第26話 狂獣 -1
「ばかなッ! こいつは違う! 凶獣じゃあない! これは……狂獣ッ?!」
「え、いや、だから凶獣でしょ?」
「違う! 狂乱の狂に獣と書いて狂獣だ。凶獣とはまったくの別モンだよ!」
これはヤバイ、ここの領地の軍勢がどれぐらいのモノかは知らないが、全戦力を投入するくらいでないと倒すのは無理だ!
「な、なんか触手がうじゃうじゃと背中辺りから生えているんですけど……SFホラー映画でこういうの見たことが……あっ?! あの触手に捕まっているのエニャじゃないか? 他にも子供が捕まってるヨン!」
――狂獣。
帝国領の最南端に位置し、長い間人類未到達の地として知られていたオルランティア大森林でその存在を初めて確認された。
生物災害とも評されることもある程、凶獣は危険な存在であり被害をもたらすことが確認されているが、狂獣はそれを上回るとされる。
凶獣に関してはある程度、生態というものがあることが知られているが、狂獣は不明である。
数が少なすぎて得られる情報が足りないせいもあるが、目撃例はあっても倒したという報告例は皆無とされている。
狂獣は己以外の生物を憎み、ただただ殺戮を行うと言われている。
ただ、数少ない報告例にひとつ、狂獣に関する特性が確認されている。
――それは、捕食対象である生物の子供を好んで食べるということだ……。
「おい、どうやって助けるのヨン? はやく助けないと」
「子供を捕獲している触手を狙うしかない、だが……触手を射って子供を落とした瞬間回収しなければならん」
「すぐに回収できなければどうなるヨン?」
「恐らく暴れて踏みつぶされる。それとも踏まれない事を祈ってゆっくり回収するか?」
「おワタクシに考えがあるヨン。安全に子供を救い出せる方法がヨン。それと、アレ、つかうヨン」
桜野はとあるアイテムをアイテムフォルダから取り出す。
その様子は異様と言っていい、何も無い中空に小さな暗黒の空間が発生し、そこに手を突っ込み任意のアイテムを取り出せるのだから。
桜野曰く、初めてやったときですら感覚を理解できていたと言う。
ちなみにオレは 桜野にアイテムフォルダからむやみにアイテム類を取り出さないよう、前もって言っておいた事がある。
この世界の人間に見られた場合、十中八九問い詰められるからだ。
幸い桜野はその事を懸念していたらしく、この世界に来てから一度も他人にそういった場面は見せたことが無いそうだ。
この世界に、こういった技術が無いこともないが、できる者たちは限りなく少ない。知られない方が身のためだ。
その為、オレと桜野は武器を手持ちで携帯することとなった。正直面倒くさいが。
さて、桜野が取り出したのは【|スピードリキッドLEV.2】と呼ばれるBuffアイテム だ。
CULO設定では敏捷性が向上するアイテムとされる。IGは2で、低グレードアイテムに属する。
桜野はソレを取り出すとなにやらいじり始めた。
ゲーム上ではアイテムをアイコン上でしか見たことが無かった為か、実際に手にするところを見ると違和感しかない。
透明なプラスチックらしきボトルに、青色をした半透明の液体が填充されている。
大きさでいえば500㎖サイズのペットボトルよりひと回り小さい位だろうか? フタの部分は黒く強固で何らか機構が組み込まれていそうな造形になっている。
てっきり飲むものなのかと思っていたので、大げさな作りに少し気おくれしてしまう。飲み口らしい部分や内容物を取り出せるような部分は見当たらない。
「もったいないな、今となっては貴重品だぞ? お前のだから強制はしないがな」
「子供の命を救うのにそんなこといってらんないヨン」
なるほど、これは何を言ってもムダな感じだ。貴重なアイテムを使用し、この世界の人間の子供を救ったからと言って、何になるのかと言おうと思ったがやめた。
こいつはボランティアで児童養護施設で働くほどの子供好きだ。言っておくがヘンな意味ではない、こいつは二次元好きだからな。
その辺は信用していいと思う。
「ときに、アイテムを使う場合CULOだとアイテムランチャーとかから選んでポンッって感じでやってのけたわけだが? これどうやるんだ? 飲むのか? それとも塗るのか?」
「わかんないヨン。どうするのだろうねえ」
桜野はスピードリキッドを使用したいみたいだが、どうもまごついていた。
ふと、オレは気付く。
よく見るとフタの上部に、手りゅう弾などでお馴染みである、小さな安全ピンのようなものが見えた。
「ソレ、その安全ピンみたいなやつを引くんじゃないか?」
「こ、……これを抜いて? 爆発しないよねヨン」
「今ムリして語尾にヨンを付けたろ」
「ちょっと動揺しているのヨン」
そういうと、桜野は安全ピンを引き抜いた、巨体のデブがおそるおそるピンを引く様子はなかなか笑えるものだった。
ピンは硬く抵抗があったようだが思い切り引くとパキンという音と共に、内部の機構が作動したのか、何かが外れたのか分からなかったが、刹那プシューッという音と共にガスが噴出した。
「おわっ?! 何なのヨン!!!」
「液体だから、飲むものだと思っていたわ。マジか」
青色に色付けされたガスが身体が桜野の肉体を包む、そして薄くではあるが青く光る霧粒のようなものが、彼の全身から立ち昇った。
「どうだ? 効果はあったか?」
「多分、行けるヨン。ステータス数値にも変動があるヨン、ゲーム通りだヨン」
「よし、行くぞ、俺がエレメンタルシューターで子供を捕まえている触手の、根元近くを射って切断する。
おまえは、タイミングを見つつ落下してくるであろう子供二人救い出せ。いいな?」
「わかったのヨン」
狂獣はまだこちらには気づいていない。
このバケモノの口元には血がたっぷり付いていた。
どうやら食事を楽しんだ後らしく、腹がある程度満たされているのか知らないが、こちらには気づく様子も無ければ視線すら向けてこない。
触手で捕獲して高く掲げている子供二人は、さしづめデザートを言うことか?
「ジスエクスいつでもいいのヨン。やってくれ!」
「了解……俺が射ったらスタートだぞ」
オレはエレメンタルシューターを構え、一呼吸置く。
――そしてEFスキルを作動させた。




