第31話 奇跡 -side零司
はじめはオヤジウス視点です。
「おワタクシの運気ってどれくらいだろ? ギャンブル嫌いだしよくワカンネ、でもまぁいいや! この世界の神様! これから信徒になるので、どうかよろしくお願いします!!!」
スキルランチャーから任意のEFスキルを選択する。
ボクが選ぶのは……。
やっぱりコレだった。
【医神の祝福】
通常使用ならば、プレイヤーキャラクターのHPとEFPを完全回復させる回復系EFスキルだ。
このEFスキルにスキルブーストを適用したのならば…… 一体どうなるのか!?
「いくわヨン! 強化EF技能! 医神の祝福!!!」
即時発動! こりゃいいや、EFスキル発動待機時間ゼロ!
ボクの身体が鮮緑色の光を帯びる、ここまではいつもの回復系EFスキルのエフェクトだ。
そして次には閃光が走るのだけど……。
うおっ! まぶしっ!
いつもの二倍以上マシマシで激しい閃光がほとばしる! 光柱どころか、鮮緑色の閃光爆発やー !!!
エニャの母親であるジェーニャの肉体が、眩いほどの鮮緑光に包まれる。
その光はどこか暖かで、美しく、そして神秘的だった。
目を開けられない程の鮮緑光の奔流が徐々に消失していくと、周囲には鮮緑色をした光粒の残滓が漂っていた。
やがてそれも消失した。
そこにあったのは、五体満足の健康的な肉体をしたジェーニャだった。
狂獣に食いちぎられたか、触手にやられたかで失われたはずの四肢は完全に元通りになっており、彼女の肉体には傷などひとつも見られなかった。
そして、失われたはずの生命が彼女の肉体にふたたび宿ったことを示すように、その瞳には命の光が輝き始めた。
「あ、あ……あれ? エニャ? わ……たし、どうして?」
「おかーさん!? おかーさん!!!」
エニャは再び縋り付く、涙が溢れんばかりの顔を母親の胸にうずめた。
それは悲しみの涙ではなく、歓喜の涙だった。
エニャは大声で泣き続けた、死んだと思った母親が息を吹き返したのだ、当然のことだった。
ジェーニャは上体を起こすとエニャを抱きしめた。
彼女は柔らかな表情で愛娘の頭を撫で続けていた、その間ジェーニャは笑顔だったが、その目からは涙がつたい落ちていた。
「よかった、うまくいったのヨン……」
ボクもつい貰い泣きしてしまう。
うんうん、よくぞ正解を選んだ、ボクえらい。
よかった、本当に良かった。EFはすべて使い切ってしまったケド、多くの人を救えた。エニャのお母さんも蘇らせることができた。
ボクはとっても幸せな気持ちになれた。
EFがスッカラカンになったことをレイジが知ったら激怒しそうだけど、しょうがないよね。ボクが怒られれば良いのだから。
そのときだ、緊迫した状況が少し落ち着いたせいなのか、ある違和感をボクは唐突に思い出す。
それはレイジのことだ。
この世界に来てから一週間になるが、このボクとはいえ初日については心細くて仕方なかった。
たったひとりぼっちになってしまい、思わず泣いてしまったのは秘密だ。
この身体、アーマメントというものに気づき、その能力や性能を調べているうちに少しずつ落ち着きを取り戻せた。
その後、なんとか旅をしながら色んな人たちと出会い、そして別れ、それからレイジと再会した。
違和感は再会したときのことだ。
レイジはボクと同様、姿形は違っていた。だから見た目の違いからくる違和感があるのは当然だろう。
だからといって、何故、彼はあんなにもこの世界と調和した雰囲気を持っていたのだろう。
もちろん気のせいだとは思った。
しかしあの時、裏切り騎士やタブサとかいう男が引き連れていたガラの悪い連中、そいつらを追い払うために彼が放った【爆散射ち】が道路の向こう側に着弾して、それはすさまじい爆発を引き起こした。
それを見て彼らは撤退したと、レイジはそう解釈しているだろうし、ボクもそうだと彼も思っているだろう。
でも違う、ボクはあの修羅場の中にいたのだ。その現場の雰囲気を、この肌でひしひしと感じ取っていた。
彼らは引く気など無かった。
何故なら敵味方が入り乱れている中、あの技は使えないだろう事は、あの場にいた者たちの大半は理解していたからだ。
でも、ジスエクスが持つ雰囲気……。いや、新瀬零司が醸し出す、あの叩きつけるような異常な殺気!
それに気圧されて、みんな撤退していったのだ。
レイジは何も気づいていなかった。自分の放ったEFスキルの威力に驚いた為、彼らは撤退した。
そうレイジは思っているのだろう。
でも違う、違うんだ……。
そのあと、ボクはレイジに対しては、いつもと同じ態度で接した。
普段、学園で晒しているような、おバカでおフザケが過ぎてキモヲタなボクを演じた。
それを受け、レイジは全くボクの内心には違和感を抱いてはいないようだった。
そう、レイジはまったく気づいていないのだ。
彼自身が垣間見せる異常さに……。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「さて、どうやるんだ? スキルブーストとやらは?」
オレは視界内に表示される各種項目からいろいろ操作して試していた。
その間は当然、狂獣は攻撃してくる。
それらの攻撃はテキトーにかわす、あの突撃さえ喰らわなければ大したダメージは無いのだ。
たまに触手がペチペチ当たるが気にしない。
そんな中、スキルランチャーをいじっていたら、スキルを選ぶ際のサブメニューに[スキルブーストの付与]というのがあり、それを選択すれば使えるらしいことがわかった。
なるほど、思ったよりも簡単だな。
さて、早速やってみるか。
先ほど失敗した【極限光射】を使ってみよう。
襲い掛かる狂獣を前に、オレは冷静にエレメンタルシューターを向け……
「あ……」
再び突撃を喰らう、おバカなオレ。
ド派手に吹っ飛び、コロコロと転がって大の字で倒れる。
あくまで個人的な推測だが、この狂獣の推定体重は乗用車1台分を余裕で超え、熊らしく二本足で立ち上がれば体高は2階建ての一軒家並だ。
そんなバケモノの突撃は、ありとあらゆるものを破壊するだろう。
でも、そんな攻撃をものともしないオレの身体。
いや、何をふざけているのかって?
たった今、俺は狂獣にエレメンタルシューターを向けたワケだが、狂獣の後ろの方向にトートの集落があったからだよ。
スキルブーストで強化した極限光射が、どれくらいの威力になるか想像もつかないからな。
それでなくても水平方向には射ちづらい。もし、威力がありすぎて、この狂獣を貫通して何処かに被害が出たらと思うとゾッとする。
この世界に未練は無いが…… そう、本当に無いが。
一般市民に迷惑をかけるつもりはないからな。
コイツ相手には、できるだけ上の方向に射ちたいわけだ。
だからこそ、ワザと攻撃を喰らって倒れたのだ。
これならやつは、飛び掛かってくるだろう、トドメを刺す為にな!
決してボーっとしていたワケではないぞ。
狂獣は後ろに飛び下がり、少し距離を作ると助走をつけ高く飛び上がる。
勢いをつけた自重から発生する撃力が、敵を粉砕するだろう。オレ以外ならな。
予定通り上から襲ってきてくれるのだ。絶好のタイミング!
オレは大の字で倒れたまま、エレメンタルシューターを斜め上に向ける。
そしてスキルブーストを適用したEFスキルを使用する。
瞬時に足元から生じたEFらしき動力は、白色に輝く放射体オーラのように可視化され、やがて全身を包み込んでいった。
激しく光る放射体オーラは、まるで天に向かって己の力を誇示するように、閃光と共に立ち昇る。
EFスキル発動までの待機時間など無かった。スキルブースト化の恩恵ってやつだ、いつでもオレの意思で射つことができるのだ。
「いくぞ、強化EF技能! 極限光射!!!」
――ほとばしる強烈な光と共に、膨大なエネルギーの塊が狂獣に向かって放たれていった……。




