第16話 別れ -side零司
すみません、毎日更新とはいきませんが、また再開します。あと、これから一時間後にもう一話投稿します。よろしくお願いいたします。
オヤジウスもとい、桜野圭一は仁王立ちして絶叫する。
「きみっ! うっ! た、たち、いますぐ去れ! そうしないとおワタクシが! 痛い目に逢わせるヨン!」
まるで迫力の無い警告だ。しかもちょっと噛んだね。
桜野圭一の登場により、一瞬空気がシラケた気がした。
半裸のピンク超弩級肥満中年オヤジの登場に、一部の人間だけが反応する。
「おわっ! 気色悪い! なんだぁ? ありゃあ? 異端のゼ―ヴェ教徒かぁ?」
タブサが驚愕しつつ、どこか呆れた顔でオヤジウスを凝視する。
異端の教徒にもあんなのはいないと思うが……。
この一行の隊長らしき騎士がオヤジウスに向かって懇願するかのように叫ぶ。
「お、オヤジウス殿……。お嬢様を! いや、領主代行をお願いします! どうかお守りください! 私はこの身を犠牲にしてでも、この裏切り者たちと無法者どもを討ちます!」
「まかせてヨン!」
今や、この空間は完全に修羅場だ。タブサが率いるウェットワーカーたちと裏切り騎士たちが、オヤジウス側の騎士たちを押している。何人かの騎士は打ち取られた。
余裕ができたからなのか、それとも何も考えていないからなのか。人間力不足の巨漢ピトと他の無頼3人が、先頭の馬車に群がりドアを無理やりこじ開けた。
中にいたのは侍女が3人。真ん中の馬車に乗っている、領主の娘に仕える者たちだろう。
ピトと他の無頼たちは、侍女たちを無理やり馬車から引きずり出し、地面に押し倒す。
「いや、いや! エリスさまぁ!」
「おっ、おまえっ、汚い手で触れるな!」
「やっ、やなのぉ!」
侍女たちはそれぞれ抵抗するが、ピトたちは彼女たちが着ているエプロンドレスを力任せに引き破り、辱めようとしていた。
「あー、おんなぁーだまんねえよぉ! みんなぎれい、おれごのみだぁ~」
ピトはこれから自分たちがやろうとしていることを前に、とてもご満悦のようだった。あの侍女たちは筆舌に尽くしがたい事をされるだろう。
このまま、誰も介入しなければだ。
これだけの暴挙を前にしても、オレは動かない。いまさらこの俺が何をしようと言うのか。偽善もいいところだ。
昔のオレが、間接的にタブサの家族に何をしたのか。それを思えば単純な正義感を振りかざすことは躊躇われた。
オレが無気力に棒立ちしているのとは逆に、能動的に動くデブがいた。オヤジウスだ。
桜野は侍女たちを助けようと行動するも、裏切り騎士やタブサの部下に阻まれる。なにか攻撃しようと大杖で殴るような仕草をするが、どうにもまごついていた。どうやら攻撃することをためらっているらしい。
CULOにおいて、桜野のプレイヤーキャラクターは、上位職【テクノプリースト】だ。テクノプリーストは通常攻撃でEFボールという技があるが、EFスキルにおいて言えば攻撃用途のものはほとんど無い。
タブサの部下が、背後からオヤジウスにむかって戦棍を振り下ろす。勢いよく振り下ろされたそれは、本来ならばオヤジウスの頭部をひしゃげさせただろう。
しかし、そうはならなかった。
命中したし、手ごたえもあっただろう。だが、無傷だった。なにも変わらない状態の彼がそこにいたのだ。
「ありゃ、ダメージ1だ。ほんのちょっと減ったのかヨン」
オヤジウスを殴った男は、後ずさりしながら狼狽していた。ありえない状況を前にして思考が追い付いていないようだ。
裏切り騎士の一味が、深く呼吸する動作をした。仙技を使うつもりだ。
丹田に錬仙された仙気が収束していき、刹那、力が解放される。錬仙鍛で武器が強化された状態で鋼鉄の剣が振り下ろされた。刃はオヤジウスの首にナナメに入った。
これも本来ならば、オヤジウスの首から腰まで切り裂いていただろう。
だが、刀身は表面まで食い込むと、ゆっくりとした弾力で跳ね返された。
「ば、ばかな! 練仙功で強化しているのか?! そんなはずは! いくら強化したところで、こんな! こんなはずは!」
「ん~? ダメージ10だヨン。さっきよりは結構きいたヨン」
練仙功は身体能力を強化する仙技だ。だが、あくまで肉体の性能を上げるだけだ。人間というカテゴリーから逸脱するわけではない。凶獣のような耐久力に変化したりすることはないのだ。
ましてや錬仙鍛で強化した剣で切られたのだから、本来ならば、練仙功で肉体を強化したところで無事でいられるはずはなかった。
ただ、一つだけ例外がある。絶仙と呼ばれる、仙技使いたちの頂点に君臨する者たちだ。
彼らならば、こういったことが可能だ。
「オッサンディア!!!」
オレは思わず叫んでしまった。
CULOのプレイヤーキャラクターの肉体を得て、前世で暮らしていた世界に来てしまったという異常な状況。ここに来てオレは無意識のうちに、戦うということを躊躇していた。いや、凶獣とかは殺したが。
親友が寄って集って、切られたり殴られたりしている様を目撃して、流石に黙ってはいられない。
「およ?! おお! ジスエクス! あらら! やっぱ名前呼んだら勝手に変換されちゃうのかヨン!」
わざわざ説明台詞どうも、桜野よ。
オレはいつもの学園での桜野らしい台詞を聞いて、何処か安堵した。好きだった日常が少し戻ったような気がしたのだ。
オレたちが、何故こういう仕様なのかは後にするとして、今は別の事が先だ。
オレはスキルランチャーから【爆散射ち】を選択する。
CULOは最大ダメージ値が9999までしかない。その為、単発でかつ攻撃まで時間がかかるEFスキルははっきり言っていらない子なのである。
フォルティスマギカのようにEFスキル発動までのチャージに時間がかかったとしても、発動すれば広範囲に最大ダメージを与えられるようなものや、ゼノウォーリアみたいにEFスキルの発動が速く、かつ最大ダメージを連続で叩きだせるようなものが、強い攻撃EFスキルと言える。
はっきり言うと【爆散射ち】は使えない技、いや、使わない技だ。EFスキルを使用してから発動まで時間がかかる。おまけに単発ダメージときたもんだ。
ただ、見た目は派手で好きなのだ。着弾したときのエフェクトが、B級アクション映画のワザとらしい爆発みたいで。
何故、そんなものをスキルランチャーに入れていたかというと。どうせ最後はギルドの皆で思い出に浸りながらまったりロールプレイとかを想定していたためで、ガチプレイではまず使わないものをEFスキルランチャーに入れていたのである。
ただ、どうせ注目をこちらに集めるだけだ。威力調整のチャージも最低限で射つ。
ようは連中をビビらせればいいのだ。怯ませて躊躇させればよいのだ。
オレがいる斜面とは反対側、誰もいない原っぱに向けて射つことにする。
エレメンタルシューターを構え、EFスキル発動。
発射口に光の粒子が集約していき、しばらく経つと発射体制が整う。
「まあ、こんなもんか。よし、射つよ。キミタチ、ボーリョクはいけないな、っと」
引き絞った弦を解放する。
光芒の矢が原っぱに吸い込まれるように飛び、地表に着弾する。同時に凄まじい爆風と共に、草花や土が舞い上がり周囲に飛び散った
衝撃で馬たちは慌てふためき、馬車は揺れる。その他の人間たちは立っていられるはずもなく、衝撃で転倒する。
あれほどの鉄火場は、水を打ったかのように静まり返った。皆、何が起こったのか分からないようだ。
「おわっ、ナニコレ、最低限の威力に調整したつもりなのに、ウソ? オレの攻撃力、高すぎ」
思わず手を口に当ててしまう。昔はやったWEB広告みたいな仕草をするオレ。丁度、女になってしまったわけだし、適当か?
いや、ふざけている場合じゃない。CULOにはステージ破壊エフェクトなんてもんは無かった。きっと容量の都合だろうけど。対面の野原は不発弾が爆発したかのようになっている。
やべえ。威力を最低に絞ればあの混戦した中央に射ってもいいかな? とか一瞬でも思わなくてよかった。思っていたらやっていた気がする。何もないところに射つなんて、エネルギーのムダな消費だからな。ゲーマーは無駄が嫌いだ、ゲームなんていう生産性の無い事をやっているワリには。
「おい、おまえら! こっちに注目!」
オレは草で覆われた斜面から飛ぶ。降りる、ではない。駆け下りながら飛ぶ。20メルト(メートル)くらい飛んだ気がする。あれ、着地どうしよう?
だけど、特に問題なく皆がいる道に着地できた。ダメージはない。CULOでは、既定の高度以上から落ちると落下ダメージがあったのだが、この世界ではどうなのだろう? これも調べる必要があるな。
さて、ここからやることは一つだ、ウジウジ考える事はやめた。なんか桜野をみていたら憂鬱とした気分が晴れてしまった。不思議なことに。
その場にいた連中はあっけにとられた様子だった。ま、ムリもない。これは案外イケるかも。
「裏切った騎士連中! それとタブサとその一味! 戦いやめろ! やめないとオレが相手をすることになる。嫌なら反転しておウチに帰れや!」
上半身を起こしたままあっけに取られていたタブサが、呻きながら立ち上がると。オレに向けて一声かける。
「姐さん、援護してくれとは言いましたがね。水を差せとは言ってませんぜ?」
「水じゃなくて光なんだがね」
「裏切るおつもりですかい?」
「仲間になった覚えはないけど? 酒もらったり、飯を食わせてもらったり世話にはなったけどさ、あのピンク色の変態デブさ、オレの仲間なんだ。だからさ、そういうことだから」
オレはエレメンタルシューターを向けながら威嚇する。正直、向かってきてほしくは無かった。オレはタブサには好感を抱いていたから。
幸いなことにタブサは賢い男だ。オレを相手にするのはリスクがあると踏んでくれるだろう。そうしてほしい。
「おい、ピトとか言ったな? あと狼藉を働いている男ども、そこの女の子たちから離れろ。さもなきゃ頭を吹き飛ばすぞ!」
無頼たちは罵詈雑言を吐き、オレを殺すだのなんだのと、のたまっていたが。タブサの『黙れてめえら』の一言でぴしゃりと黙った。流石はこの無頼どもの長だった。
「姐さん、アンタやっぱり只者じゃなかったね。そう思っていたよ」
「おほめに預かり光栄だよ。それで? どうする? やるか? それとも退くか?」
「いや、退くよ。ただね、こっちもやってみたいことがあるんだ」
言い終えた瞬間、タブサの眼がギラついた気がした。自然な動作だった。振りかぶったり、何か大げさなことはしなかった。自然にこっちにむけて、あの陶器でできた催涙弾を放り投げたのだ。
恐らく爆発までの時間をきちんと調節したのだろう。ほぼ目前で爆発する。灰色の粒子が飛散する。
特に催涙効果は無かった。というか、オレは呼吸をしているようでしていないらしい。催涙粒子を浴びても何も感じなかったからだ。
その瞬間をオレは捉えていた。爆発と同時にまき散らされた粉末に姿を紛らせて、タブサが鋼鉄の剣で切りかかってくる。速かった。
無駄のない動きだ。さっきまであの手練れである、若い隊長のような騎士と互角以上にやり合っていたのだ。
恐らくタブサは元、騎士だろう。きちんと正規の剣術を学んだことがある動きだった。素人のような力み、力任せに振るうことがなく。技で体を動かしている。
そして何よりも体幹がブレていない。ちゃんと毎日鍛錬を積んでいるのだ。
オレはタブサの初手の横薙ぎを寸前で躱す。だが、二撃目の突きこそが本命だった。青尾狼と戦っている時も見た、おそらくタブサの得意技だろう。
あえてそれを止めることにした。力の差を見せつける為だ。
勢いよく飛んでくる剣先を片手で止め、タブサの態勢を崩す。重心が崩壊した瞬間を逃さず、身体をひねり同時に、タブサを地面に叩きつけた、タブサが剣を離す隙すら与えずにだ。これらの動作は瞬きする間ほどの時間で行うのだ。
これは、毒島にやられた技の応用だった。いや、何が役に立つかは分からないものだ、喰らっておくのも悪くないか? いや、悪いよな。
それにしても、この肉体はスゴイ。頭で覚えていることを即座にやってのけてくれるのだ。
「ね、姐さんアンタ……何者だよ……」
倒れたまま、オレを見上げ恨めしそうに呟くタブサ。
「そうだな、あえて言うなら……。望んでなかった帰還者……かな」
われながら、なんとセンスのない表現か。
オレは特に願ったワケではない。この世界に帰りたいなんて、思ったことはないはずだ。あの文書を書いた10歳の時以来。
だが、こうしてこの世界に舞い戻ってしまった。
さあ、オレはどうすればいい? 莉亜、教えてくれオレはどうしようか?
オヤジウス・オッサンディア :桜野圭一のアーマメント。職業はテクノプリースト、並の攻撃ではロクなダメージが与えられない程の防御力があった。
ジスエクス・ニゴレイアル :職業【ギャラクシーハンター】
【Base.Lev基礎レベル115】【Job.Lov職業レベル115】
武器【【ゼクセルMモデル599 series800 TYPE-EF】(課金武器)】(職業専用装備エレメンタルシューター系)
防具【6か所一体化防具(課金防具)】【オリジナル外装データ投影アクセサリー(指輪)】
EFスキル【複合的マルチプル情報データ解析アナライズ】【追跡トラッキング】【狩猟採集ハンターギャザー】【爆散射ち】等、ほか多数




