第42話 ルヴロ村 -現状
ブルカノ・ブルカンが倒されると、“蜘蛛の子”一味は完全に戦意を喪失、あっさりと武装解除してくれたので、生き残った一味の大多数を捕縛することができた。一部は取り逃がしたが仕方ない。
戦意を喪失し逃げる者の背中を撃つのはオレの趣味じゃないし、現場に人手が足りなかったので、やむを得ないといっていいだろう。
桜野にPVCで連絡を取り、事態が収束したので戻ってくるよう伝えた。
敵の追撃が気になっていたが、桜野によると誰も追ってはこなかったそうだ。
脱出経路を閉鎖し、蜘蛛の子一味が勝った気でいてくれたのが幸いしたようだ。
それよりも少し気になったことがある。桜野の様子だった。
PVCで話した際、いつものボケが飛び出さないどころか、オレの問いに対して、ただ淡々と答えるだけだったのだ。
まるで一線を引いているかのように。
一体どうしたのだというのか?
「これで元通りだよ」
桜野は重傷を負った二人の騎士を含めて四人の騎士を全回復させ、治療を受けた騎士たちは口々にオヤジウスの法術のすごさや、オレの戦闘力を誉め称えたり、感心したりしていた。
それでもオヤジウスの表情は暗い。いつもならばオーバーリアクションをもってボケつつ、無駄に誇らしげな態度をとるのが通常営業なのだが。
エリス達の無事を確かめた後、オレ達は姿が見当たらない村民たちを探すことにした。
ルヴロ村の村民はあっさりと直ぐに見つかった。姿を消していた住民は、村長の家や比較的大きな家などに集められ、拘束されていたのだ。
ただ、ひとつ気になったのは、拘束されていた村民の中に若い女や子供の姿が見えなかった事だ。
ルヴロ村の村長を見つけたので、エリス護衛部隊隊長であるアスライドが代表して尋ねることになった。女子供はどこに行ったのかということを。
「そ、それが! そいつらが連れいっちまったんですだ。ハイ。売って金にすると言っていましたですだ。はい」
何処に連れて行かれたかまでは分からなかった為、今度は捉えた蜘蛛の子の副長ブルカノ・ブルカンに訊くことにしたのだが、アスライドがいくら尋ねても一向に口を割らない。
多少痛めつけたらしいが、ブルカノ・ブルカンはそれでも怯まず、頑として黙秘を貫いているようだ。
オレはエリス達と今後の移動計画について話していたのだが、会話を遮る形でアスライドが呼びに来たのだ。
アスライドによると、ブルカノ・ブルカンはオレとじゃなければ殺されても話さないという事らしい。
とにかく、ジスエクス・ニゴレイアルを出せとの一点張りだという。
アスライドにせがまれ仕方なく、ブルカノ・ブルカンの元へ向かう。
捕縛された蜘蛛の子の構成員たちは、厩舎に集められていた。
人数は19人ほど。当初50人くらいは居たハズだが、オレや騎士たちが先の戦闘で倒したり、逃げたりしたせいで、かなり少なくなったようだ。
「アア? アアン! よく来たなアァン。ジスエクス・ニゴレイアル! 我を倒した女ァアアン! こんなシケた場所でナンだが歓迎してやるぜアアン!!!」
ブルカノ・ブルカンはオレに倒された後、こんな糞と飼葉の匂いが漂う場所で拘束されているというのに、尊大な態度はまるで崩れていない。
部下たちはいずれも足を縄で縛られ、さらに手を後ろに回され手首を長い縄で結束しつつ、そのまま身体をぐるぐるに巻かれている。
ブルカノ・ブルカンも部下と同様、縄で体を縛られているが、他と違うのは手を後ろに回され、手首に専用の結束具が適用されている点だ。騎士たちが持っていたものを使ったらしい。
これだけの男を相手に、縄だけじゃ心もとないという判断からだ。
なお、足は縛られていない。オレが右足をひざ下から吹き飛ばしたからだ。
包帯が巻かれて簡易的な治療はしてあった。出血は少ない、ブルカノ・ブルカンが仙技である【錬仙功】を使えるからだ。
錬仙功は身体能力を向上させ、強化するだけでなく肉体のダメージを軽減する機能がある。肉体を治すわけではない、あくまで傷の進行を軽減するというだけだ。
ちなみに肉体を修復する仙技【錬仙癒】というものはあるが、さすがに失った足を生やすことはできない。
オレは脂汗を額から垂らしているブルカノ・ブルカンと向き合うと口を開いた。
「オレと話したいとか? オレにしか話さないということだが?」
「アアン? 当たり前だろう? アァン、我を倒した者だからこそ、訊く権利がある。我を倒した者だからこそ、訊かれたら我は話す義務がある。そう思わないか、アアン?!」
良く分からない理屈だが、彼の中にある矜持において、それは遵守しなければならないことなのだろう。せっかく話してくれる気があるのだから、気が変わらぬうちに訊いてしまうことにした。
「このルブロ村にいるはずの女子供の姿が見当たらない、どこへやった? 教えてくれ」
「アァン?! せっかちな女だな。そう急くなアァン?! まぁ話でもしようやアアン?」
「急いでいるんだ、そんな暇はないんだが……」
「アン?! つれねぇことを言うなよ。すこし雑談にでも付き合え、そこの騎士どもはつまらねえからな。女ァ…… いや、ジスエクスよ。我はおまえが気に入った。
本来ならばおまえみたいな華奢な身体の女は好みじゃないのだがなアアン。我は肉付きの良い女がタイプなのだアァン?!」
こいつの好みの女性に関するコトなぞどうでもいいのだが、話に付き合えば聞かせてくれるというのだから、観念して雑談に興じるしかないだろう。オレは諦めてコイツと話すことにした。
「それで? 何の話をするんだ?」
「アアン? 知れたコトよ。我の最大必殺“ブルカノ・ブルカン”をああいう形で破ったのは貴様が初めてだ、だからこそ訊きたい。どうやって破った?」
正直、そんなことを聞かれても困ってしまう。この頑丈な【アーマメント】という肉体と【複合的情報解析】の軌道予測を使って攻撃を見切り、無理やり防いだということは黙っておかなければならないからだ。
「いや、なに、防げたのは偶然だ。錬仙功で肉体を強化して、技の起こりを感じ取って、振り下ろされる三節棍の軌道を読んで防いだだけさ」
結構なウソを織り交ぜて説明する。これでも元・仙技使いだ、こういう戦いは前世ではいくらでもやってのけてきたのだ。
「アァン?! ちょっとやそっと錬仙強化したくらいじゃ、我の技は防げないのだがな…… まぁ、いい。負けたのは事実、貴様も漏洩したくない技の秘密はあるのだろうな。敗者は勝者の憐れみ以外では、訊く権利はないからなアアン?」
適当な説明だった気がするが、勝手に納得してくれたので良しとしよう。
オレは肝心なことを訊くことにする。女子供は何処に連れていかれたかということだ。
「アン? オレのボスが小遣い稼ぎをしたいと言ってな。ここの領地における、我らの拠点に送ったよ。貴様らのせいで大分減らされたが、大勢の構成員を抱えているものでな」
「拠点? そんなものがあるのかこの領地に?!」
「俺たちの支援者からの仕事の為に必要だからな」
「支援者? いや、まあいい。それより場所は何処だ? 答えろ」
ブルカノ・ブルカンは鼻をこする仕草をすると、少しの間黙り込む。考えを巡らせているのだろうか、視線が宙に浮いていたが、やがてオレを真っ直ぐ見つめたのち口を開いた。
「ここから北西の方角をずっと行くと広大な雑木林がある、かなりの広さだぜアアン! 今は訳あって、ここの領主が進入禁止地域に指定しているがな。凶獣が出るとか悪霊が出るとか、嘘っぱちのウワサを流した結果、人っ子ひとり近づかない場所だぜアアン?!」
「そこにいるのか? ここの村からさらわれた人たちが?」
「アアン!? さぁな? オレなんかの言うことを信じるのか? アアン?」
オレはブルカノ・ブルカンの眼をみつめる。
この男は粗暴なようで、何処か技に光を感じさせるのだ。
どういうわけか、そんじょそこらの野盗には持ち合わせていないだろう、矜持や誇りをブルカノ・ブルカンは感じさせてくれる。
敵ながら、オレは心のどこかで男の事を気に入っていた。
「ああ、信じるよ。オレのカンがそう言ってるんだ」
「アァン? なんだよ……そりゃ……」
ブルカノ・ブルカンは困惑した表情を見せる。
オレは彼が先ほど口にした【支援者】とやらについて訊いてみるが、正体はおろか名前すら知らされていないとの事だった。
ブルカノ・ブルカンによると、定期的に支援者の使いが現れ、活動資金を蜘蛛の子に届けるそうだ。この蜘蛛の子という組織は、その支援者の為に作られたものではないかとも言っていた。
話しぶりから、ブルカノ・ブルカンは設立当初から居たわけではないようだ。
とにかく、蜘蛛の子のボスならば何か知っているの可能性は高いだろう。
「ま、いいさ。それじゃあな」
オレはきびすを返し、ブルカノ・ブルカンに背を向け、その場を離れようとした。
最後に一つ、オレは気になることがあった為、彼に訊くことにした。背は向けたままでだ。
「なぁ、あんた。あんたの技、自己流で磨いたワケじゃないだろ? その棒術はきちんと正規の手法で習ったものだ。
あんた、昔どこかの家に仕えていたんじゃないのか?」
「わかるのかアアン?! その若さで大したもんだアアン! その通りだ、よくわかったな」
「まぁな。なぁ、何故こんな野盗紛いのことをしている? あんた程の男がどうしてこんな下らない組織に身を置いているんだ?」
ブルカノ・ブルカンは遠い目をして少しの間沈黙すると、話し始めた。
「あんた家族はいるか?」
ブルカノ・ブルカンの言葉を聞き、オレの脳裏に新瀬家の家族の顔が浮かんだ。
「ああ、いるよ。それが?」
「あんた、その家族を失ったらどうする? どうなると思う? 人間ってのは、大切な者を失くしてしまったらどうでも良くなるんだよ」
彼の言葉を聞き、オレの心は重くなる。口を閉じ黙って彼の続ける言葉を待つ。
「昔な、戦から帰ってきたら、村が焼かれていてな、妻と子供を失ったよ。アアン! よくある話だ。そんなことになったらな、人間どうでも良くなるんだよアアン?! 大切な者を失った人間はな、その先を奪われてしまうんだよ。本当にどうでもよくなるのさ、気が付いたらこうなっていた。
アアン? 良くある話だろ?」
オレは気が重くなった。
もし、新瀬の家族を失えば、オレも彼と同様にどうでもよくなってしまうかもしれない。
オレは最後に彼に伝えることにする、オレの考えをだ。
「なぁ、ブルカノ・ブルカン。人生なにがあるかわからん。もう終わりと思っていたら、意外にも新たな展開があるかもしれない絶望するのは早計だ。これは経験者からの忠告さ」
それだけ言うと、オレは厩舎を後にする。
数歩進むと、思わず心の中で自嘲してしまった。
オレは一体、何を偉そうに言っているんだか……。
そんな大した人間でもない癖に!
◇ + ◇ + ◇ + ◇
厩舎を出ると、桜野が現れた。俺に用があるらしい。
桜野はオレに近寄り話しかけてきた。
すぐに違和感に気付いた。いつもと様子が違うのだ。
ニヤけた表情は一切なく、まとっている雰囲気がまるで違うのだ。
いつになく神妙な面持ちの桜野に、オレは少しあっけに取られてしまう。一体どうしたのだろうか?
彼は少しうつむき加減で地面に目をやりながら、言葉を投げかける。
「ジスエクス、あとで話がある。時間があるときでいい、顔を合わせてキチンと話したい。大事な話なんだ、いいかな?」
「え? あ、ああ…… わかったけど」
それだけ言うと桜野は去って行った。
一体なんだというのだろうか……。




