第45話 隠し通路 -拠点
「アン?! ジスエクス・ニゴレイアル! 再び我に会いに来るとは!? さては我に惚れたか?!」
「いや、全然」
「即答?! アァァンまりだろう! それは!?」
オレとオヤジウスの二人は、再度、ブルカノ・ブルカンが拘束されている厩舎に訪れていた。
見張りをしていた村人たちには、適当に理由を付けて説明し、ブルカノ・ブルカンを連れ出すことに成功した。
オヤジウスが体格的には見劣りしない為、右足を失ったブルカノ・ブルカンを支えながら歩く。
近くに空いていた家があった為、勝手にお邪魔させてもらう。鍵は掛かっていなかった。
恐らくは、連れ去られた住民の家なのだろう。
厩舎から移動したのは理由は単純、これから誰にも聞かれたくない話をするからだ。
ブルカノ・ブルカンを椅子に座らせ、オレとオヤジウスは立ったまま彼と向かい合う。
彼は、怯えたり震えたりするような様子も無いが、かといってあのような不遜な態度も無かった。
「なぁ、ブルカノ・ブルカン。おまえさん、オレに話していないこと、あるだろ? 蜘蛛の子の拠点についてさ」
「アァン?! 我を信じないのか?!」
「そういうワケではないがな。そういった拠点には脱出経路のようなものを用意するのは当然のことだ。あるんだよな?」
「……あるにはある」
複雑な顔をしつつ、渋々答えるブルカノ・ブルカン。
「やはり。何故、言わなかった?」
「ァァン…… 相手が賊といえど、恩がある。世捨て人同然になった我を拾い上げてくれたのだ、せめて、それぐらいは黙っておくのは仁義ではないかァァン?!」
苦々しい表情を浮かべながら、ブルカノ・ブルカンは答えた。
「答える気はない?」
「恩があると言っただろうアアン?!」
「そうか。あ、そうそう、突然で悪いが、今から話を変えるぞ。なぁ、ブルカノ・ブルカンよ、人生やり直す気はないか? その気があるなら、見逃してやるよ」
「ハハハァアアン!!! 笑わせるなァァン! この足でどうやり直すのだァァン?! 乞食でもやれというのかァァン?! ジスエクスよ! 面白い女だァァン!?」
破顔しながら自嘲気味に声を上げるブルカノ・ブルカン。
「オヤジウス、やってくれ」
「わかったのヨン♪」
オレは、オヤジウスに【医神の祝福】を使用してもらい、ブルカノ・ブルカンの右足を再生させることにした。
CULOにおいて、【医神の祝福】というEFスキルはプレイヤーキャラクターのHPとEFPを完全回復させる効果を持つ。
「フォフォ、そんじゃあ使うヨン。ちょっと待ってね♪ 医神の祝福!」
言わなくてもいい技名を言って、オヤジウスはEFスキルを使用する。
彼の身体が鮮緑色の光を帯びていく。わずかに鮮緑色の光粒が立ち昇っていく。
既に朝陽が昇っているとはいえ、部屋の中は薄暗かったが、EFスキルを使用したオヤジウスの影響で部屋の中は眩い光で満たされていた。
ちなみに、このEFスキル医神の祝福は効果が高い回復系EFスキルのせいか、発動までの待機時間が長い。それでも魔法職が使用する強力な攻撃魔法よりは、待機時間が短い。
やがてEFスキル発動までの待機時間が終わり、【医神の祝福】が発動する。
オヤジウスの身体から閃光が発せられると、共に鮮緑色の光柱が、ブルカノ・ブルカンを包み込む。
暫くの間、光柱は彼の身体を覆っていたが、傷の修復が終わった為、光柱は消失し、周囲に光の残滓が飛散する。部屋を満たしていた光も、当然失われていった。
「あ、アアン!? どうなってんだァァン?! 我の! 我の右足が治っている?! いや、生えてきたァァアン?!」
ブルカノ・ブルカンは驚愕していた。ムリもない、この世界の常識では、仙技や法術によってある程度の傷は治せても、ここまでの傷は治すことはできない。ましてや失った足を再生することなど不可能だ。
「うふん、どうなのヨン? 驚いたかヨン。これがファッションホモの神髄ヨン♪」
ファッションホモという理解不能な概念が、どうやってコレと関係するのかは不明だ。
驚きが収まらないのか、ブルカノ・ブルカンは座ったまま、蘇った右足を何度も伸ばしたり曲げたりなどをして、新たな右足の感触を確かめている。
「すげえ、こんなのは見たことも聞いたこともねえァァン?! どんな奇跡だァァン?!」
「どうだね? これが奇跡の法術師、オヤジウス・オッサンディア様のファッションホモ的妙技だヨン」
何故か勝手な呼称を付けられるEFスキル。
ブルカノ・ブルカンはオヤジウスの顔と自身の足を、何度も交互に見比べるや感嘆の言葉を述べる。
「ァァン! すげえぜ! オヤジァァン?! アンタすげえ法術師だァァン!!! それにしてもファッションホモか……。よくわかんねえけど、すげえ術なんだなァァン! ファッションホモ…… 口にするだけで心地よく、神々しさを感じる名前だぜアアン!!!」
ブルカノ・ブルカンは勘違いを重ねていく。
ファッションホモという意味不明な単語が、のちのち、この世界に広く伝わっていくことになるのだが、今はまだ知る由もない。
「時間がないのでな、手短にいくぞ。秘密の通路的なモノはあるんだろ? 教えろ」
「……我が、嘘を言うとは思わないのか? 改めて問う、何故、我を助けた?」
「言っただろ、あんたの技に光を見たと。いや、まあ、単純に気に入ったんだよ」
「アアン?! ただ、それだけの理由で罪人である、我を見逃すというのかァァン?!」
「そうだ。オレは正義の味方でもなければ、善人でもない、もちろん役人でもない。罪人であるあんたをお上や冒険者ギルドに引き渡す義務は無いからな」
ブルカノ・ブルカンは困惑気味な表情を浮かべながら、こちらの様子を伺う。何かを探っているようにもみえた。
意を決したのか、彼はこちらに問うてくる。
「我に何をさせようと言うのだァァン?!」
「別に何も、これから先の人生は自分で考えてくれ。ただし、賊はやめろ。もし、また出会った時、野盗や盗賊まがいの事をやっていたら、その時は殺す。それだけだ」
「人生やりなおしか……。やってみるかァァン」
目と目が合う。これまでの人生において、ブルカノ・ブルカンの目には常に怒りや空虚といった感情が満ちていたのだろう。
しかし、彼の目に、目下そういったものは無かった。あるのは困惑、そして新たな門出の予感だった。
ブルカノ・ブルカン。これはきまぐれだ、何かお前に期待している訳でもない。
ただ、きっかけを貰った人間がどうなるのか、少し興味が出ただけだ。せっかくのチャンスだ、きちんと生かせよブルカノ・ブルカンよ……。
オレは密かに、彼のこれからの人生に幸あれと願った。




