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第40話 蜘蛛の子 -2


 ルヴロ村に訪れた時より感じていた異様な気配の原因だった連中が、家や小屋など何かの物陰から次々出現しては襲い掛かって来る。


 盗賊か野盗か、わざわざカテゴリ別に分けて認識する気なぞ無いためどうでも良いが、無力化だけはしなければならない。


 この連中の事は賊連中とでも呼称しよう。



 この賊連中は真っ先に御者を狙い、馬車を停止させるつもりだったらしいが、オヤジウスのEFスキル、もとい法術の詳細を知らなかったらしい。

 もしくは知っていたが、こちらの能力を低く見積もっていた為か、おかげで馬車を停止させることに失敗し、賊連中は慌てているわけだ。


 さらに馬などの追跡用手段も、すぐに出せるようにしていなかった為、走って馬車を追うしかない。

 だので馬車を追っていく賊と、残ってこちらに向かってくる賊に分かれたのだ。


 そうなると、残った連中は当然、こちら側に向かって攻撃を仕掛けてくる。残った4人の騎士はお互いに背中を預けるように集まり、防御陣形を敷いて迎撃態勢に移っていた。



「おまえら行け! 首を取ったヤツには追加報酬だぞ! ぶっ殺したれ!」



 宿屋の主人を装っていた男が発破をかける。

 すると、7人の賊が一斉に騎士たちに迫る。


 ただ、賊連中の動きは連携が取れているとはお世辞にも言えなかった。

 賊連中は、剣やら戦棍(メイス)やらで同時に攻撃しているつもりらしい。しかし、騎士たちが横並びに構えているならともかく、それぞれ背後を任せるかのように集合し、防御陣形を敷いている為、賊連中の攻撃が狭い範囲に集中してしまい、どうしても横にいる賊が邪魔でうまく武器を振れないでいた。


 騎士たちは全員、防御力の高いプレートアーマーに、頑丈で大きなシールド、鋼鉄製のショートソードで武装している。


 攻撃してきた7人のうち、4人は前方から仕掛けて来る。それに対し、()()()騎士たちはあえて迎撃せずに頑丈なシールドで攻撃を受ける。


 アスライドは掛け声を掛けると、騎士たちは押し返すように見せかけて、一瞬だけ力を抜き相手の態勢を崩し、賊連中を引き込む。それと同時に、すぐに動けるよう防御陣形から少し下がっていた騎士が、賊の連中の側面に回り込んでいて、平突きを放ち相手の急所を攻撃する。


 4人の賊たちは攻撃態勢を崩してしまい、そこを見逃さずに()()()騎士がシールドで押し込む。先程、防御していた内の一人が、賊連中が押し込まれるのと同時に側面に回り攻撃する。致命傷には至らなかったが、賊のひとりが倒れ込んだ。

 すかさず騎士の一人が下段突きを放つと、ショートソードが賊の肉体を貫く。プレートアーマーとシールドで増加した体重と、錬仙功で強化した肉体が合わさった強烈な一撃だった。見た目は地味だが、重要な技だった。


 騎士の強みは防御力と、複数人による連携力にある。


 アスライドたちは冒険者の階級で強さを表すと、金級(ゴールドクラス)に相当する。個々の才能はともかくとしても、同じ階級ならば、騎士一人の戦闘力と冒険者一人の戦闘力は互角だろう。


 だが、複数人となると話は変わる。冒険者は仕事の都合上、どうしても汎用性の高い訓練をすることとなり、またチーム内で訓練を行っている場合があるにせよ、大抵は個人の裁量で訓練内容を決める場合が殆どだ。


 しかし、騎士は違う。仕えている組織によって訓練内容に差があるにせよ、連携して戦うことを基本に鍛錬しているのだ。騎士の本分は(いくさ)である。戦は一人ではできない、集団で戦うのが当たり前だ。

 重い鎧と頑丈なシールド、ショートソードを装備したままの行軍訓練は勿論の事、装備を付けたまま走り込みや剣術訓練をなどをやり、身に着ける重装備の重さを、苦に感じなくなるまで鍛え上げられるのだ。

 そして陣形戦術を徹底的に叩き込まれ、頭ではなく身体が勝手に動くまで鍛錬は行われる。


 実戦においては錬仙功を使用することになる為、仙技の効果で肉体を強化した騎士の集団は、たとえ数人といえど、同じ金級(ゴールドクラス)冒険者パーティの比ではないほどに強い。


 多少、人数で上回ったとしても、練度にバラつきのある賊連中では一筋縄ではいかないだろう。



 事実、アスライド率いるエリアスの騎士たちは、きちんと連携が取れているばかりでなく、各々が淀みなく無駄のない動きを見せていた。これは普段の訓練の賜物だろう。


 ただ、それでも限界がある。

 騎士たちが対応できない敵はこちらで対処する。


 オレはエレメンタルシューターを構えると、背後から攻撃を加えようとしていた3人を射つ。3人の賊の頭部が破壊され、いずれも一撃で絶命した。

  エレメンタルシューターは弓の形状をした武器だが、光弾が水平に発射されるため、どちらかというと銃に近い。

 また、通常攻撃の光弾ならば威力調整をすれば貫通はしない為、比較的近い距離でも味方を巻き添えにせずに攻撃することができる。



「ニゴレイアル殿! 助かりました!」



 アスライドが声を掛けてきた為、オレは軽く手を挙げ答える。

 敵はまだまだ出てくる。これからだった。



 そのときだった。突如、PVCで通信が入る。


 相手は当然、桜野だろう。


 オレはすぐに通信を開くと、桜野(オヤジウス)の絶叫が聞こえた。いや、脳に響くといったほうがいいだろうか。



《やばいのヨン! やばいのヨン! どうすればいいかワカンネーのヨン!!!!!》


《桜野! うるせーよオマエ! 声を落とせ! それで?! どうかしたのか?》


《出口が塞がれているのヨン! これじゃあ逃げられないのヨン!!!》


《いまからそっちへ向かう。EF(エーテルフォース)の残量はどうだ? まだ持ちそうか?》


《そっちもまずいのヨン! 二台ものの馬車は流石にサイズがデカすぎるのヨン! 目減りが速いのヨン!》



 オヤジウス・オッサンディアの職業、テクノプリーストのEFスキル“触れられざる聖域(ジ・サンクチュアリ)”は防御範囲を広げるほどEFの消費率が高くなる。

 二台の馬車に防護フィールドを展開していれば、なおさらだ。



《おねがぁ~いン! はやくぅ~たすけてヨ~ン! て・へ・ルルッ♪》


《無視して、見殺しにしたくなる救援要請だな》

《すいません、ふざけすぎました。エリスや侍女たちもいるので早急にお願いします》


《ふざけるのはいいが、時と場所を選べよな。それはともかく、すぐに向かうから》



 オレは即座に向かうことにする。

 その前に、アスライドたちにこの場を離れる事を伝える。

 もちろん通信の内容は伏せてだ。



「すまん、ここを頼めるか? 門が塞がれているかもしれない。ちょっと見てくる。みんなは馬車が行った門の方へ向かいつつも、敵を引きつけてほしい。無茶なことを頼むけど、大丈夫か?!」


「たしかにそうだな、頼めるか、ニゴレイアル殿」


 

 オレは頷くと、走り出す。【超過走法(オーバーラン)】を発動させると、馬など目ではないスピード、例えるならば大型バイク(リッターマシン)のフル加速に相当するスピードで、エリスたちの馬車に向って駆けた。



◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 




 オヤジウスが御者台に乗った馬車を先頭に、二台の馬車は村の出口を前に停車を余儀なくされていた。


 村の出口は、元からあった門が閉じられたばかりか、何処からか持ってきた荷車やら樽やらの障害物が置かれ、出られないようにバリケードが作られていた。


 恐らく、エリス一行がこの村に入った時には、既に出口は塞がれていたのだろう。これでは脱出することはできない。


 馬車の周囲には、多くの賊連中が押しかけ、群がっていた。


 賊連中は、攻撃をしたり、しがみついたり何かしらの動きをみせて、障壁を破ろうと試みていたが全て徒労に終わっていた。

 いまのところは、彼らは無事だった。


 しかし、オヤジウスが展開するEFスキル【触れられざる聖域(ジ・サンクチュアリ)】はEFの残量がゼロになってしまえば、防護障壁は消失してしまう。


 今、この馬車に戦闘能力を持ったものは厳密に言えば二人しかいない。オヤジウスとケイルという若い騎士だ。


 もし、この障壁が無くなれば、賊連中は目の色を変え、殺到するだろう。


 そしてエリス・エリアスは賊連中の手に落ち、侍女たちがどのような運命を辿るかは想像するのも(おぞ)ましい。



「クソオオ! イイ女がすぐそこに居るのによぉぉ!!! 手が出せないとはよぉぉ!!!」



 右目が潰れている凶悪な人相をした男ががなり立てる。浅黒く入れ墨の入った太い腕には大剣が握られており、実の所、男は何度かその剣を障壁に叩きつけ壊そうと試した後だった。



「ヒヒヒ!!! オイ! 誰かよぉ! このワケわかんねえ壁をぶっ壊す方法ねえのかよぉ!!! このお嬢ちゃんたちを見てたらたまんねえぜ!!!」



 モヒカン頭の男が下劣な発言をする。見るからに知能と品性が低そうな男だった。



「ひっ?! くっ、来るな! 下郎め!!!」



 男と目が合った侍女が、気後れしながらも男を睨みつける。黒髪ツインテールが美しい侍女、イリスだった。彼女は強気な性格だったが、特に戦闘能力があるわけではない。

 事実、強がりを言いながらも内心は震えていた。



「ウヒヒヒ!!! まってろよぉ!!! もうすぐ()()()にあわせてやるからなぁ! お嬢ちゃんたちよぉ!!!!」


 

 その(げん)を聞いた周囲の賊たちは、一斉に下卑た笑い声を上げた。

 


 すると、御者を務めている騎士、ケイルがオヤジウスに向け提案する。


 

「オッサンディア殿、あの障害物をどけなければなりません。この障壁を解くわけにはいきませんか?」


「そうなったら侍女たちがやられちゃうのヨン。言葉の意味、分かるよね?」


 


 問題はそれだけは無かった。EF(エーテルフォース)の残量が心もとなくなってきているのだった。

 このままでは、そう遠くない先に防護障壁は消失する。

 



「じゃあ、どうするんです?! アレを突破しなければ脱出できないんですよ?!」


「なら、オレがこじ開けてやるよ!!!」



 どこからか声がした。高く澄んだよく通る女の声だった。



 声がしたのとほぼ同時に、光の玉が馬車のちょうど真上に打ち上げられた。弾道から察するに、誰かが下から撃ったのだ。


 眩いばかりに輝く光球は、ある程度の高さまで上がると、突如、破裂した。


 そして、光の矢が馬車も巻き添えにして降り注いだ。


 CULOにおける弓兵(アーチャー)のEFスキル【豪雨射ち(レイン・アロー)】だった。

 ただ、使った人間の武器が、エレメンタルシューターだった為、この技を使ったのはギャラクシーハンターだということになるが……。



 降り注いだ光の矢は、馬車に群がっていた賊連中を掃討していく。


 空高くから降り注いだ破壊エネルギーを秘めた光弾は、賊連中の肉体を吹き飛ばしていった。

 指定したサークル状の攻撃範囲に光の矢が降り注ぐEFスキルだった。


 運の良い人間は喰らって即死することができた人間だ。運が悪い人間は死にきれず、倒れたまま(うごめ)いているだけしかできなかった連中だ。


 馬車にはオヤジウスが使用したEFスキルが防護障壁を発生していた為、当然の如く無傷だ。


 このEFスキルを使ったのは、オヤジウスの救援要請を受けて駆け付けた、ジスエクス・ニゴレイア(レイジ)ルだった。




◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 




 

「待たせた、いまからバリケードを吹っ飛ばすから」



 馬車の周りにいた賊連中はほぼ全員死んだ。当たらなかった連中は逃げ出していく。

 流石に実力の差を感じたのだろう。賢い連中だとオレは思った。



 オレはバリケードを壊す為、スキルランチャーからあるEFスキルをセレクトする。

 EFスキル、【爆散射ち(バーストアロー)】だ。単発攻撃だが、着弾すれば爆発し、広い攻撃範囲を持つ。


 オレは戦闘の馬車前方に立つと、バリケードに向かい。エレメンタルシューターを構える。


 発射口に光の粒子が集約していく、威力を上げる為、しばし待つ。この技を発動できるまでの間、攻撃を受けると技が解除されるのだが、幸い誰もちょっかいを出しては来なかった。


 そんなこんなで、発射体制が整う。


 そして、エレメンタルシューターの発射口から、膨れ上がった強烈な光弾が発射される。

 吸い込まれるようにバリケードに向かって飛び、着弾する。同時に凄まじい爆風と共に、土が舞い上がり周囲に飛び散るだけでなく、衝撃が四方八方に伝わっていく。



 門は開かれた。いや、正確にはぶち破ったということになるが。頑丈な門は前に配置されていた障害物ごと粉々に吹き飛び、何処かに行ってしまったようだ。


 

「今だ! 行け! 突き進め!」



 オレは咆哮するかのように合図すると、先頭の馬車を操作する御者は、掛け声と共にムチを鳴らす。

 馬の嘶き声が上がると、馬車は発進し、後続のリディアが御者を務める馬車もそれに続いた。



 オレは二台の馬車が門を抜け、村から脱出するのを見届けると、急いで騎士たちの元へと急いだ。




 飛ぶかのように駆けて、騎士たちの所へ戻ると状況は一変していた。4人の騎士のうち、2人が倒れていたのだ。

 幸い2人とも息はあるようだったが、かなり酷いやられ方をしたのだけは確かだった。倒れた二人の騎士を守るように残りの騎士が立ちはだかる。


 相も変わらず、賊連中が多数いるのは分かったが、先ほどはいなかった人影が見えた。


 大きな男だった。身長は2メートルを軽く超えており、オヤジウスのようなスキンヘッドに、全身浅黒い肌と、まるで着ぐるみか何かと錯覚するほどウソみたいに膨れ上がった筋肉が全身から主張していた。


 黒革のズボンに、上半身は裸の上に革のベストを着ている。防具らしきものは装備してはいなかった。


 異常なまでに鍛え上げた筋肉こそが、俺の防具だと言わんばかりの出で立ちだった。


 そして武器は鉄製らしき長く太い棒だった。その棒は男の身長よりも長いようにみえる。


 大男は、駆け付けたオレの存在に気付いたらしく、振り向いて声を掛けてきた。



「ほほう?! 随分と華奢な女じゃねえか!? アン?! 聞くところによると、おまえ強いらしいじゃねえか?! アアン?!」



 オレは身構える。恐らくは仙技使いだろう。

 どんなヤツかは知らないし、どんな技を使うのかは知らない。ただ、向こうはオレのことを知っているらしい。


 ただ、ひとつだけ分かるのは、コイツはオレが倒さなくてはならない相手だという事だけだった。


 



 

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