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第41話 蜘蛛の子 -3

「アアン? そうだな、女ァ! まずは名を名乗れい! 聞いてやろうではないか!!!」


「イヤ、あなたさぁ…… 訊きたいなら自分の名前を名乗るのが先でしょ?」



 大男は鼻先を親指で擦りつつ、少し考えるような仕草をすると『それもそうだな』と頷いた。



「アアン?! 我は“蜘蛛の子”が副長! ブルカノ・ブルカン様だ! 女ぁ! この偉大な名を貴様の胸に刻む事を許してやろう!」


「あ、はぁ…… まあ、覚えやすい名前なんで、記憶には残るかと」


「アン? まあいいだろう。して、貴様の名は? こちらが答えたのだ。答えろ女ぁ! アアン?!」



 何故か毎回叫んでいる印象がある大男の名は【ブルカノ・ブルカン】というらしい。名乗ってくれた以上、こちらも返さねばならないだろう。



「――ジスエクス・ニゴレイアルだ」


「アアンッ! 聞いた通りの名だな。おまえがそうか、あまり強そうにはみえねえ」


「知ってたのかよ、誰に聞いた?」


「アン?! そいつは言う必要はねえな。これからおまえはこのブルカノ・ブルカン様にやられるのだから。教えたところで意味がねえ、しょうがねえ、アアン?!」



 ブルカノ・ブルカン様とやらはえらく強気だ。この傲慢(ごうまん)さ、誰かを思い出すな。



「アン? 誰だと思っただアアン?! ブルカノ・ブルカン様は一人だけだアアン?! わかったかアン?」


「あ、ハイ。あんたの名前は完全に覚えたよアン」


「アアン?! 使い方がなっちゃいねえぞアアン?!」



 “アン”の使用方法が適切でないことを指摘されてしまうオレ。



「あ、ハイ。すいません」


「アン?! 素直じゃねえか、わかりゃあいいだぜぇ?! アアン?!」



 惚けたやり取りを続けても仕方ないので、視線を移動させると、アスライドに二人の騎士のダメージの度合いを訊いた。



「アスライド、部下の容体はどうだ?」


「なんとか息はありますが、意識は失っています。胸部に強烈な打突を入れられたようです。ニゴレイアル殿! 気を付けて下さい! ただの棒術ではありません!!!」


「わかってる、気は抜かないよ」



 倒れている二人の騎士を見ると、プレートアーマーの胸部部分が大きく凹み破損していた。また、それぞれ装備していたはずのシールドは砕けて地面に転がっている。

 騎士たちが持っていたシールドは、木製のフレームに楕円形状に加工した金属を張り合わせたシロモノだ。頑丈で扱いやすいように設計され、この世界では騎士たちの間で広く使われているタイプのものだったが、それは見事に破壊されていた。



 アスライドの警告は頭に入れておく。この“蜘蛛の子”とかいう無頼の集団を率いる男なのだ。それなりに腕は立つだろう。


 あれ? でも“副長”とか言っていたような?



「アン? いつまでくっちゃべるつもりだアアン?! もういいだろう! アア?!」



 ブルカノ・ブルカンはその巨体に見合わぬ速さで、一気にオレとの間合いを詰める。 

 

 少しこちらの反応が遅れたため、相手の武器である棒…… というよりは(はしら)に近いほど太く長い鋼鉄製の棒が、オレに届く間合いにまで接近されてしまう。



「アァッ!!!」



 最初はオレの顔面を狙う軌道から、突く瞬間に手首を返すことで軌道を変え、太棒はオレの腹部に強烈な一撃を与える。


 オレの華奢な肢体は、いとも簡単に吹き飛ばされ石ころのように転がった。



「アアン?! 軽すぎるぞ?! 女ァ!!! もっと筋肉を付けろ! 我のように! そう思うだろ、おまえら? アアン?!」


「え? あ、いや、その通りです!?」

「さ、さすが? そう! 流石はブルカノ・ブルカン様!?」

「ヒ? いや、女が筋肉付けても根本的に違うような…… あ、いえ! ブルカノ・ブルカン様カッコイイ!?」

「ハァハァ…… ブル様ぁ……ナイス筋肉! その胸に抱かれたい! 押しつぶされたい! たまんねええええええ!!! いつかベッドに呼んでほしいッスゥゥ!!!!!!!!」



 部下たちは口々にブルカノ・ブルカンを褒め称える。それぞれ声がデカイだけで、あまり心がこもっていない気がするが、気のせいだろう。あと一部“ガチ”な声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。



 なお、相手の攻撃についてだが、喰らったダメージはさほどでもなかったりする。ダメージ値は30程度だ。

 ジスエクス・ニゴレイアルの最大HPが4200であることを考慮すると、たいしたことはない。



 これは前から気になっていたことを試すいい機会かもしれない。もう少し付き合ってもいいだろう。

 

 オレは何事も無かったかのように立ち上がると、EFスキル【複合的(マルチプル)情報(データ)解析(アナライズ)】を起動させた。


 ちなみに、オレの肉体にはなんら傷はついていない。実際、大したダメージはないのだから。



「ふう、驚いた。凄い膂力(りょりょく)だな。その柱みたいな棒は相当な重さだろう? それをまるでものとせず操るとは。おまけにきちんと技術もある、称賛するよ」


「アアン?! 女ァ! 我の一撃を喰らいながらも立ち上がってくるとは! 大したもんじゃねえかアアン?!」


「まあ、次は喰らわんけどね」


「アアン?! 大した自信じゃねえか?! アアン? いくぞアアンッ?!」



 ブルカノ・ブルカンは流れるような足運びを魅せつつも、太棒が届く間合いまで接近すると再び突きを繰り出す。


 オレは攻撃が当たる瞬間、棒先が届く寸前の距離になるよう調節し、瞬時に後退する。攻撃の度にそれを繰り返す。

 最初は少し攻撃が掠めたが、徐々に慣れていき、見切れるようになった。


 ブルカノ・ブルカンは攻撃速度を速めていき次々と突きを繰り出すが、そのたびに下がったりギリギリで避けていく。

 こういう事ができるのも、元々はこの世界で武を追求していたからこそだ。

 

 そしてこの身体(アーマメント)ならば、ダメージを気にせず安心して練習ができるというものだ。


 オレは攻撃は一切せずに、回避だけに集中する。そして頃合いだと判断し、今度は徐々に距離を詰めていく。もちろん、回避しながらだ。


 ブルカノ・ブルカンの表情に焦りが出てきた。今度は突きを止め、横薙ぎを繰り出してきた。


 太棒は空を切ると、相手は驚きを隠せない表情で後ろに飛びのいた。



「お、おまえ…… アアン? ほんとうにやるじゃねえか……」


「そりゃ、どうも」



 ブルカノ・ブルカンは深呼吸し、自身を落ち着かせると。意識を集中し始めた。


 男の身体から、白い湯気らしきものがわずかに立ち昇ったのが見えた気がした。

 これは仙気だ。仙錬を行い、錬仙した仙気を使って何らかの技を使ったのだろう。


 使ったのは恐らく武器を強化する【錬仙鍛(れんせんたん)】だろう。


 つまり次は本気でやってくるワケだ。オレは身構える。

 あえて、攻撃は受けてやることにする。こっちとしては感覚を取り戻したいのだ。

 特に、仙技使いとの戦いに関する感覚は。



「アアン?! いくぞアン?!」



 ブルカノ・ブルカンは再度突きを繰り出す。まるでラケットのごとき大きな手で握られた、鉄柱のような鋼鉄の棒は、あらゆるものを破壊するだろう。

 だが、既に見切っている。オレは当たる寸前に再び下がった。


 しかし、見切ったはずの棒が伸びたのだ。見間違いではない。

 伸びた棒先はオレの顔面を完全に捉え、痛烈な一撃を与えた。


 並の人間ならば、顔面どころか頭部が吹き飛ぶか粉砕されていただろう。錬仙功で肉体を強化した仙技使いであっても、命に関わるダメージを負わされていただろう。それほどの一撃だった。


 だが、オレは普通に立っていた。

 それを見たブルカノ・ブルカンは呆気に取られている。


 一部始終を見ていた周囲の部下たちや、騎士たちも同様だった。



「あ……あ、あん? て、てめえ…… どうなってんだ?! アアン?! なんなんだてめえはアアン?!」



 ブルカノ・ブルカンは驚愕しているようだ。まぁ、ムリも無い。

 立場が逆ならオレだって同じ反応をしていただろう。



「ああ、まぁ、なんていうか、お前は悪くないよ。オレがちょっと異質なんでね」



 ここまでの出来事ではっきりと分かったことがある。


 それは、この【アーマメント】と呼んでいるこの身体は並外れた性能を誇っているものの、動体視力に関しては、()()()()()そのままということだ。

 

 前世のオレならば、この程度の秘策など、コイツの武器の秘密に気付いていなかったとしても喰らわなかっただろう。


 だが、この【アーマメント】の状態では喰らってしまった。動体視力に関しては新瀬零司に準拠しているというワケだ。


 どこかちぐはぐだと思った。



「アアン?! ふ、ふざけんじゃねえよ! アアン?! こうなったらよぉ! 我の最大必殺で決めてやるからなアア?! わかったかアアン?!」


 

 ブルカノ・ブルカンは叫ぶかのように告げる。それは何処か怯えが感じられ、威嚇しているようにも聞こえた。



 ブルカノ・ブルカンは太棒の中央を持つと、()()()()()する。

 すると、棒の両端から、両方ともある程度の長さの部分からポキリと折れた。

 もちろん本当に折れたわけではない。太棒の中身には鎖のようなものが入っていたのだ。


 長かった棒の両端がだらりと垂れ下がっている。


 これは一直線になるように普段は連結して一本の棒状にしてあるが、実は三節棍だったのだ。


 攻撃の瞬間、距離が伸びたのはそのためだった。



「見てろよ、一撃で決めてやるよ。アアン!!!」



 三節の状態になった三節棍の端を持つと、頭上でぐるぐると回転させはじめた。


 回転から生じた風圧と奇怪な音が周囲に広がっていく。


 どうやらこの技は、遠心力を利用して勢いをつけて、更に錬仙鍛で強化した三節棍を一撃で相手に叩きつけるらしい。

 並の仙技使いならば喰らったら最後、死は免れないだろう。


 

 オレは起動させていた【複合的(マルチプル)情報(データ)解析(アナライズ)】から分析情報の項目から、軌道分析を選び出す。


 相手の行動を高精度計測する機能のひとつだ。これを使ってブルカノ・ブルカンの攻撃を見切ってみるつもりだ。一体どれぐらいの補正がかかるのか。



「アアアアンッ!? いくぞアアアンンッ!!!!!!」


 

 ブルカノ・ブルカンの肉体から錬仙された仙気が放出されていく!



「我は技に名前は付けねえ主義だが、こいつにだけは付けたのだ! 見せてるぜアア?! 

 我の最強必殺! “ブルカノ・ブルカン”をなぁ?! アアン?!!!!」


「だ、ダセエ…… 自分の名前をつけ……」



 そんな感想を呟き終わる間もなく、回転させ威力を増した打擲がオレに襲い掛かかる。

 あまりの衝撃に当たった瞬間、周囲にもその残響が広がっていった。



「え? そ、そんな…… バカな……」


 

 ブルカノ・ブルカンは狼狽する。信じられない光景を目の当たりにして。


 厳密に言うと、オレは攻撃を喰らった。ダメージ数値は60ほどだ。


 オレはヤツの攻撃を受けていた。


 オレの身体に当たる瞬間、【複合的(マルチプル)情報(データ)解析(アナライズ)】で割り出した攻撃軌道を参考に、ブルカノ・ブルカンの繰り出した三節棍(さんせつこん)の接合部分を()()()のだ。


 そして絞り出せるだけの力を入れると、三節棍の接合部から剥き出しになっていた鎖が破壊され、粉々に砕け散った。



「な…… え…… あ、あ、アアン……」



 ブルカノ・ブルカンだけでなく、周囲の人間も唖然としているようだ。


 弓職(アーチャー)系はSTRが比較的高めとはいえ、ここまで力があるとは、正直自分でも驚きだった。



「な、何なんだ?! お前はなんなんだ?! ア、ア、アアンンン?!」



 喚き散らすように問いかけるブルカノ・ブルカンにオレは答える。



「ああ、オレか、オレはね…… ただのゲーマーか? いや、いままでの事を(かんが)みればチートゲーマーだな、いや、すまんね。

 あと、もういいや。調べたいことは済んだからさ」



 エレメンタルシューターを構え、オレはブルカノ・ブルカンの膝に狙いを付けると、間も置かず光弾を発射した。

  

ブルカノ・ブルカン :28歳。黒革のズボンと上半身全裸に黒革ベストという、ワイルドな格好をしている。筋肉を主張したくて堪らないほど全身を鍛え上げた容貌。

 鉄柱かと錯覚する程の太さと長さを誇る、“三節棍”を使用する。賊集団“蜘蛛の子”の副長。


必殺技は“ブルカノ・ブルカン”

一直線の棒状から、三節に分かれた状態で片手で棍の端を持ちつつ頭上で回転させ、威力を増加させた後、相手に向かって振り下ろす技。

 基本的に技に名前は付けない主義だが、唯一つけた技名が自分の名前というほど、自身の名に誇りを抱いている。

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