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第28話 狂獣 -3

オヤジウス視点です。


「引き付けごくろーさんだヨン! ガ・ン・バ・ッ・テ♪ 応援し・て・る・ゾ♡」


《クソがァァッ!!!》



 (ほとばし)るような熱い意気込みを、()えるように言葉で表現するレイジ(ジスエクス)。うん、やる気マンマンだね♪



「ふう、なんとか去ってくれたヨン。ジスエクス(レイジ)に大役を任せてしまったわけだけど、ごめんだヨン。まぁまぁまぁまぁ、カレならきっとやってくれるヨン」



 おワタクシ……いや、()()は抱えていた二人の子供を横に並べるように、そっと地面に降ろす。二人とも触手が巻き付いたまま意識は無い。


 とりあえず、触手を引きちぎる。意外なまでに触手は脆かった、本体から離れた途端にこうなるってことなの?



 解放した二人の子供を見る、片方は小さな女の子だった。

 町長の姪っ子の一人娘、エニャだ。

 脈を診てみると、まだ息があった。


 もう一人は男の子だ。

 年齢はエニャと同じくらい、集落の子だろう。

 エニャの友達なのだろうか? この子も息がある。


 あの狂獣とやらは、食べる為に連れて行こうとしたのだろうか。

 だとしたら、タッチの差だった。


 ふたりとも救い出せた、本当によかった。

 ボクは心からそう思う。


 早速二人の状態を調べる、傷は負っていないだろうか? 医者ではないから詳しいことは分からないが。

 外傷は無い、毒物や劇物の影響はどうだろう? 触手と接触していた以上、何らかの影響があるかもしれない。


 EF(エーテルフォース)スキルランチャーから【キュアコンディション】を選び出すと、すぐさま使用する。


 【キュアコンディション】は身体異常をスキャン後、治してくれるEF(エーテルフォース)スキルだ、同時に少量のHPも回復する。ただし、呪いと精神異常は治せない。

 この回復系EF(エーテルフォース)スキルはサークル状に効果範囲を指定することができ、ボクは並んで地に寝ている二人に合わせるとキュアコンディションを発動させた。


 黄色の光がサークル状に発生し、二人を包むと。やがて飛散するかのように消失する。


 これでやるべきことはやった。このスキルでどうにもならないのであれば、ボクにできることはない。


 他の人たちを治すべく、辺りを見回した。


 集落の状況は凄惨に尽きるの一言では済まないものだった。

 

 あちこちに人の肉片らしきものが散らばっていて、食べ残しのような状態の住民の遺体もあった。

 とにかく躯だらけだ。


 嘔吐感が沸き上がってくるような気がしたが、吐かなかった。

 この身体だとそういうものがないのだろうか? 食べても腹に食べ物が溜まっている感覚すらないのだ、ホント不思議でしょうがない。


 まあ、それはいい。とにかく出来るだけ多くの住民を治療しなければ。



「五体満足で動ける人はいるか?! いたら息のある生存者を一か所に集めてくれ! ()()は法術師だ! はやくやってくれ! 助かる命があるかもしれない!!!」



 大声で、集落じゅうに聞こえるよう、何度も呼びかける。

 

 すると、隠れていたのだろう集落の住民が何人が出てきた。

 彼らは事態に動揺していたものの、ボクの呼びかけに徐々にではあるが反応してくれて、救助活動に参加してくれた。



 住民が負傷者を集めてくる間、自分で動き救助することにする。


 ふと、レイジの言葉を思い出す。


『善意を施した場合、返ってくるのはお礼だけじゃないってこともあるんだよ』


 さすがにボクだって、彼が何を言いたいのかは分かっているつもりだ。


 ボクの使う回復系EF(エーテルフォース)スキルが、この世界の常識ではありえない程の性能をもっているという事。

 そして、EF(エーテルフォース)を回復させる手段が手持ちの貴重な回復アイテム以外に現状では存在しない事。


 極端な話、自分たちの為だけに使うべきだという事。


 ――だから。

 苦しんでいる人がいても放置しろと?



 その時だ。


 一人の小柄な男が倒れているのが目に入った。

 いや、違う。

 その男は下半身がない状態だったのだ。

 

 下半身が千切れていて、既にこと切れているかと思われたが、不幸なことにまだ息があった。

 無くなった下半身は周囲には見当たらなかった。


 恐らく、あのバケモノ相手に戦ったのだろう、右手には剣が握られたままだ。


 よく見ると、その男には見覚えがあった。


 エニャの父親、グリドだった。

 つい、先ほどまでグラガ町長邸で共に食卓を囲んでいた仲だ。


 駆けるように彼のそばに行き、声を掛ける。



「あ…… あなたか…… お、お願いだ……娘を……エニャを……た、たすけ……」



 虫の息なのにもかかわらず、グリドは娘のエニャの事を助けてほしいと言った。


 既に助け出したと、グリドに伝えようと思ったが思いとどまる。

 そんなことをしている暇があれば、別の事をしよう。


 EF(エーテルフォース)がもったいない? 知るか、苦しんでいる人が目の前にいて自分は助けられる力を持っている。

 

 なら使おうじゃないか。

 そのあとのことは知るか! このまま何もしないのは耐えられない!


 ボクは【慈愛(アフェクション)のそよ風(ブリーズ)】を発動させる。対象は単体、回復レベルは最大回復量を誇るLev.3で行う。


 【慈愛(アフェクション)のそよ風(ブリーズ)】はCULOのプリースト系が使う回復系EF(エーテルフォース)スキルだ。

 要するに、回復魔法ね。


 対象にカーソルを合わせて即発動。


 ボクの身体が鮮緑色の光を帯び、小さな閃光と同時に緑色の光の雨がグリドに降り注ぐ。


 グリドが負っていた傷口はすべて塞がっていった。だけど、失われた下半身はそのままだ。



「治ってない!?」



 そもそもゲームとは微妙に仕様が異なるのは、これまでの経験で少しわかっていることだ。


 グリドの様子をみてみると、顔色は青ざめたままだ。 

 肉体の大半を失う重症の場合、【慈愛(アフェクション)のそよ風(ブリーズ)】では治せないのかもしれない。


 ええい! 助けると決めたじゃないか! もう知らん、EF(エーテルフォース)をかなり使ってしまうがしょうがない。

 レイジが何か言ってきても、無視だ、無視!



 【医神(ブレッシング)の祝福(オブアスクレピオス)】を使うことに決めた。

 このEF(エーテルフォース)スキルはプレイヤーキャラクターのHP(ヒットポイント)EF(エーテルフォース)(ポイント)を完全回復させるものだ。

 

 当然、相当なEF(エーテルフォース)(ポイント)を消耗する。


 いいさ、救うと決めた。

 あ、そうだ。この世界で自分のEF(エーテルフォース)スキルがどういう効果をもたらすか調べることも大事だろう。そういうことにしておこう。レイジにはそう言うつもりだ。


 【医神(ブレッシング)の祝福(オブアスクレピオス)】を使用、発動までは結構時間がかかる。


 はやく発動しなさいよね。


 待機時間が終わり、【医神(ブレッシング)の祝福(オブアスクレピオス)】が発動する!


 ボクの身体が鮮緑色の光を帯びたかと思うと、閃光と共に鮮緑色の光柱が、グリドから立ち昇る。


 そして光柱が消失し、周囲に光の残滓(ざんし)が飛散する。


 すると、失われたはずのグリドの下半身は元に戻っており、グリドは五体満足な状態となっていた。


 ただ、衣服は元に戻らないために男性器が丸見えだったが。

 くそ、ボクより立派だとは……。


 謎の敗北感を味わうボク。

 いやいや、そんなことやってる場合か。

 ボクはグリドに近づき、状態を見てみる。

 

 意識は戻ってはいないが、顔色は赤みが戻り健康的な表情だった。

 多分だが、大丈夫だろう。



「法術師さん!!!」


 背後から声を掛けられた。

 この集落の生き残った住人だ。

 

 どうやら、ケガ人を集めてくれたらしい。


 ボクはその場に向かい、集められ横になっている何十人ものの住民に対して【慈愛(アフェクション)のそよ風(ブリーズ)】を発動させる。

 対象は複数なので回復対象指定範囲を広げる。回復レベルは最大回復量を誇るLev.3だ。


 範囲を広げれば広げるほど、大量のEF(エーテルフォース)(ポイント)を使うことになる。

 こうなったら全部使い切ってもいいさ、やってやるよ。


 ボクは【慈愛(アフェクション)のそよ風(ブリーズ)】を使いまくった。

 すべての人を治療するまでだ。


 住民は口々に奇跡だとか神々しいだとか、感謝の意をいろいろ示していたが気にしない。

 全員の治療にはEFスキルを何回も使う必要があったので、相手している時間はなかった。


 それでも、なんとか全員分を捌ききった。

 死んでしまった住民はムリだが、瀕死ならなんとかなるらしい。


 【医神(ブレッシング)の祝福(オブアスクレピオス)】は使わなかった。

 というより使えなかった。アレは効果範囲が一名だけで大量にEF(エーテルフォース)(ポイント)を消耗するのだ。

 大勢を治療する以上、残念だがムリだった。



「おかーさん!!!」



 どこかで聞いた少女の声だった。


 見ると、意識を取り戻したエニャが走って行くのが見えた。


 エニャは半壊した家、あのバケモノが出てきた大きな家だった場所に行こうとしているのだ。

 ボクは彼女を止めようと走り出す。家が崩れてくる可能性があるからだ。


 あっさりと追いつき、エニャを捕まえる。



「ダメだ、家が崩れてくる可能性がある。入っちゃダメ!」

「おかーさんがいるの! わたしの代わりにあのバケモノに、バケモノに……う、うう……あああああ!!!」


 エニャは大声を上げて泣き出した。

 それは慟哭だった。



「わかった、一緒に行こう。おワタクシならケガを治せるよ」



 ボクは泣いたままのエニャを抱き上げると、一緒に半壊した家へと向かう。

 もし、崩れてきたら即撤退だ。なに、なんとかなるさ。



 崩れかけている家の中は意外に明るかった、まだランプが灯っていたのだ。割れて中のロウソクが燃え広がらなくて幸いだったが。



 エニャのお母さん、ジェーニャを探すことにした。

 もし、崩れた建物の下敷きになっていたとしたら最悪だった。


 だが、意外にもすぐに見つかった。あのバケモノがでてきた場所からわりとすぐの場所に居たのだ。



「あ……おかーさん!!! いやあああ!!!!!!!」


 ジェーニャはいた。


 四肢を引きちぎられ、虫の息と言っていい状態でそこに捨てられているような状態だった。

 あの触手にやられたのだろうか。


 エニャは駆け寄り、ジェーニャに呼びかける。



「エ……エニャ……よかっ……た……」



「おかーさん!!! おじさん、お願い! お願いです! おかーさんを助けて! なんでもしますから! お願い!!!」



 必死に願う姿にボクは涙を抑えきれなくなる、だけど、助けることは叶わないかもしれない。


 なぜなら……。

 

 もう、ボクのEF(エーテルフォース)(ポイント)が尽きかけようとしていたのだ……。




 


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