた。片側に女性、もう片方が子供というように分けられている。この分け方の意図は知らない。知りたくもない。
不快感が腹の下から湧き上がってくるようだった。
ああ、そうだろうよ。女性を捕まえた野盗やら盗賊なぞの連中がやることなぞ、一つだろうからな。
通路を挟んだ両側の牢に入っている者たちは、誰一人、オレの存在には気づかない。
認識遮蔽がきちんと機能しているからだ。
どうする? 姿を見せてから、牢を破壊して、隠し通路から逃がすか? その前に手筈通り、オヤジウスに連絡して注意を引き付けてもらうか?
そんなことを考えていたときだ。誰かが通路を通って近づいてくるのがわかった。二人分の足音は徐々にこちらの牢屋へと向かってくる。
オレはこの部屋の奥にある壁まで移動する。ここで様子を見る事にする。
近づいてきたのはふたりの男だった。間違いなく蜘蛛の子の構成員だろう。
どちらも、わかりやすいほどにテンプレな下卑た顔つきに、汚らしい恰好。そして酒と汗が混じった不快な体臭。どの世界でも女性から嫌われる格好だ。
ふたりのうち、片方は仙錬洸を使用して作られた照明器具を持っている。
オレは身じろぎ一つもせず、声も上げずに黙って、その光景を見守った。
「うぃ~ ヒック、オイ、次はどいつにするかなぁ~」
「おい、リッド、あの赤髪の女がいいぜぇ、体つきがたまらねえだろ、安産型なのもいいな!」
男は腰にぶら下げていた鍵束から鍵を選び出すと、女性たちがいる牢の鍵を開けるようとする。
女性たちは皆で固まり、後ずさりして壁まで寄って集まっていた。それぞれの顔には怒りや恐怖などの色が浮かんでいる。
男が牢の鍵を開け、中に入ると、赤い髪の女性、いや、女の子に迫っていく。イヤらしく下卑た笑いを浮かべながら、男が女性の腕を掴んだ。
「おらっ! さっさと来いやぁ! 可愛がってやるからよぉ?!」
「イヤっ、ヤだっ! ヤメて!!! 放せっ! はなしてッ!!!」
男は、赤い髪の女の娘を無理やり押さえつける。
「ひゃははは!!! イイ声じゃねえかぁっ! どこまで続くかなぁ! 楽しみねぇ~っ!?」
もうひとりの男が凶悪な笑みを浮かべつつ、牢に入り、男の手伝いをしようと、女の娘に近づく。
赤髪の女の娘は、二人の男に力づくで押さえこまれる。彼女の顔は悔しさと怒りで溢れ、涙でぐしゃぐしゃになっている。
「やめて、やめてよお! お姉ちゃんをはなして!!!」
「おねがいです! やめてください!!!」
反対側の牢にいる子供たちが泣きながら懇願する。
だが、男たちは気にも留めず、蛮行を続けていた。女の娘を押さえ込むフリをしながら、彼女の身体をまさぐっているようだ。
ゴミカスめ。
ああ、ダメだ。こういう連中には反吐が出る、我慢できそうにもない。
桜野には、スマートに救出するよう念を押されていたが、こうやって醜悪な光景を目の当たりにすると、約束は守れそうにもなかった。
桜野がオレから感じた恐怖。それはオレの中にある暴力性なのだろうか……。
日本で17年暮らした影響で、少しはマシになったと思っていたのだがな……。
まあ、いい。桜野をオトリ役にして正解だった。
これから起こるであろう、楽しい光景を見せずに済むのだからな……。
オレは認識遮蔽を解除する。これで皆、オレという存在を認識できるようになったはずだ。
だが、皆、赤い髪の女の娘のほうに意識が行っており、こちらには気を払っていないようだ。
だので、オレは声を上げて、こちらに意識を向けさせることにした。
「やあ、お二人さん。楽しそうなことをしているね。どうだい? 代わりにオレと遊ばないか?」




