第23話 救援 -side零司
表記などの間違いと、つじつまの合わない部分を修正しました。(2018-08-30)
グラガ町長が代表を務める、この町プルートは【ランディア】という領地のはずれにある小さな町だ。
ランディアはノルデェラ領の左上にある小さな領地で、領主はソルダ男爵という貴族だ。
ソルダ男爵は野心の無い男と言われており、エリアス家とシアノ家、そして元凶であるコルダート家の争いには我関せずと言った方針を貫き通していた。
3つのどの家と比べても力が弱く、シアノ家と隣接するにもかかわらず、中立という立場を敷くなどコルダートが黙っちゃいないように思われるが、魔の手が及ばないのには理由があった。
ソルダ家はカスパート公爵家と血の繋がりがあり、カスパートの威光が盾となっているため、領地周辺のイザコザに巻き込まれないで済んでいるのだ。
ソルダ男爵自身も、歴史の研究を趣味とする物静かな性格であり、領地経営も保守的で革新的なことを好まない。
他家との関係も、争わず適度な距離を保ち、カスパートの威光で生き延びている腰抜けと揶揄されても、どこ吹く風といった様相だった。
領民に対して、圧政を敷くこともなければ、領民に愛されるような政治手腕を振るう事もない。領民からは『最低限のことしかしないが、ヘタに関わってこないからマシ』といった評価だった。
ランディアは、カスパート公爵に仕えるいくつもある領地の中で、もっとも発展の遅れた田舎と嘲笑されていた。
桜野が住民の治療をしていた際、領民にそれとなく聞いて回ったが、たいていの者たちが『世上から遅れ、取り残されたようなこの領地が好き』と答えていた。
ところで、俺と桜野は、就寝前に町周辺を見回っていた。怪しい人影などがいないか、確かめる為だ。
歩哨に事情を説明し、二人で同じ出口から出て、お互い逆の方向に歩く。
かち合ったら見回り終了だ。
さすがに他領の町に騎士連れで踏み込み、襲ってくるとは考えにくい。
やるとすれば、タブサたちのような無頼に仕事をさせるのが、もっとも可能性が高かった。
たとえ、そんな連中が襲ってきても、この町には現役の冒険者が何人か住んでおり、腕に覚えのある住民もいくらかいるのを確認している。
仮に襲ってきても、多少の時間稼ぎはできるだろう。
そもそもこのアーマメントという身体の都合上、眠らなくても良いのだ。ずっと起きているつもりだったし、【複合的情報解析】とオーバーヘッドマップで警戒するつもりだから問題はないだろう。
おかしな連中が近づいてきたら、真っ先に迎撃してやるつもりだ。
このプルートという町には、出入口は3つある。
町の外周に沿って、高さ約3メルト(メートル)の防壁が作られ、3つの入口には篝火が灯されていて、町の男衆が交代で歩哨に立ち、不審者や獣などの侵入を防いでいた。
ただ、防壁と言っても雑に切り出した石や、使えそうな形状の拾ってきた石を積み上げ、漆喰を塗布し固めた石壁だ。正直、頑丈とはいい難い。それでも、この小さな町では精一杯なのだろう。
凶獣はいないこともないが、まず人里には降りてこない。
仮に降りてきたとしても、石壁には一定の間隔で褐色の仙晶石が埋め込まれており、獣や凶獣を遠ざけるようになっている。
仙晶石はこの世界で採掘される鉱物の一種であり、錬仙された仙気を含んでいるのが特徴だ。
仙晶石と一口に言っても様々な種類があり、それらは色で判別し、分けられている。
価値の低い順に並べると、褐色・無色または透明・黄色・緑色・緑色があり、そこから一線を画す価値があるのが、青色・赤色・桃色・紫色、またはその中間色が貴重とされている。
いずれの仙晶石も共通しているのが、獣や凶獣を遠ざける効果があるということだ。
人が錬仙した仙気を放っても、獣や凶獣を遠ざける効果は無い。
しかし何故か、仙晶石は効果があるのだ。これについては解明はされておらず、専門家による分析が今もなお続けられているという。
石壁の外周を歩いていると、PVCの通信許可の可否を示すメッセージが表示される。当然、桜野からだ。
通信を許可する。
《そっちの状況はどうだヨン?》
《問題ないな。静かな夜だ》
《それは何よりだヨン、こっちも何もナシだヨン。オーバーヘッドマップを縮小、拡大、人物を表す表示は町の中以外には皆無だヨン》
オーバーヘッドマップは、プレイヤーキャラクターから半径1000mくらいまでの、熱を持つ物体や人物を表示できる。500mまでなら人物とそれ以外を分けることが可能だ。この世界の扱いでは、どういうシステムで作動しているかは知らないが。
《ごはん、美味しかったのヨン。おなかには溜まらないけど。》
《そうだな、ゲーム的にはHP・EFが回復してくれても良いのだけどな、ともに回復しないな。》
《う~ん、ダイエット的に考えると、それは素晴らしいことじゃないかヨン?》
仮にその体でダイエットできても意味はないと思うのだが。それよか、コイツの口からダイエットなどと言う言葉でてくるとは思わなんだ。ひょっとして痩せたいのか?
《そうね。ところでな、聞いておかなくてはならないことがあるんだが。大事なことだ》
《おワタクシの3サイズかな? イヤン、ス・ケ・ベ・さ・ん♡ えっとね~ 上から~》
《【爆散射ち】ぶち込むぞキモヲタデブが! 真面目な話だ!》
《最初からそう言えばいいのヨン》
相変わらずのウザさだが、我慢する。オレは大人なのだ、転生前と転生後を合わせればコイツの倍以上、生きているのだ。
泰然自若、泰然自若……。
《おまえのHPとEFはどうなっている? 余裕はあるか? 自動回復は作動したか?》
CULOにおいて、HPとEFの回復手段は多岐にわたる。
ゲーム中の大型拠点である、ステーション内やそれ以外の拠点に存在する宿泊施設や、お決まりの回復アイテム、回復職のEFスキルなど様々だ。
時間があるならば、動かずじっとしていれば自動回復が作動する。
仮に自身のプレイヤーキャラクターが、最大レベルカンストでHPが瀕死状態、EFがスッカラカンの数値でも、約60分もあれば両方とも完全回復状態になる。
しかしだ、この世界に来てからEFスキルを使用しEFを消費した後、その場でじっとしている機会は何回かあった。
だが、まるで回復しなかったのだ。
俺の懸念はそれだった。HPとEFが回復しなければ、貴重な回復アイテム類を使わなければならない。
この先、何があるか分からないのにもかかわらず、だ。
幸い、オレは余裕がある。EFの消費を抑えるレアアクセサリーなどを装備しているのと、派手に消費するEFスキルは使用していないからだ。
《この世界に来てから、自動回復は一度も作動してないヨン。これも仕様変更なのかもしれないヨン。
あ、HPも大丈夫ヨン。EFに関しては、武器スロットにEF消費減少モノリスを複数刺しているし、町の人たちを治療したときは、レイジの指示どおり最低クラスの、回復EFスキルしか使ってないから、まだまだ余裕があるヨン》
思い出した、コイツの武器は課金武器ではなくて、クラフト武器なのだ。課金武器はスロット数が3つしかなく、性能もクラフト武器より若干下回る。
クラフトした武器はスロットが5つあり、コイツはその5つのうち、4つをEF消費減少モノリスを差し込んでいるのだ。
つまり、支援EFスキルを連発しまくれるというワケだ。
戦闘能力を捨て、ほぼ支援特化した回復職なのだ。
《つまり、今の所、手持ちの回復アイテムに頼るしかないという事か。そっちはどれくらいあるんだ?》
《ほとんど無いヨン。レイジはどうなのヨン》
《この世界に来る直前、みんなで適当なクエストやっただろう。その達成報酬でもらった回復アイテムと、元からテキトーに入っていたものだけだ。全部で30コくらいだな》
《結構持ってるじゃないかヨン》
《最上級のブツは少しだけだ。少量しか回復しない下級回復アイテムがほとんどだよ》
《う~む、まずいヨン》
《そうだ、非常にマズイ。HPとEFが大幅に減少した場合、その都度安定して回復させる手段を見つけださないと》
《今後の課題ということなのかヨン?》
《そういうことだ。EFスキルの使用は考えてやらないと》
そんなふうに話をしていたら、前方から気色悪いピンク色の衣装を着た、半裸の中年超級デブオヤジがこちらに歩いてくるのがみえた。
桜野とかち合ったのだ。
「ウフフ、運命の再会だヨン、ハグするかネ?」
「おまえ、ホント飽きないよな」
オレと桜野は別れ、それぞれの寝床へと向かった。
桜野は宿屋へ、オレは町長邸の二階、エリスが宿泊している部屋の隣にある、6人部屋へ向かう。
現在、22時04分。
システム項目から時計の設定をいじり、日本の標準時から、この世界の時間へ変更した。
正確な時間ではないだろうが、目安にはなる。
町長邸へ戻ると、リビングではグラガ町長がひとり、酒瓶をグラスへ傾けている最中だった。
一杯付き合わないかと誘われるが固辞し、二階の侍女3人がいるであろう客室へと向かう。
途中、エリスの部屋を横切る、オーバーヘッドマップには、二人の人物がいることを示唆していた。
熱源反応を示す、紅い点が2つ表示されており、部屋の中にエリスとリディアがいることが判る。
となりの部屋のドアを開けると、室内は既に暗くなっており、窓から射す月光だけが光源だった。
室内は六床のベッドが置けるほど広く、調度品などは少ないシンプルな部屋だった。
ベッドは壁に沿って三床置かれており、向い合せになるよう反対にも三床置かれていた。
入口から見て、左側の三床のベッドに侍女たちは寝ているようだ。オーバーヘッドマップにも熱源反応が3つ表示されており、3人とも寝息を立てていた。
オレは起こさないよう、入口近くの空いているベッドに潜り込む。
リネンのシーツ、キルトの掛布団も共に日干しされていて、いい匂いがした。キチンとベッドメイキングしてくれたのだと思うと、町長の奥方には感謝の気持ちが湧いてくる。
残念な事に眠たくはならないものの、布団に包まるだけで安らかな気持ちになるのは、何故なのだろうか。
今日の出来事を思い出し、思索に耽ようとした時だった。
「あの……ニゴね……あ、えと、にごれいある様、ですかなのぉ?」
どこか舌っ足らずで、甘ったるい声の持ち主がオレに呼びかけた。
恐らく、3人の侍女の中でもっとも小柄で幼い顔立ちが印象的な、パリスとかいう娘だろう。
「あ、すまん。起こしてしまったか? 悪い」
「大丈夫ですなのぉ、起きていたですなのぉ」
パリスは変な口調が特徴的な娘だ。白のフリル付きのネグリジェを着ており、ゆるいデザインなのか下着がチラチラと見えてしまっていた。
女同士だから問題ないと思っているらしい。
「に、にごれぇいあ……あ、ごめんなさいなのぉ、あたし舌っ足らずでぇ……」
うん、だろうね。
ムリに言わせるのも可哀そうなので、略称のジスでいいと告げると、パリスは嬉しそうに『ジス様ぁ、かわいい名前なのぉ』と言った。
うん? かわいいか? 女の感性はよくわからん。これは女になっても理解できないところだ。まぁ、この娘が変わっているのだろうが。
「あのね、ジス様。ありがとうなのぉ、今日、助けてもらって」
「もう、礼はしてもらったし、二度も言わなくていいよ」
「うん……」
「わざわざ、その為に起きていたのか?」
「ちがうのぉ……。あたし、いろいろ考えちゃって」
パリスによると、3人の中で一番自分が年上であるにもかかわらず、襲われた時に何もできなかったのが悔しかったそうだ。
こういう場合、年上の自分が二人を守るべきだと思っていたらしい。
普段の仕事でも、年下である二人に助けてもらうことが多いのだという。
「え?! ぱ、パリスっていくつなの?」
オレは反射的に訊いてしまう。
「あたし、19歳なのぉ。イリスが17歳で、スーリアが15歳」
思わず大声を上げそうになり、口を手で押さえる。クールそうなイリスはともかく、スーリアが15歳だと?! あのエロエロな完成されたボディで15歳?! 莉亜より一コ上?! 信じられない?!
だが、それよりも驚いたのはパリスだ! その幼さで19歳?! おかしいだろ?! スーリアと年齢を交換しろ!
オレはパリスに、『そうなんだ、3人とも、見た目相応だね』とウソをついた。
パリスは『えへへ、よくほかの人にはもっと下に見られるから、うれしいのぉ』と、とても喜んでいた。
月明りほどの光源しかない部屋であっても、パリスの喜んでいる様が伝わってくるほどだ。
何故だろう、人というものは、相手を傷つけない為につくウソは、スラスラと緊張せずに言えるのだから不思議だ。ひょっとしたら、それはオレだけかもしれないが。
パリスは褒められて嬉しかったせいか、先ほどの悩みは何処かに行ってしまったらしい。
『はぁ、なんか眠くなってきたのぉ』と目を擦りだしたのだ。
オレはパリスに、もう寝ろと言う。するとパリスは、オレの言葉に素直に従い、横になるとスグに寝息をを立て始めた。なんと寝つきが早いのか!
オレも掛け布団に包まり、思索に戻る。
さっき桜野と話したHPとEFについてだ。
どうやって、安定した回復手段を見つけることができるのだろうか。まるで見当がつかなかった。
当然、自分たちの身体のことを、この世界の人間にバラすわけにはいかない。いやいや、それよりもどうやって、のこりの皆を探せばよいのか。
桜野はあっさりと見つかった。この先もこんな調子でいけばいいのだが、世の中そんなに甘くないだろう。
いや、それよりも、どうやって元の世界に戻れるのだろうか? あの平和な日本へ帰還し、平和な学園生活を送るにはどうすれば良いのだろうか?
そのときだ。
オーバーヘッドマップに熱源反応である、紅い点が1つ近づいてくるのが見えた。このプルートに西から近づいている。西門から入ってくる気か?
視界内のマップを注視し、様子を伺う。
近づいてきた熱源反応の点は、歩哨を表す点の前でとまり、そのあとすぐに町の中へ入った。
どうやら知り合いのようだが……。
「たのむッ!!! 誰かァッ!!! 助けて下さい!!! おねがいだぁっ! 誰か!!!」
何者かが、いや、声からして若い男だ。
「トートの集落が襲われたんだァッ!!! 【きょうじゅう】に!!! 死肉熊に襲われたんだァッ!!! 誰かァッ!!!」
侍女3人も身体を起こし、何事かと動揺していた。
オレは跳ね起きると出口のドアを勢いよく開け、外に飛び出した。




