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第35話 遠き夢 -回復

 それは荘厳な間だった。


 部屋に暖かな日光を取り込めるよう、特殊なガラスを用いた高い天井は採光構造になっており、この広い空間でも天気の良い日ならば照明器具が無くとも、過不足ない明るさをもたらしてくれる。


 床には大理石が部屋一面に敷かれており、それはこの空間の持つ荘厳さに一役買っている要素だ。

 その他にも、名品たる絵画や彫刻が目に付き過ぎないよう配置されており、あくまでそれはこの部屋における添え物である。


 この空間の出入口である重厚な分厚い扉からは、そこから伸びるように鮮血のように紅い絨毯が奥まで敷かれており、この部屋の中央をなぞるように位置していた。


 そして絨毯のはるか先には数段ほどの階段があり、そこにはこの部屋の主だけが座する事を許される空間があった。

 


 これは玉座だ。


 奥の壁には、豪奢な素材で織られ、一部金糸が入った立派なタペストリーが掛けられており、それは君主たる者が座ることを許された座具越しに見ることになる。




 ――オレは……。



 ――そうだ、俺は……。


 この場所を知っている。


 はるか昔、前世において、そこは見知った場所だった。


 すぐに分かった。これは夢だと。



 俺は、この部屋の玉座に向かっていた。


 肉体は傷つき、ダメージは内部まで達している。この部屋の扉が開くまで、部下に挟まれる形で支えて貰わなければ歩けないほどだった。


 だが、扉から玉座まではひとりで向かう。


 一歩、一歩。踏み締めるように歩んでいく。

 身体は悲鳴を上げているが、この場において泣き言は許されない。

 俺は敗軍の将なのだ。せめてもの礼儀として、杖もつかず己の足で王の前へと赴き、事の次第を伝えねばならない。


 玉座の間には、玉座へと伸びる絨毯を挟む形で両側にそれぞれ重臣たちが並び、俺を迎えるかのような道を作っていた。


 重臣たちの視線が俺に刺さる。その目には憐憫などカケラも無く、あるのは侮蔑、嘲笑、空虚、そういった(たぐい)のものだった。


 敗軍の将にかけるべき情などないのだろう。


 

 視界が光に溢れ、何も見えなくなったかと思った途端、場面がいきなり切り替わる。まるで映像再生装置のシーン飛ばしのように。


 夢だから都合の良いところで場面が切り替わり、夢だから都合の悪いところで場面が切り替わらない。

 夢が見せる光景などそういうものだ。



 気が付けば俺は、王の前で(ひざまづ)いていた。


 自分から許しを請うことなどしない。ただ、沙汰を待つだけだ。



 玉座に居るのは、可憐な少女だった。歳は12、3歳ぐらいだろうか。

 

 彼女の年齢には合わないであろう、背中が大きく空いたホルターネックの白いロングドレスを着ていた。

 亜麻色のロングヘアにはティアラが、首には豪奢なネックレス、更に腕輪やブローチなどの装飾品を彼女は身に着けていた。

 そのいずれも少女である彼女には、似合わぬシロモノだ。


 それらを彼女が好んで身に付けているわけでないのは、容易にみてとれた。


 彼女は、俺を憂いに満ちた表情で見つめる。その目にあるのは惻隠(そくいん)の情だった。俺なぞを憐れんでくれているのだ。


 その深い瞳に俺は吸い込まれそうになる。


 不思議なものだ。本来ならば、(うつむ)いた俺の視界には大理石の床しか映らないはずなのに。何故か周囲の光景が把握できるのだから。

 これこそが、夢の見せる不可思議な光景だろう。


 俺は(ひざまず)(こうべ)を垂れたまま、彼女の言葉を待つ。



「――面を上げよ」



 これぐらいの年齢にある少女特有の、小鳥のように高く、そして張りがある声が響く。喉だけを使った発声ではなく、腹式呼吸によるものだ。


 大声で呼んだわけでもないのに、彼女の声はこの広い空間にほぼ伝わっていた。それは訓練の賜物だろう。



 俺は少女の言葉に従い、顔を上げると彼女と向き合った。


 すると、急に俺の意識は彼女の深く蒼い瞳に吸い込まれていく。光が全身を包んでいくのを感じた。


 それから俺は、夢の中で意識を手放した。


 


◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 




「ウフッ♪ お・め・ざ・め・か・な?」



 桜野(オヤジウス)の膨れ上がった顔面が、俺の視界を(さえぎ)っている。


 彼は俺に覆いかぶさるようにしていた。



「何をやっている?」

「フフッ……。起きそうだったから、目覚めの挨拶をとね♪」

「何故わざわざ覆いかぶさる。てか、近いわ! キモイわ! この上なく不快だわ! さっさとどけろよ!」


 

 ピンクの半裸肉玉がスッと後退し、馬車の荷台の端に寄った。


 その際、オヤジウスは『照れんなヨン♪』と台詞を吐いたが、寝起きにツッコみをやれというのは中々キツイということを実感する。


 俺は上半身を起こすと、胡坐(あぐら)()いて後ろの荷物にもたれかかった。

 片手で顔面を抑え、寝起きの気分の悪さを感じ取る。


 この不快さは、寝起きにオヤジウスの顔を至近距離から見てしまっただけではないだろう。


 昔の夢を見てしまったからだ。ここ数年の間は、見ることなど殆ど無かったのに、やはり故郷があった世界に戻ってしまったからだろうか?



「クソが……。イライラするな。なぁ、俺は何時間くらい眠っていた?」


「そうねぇ、5時間くらいかな?」

「ゲッ?! そんなにか? 寝すぎだろオレ」


 

 意外なまでに時間が経過していたことに、俺は驚く。そこまで疲れていたのだろうか。肉体的には疲労は感じていなかったのに。



「よく眠っていたヨン。フフッ、カワイイ寝顔だったゾ♪」

「ねえ、やめて、やめてよね、そういうの。冗談でも言っていい事と悪い事、あるよね? ホント、マジやめて」


 

 俺は不快感と怒りが入り混じった呆れ顔で、オヤジウスに対して抗議した。そして空気を入れ換えるかのように、話題を変えることにする。



「オレが眠ってから何かあったか? 何も変わりなかったか?」


「大丈夫ヨン。平和な道中そのものだヨン」



 オヤジウスが俺の問いに答えた時だった。

 御者の掛け声とともに馬車の進行が止まったのだ。



「何かあったのかヨン?」



 オヤジウスの言葉どおり、何か異変があったのか? それとも単に休憩だろうか?

 どちらにせよ、この新瀬零司の姿ではマズイ。


 俺はジスエクス・ニゴレイアルの姿になるべく、例の操作をすることにした。

 視界の左下に例の表示があった。



〚 Armament __OFF 〛

 

 

 後頭部にある金属らしい突起に触れると、〚 Armament __OFF 〛と緑青色に点灯していた表示が点滅し始める。



「アーマメント、オン」



 無意識のうち、小声になってしまう。内心、ジスエクスに変化しなかったらどうしようかと、不安を覚えたが、それは杞憂に終わる。


 白色に輝く光の粒子が全身から立ち昇り、閃光とともに視界が一瞬だけ光に遮られると、すぐに元の光景が目前にあった。


 自身の肉体を見下ろすと、真っ先に視界に入るのは鮮やかな青に染まった軽装鎧が、豊かな胸を押し上げている光景だった。


 念のため、自分の身体をくまなく確認すると、オレはジスエクス・ニゴレイアルの姿に戻ったことを知る。

 柔らかい女の肉体だ。どういうワケかオレは消沈してしまう。



「おお、ちゃんと戻ったな。

 それにしてもなぁ、ふーむ? やっぱり身体のサイズも変わっているんだねえ。改めて見ると違和感があるのヨン」

「その姿で違和感とか言われても困るんだけどな」



 桜野(オヤジウス)はイマイチ分かっていないらしく『この姿のどこに違和感があるのヨン』と惚けていた。


 そんな桜野(オヤジウス)を眺めながら、オレはぼんやりと視界内に表示された各種インジケーターを確認した。


 そして驚愕する。


 それらのジスエクス・ニゴレイアルに関する、各種情報表示に変化があることに気付き、オレは思わず声を上げてしまった。



「まっ! マジかよ?! ウソだろ?!」

「え? ナニ、何か? どうしたのヨン?!」



 突然オレが上げた声に、オヤジウスが問い質す。


 オレは定まらない視点のまま、口だけを動かすようにオヤジウスの問いに答えた。



「ヒ、HP(ヒットポイント)EF(エーテルフォース)が回復してる…… 完全回復してる……」



 

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