第27話 狂獣 -2
テンポよくしたいとか言っておいて、なかなかうまくいきません。
読んでくださっている皆様、すみません。
――EFスキル:複数同時捕捉光射
【ギャラクシーハンター】が習得できる専用スキルのひとつ。
最大8体まで標的を捕捉することが可能であり、捕捉した複数の標的に対して時間差なく光芒の矢を放つ事が可能。
標的をロックオンし続けると威力レベルが向上する。威力レベルの増大は最大3Levまで。
――オレは【複数同時捕捉光射】を使用することにした。
わずかな時間差もなく、複数の目標を同時攻撃できる点と、命中精度が高い点を考慮してだ。標的は二人だが、念のためだ。
敵を攻撃するまで、それなりの時間を要するが幸い狂獣はこちらを向いていない。
子供が触手ごと地面に落ちる前に、桜野が子供ふたりを回収する。
アイツ、ちゃんとうまくやってのけるかね?
オレはエレメンタルシューターを構え、弦部分を引く。
弓とか概念が違う為、引きはさほど重くない。銃で言えば撃鉄を起こすような動作だ。
EFスキルランチャーから【複数同時捕捉光射】を選択する。
エレメンタルシューターの発射口に、光の粒子が集約してゆく。
ターゲットマーカーが変更され特殊なマーカーが出現する。【複数同時捕捉光射】専用のものだ。
念には念を入れて、Lev.3まで引っ張りたいものだが……。
正直、この身体がこの世界においてどれぐらいの強さか、まだ測りかねているのだ。
以前の俺ならコイツ相手でも、装備さえ揃っていれば、一瞬で倒せたのだが……。
グオオオオオオオオ!!!!!
「おい、やばいヨン! こっちに気付いた臭いヨン!」
狂獣はこちらが攻撃しようとしている事を察知し、態勢を低くして突撃姿勢に移行しようとしていた。
紅い妖光を放つ滾った眼が、こちらを捉えた。
「早く! 早く! 射つのヨン!」
桜野が喚くように急かす。
「あわてなさんな!
――うまくいきますように……【複数同時捕捉光射】」
触手に絡み取られ高く持ち上げられた子供より1メートル下方、そのあたりを射つ。
弦を解放すると、発射口から二本の光芒の矢が同時に発射され、光芒の矢はふたりの子供を絡めとっている触手の約1メートル下を両断した。
当然のごとく重力の法則に基づき、触手が巻き付いたまま二人の子供は落下する。
光芒の矢が触手を両断した瞬間、己の身体を傷つけられた狂獣は怒りを覚えたらしく、その場で激しい足踏みをした。
それは地団駄を踏むなどと言うには生易しいほどの振動を引き起こし、地割れでも起こるのではないかと錯覚を引き起こすほどだった。
もし、そのまま二人の子供がその場に落下していたら、その巨体で踏み抜かれ、見るも無残なことになっていただろう。
だが、そうはならなかった。
二人の子供が落下した瞬間、桜野が駆け抜けたのだ。
【|スピードリキッドLEV.2】はプレイヤーキャラクターの敏捷性を爆発的増加させる。ただし、効果は一瞬だ。
ダッシュの一動作が余裕をもって終わるくらいの効果時間しかないだろう。
IGがもっと高く、高性能のスピードリキッドなら効果は長時間継続するだろう。
ただ、子供二人を落下する前にキャッチするだけなら、【|スピードリキッドLEV.2】でも十分、役目を果たせた。
コレステロールと中性脂肪まみれの各種疾患を引き起こすどころか、現在絶賛進行中と言っても過言でないような超肥満体にもかかわらず、軽やかで、かつ目にも止まらぬスピードで二人の子供に迫ると、見事にキャッチして狂獣の横をすり抜けるオヤジウス・オッサンディア。
「やったヨン! おワタクシ、サイコー! フォフォフォ!!!」
謎の奇声を発しながら、二人の子供を抱え飛び回る桜野。
傍から見れば児童誘拐の現行犯に見えなくもない。いや、見える。
そんな微笑ましい光景は、すぐに終わりを告げた。
獲物を奪われたと思った狂獣が、桜野を敵と認識したようだ。
狂獣が桜野目掛けて飛び掛かる、寸前で超肥満体がその身を翻し攻撃を避けた。
「ヤバイ! やばいのヨン! ジスエクス敵を引きつけて欲しいのヨン! コイツがこの場で暴れたらまだ生きている人まで踏まれてしまうのヨン! お願いなのヨン!」
ヘンな語尾のせいでまるで緊張感が無いように思えるが、桜野の表情は必死だ。
追ってくる狂獣が、傷を負い倒れている集落の民を踏まないよう、桜野は上手く誘導していた。
桜野の言う通り、このままこの場所で戦っていては被害が拡大してしまうだろう。
本当の所、ここの集落の住民とは関わり合いにはなりたくなかった。
誰かの命を背負うことの重さ。その責任の重さと辛さをオレは知っている。
身内だけですら、とても重いのだ。
このまま見捨ててしまおうか? 関係の無い住民なのだから。なんならエリスの警護だって放り出して、逃げてしまえば良いのだ。
男二人(片方の外見は女)連れが行く、身内を探す旅でもいいじゃないか。
しかし、そんなことをすれば桜野はオレに失望し、見限り、たとえ元の世界に戻れたとしても、二度と桜野はオレを親友とは思わないだろう。
それは避けたいことだと思った。
桜野は変なヤツではある。
しかし、オレが日本に転生し、初めて出会った尊敬できる友人なのだから。
「わかった! 桜野! これからおまえが離脱できるよう、援護する。タイミングを合わせろ!」
「了解ヨン!」
スキルランチャーから【爆散射ち】を選択する。
エレメンタルシューターを構え、そして狙う。
狙うは頭部、コイツは熊のバケモノだけに頭は身体の割合からすると小さい、狙うのは至難の業だがオレの腕なら当てられる……ハズ。
今度は人質も無いため、遠慮なく射てるが爆風には気を付けないといけない。
地に転がっている生存者に影響が無いようにだ。何かあれば、桜野がうるさそうだからな。
威力は絞る。こちらに気付けば良いのだから。
【爆散射ち】を発射する。溜め時間は無し、即時発射だ。
これなら小爆発で狂獣の注意を引きつけられるハズだ。
【爆散射ち】が狂獣に命中!
頭部付近に小爆発が発生し、狂獣は足を止めてこちらを振り向いた。
どうやらオレを標的と認識したらしい。
オレは即座に方向転換、脇目も振らず走り出す。
目指すは集落の外だ。
最短ルートで集落の端にある砦柵へと向かう。
そして砦柵の目の前まで迫って行くと、オレはそれを飛び越えた。
砦柵は3メートルくらいの高さと、二重に設置されている為、奥行きは3メートル以上あったが、このアーマメントとやらの肉体性能は相当なものらしく、難なく飛び越えた。
オリンピックはいただきだな。
そこから少し走り背後の様子をうかがうと、凄まじい衝撃音と共に、砦柵が吹き飛ばされた。
狂獣が砦柵に突進したのだ。
砦柵を構成していた木材が木っ端微塵になり、周辺にバラまかれる。
敵の侵入を防ぐ砦柵が何の意味もなさなかった理由がよくわかった。
その時だ、PVCが飛んでくる。
当然、桜野からだろう。
《引き付けごくろーさんだヨン! ガ・ン・バ・ッ・テ♪ 応援し・て・る・ゾ♡》
《クソがァァッ!!!》
オレは疾走する。
背後には、怒り狂った狂獣が迫りくる。
このとき、どういうわけかオレの脳裏にはトボけた事が過ぎった。
それは、『この狂獣の名称ってなんだっけ?』だった。
次回はオヤジウスの視点になります。




