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第44話 告白 -前世


 貸し与えられた家を出ると、すぐに桜野(オヤジウス)の後ろ姿を見つけた。

 あれほどの異様な体型だ。見間違えようもない。


 すぐさま駆け寄り、悠然と歩く、その恵体を捉まえる。



「おい、ちょっと待て。一体どうしたというんだ? さっきから様子がおかしいぞ? あの物言いはなんだよ?」



 桜野(オヤジウス)が身体ごと振り向く。彼の顔に、いつもの陽気さはない。


 あるのは訝し気に、オレを見つめる目だ。その目には、いつもならばオレに向ける、親しみや信頼といった(たぐい)のものは感じられない。


 どこまでも疑いをもった、彼の眼差しに、オレは少し怯みそうになる。アーマメントをまとった姿とは言え桜野圭一(オヤジウス)が、こんなにも普段と違う雰囲気を醸し出すとは。


  桜野(オヤジウス)は目を細めると、警戒した様子を崩さぬまま切り出す。



「レイジ、あれはどういうこと? 村で暮らしていた女性や子供がさらわれたんだ。それを助けるのは当然じゃないの? 何故、あんな冷たいことを言うの?」


「何をいまさら、目立つ事は避けると言わなかったか? 日本に帰る為に俺たちは行動しているんだぞ? 慈善活動の旅じゃない」


「日本には帰りたいけど、目立つ云々の話は覚えてない。人助けの何が悪いの?」



 食い下がる桜野(オヤジウス)。わざとやっているのだろう、イラつきが再燃してくる。

 先ほど家でやったやり取りの延長をする気はない。オレは怒鳴りながらオヤジウスに言った。


「意味の無いことをするなと言っている! 他人なんざ構っているヒマはないんだよ! 莉亜を、高場、毒島、KOSAMEさん、皆を見つけ出した後、この世界から脱出する。これが俺たちの目的だろ?! それも目立たないようにやらなければならんのだぞ?! 何故わからんのだ?!」


「人助けしたら評価されて、何かいいことに繋がるとか思わないの?」


「そんな都合のいい事なんかならねえよ! ()()()()()な、倫理だとか人権だとかが、無いに等しい世界なんだよ! 他人なんざ信用できるかよ! 出来るだけこの世界とは関わらない。それが一番なんだ」



 オレには桜野の気持ちが理解できなかった。何故、こんな知らない世界に飛ばされてまで善行をやろうとするのか。自分は大切じゃないのか?


 桜野(オヤジウス)は目を伏せる仕草を見せた後、オレの目を見つめてくる。茶化しは一切なく、いつになく真剣な面持ちだった。



「あのさ、さっき時間があるときに話があると言ったよね。それ、今言うよ。いいかな?」


「あ、ああ。いいけど」



 桜野(オヤジウス)は更にオレに近づく、すぐそばまで寄って来た為、傍から見れば男女がいい雰囲気になっていると、勘違いする者がいるかもしれない。


 だが、ふたりを包む周囲の空気は違うものだ。


 桜野(オヤジウス)はオレの顔に顔を近づけて、小さな声で言った。



「――レイジ、君は…… ()()()()なんだ? ボクの考えでは、君は、この世界の出身だと思っているんだが、どうなんだ?」




 ドクンと、心臓が跳ねた。そんな気がした。


 桜野(オヤジウス)の声色は、いつものカン高い、ふざけたオタク口調のものではなく、低く重々しい口調だった。


 


「何を言っているのかわからない。例のホモ異世界小説とやらの読み過ぎか?」



 その場しのぎで、つまらない誤魔化しをしてしまう。



「読み過ぎなのは認めるけど、誤魔化すのはやめてくれ。この世界に来てからの君は違和感がありすぎるんだ。いや、ある意味違和感はないけど」



 桜野(オヤジウス)の言葉を聞き、オレは思わず黙ってしまう。


 それを受けて、桜野(オヤジウス)は話を続ける。その目はオレの瞳を捉えたままだ。



「君との出会いは小学校4年の始業式だっけ? たしかお父さんの都合で転校してきたんだ。あの時、先生に連れられ教室に入って来た時のことはよく覚えているよ」



 オレは覚えてない。何故、彼はそんなことを覚えているのだろうか。



「小学生なのに、とても大人びていて、まるで子供らしさが無かった。周囲から一歩引いたような態度を崩さない子供だったよね。その時ボクが思ったのは、この世界に溶け込めない浮いた子、そんな印象だったよ」



 口を挟まず、黙って彼の次に紡ぐ言葉を待つ。



「変な話、ボクもいびつな子供だったから、君に親近感を持ったんだ。ボクから声を掛けて、そして仲良くなった。でもさ、友達付き合いをしていくたび、君への違和感はどんどん大きくなっていったんだ。

 ボクは単純に周囲に合わせることができない子供だった。でも君は違った。

 そう、君は何ていうか…… 妙な貫禄があるというのかな。そうだよ、あれは…… まるで違う世界から来た人間、そんなバカことをボクに感じさせるほどのオーラをまとっていたんだよ」



 桜野(オヤジウス)が子供心に、そんな事を考えていたことを知り、驚いてしまう。



「気のせいじゃないのか? おまえ、思い込みが激しいところがあるし。それに成長する度に、そういう部分は治っていったと思うが」


「そうだね、でもさ、この世界に来て君と再会したとき、妙な事を思ったんだ。それがどんなことか分かるかい?」



 彼はオレの答えを待つかのように沈黙する。仕方ないので一言だけ口を開くことにする。



「いや、見当もつかない」


「おかしなことにさ、初めて君が持つ()()()()()()()()()()()()んだよ。自分でも不思議だったよ、どうしてそんなことを思ったのか」



 彼は続ける。



「それから君があの連中に啖呵を切ったときのことさ、君はまったく気づいて無かったみたいだけどさ、素人のボクでも分かる程、異様な殺気を出していたんだ。あそこにいた()()の連中は皆、困惑していたよ。ボクはあの修羅場の真っただ中にいたからね。

 周囲の空気が変わる瞬間をこの身で感じ取れたよ。

 わかるかい? あそこにいた連中は、君が放ったEFスキルの威力に、恐れをなしたわけじゃないんだ。

 君が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に恐れをなしたんだよ」



 言葉が出なかった。そんなつもりは無かったのだ、ただ、あの時は必至で桜野(オヤジウス)を救おうとしただけだったのだから。



「あの姿は、まったくもって違和感が無かったよ。はじめて君がしっくりきたと言えばいいのかな」


「印象でしかないだろう、それは」



 オレは誤魔化す。オレにとっても、得心がいくであろう彼の説明を無視して。



「もうひとつあるよ、君がいままでにボクに教えてくれた、この世界に関する知識だ。君はタブサという男から聞いた話だと言っていたけど、人から聞いたふうな素振りじゃなかった。まるで最初から知っていたような感じだった。まるで違和感がないしゃべりだったよ」


「それも印象でしかない」


「そしてもう一つ、昨晩、君はEFスキルで平然と人を殺傷したよね? やった後、君はとてもショックを受けているだろうと思って、ボクは励まそうとしていたんだ。でも、君はまるで気にしていないようだった。現代日本に生きている高校生のメンタルでは、あり得ないよ。それがごく当たり前のように振舞っている君を見て、ボクは恐怖を感じたくらいさ。

 でも、前世の君が、この世界で生きていた人間だと仮定して、そういうことをしていた人間だと言うならば、納得できなくもないけどね」



 マズイ、この流れはマズイ、桜野(オヤジウス)は確信があるような言い方だ。更に何かあるのだろうか。



「更にもう一つ、こっちは説得力があると思うよ。トートの集落でのコト、覚えているよね?」


「ああ、それがどうした?」


「あの時、覚えているかい? プルートでトートでの事態を聞いて、ボクが飛び出していったこと。二人でトートまで向かったでしょ? 超過走法(オーバーラン)を使って全力で走ってさ」


「ああ! だから覚えているって! なんだよ?!」


 

 少し苛立ちが再燃してきて、語気が荒くなる。



「プルートの町からトートの集落へ行く前に、分岐路があったよね? 4つに分かれていた。 でも、ボクはグラガ町長に、どの道を行けばいいか聞きそこなったんだ。

 そうそう、丁度そこには立て看板があったんだよ。その看板は、分岐路の行き先を案内する看板だったんだ。

 当然、ボクは読めない。このアーマメントには言語翻訳機能は付いているらしいが、目で見る文字を翻訳する機能はついていないらしいからね」



 クソ、あの時は逼迫した状況だったせいで、考えが回らなかったんだ。うっかりミスを犯したとは思ったが、その後、桜野(オヤジウス)から反応が無かったので、彼も気づかなかったと思ってしまったんだ。



「あの時さ、何故、一番左だと思ったの? まるでこの世界の文字を読めているようだったよね?」


「グラガ町長に訊いたんだ。そうしたら一番左だって……」



 オレが言い終える前に、彼は遮るように言った。



「事態が落ち着いたあと、ボクはそのことについて町長や、あの場に居た人に訊いたんだ。そうしたら、誰もあの時、そのことは訊かれていないと言ったんだ」


「ただの勘だよ。たまたま選んだ……」


「やめてくれ、時間もないし、はっきりと言うよ、ウソはつかれたくないし、正直、君が怖いんだ。自分の中にあるモヤモヤを、すっきりさせたいんだ。そして何よりも君を信じたいんだ」



 桜野(オヤジウス)は感づいている。誤魔化そうと思えば、無理やりにでも誤魔化せるだろう。


 でも、どうする? 彼は疑ったままだろう。

 彼の中に生まれた疑惑。それは、この先、深刻な軋轢を生むのではないだろうか?


 日本で出来た大切な友人、その友人との間に生まれた歪が元で、()()裏切りに繋がったりするのだろうか?


 オレは思索する。


 気付かれた以上、ひとりくらいなら話しても良いのではないだろうか?

 桜野(オヤジウス)は変人ではあるが、基本的に善人だ。義理堅いし、口も硬い…… 多分。



「ひとつ約束してほしい事がある」


「なんだい?」


「オレの()()の名前、そして過去の経緯について一切訊かない事。そして、この事を誰にも言わない事。もちろん、莉亜や他の人間にもだ」



 桜野(オヤジウス)の厳しかった表情が緩んだ。

 そして、いつもの口調で彼はオレに話しかける。



「よかったの()()! これで友達を信じられるの()()!」



 

 


 

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