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第20話 コルダート -side零司

 エリス曰く、襲撃を指示したのは、コルダート家ではないかと言う。エリスに仕える騎士アスライド・フリンが、先程裏切った騎士からそれらしいことを聞いたと言っていたそうだ。


 ゼルヴニア帝国に仕える諸侯のうち、主に南のドルフィーラ地方を統括するのがカスパート公爵家だ。


 エリスが領主代行を務めるトゥトエラ領はカスパート公爵家に属する。つまりエリアス家はカスパート公爵家に仕えている訳だ。


 トゥトエラと接するカスパート公爵家に仕える領地が2つある。ひとつはコルダート家が領主を務めるアルカンシェラ、もうひとつがシアノ家が領主を務めるノルデェラだ。


 この三つの領主の間でいざこざが起きた。正確にはコルダート家が諸悪の根源なのだが。


  コルダート家は先代当主の時代から、ノルデェラの領主シアノ家と、南にあるトゥトエラ領主エリアス家を併合し、大領主になるべく野望を抱いていたが、現在の当主【キザシ・コルダート】は更に過激なやり方で、エリアス家やシアノ家に領土争いを仕掛けてきたのだ。


 コルダートは民から厳しく税を取り立て、違法とされる低純度の仙水薬(ポーション)作りを展開し、元より保有していた軍事力を盾に、他の所領の流通路を妨害し、通行税を巻き上げる。その他にも常軌を逸した金策を行っているという。何故、このような蛮行が許されるというのか。


 これだけ派手な活動をすれば、他の領主たちもコルダートに危機感を覚え、エリアス家やシアノ家と協力して対峙するのではないかと思うだろう。

 

 その原因は、コルダートに流れ着いた一人の金髪の青年にあるという。その青年はとてつもないほどの仙技使いであり、もしかするとその金髪の青年は、絶仙(ぜっせん)ではないかというのだ。

 絶仙とは、この世界において膨大な錬仙を行うことができ、強大な仙技を使用することができる者のことを指す。仙技使いたちの頂点に属するものだ。


 大国は経済力や軍事力の他に、絶仙を保有しているかどうかで決まると言われているほど、絶仙の存在は多大な影響力があるのだ。


 なんであれ、コルダートはその絶仙らしき男を味方に引き入れた後、財力にものをいわせ、軍事力を強化すると。シアノ家とエリアス家を併合する為の足掛かりに、コルダートは散発的な軍事衝突を引き起こす。


 エリスの父が倒れてから、軍事侵攻はより一層激しくなり。半年前にエリスの父、ダリウスが無くなるとほぼ同時にシアノ家はコルダートに下ってしまった。


 その結果、トゥトエラの主要産業である水産物や農作物を運搬する際、どうしても通過しなければならないシアノ家の所領であるノルデェラの通行税を、5倍に値上げされてしまう。

 露骨なコルダートの妨害だった。これではいずれ資金源を断たれるだろう。


 ダリウス亡き後、エリスは領主代行を務めることになる。しかし、将来を悲観したのか、仕えていた騎士が去ったり、当初は味方してくれていた近辺の領主たちも離れていった。

 

 このままではエリアス家は、コルダート家に飲み込まれてしまうだろう。


 たが、彼女にはカスパート公爵家にコネがある。

 エリスはカスパート家の公爵令嬢、エルメリア・シィル・カスパートと個人的な繋がりがあるのだそうだ。


 エルメリアを通じカスパート公爵に、コルダートの横暴を陳情するというのが、エリス・エリアス一行の目的だ。

 表向きにはエルメリアが主催する【聖女の集い】に参加する為、ということになっている。


 聖女の集いとは、魔人戦役で活躍した絶仙【アスターシャ】を偲ぶ集まりを言う。彼女が卒去した日を記念日とし、カスパート公爵家領内の有能な女性の法術師を招き、共にアスターシャを偲ぶのだ。




「なるほど、わかった。だが、不可解な事がある。領主同士の争いは、基本的に諸侯は不介入のハズでは? その程度の問題を解決できないのならば、領主たる資格なしと捉えられて、領地取り上げになるのではないか?」


 エリスは悲痛な面持ちで答える。


「たしかに、そうなるやもしれません。ただ、もうわたくしにはそれ以上は思いつかないのです。

 家の者たちとも相談しましたが、すべては父がいてこそだったのです。

 以前、協力を約束してくださった領主の方々も、父がいないのであればエリアス家に協力することはできないと使者や手紙を寄越(よこ)してきました。

 コルダート家と戦争をしようにも、単純な騎士戦力の差が約3倍。資金力ならばそれ以上です。

 もう、わたくしにはエルメリア様にすがるしかないのです……」


「エリス様……」


 エリスの横の席に座っていた専属侍女リディアが、心配気に寄り添いながら、手をエリスの手の上に置く。エリスはリディアの手を、ゆっくりと握り返した。


 

 ふと、オレは考える。

 オヤジウスが居合わせた時の事や、先のタブサらの襲撃はどういう意図を持つのかということだ。



「なあ、エリスさんよ。聞いていいか?」


「エリスで構いません、なんでしょう」


「気になったんだがね、最初にオヤジウスと出会う切っ掛けになった敵の襲撃なんだけどさ、それってエリスの命を狙ったものなのか?」


「いえ、男二人組はわたくしを連れ去ろうとしていたみたいです」


「そうか、オレは先ほどの襲撃をかけた無頼たちと話したのだがね。彼らが受けた依頼は、エリスを誘拐しろという話だった」


「そうですか……。わたくしを連れ去れば、エリアス家はコルダートに下るとでも思っているのでしょうか」


「18歳の小娘を誘拐し、人質にした上で恭順を迫る。そんなやり方で大領主として認められると思えんな。 争い、力で奪うからこそ、認められるんだ。それでは他の領主やカスパート公爵からも大領主として認定されんだろ。それに……」


「それに?」


「話を聞いている限りでは、今の段階でコルダートは権謀術数を駆使し、エリアス家を手中に入れる手前まできているのだろ? だからこそ、エリスは公爵にすがるなどという方法を取らざるを得ないわけだ」


「……はい。有効な手を打てなかった、わたくしの不徳といたすところです」


「やはり違和感がある。やつは間者をエリアス家に紛れ込ませ、エリスが陳情に行くという情報を得た。そしてそいつを阻止するために、刺客を送ったことになる。何故だ? アンタを放っておいて、仮に陳情が上手く行ったとしても、カスパート公爵が支援してくれることはまず無い。だろ?」


「そうですね……。それでも、陳情が通るのならば、時間は稼げるやもしれませんし……」


 エリスは沈痛な面持ちで、絞り出すように言う。

 仮に陳情が受け入れられ、公爵が何らかの方法でコルダートを諫めたとしても、時が経てばコルダートは再びエリアスを手中にするべく、動き出すのは必至。そして陳情に対し、義理を果たした公爵はもう動いてはくれないだろう。


 いずれにせよ、このまま時間が経てば、エリアス家はコルダート家に(くだ)らざるを得なくなる。にもかかわらず、わざわざ大金でウェットワーカーを雇い、長年仕えていただろうエリアス家の騎士たちを裏切らせる。

 それは金にしろ人にしろ、手間がかかっていることだ。


 オレはタブサが昨夜言っていたことを思い出す。仕事の報酬について、提示された金額はかなりのものだったと、そうタブサは言っていた。

 そして、その仕事は急遽依頼されたものであるというのも、高額な理由だと。


 タブサたちは優秀なウェットワーカーであることは認めるが、それでも時間をかければ、もっといい腕の連中を使うことができただろう。

 裏切った騎士たちは、あらかじめコルダートに寝返る約束をしていたのだろうが、時間が無かったため、エリスを誘拐するための手伝いをさせられたのかもしれない。エリアス家の騎士たちを裏切り、エリスを連れてくるのがコルダートに寝返る条件だとしたら、それは得心がいく。

 

 どっちにしろ雑なやり方だ。

 

 これは何かがあって、エリスを誘拐するという手段に、コルダートは出ざるを得なかったのではないだろうか?



 エリスにオレの推察を伝えるが、彼女の反応は薄い。これからの事を思い、不安に押しつぶされないよう必至に耐えているようにみえた。



 オレはPV(プライベートボイス)(チャット)を開き、桜野(オヤジウス)と連絡を取る。

 

《どうしたんだヨン? やっぱ寂しくてオレのコトが忘れられな……》

《同じネタを二度やるな》

《二度あることは三度あるというヨン》


《うるさい! それより、そっちにエリスとの会話データを送る。聞いてみてくれ》

《わかったヨン》


 CULOではボイスチャットの会話内容を記録する機能がある。それがこのアーマメントとやらでも使えることに気付いたので、エリスとの会話を記録できるか試したのだ。相手の音声をスピーカーで拾う項目があったのでやってみたら、うまくできたらみたいだった。


 桜野(オヤジウス)はしばらく無言だった。すべて聞き終わったのか、声をかけてくる。


《なるほど、そういう背景があったのかヨン。最初、エリスと会った時、どおりで護衛の騎士が少ないと思った。あれ、裏切っていた連中が何かやっていたのかヨン》


《オレの想像も入っているがな。何にせよ、コルダートの連中、また仕掛けてくるぞ》


《ううむ、なんとかエリスたむを守ってあげなきゃだヨン》


《エリスたちは、お前のことを妙ちくりんだが、慈愛に満ちた類まれな才を持つ法術師だと認識しているみたいだぞ? EFスキルを簡単に使うのは控えたほうがいいかもな。

 この世界の法術は綺麗に切断された腕ならともかく、潰されたり、消失した肉体を元通りにすることは、昔、存在した【癒しの絶仙】以外にはできないと聞く。お前の力、知れ渡るとマズイことになるぞ。厄介ごとに巻き込まれるのはカンベンだからな》


《実は、おワタクシがこの世界に来た時のことなんだけどヨン》

《ドタバタしてたせいで、そこのくだりは聞いていなかったな》


《あのねーこの世界に来た時さぁ、たまたま出会った隊商が野盗の集団に襲われていてさぁ~ んで追い払ってあげたんだよ。こういうのってホモ異世界モノのテンプレじゃん?》


《待て、ホモ異世界モノって何だよ?! お前がこの世界にきたときのくだりより、気になるんですけど!》


《ほう、目下、トレンドのホモ異世界小説について聞きたいです?》


《いや、今までお前と付き合ってきた経験から、甚だしいほどに脱線しそうだ。おまえがこの世界に来た時に出会った隊商うんぬんのくだりを話してくれ》


《ふむ、ホモ異世界小説については次回話してあげよう。

 ええとね、一週間くらい前にこの世界に来たのヨン。そしたら野盗に襲われていた隊商がいて、野盗を追い払ってあげたのね。その隊商長や他の商人が大けがを負っていたのヨン。

 特に隊商長なんか、両足を吹き飛ばされてさぁ、見てられなかったのヨン。》


《それで、直してやったと?》


《そう、奇跡だとか信じられないとか、称賛を浴びちゃったヨン。気分良かったのヨン。あ、あとおカネをたくさんもらっちゃったヨン》


《……幾らだよ》


《2万ゼルぐらい?》


《すごいな》



 ゼルヴニア帝国領内で使われている通貨を【ゼル】という。1ゼルが100円くらいだろうか。


《いや、そうじゃない。とにかくだな、あんまり見せるなよ回復用のEFスキルは特にな》


《ええ~ 困っている人がいたら助けるものじゃないの?》


《善意を施した場合、返ってくるのはお礼だけじゃないってこともあるんだよ》


《よくわかんないヨン》


《いいな? オレの許可なく使うなとか傲慢なことは言わないけど。気を付けてくれ》



「あの、ニゴレイアル様」



 唐突なエリスの声に、オレはPV(プライベート)(チャット)を一時中断する。



「すみません、私のせいでお話が止まってしまいましたね」


「いや、いい。エリスが置かれた立場を考えると、少し無神経な言い方だったかもしれん。すまない」


 エリスはこの先のこと、公爵に対する陳情の成否しか頭にないのかもしれない。


 それに、情報が少なすぎた。タブサたちはともかく、あの裏切り騎士たちの誰かをふんじばって、何か吐かせれば分かったかもしれないが。


 とくかく、襲撃はまたあるだろう。オレは気を引き締めることにした。

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