第32話 夜明け -side零司
長い夜が明け、朝を迎えた。
オレは一旦、トートの集落に戻ることにした。状況を確認するためだ。
集落に戻ると、桜野が疲れ切った顔でたたずんでいた。
話しかけると、EFをほとんど使い切った事を告げられた。
『ごめん、全部EFを使い切った、悪かった。あ、いや悪かったヨン』
普段の口調を無理やり付け足したところを見るに、よほどまいったのだろう。
オレが責めると思っていたのか、どこか桜野の表情は暗かった。
オレも全部使い切ったことを告げ、桜野を責めることはしなかった。
オレと桜野はプルートの町に戻ることを住民に伝え、トートの集落をあとにした。集落を出る前、何度も住民から引き留められたが、プルートの町に経過を伝えなければならない事を告げると何とか納得してくれたようだ。
プルートに到着すると、町の出入り口はすべて固められ、プルートは厳戒態勢を敷いていた。
門の警備をしていた男に事情を説明し、グラガ町長を出してもらう。
ここからが少し面倒なことになったのだ。
グラガ町長にコトの結末までを話し、トートの集落に人をやってほしいと頼むと、その前に凶獣の死体を確認してからと言われたので案内することになった。
ついてきたのは、グラガ町長と町のギルドに所属する冒険者たちだ。
狂獣だとは言わなかった。もし言えば、面倒なことになるからだ。アレの存在を認識しているのは、さほど多くない。
知っているのは、オレたちにとって厄介な連中が殆どだ。だからこそ、狂獣を倒せる存在がいることを知らせる必要はない。
オレが倒したのは獣だか凶獣だかわからないが、とにかくデカい新種のバケモノだったとごまかすことにする。
死体は、頭部から胴体にかけて、オレが消滅させたワケで、残っているのは常識外にデカい手足と、消しそこねた僅かな胴体部分だった。
破壊され滅茶苦茶になった沢やその周辺と、そして残った狂獣の死骸の一部をみた町長は驚愕していた。
町の冒険者たちは口々に死肉熊の足ではないし、あまりにも大きすぎると、やはり驚愕していた。
一応、この狂獣も熊らしいけどね。
暗視機能をONにしていたとはいえ、視界がよろしくない状況で戦っていたせいか、狂獣の姿をきちんと把握していなかった。
顔は熊だが、現場に残された、この異常に発達した四肢を見るに元の生物の原型からは相当に乖離しているようだ。この大きく長く太く骨ばった四肢は、どう見ても熊のソレではない。
町長たちは、この異常な出来事に不安を隠せないようだった。
だので、オレは白々しく、こう述べた。
集落の民は、暗くて死肉熊と間違えたのではないか? もしくは死肉熊だと認識した人物が、唯一知っている大きな生物がソレだったからではないか? そして疫病の類は、今の所まったく発生していないしオヤジウス・オッサンディアが負傷者はすべて治療する際、浄化法術も併用したと。
町長の不安が完全に払しょくされたわけではなかったが、ひとまずは納得してくれたようだ。かなりムリのある説明だった気はするが。
ウソはまったく言っていない。話の方向はズラしたつもりだが。
「それにしても、ニゴレイアル殿。これほどの怪物を一人で倒すとは! いやはやエリアス様が仰っていた通り、凄腕の仙技使いだったのですな! これほど若く、そして美しい女性が。いやはや、これはまたなんとまあ!」
グラガ町長は仰々しくオレを褒めちぎる。続いて、町の冒険者のおっさんたちも称賛の声を上げた。
一人くらい、懐疑的な眼で見るやつがいるのではと思ったが、そんな心が穢れた者はいないようだった。
「すげえよ! 姐ちゃん、あのすっごい光が空に向かって飛んで行ったけどさ、あれも姐ちゃんの仙技なのか?」
「いや、まあ。見た目が派手なだけで、バケモノを倒すのが精いっぱいの威力しかないよ。ハハ、全然すごくないから」
ムリがある説明だったが、オレは桜野のようにアドリブが効く性格ではないのだ。これくらいしか出なかった。
そうだ、アレは派手すぎる技だろう。CULOでは使えない技の筆頭で、封印しているEFスキルの一つだったが、こうして現実に使うとなるとあそこまでのモノだとは思わなかった。
オレは誤魔化すように、話題を変える為、全員に向かって言った。
「そんなことより一刻も早く、トートの復旧作業に向かってほしい。頼む」
短くシンプルな説明だったが、皆、理解してくれたらしい。
全員、足早に動き出した。
見送りながら、彼らの背中が遠くなるころ、オレはあるアイテムを取り出すため、視界にあるメニュー画面のアイテム欄からソレをセレクトする。
何もない虚空に、漆黒の穴が手のひらぐらいの大きさで出現し、そこに手を突っ込と、ソレの感触があったのでそのまま取り出した。
ソレは先程、狂獣を倒した現場に落ちていたものだった。
恐らく、ヤツの体内にあったものだろう。
ソレは大雑把に見て、杭のようだった。色はガンメタリックより少し明るく、鈍い輝きがあった。
直径6cm強といったところで、長さは50cmくらいだろうか。杭だけに先端は尖っており、何かに刺すことは可能だろう。
そして反対側には妙な装置が取り付けられていた。それは拳ぐらいの大きさで、正十二面体の形状をしており、透明なガラスのようなもので作られていた。
もちろん、ガラスではないだろう。触ったり、落ちていた石で叩いてみたが、まるで傷は付かなかった。当然だろう、オレの放った強化EFスキルを狂獣とともに喰らっても、まるで無傷で落ちていたのだから。
そしてこの透明な正十二面体の中には、美しいサファイアのような宝石を連想させるものが入っていた。
それはきちんとカッティングされており、一見すると宝石に見えるが明らかに違った。
青く鈍い光を、能動的に放っていたのだ。
この銀色の杭はこの世界のものだろうか? 前世のオレの知識データーベースに、このようなものは該当しなかった。
ただ、現代日本で生きたオレには見覚えがあった。
これはCULOに登場するアイテムだからだ。
使役杭、CULOに登場する職業【ビーストテイマー】が使用するアイテムだった。
この使役杭をビーストテイマー専用武器である、杭打ち砲【パイルランチャー】を使って打ち出すのだ。
そして、これはあくまでCULOの話だが……。
――使役杭を打ち込まれた惑星獣は、ビーストテイマーに使役されてしまうのだ。
ビーストテイマー。その固有名詞を思い出し、オレの背中には汗が流れる。
この世界に呼び出されたのが、オレたちだけはないというのは理解できる。むしろそう考えるのが自然だろう。
ビーストテイマーにジョブチェンジしたCULOプレイヤーなぞ、いくらでもいるのだ。
だけど……。
ビーストテイマーと聞き、オレが真っ先に連想したのは愛する家族の一人である、オレの妹。
新瀬莉亜のことだった。
彼女のCULOにおける職業は、ビーストテイマーだったからだ。




