第33話 出立 -side零司
前日、地震の影響で電気が一日中ストップした為、書き上げることが出来ませんでした。申し訳ありません。
エリアス家の爵位を男爵に設定しました。ギミックを考えていたのですが、よく考えたら貴族設定でもよいことに気付いたためです。申し訳ありません。
あれから紆余曲折あったが、エリス一行は早めの出発をすることになった。
今回の旅に関してエリスは余裕を持った行程を組んでいたとはいえ、これ以上町に居続けるのは邪魔に。
他領の領主代行が居るというだけで、余計なトラブルに繋がるのは想像に難くない。
これからこのプルート周辺は忙しくなる。何よりもトートの集落の人たちが、これから受けるであろう艱難辛苦を想像すると、何か手を貸したいというのがエリスの本音だった。
実は、町長や生き残ったトートの集落の人たちからは引き留められた。ただ、それは手伝いを希望していたワケではなく何か感謝を形にして伝えたいとの事だったが、エリスはもちろん特に貢献した桜野や、コトの元凶を始末したオレ自身も特に謝礼なぞ期待してはいなかった。
しかも、エリスは世話になったお礼として、町長に都会の高級宿並みの金額を支払ったと聞いている。
町長は受け取る気は無かったようだが、半ば押し付けるカタチで宿泊代を置いてきたとの事だ。
オレの中で、エリスへの好感度が少し上がった。もちろん、ライクの意味でだ。
あれから一夜が明けて被害状況を調べたところ、トートの集落で犠牲になった住民は約3割強にも達したという。かなりの被害だったが、オヤジウスが助けなければ事態はそれ以上に拡大しただろう。
ああ、そうそう。別れ際、グリド一家からカルリカという果物を沢山もらった。トートの名産物だそうだ。
カルリカは鮮やかな黄緑色をした、柑橘系の果実だ。オレは好きじゃない、果物は好みじゃなかった。
そもそも男はスッパイものは好きじゃない、そうだろ?
それはともかく、あまりに早い旅立ちに3人からは別れを惜しまれた、オヤジウスに対しては特にだ。
3人ともオヤジウスに対して畏敬の念を抱いているようだ。
桜野は俺と同じくスキルブーストを使ったと聞いている、つまりは回復系EFスキルにスキルブーストを適用したことになる。
少し嫌な予感がした。何かとんでもないことを、やらかしたのではないだろうか?
オヤジウスには、派手な回復系EFスキルは使うなとは伝えたが、凄惨な現場を目撃したコイツが冷静にコトを進めたとは考えにくい。
無駄に善人だからな、コイツは……。
今、俺たちはプルートの広場にいる。
エリスに仕える騎士たちは既に準備を済ませ、馬車の御者として乗り込んでおり馬に単独で乗っているのは二人だけだ。
護衛の人数が少なすぎやしないかと思ったが、それだけオレと桜野を買っているのだろうか?
一緒に連れてきていた、乗り手がいなくなった何頭かの馬は、ここで預かってもらうことにしたらしい。復興の手伝いに使ってくれとも伝えたようだ。
個人的には、これだけ三台も馬車があっても仕方ないと思うのだが、エリス曰く、父親との思い出の詰まったものだから置いていきたくないらしいのだ。事実、周囲に対する体裁もあるのかもしれないが。
30人いた騎士が25人も居なくなって、体裁もクソも無いと思うが……。
侍女3人娘も馬車に既に乗り込んでおり、エリスも同様だが車内から顔を出し町長と何か話している。
専属侍女リディアは御者を務めるとのこと。
高度な教育を受けたとは聞いていたが、馬車の御者までやってのけるとは、多才な娘だとオレは感心した。
ちなみにプルートに来るまで御者を務めなかったのは、エリスのそばに居たかったからだという。
俺と桜野は、広場でグリド一家と別れの挨拶をしていた。
「オッサンディア様、この度はなんとお礼を申し上げれば良いのやら、本当にありがとうございました。この御恩は生涯わすれることはありません」
グリドは深く頭を下げ、オヤジウスに礼を述べる。オレに礼は無いが、別に気にしない。
桜野から聞いたが、グリドは四肢がもぎ取られたか食われたかという程の酷い傷を負っていたそうだ。しかし、目の前のグリドは五体満足な健康な若者にみえた。
「フォフォフォ、なんて事はないぞヨン! このオヤジウス・オッサンディア! 弱き者、傷ついた者を救うは法術師の誇りある務めぞヨン、家族一同無事で良かったぞヨン! フォフォフォ!!!」
桜野は肉と脂肪が膨張したような身体を誇示しながら、胸を張って述べる。
それは怪しげな言葉遣いであり、己が使命とでも言うかのように、大仰なジェスチャーを交えながら展開されていた。
というか、何だ! その怪しげな笑い方は?! キモイ。
「心から御礼を申し上げます。あれだけ傷ついたわたしの身体が、あんなにキレイになっちゃって、ホント信じられません!
オッサンディア様はものスゴイ法術師様なのですね。この御恩は生涯忘れません!!!」
ジェーニャは目を輝かせながら、礼を述べる。かなり興奮した様相だ。
桜野は鼻高々といった様子で、自身のスキンヘッドを撫でていた。
「はぁぁー 、オヤジウス様すてきー すごいひとー ありがとうございましたー おかーさんを助けてくれて、おかーさんを生き返え……」
「――おわっ! チョ、マテよ!」
桜野はその巨体に見合わぬ程のスピードで、しかしそれは周囲に微塵の被害も与えぬほどになめらかな敏捷さで、エニャの背後にしゃがんだ状態で回り込むと、そっと彼女の口に手を当てた。
オイ、今のはどういう動きなんだよ?! そんな動き?! 操作?! CULOでは無かったぞ?!
この世界では可能な仕様なのか?! 未知の動きをする桜野。相変わらず、訳の分からない男である。
(おっと、イケナイ娘だヨン♡ エニャよ、おワタクシとの約束を忘れたのかヨン?)
桜野はエニャの耳元でそっと何かを囁いている。
傍から見れば、膨れ上がった怪しげな変態ブタデブキモヲタ中年が、背後から児童に触れた上に耳元へ口を近づけている時点で、完全な事案である。
これは、即時通報しなくてはいけない状況だ。そうさ、100人中99人くらいは同意するだろう、うん、そうだろうよ。
だが、エニャの両親はその様子を微笑ましく見ていた。
不幸な事に、エニャは桜野に対し、まるで崇拝するかのような目を向けており、エニャの両親といえば、エニャが桜野に遊んでもらっていると誤認しているようだ。
こいつ、二次元の女の子にしか興味ないとか言っていたが、大丈夫だろうな?!
桜野のキモい囁きを耳元で受けたエニャは何かを思い出したらしく、何かを桜野に耳打ちする。
(あ、そーだ。ほかのひとに言っちゃいけないんだっけ? 言ったらおかーさんが天国に行っちゃうんだっけ?)
(そうだよ、エニャのお母さんの魂が、この世界に定着するまでね。最低でも10年は誰にも言ってはいけないよ?)
(わかったー。あたし、だれにもいわないのー)
エニャと桜野は何かを約束していたらしく、二人ともその約定を再度確認したようだった。お互い、うんうんと何かを確認しあっていた、桜野相手でなければ微笑ましいのだが。
エニャの両親は愛娘の発言内容に、さほど気にはしていないようだ。
後で桜野に聞いた話だが、エニャには人を蘇らせる法術は、誰かにその事を言うと術が解除されると言い含めたそうだ。そういうウソを伝えて秘密を守らせることにしたらしい。
まあまあの言い訳だ。子供くらいなら誤魔化せるだろう。
まさか、この世界でも困難な蘇生法術をEFスキルで再現できるとは思わなかったが。
正直、この話を桜野から聞いた時は卒倒しそうになった。
そんな場面を誰かに、それも大勢に見られていたらかなりまずい状況になっていた。
もしも大勢に見られていたら即刻、護衛の仕事を放り出して逃亡の旅をしなければならない。
多少大げさだが、こんなことを仮に現代日本でやっても同様だろう。
そして彼らとのやり取りを終えた後、オレ達はプルートから出発する。
町長や一部の住民、そしてグリド一家が見送ってくれる。皆、大きく手を振っていた。
一部の人々の瞳には、涙が浮かんでいるようだ。
桜野は号泣していた。しかし、不思議な事に何故か鼻水や涙は出ていなかった。
その時だった。
「おーい、戻ったぞお!!!」
二頭の馬に、二人の男がそれぞれ騎乗し駆けてくる。
二人の男の正体は昨日の夜、領主の元に討伐隊を出してくれるよう要請しにいったプルートから出した使いの者だった。片方は中年の男で、もう片方は若い男だった。
二人の男は疲労の様子を隠さず、汗だくのまま下乗する。
くたくたの二人だったが、それでもグラガ町長へと詰め寄り、現在の状況を聞いてきた。ひょっとするとこの二人、トートの集落の関係者なのかもしれない。
ただ、事態が収拾したことを聞き、ひとまず息をついたようだった。
そして二人は町長へと報告する。その報告の内容は実に奇妙なものだった。
それは疫病が蔓延する恐れもある凶獣、死肉熊らしきものが出現したにもかかわらず、ソルダ男爵の反応は悪いものだったという。
男爵が直接出てこなかったのは当然としても、対応した部下である筆頭執事の反応は、何か渋ったような様子でだったそうだ。
まるで、『それどころではない』と、言わんばかりの対応に、二人が怒りを覚えたのは言うまでもない。
こういう事も想定したのか、顔見知りの騎士に幾らかの金を渡し事情を訊いたところ、どうやらドルフィーラ地方を統括するカスパート公爵家に急激な異変が起きたそうだ。
数年前より、カスパート家は病弱な長男を後継者とする直系派と、少々粗暴だが能力面を重視して次男を後継者とする才覚派に分かれ、お家騒動が起きていたのだという。
この辺はエリスから聞いていない情報だった。まぁ、聞かされていても別段珍しい話ではないので頭から抜け落ちていただろうが。
それが急に後継者が決まり、今現在、ドルフィーラ一帯の領主に向けてその情報が伝えられているというのだ。
「それ、どういうことですか? 誰が後継者に決まったのです?! どちらですか? 御長男のフェルド様ですか?! それとも御次男のフルレド様ですか?!」
エリスが自ら馬車を降りてきて、少し興奮した様子で使いの男二人に詰め寄った。
二人の使いが帰ってきたため、エリスは出発を止めていたのだが、話の内容的に関係があるためか馬車から降りてきたようだ。
話の内容に関わらず、カスパート家の後継者争いに決着がついたとなれば、エリスにも関係してくる話だからだ。
如何にも身分が高く、そして10代とは思えぬほどの気品と美しさを持ったエリスが顔が近いと感じる距離まで迫ったためか、男は年甲斐もなく慌て困りつつも、なんとか彼女に告げた。
「え?! ええ、その…… なんていうか。その、どっちでもありません」
「はへ?」
予想と違う返答が返ってきた為か、ヘンな声を出してしまうエリス。
そして男は告げた。
「後継者に…… カスパート家の後継者に決まったのはエルメリア・シィル・カスパート公爵令嬢だそうです。
あ、いえ。もうエルメリア・シィル・カスパート公爵様ですね」
「へ? あ、ああ…… あの、申し訳ございません。それは何かの間違いでは? 代行とかそういう…… いえ、現在の当主であるルガリア様が、ご逝去や引退などされていないワケで…… え? え?」
エリスはどうやらパニクっているらしい、それはやむを得ぬことだろう。
この世界において権力者が亡くなった場合、配偶者もしくは血縁者の女性が一時代行を務めることは極まれに見られることだ。エリスの場合、この稀なケースに該当する。
だが正式な後継者になることは無い。この世界の常識として、男だけが家を相続できるからだ。
いずれ正式な後継者になる男性を迎え入れ、家を相続してもらうことになるのだ。
ただ、例外はある……。 その継承者が、ある能力を持っているか、もしくは目覚めれば……。
その例外が発生するのだ。非常に低い確率だが……。
中年の男は、興奮したエリスを前にして冷静さを取り戻したのか、ワザとらしくコホンと咳払いをして淡々とその各領主に伝えられた内容をエリスに向かって述べた。
「ええと、エルメリア様は2日前、秘密裏に執り行われた【絶仙会議】にて正式に絶仙として承認されたとのことです。そしてそれを受け、カスパート家当主ルガリア・ドゥル・カスパート公爵様がエルメリア・シィル・カスパート様を正式に次期当主として指名したとのことです。これが各領主にもたらされた内容だそうです」
それを聞いたエリスは、しばらくの間、呆然自失となってしまった……。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
オレは昨日のようにエリスとは同じ馬車には乗らず、桜野と共に貨物馬車のほうに乗り込んでいた。
理由は単純、眠りたかったからだ。自分本来の肉体に戻って。
2日以上、アーマメント状態でいて、特に何か問題がある訳ではなかった。
だが、肉体的には疲労しているわけでは無くても、精神的には疲労していたのだ。
眠る、この行為は大事なのだ。特にオレは、前世でも現世でも睡眠は大事にしていた。
頭がきちんと働いていなければ、パフォーマンスを発揮できない。それは前世でも理解していたことだった。それと単純に、寝不足だと仙技の調子が悪いという理由もある。
オレは貨物馬車内に積まれていた、衣服が入っているらしい適当なカバンを枕にすることにした。
貨物馬車は幌できちんと覆われたしっかりとした作りのものであり、それなりの積載量があるものの、荷物が多数積んであるためスペースは狭かった。
だが、しょうがないことだ。道中、誰にも見られずに寝られるのは、この場所くらいしかないのだ。
「おい、停車して誰かが中を覗こうとしたら、頼むぞ」
「わかってるヨン。そのときはスグに起こして、時間を稼ぐヨン。おワタクシのセクスィーボディーで視線を釘付けにしてやるのヨン♪」
もはや突っ込む気力も起こらず、俺は半眼で桜野を睨む。
オレはメインメニューを開く、視界上部の横一列に各種項目が表示される。一番右端のシステムを選び、そこから下に続く項目一覧から一番下を選んだ。
システムログアウト、CULOにおいてゲームを終了するコマンドだ。この世界に来て当初、これを選べば元の生活に戻れると思ったんだっけか?
俺はシステムログアウトを選択する。
≪ ARMAMENTを解除します。よろしいですか? YES/NO ≫
CULOとは違う、表示されたログアウト警告メッセージを確認すると、オレはYESを選択する。
全身から光の粒子が発生し、空に向かって昇っていく。だが、光の粒子は白い幌の天井部にあるため、そこに当たって消滅していった。
これは紛れもない、CULOのログアウト演出エフェクトだった。
閃光が発し、光が消失すると同時に、俺の姿は新瀬零司へと戻る。
「はぁ、やっぱこっちのが落ち着くわ……」
俺は座ったまま、自分の身体を確かめる。
女の柔らかな肉体と違い、男の硬い肉体の感触を確かめると俺はどういうわけか安堵した。
「ウフ、お・ひ・さ♪ やっぱりそっちの方がしっくり来るのヨン。お・と・こ・ま・え♡ ウフッ♡ 惚れちゃうわヨン」
「すまん、その姿で言われたら冗談でも、そう聞こえないわ。まったく聞こえないわ」
本当にコイツはよく飽きないものだ。俺は、半ばあきれ顔で桜野を横目に見る。
彼は俺を見ながら両手を頬に付き、何故かウットリと見つめている。
え、何? 何なの? これって身の危険で眠れないフラグ?
「ウフ♪ 安心して眠るといいヨン。おワタクシが見守っていて、あ・げ・る♡」
タチの悪い冗談だと思いつつ、桜野には背中を向け、俺は床に寝そべる。
今日のヤツはいつも以上にタチが悪い。やはり、人の命が失われたような現場を目の当りにして、ハイになっているからなのだろうか? だとしたら、あとでフォローしてやらねばなるまい。
あまり、気は進まないがね。
俺は眠る準備をする。と言っても、ただ目を瞑り思考を停止するだけだが。
元の姿に戻る前は特に感じていなかったのに、どういうわけか今はひどく疲労を感じていた。
軽く目を閉じただけで、眠気が俺の意識を浸食していく。
そして俺の意識は、早々に闇に沈んでいった……。




