第3話 お泊りCULO
土曜日の夕方、いつものように夕食の準備をしていたオレ、新瀬零司は、玄関ドアを開ける音に気付いた。
妹の莉亜が帰って来たのだ。オレは妹を出迎える為、玄関へと向かう。
オレの妹、新瀬莉亜だ。現在、14歳の中学2年生。
くりくりとした大きい目に、栗色の美しいセミロング。有名デザイナーが手掛けたという、学校指定のセーラー服が良く似合っている。細身で小柄だが、手足は長い。
いつだったか母親と買い物に出かけた時のこと。モデル事務所のスカウトから名刺をもらったと、つつましい胸を張りつつ誇らしげにしていたのを、俺は思い出した。
「れーにぃ、ただいま」
「おう、おかえり。今日は特製ハヤシライスな」
「マジ?やった」
今日の晩御飯のメニューについて、妹が訊き、兄が答える。日々変わらぬ、妹が帰宅した際の兄妹のやりとり。
莉亜はドアを開け、丁度玄関に入ったところだ。何故か後ろに手をやり、ドアが閉まらないように支えている。
「こっ、こんにちわっ!」
アッシュグレーのブレザーにスカート姿の女生徒が、莉亜の後ろから追うように入ってくる。彼女の着ているブレザーは俺が通う学園指定の制服だ。
艶やかで流れ落ちるような黒髪を、サイドポニーテールにしている。高めの身長に、細く長い手足。そして、ブレザーの上からでもわかるほどの豊かな胸部。
背中には竹刀袋を背負っており、黒髪サイドポニーテールと相まって、いかにも剣道少女という出で立ちだ。右手には、これから旅行にでも行くのか? 訊きたくなるほどの大きなカバンを持っている。
それはさておき、もしもオレが肉体年齢どおりの精神ならば、1、2度では済まないくらいに視線を飛ばす程、魅力的な容姿をした少女だ。
「マジで泊まりに来たのか、誰にも見られなかっただろうな?」
「なんだその言い草は。政治家同士の密会じゃあるまいし、わたしは友達の家に泊まりに来ただけだ。堂々と来たに決まってるだろう」
少女は豊満な胸を張りながら、堂々と言ってのけた。
彼女の名は“毒島武子”。
オレと同じ学園に通う女生徒で、莉亜の友人だ。1年生の時、オレと同じクラスだった。
「うちのクラスの人間と出会ったりしてないよな、ここに来ることを親以外に喋っていないよな?」
「うん? 会ってはいないし喋っていないが? 何故そんなことを気にする?」
「そ、そうか…… いや、ならいい」
毒島武子は意味を理解していないようだ。オレは信仰心なぞ持ち合わせていないが、何かに感謝したくなった。もし、毒島武子が誰かに出会って、何処へ行くのか訊かれていたら、純真な彼女は平然と自分の行き先と目的を語っていたかもしれない。
毒島武子は正直な性格の少女だった。
「それで、晩飯は食べてないのだよな?」
「あ、ああ。食べてない。いや、楽しみだなっ! 新瀬の料理が食べられるとはっ!」
「ただのハヤシライスだよ。お嬢様の口には合わないかもだが」
『そ、そんな事はないっ! あとお嬢様言うな!』と、毒島武子は抗議してくる。
昨日、オレと約束したとおりの時間に、彼女は莉亜とともにココまで来たのだ。明日は日曜日だし、ちょうどお泊りには都合がいいという理由で。
廊下で毒島にお願いをされたのだ。
お泊り前提で、CULOをプレイするという話を。
当然、拒否した。だが、莉亜の一言であっさり了承となってしまう。
オレは莉亜に弱い。彼女の頼みならば、大体のことは聞いてあげてしまう。
「れーにぃ、あたしたちが眠ったあと夜這いしたらだめだよ」
「しません。って! そんなこと口にするんじゃありません! はしたない!」
よく莉亜はオレをからかう。これは親愛の証なんだろうか。
変な空気になりそうだった為、話を変えようとCULOについての話題を振る。少々強引な気がしたが、さりげなく気の利いた話題を振れるほど、自分でも器用さはないと思う。
「ところで、登録とか初期設定とかキャラのクリエイトだとか。メンドーなことは全部やってあるんだろうな?」
正直、CULOの初期設定全般はだるい。はるか昔、はじめてCULOをプレイした際、そういった印象があったことを思い出す。
「だいじょーぶだよ。へへ、あたしがちゃんと設定してあげました。えらいあたし」
「そ、そうなのだ。莉亜ちゃんが全部やってくれのだ。わたしはこういうものはさっぱりだから」
「CULOは1ヶ月後にはサービス終了するというのに、ご苦労なこったな」
莉亜によると、毒島がSVRヘッドギアを手に入れたのが1週間前。莉亜に相談したのが5日前。初期設定やキャラクリエイト云々を莉亜がしてあげたのが4日前。サービス終了と新規受付終了のアナウンスがあったのが2日前。毒島がツイているのか、いないのかは不明だ。
「サービス終了まで残り約1ヶ月。昔のパーティメンバーだけで、思い出に浸りながらまったりプレイをするつもりだったんだがなぁ…… どうしてこうなるかな」
オレはふと2日前のことを思い出す。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
そもそもオレが【CULO】へ復帰することを決めたのは2日前のことだ。
親友の【桜野圭一】からの誘いの電話があったのである。
『え? なに、終わるの。そうかおめでとう』
『いやいや、そーじゃなくてさ。ちょっと面白いイベントがあるのヨン』
桜野の話を要約するとこうである。
CULOはサービス終了するが、それまでアカウント登録していたプレイヤー全員を対象とした特別なイベントをやるとのこと。
その名も【サービス終了記念!すべてのプレイヤーにありがとう感謝祭!!!】。
実にテキトーなネーミングだが、そのイベントの内容もテキトーで投げやりだった。
その内容は、【個々のジョブに合わせた課金最強装備や課金アイテムの支給】、【カンストレベル到達までの経験値の支給】【ゲームの進行を助ける、各オプションパスポートコースの無料進呈】など、運営がヤケクソになったとしか思えない程の、異様なイベントだった。
『でさ、どうヨン? やろうヨン! おワタクシ~ レイジとぉ、一緒にやりた……』
『いやです』
妙に甲高いキモオタ特有の声でしなを作り、誘ってくる桜野。
早速お断りの意思を伝えた。一度やめたものを再びやるつもりはなかった。
『おまえの愛する妹ちゃん、莉亜ちゃんは復帰するってよ。いや、帰還という表現は正しくないな。ま、あの娘は俺と同じく毎日ログイン&散発的プレイはしていたみたいだけど、どうするネ?』
『誤解があるみたいだが俺、シスコンじゃないし。復帰するわ』
『よし、キマリだな、シスコン』
こうしてオレはCULOに復帰することになったんだ。
昔のパーティギルドのメンバーには連絡しておくと桜野は言っていた。
桜野曰く『ギルド長として当然のつとめだヨン』だそうだ。
『それで? いつ皆で集まるんだ?』
『イベント始まるのが2日後だから、その日の夜でどうだ? ちょうど土曜日だし、朝までしっぽりコースとしゃれこむわヨン』
別に夜通しでプレイするつもりはないのだがと答えたが、妹ちゃんはやりたいかもヨンと返された為、しょうがなくその可能性もあると伝えておいた。
そんなことがあり、CULO同窓会の開催日時は、2日後の夜と決まったのだ。
新瀬零司(17) 主人公。転生者だった過去を持つ高校生。自覚の無いシスコン。
新瀬莉亜(14) 中学二年生、年頃にもかかわらず兄である零司に懐いている。
毒島武子(16) 零司の同級生。身目麗しい女子生徒。高校二年生。細身の肢体に似合わぬ爆乳の持ち主。
桜野圭一(17) 零司の友人、体重180kgを越える巨漢の高校生。語尾にヨンをつける特徴がある。ギルド長を務める。




