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第15話 急襲 -side零司


 けたたましく、地に食い込む蹄の響きが伝わってくる。


 【複合的(マルチプル)情報(データ)解析(アナライズ)】は正確に事態を記録、分析している。


 オレはタブサ達より後ろに下がり、かつ伏せた状態の為。馬車と護衛している騎乗した騎士たちの様子は見えなかったが、【複合的(マルチプル)情報(データ)解析(アナライズ)】が投影する3D解析映像は彼らの姿を克明に捉えていた。3次元データを解析し、相手の行動を高精度計測することができる。


 オレは確認した。隊列にいる30人の騎士のうち、14人がマスクとゴーグルらしきものを装着しているのを。


 

 隊列を組んだ騎馬と、それに囲まれた馬車が接近してくる。



「今だ、やれ!」



 タブサたちが投擲姿勢を取る。

 タブサたちが手にしているそれは、茶碗を向い合わせにしたような球状の陶器できたものだった。

 ()()は一か所だけ小さな丸い窪みがあって、そこには鉱石が埋め込まれていた。その鉱石の部分に仙気を流すと内部で反応が起こり、数秒後に爆発するシロモノだった。


 タブサが合図し、8人の男たちが()()を投げつける。それは馬車と騎乗した騎士たちに当たる前に空中で爆発するものもあれば、地に転がってから爆発するものもある。閃光とともに、何かの灰色の粉末が広範囲に飛散する。


 タブサたちが持っている()()は、この世界における手投げ式催涙弾のようなものだ。

 

 なるほど、とオレは得心がいった。仙気を取り込むには呼吸が必要だ。

 催涙弾が爆発し、催涙粒子が皮膚や粘膜に付着すると、不快な刺激や痛みを与え、咳やクシャミ、落涙、嘔吐などの症状を発現する。


 これなら重武装した相手にもやってのけられないわけではない。

 仙技使いの騎士は脅威だが、催涙粉末を浴びせられたら流石に怯むだろう。


 タブサたちは次々と投げつける。連続した爆発音と共に粉末に含まれた催涙粒子がまき散らされる。



「よし、いくぞお前ら!」



 タブサたちは何か特殊な構造らしいマスクを装着し、ゴーグルを付ける。


 男たちは雄叫びを上げながら斜面を駆け下りていく。


 催涙粒子を喰らい、馬が暴れ馬車が停止する。暴れる馬を必死で抑える者や、溢れる涙や咳をこらえ、周囲を警戒する者、騎乗した騎士の中には落馬する者もいた。


 だが、そのうちの14人は冷静だ。マスクとゴーグルで既に己を守り、冷静に馬を降り姿勢を低くしていた。これから起こることに巻き込まれない為に。

 

 下の道路まで降りたタブサたちは、一斉にクロスボウを撃ち出す。こぶし大の鉄球が射出され、怯んだ騎士たちに命中した。錬仙功による肉体強化が間に合わなかった為、プレートメイルの上からの強烈な鉄球の打撃は高い効果をもたらした。


 それでも気丈に奮闘する者はいる。恐らくこの中における隊長なのだろう。まだ30才にも満たないであろう若さの残る騎士は、なんとか錬仙功による肉体強化に成功し反撃を試みる。


 倒れている仲間を引き起こそうと近づいたとき、仲間の騎士が何者かに切り殺された。斬った男は同じエリアス家に仕える騎士だった。騎士はマスクとゴーグルで顔を保護していた。


「貴様、これはどういうことだ!?」


「どうもこうもないですよ、隊長。エリアス家はもう終わりですから。俺たちはコルダート家に仕えるだけです。あんたには世話になったし、何だったらコルダートにクチを聞いてあげますよ。

 どうです? そこのエリアスのお嬢さんをコルダートに引き渡せばいいだけですよ?」


 男は直列に停止した3台の馬車のうち、真ん中の一番豪奢なキャリッジタイプのものを指刺しながら、隊長らしき男に問う。


「たわけがっ!」


 隊長らしき騎士は、怒号を放ちながら裏切り者に切りかかる。そのころ、剣戟は至る所で発生していた。

 裏切った騎士とタブサたちが入り乱れながら、エリアス家の騎士たちと殺し合いを展開する。

 タブサたち無頼の男たちは、クロスボウを捨て去り。戦棍(メイス)で騎士たちと対峙する。


 ひとりの騎士は催涙効果の為、仙技を使用することもできず、タブサの部下に兜ごと戦棍(メイス)で頭部を潰され脳漿をまき散らしながら死んだ。

 もうひとりの騎士は、嗚咽を堪えながらも、戦棍(メイス)で武装した無頼の男と戦っていたが、背後から仲間だと思っていた騎士に背後から斬られ絶命する。命が断ち切られる瞬間、彼が見たのはマスクとゴーグルを装着したかつての仲間の姿だった。そんな光景が至る所で発生していた。

 

 それは阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「あ~あ、こりゃ地獄だな」


 粉末催涙弾の影響で視界は悪かったが、【複合的(マルチプル)情報(データ)解析(アナライズ)】の効果ですこぶる快適に状況を把握できた。


 このようなひどい絵図を見て、多少気分が悪くなる程度で済んでいるのは、オレが現代日本人としての感覚を心から持っていなかったということだ。本性は変わらないのだという事に気付き、俺は自分にあきれてしまった。

 17年も日本で暮らして、俺はこの程度しか変わらなかったのだ。


 どうやら戦況は、タブサと裏切り騎士たちのほうに有利に傾いている。

 援護はいらなさそうだった。


 オレはこの修羅場を止めることもしなければ、援護することもしない。タブサたちのことを知ってしまったからなのだろうか。


 ふと見ると、タブサの部下でひときわ身体の大きな男が、真ん中の豪奢なキャリッジ馬車に近づこうとする。


「げへへ、おんなああ」


 たしかピトとかいう、いろいろ足りていない男だった。窓からピトの姿をみた侍女が恐怖に(すく)む。


 次の瞬間、閃光とともに碧色に発光する球状の防護領域がキャリッジ馬車を中心にして発生する。

 とつぜん現れた碧色の球型防護領域にピトは驚愕し、狼狽する。


 オレはその光景を見て、確信する。

 あくまでCULOの知識だが、その技はCULOの職業【テクノプリースト】のEFスキル【触れられざる聖域(ジ・サンクチュアリ)】だった。指定した人や物など指定した位置を中心に、ごく一部の攻撃を除き物理攻撃およびEF(エーテルフォース)攻撃を完全無効化する防護エリアを展開させる。耐久力はスキル使用者のEF特殊技能(スキル)レベルに依存する。


 そのEFスキルを使ったであろう人物が、キャリッジ馬車の後ろに位置する貨物馬車から、ぬっと出てくる。

 それは、いろんな意味で大柄な男だった。



 

 年齢は四十代くらいの中年男性。膨れ上がった腹が特徴的で、まるで肉の球体から手足が生えたような印象だ。

 男は殆ど全裸と言っても過言ではない姿をしていた。衣服らしきものといえば極端に面積の少ない非常にキワドイ形状をしたピンク色の下着のようなものと、やはり面積の少ないピンク色のストールらしきもので身を隠しているのだろうか。というより、クロークのサイズが小さすぎてまるで隠せてはいなかった。


 小麦色の健康そうな肌と対照的な、やはり健康的で真っ白い歯が違和感を後押ししている。

 頭部はツルツルのスキンヘッドで、右の眼窩にモノクルをはめており、口元にはチョビ髭を生やしている。

 一言で表すなら不気味な男だった。

 

 左右の手には全部で8つの指輪が輝きを見せていて、それはとても高価そうだ。


 だが、何よりも目を引くのは、非常に面積の少ないピンクの下着みたいなレギンスの上から被せた、股間に位置する真っ赤な天狗のお面だった。

 太く長い鼻が天に向かって伸びているようにみえた。その天狗のお面の名は【テング・ペルソナ】CULOにおけるレアアイテムである。


 オレは周囲の光景には目もくれず、何故かその天狗のお面に釘付けになった。


 僅かな時間、意識が宙に飛んでいた気がしたが、すぐに正気を取り戻す。

 そして、オレはピンク色の巨漢ハゲオヤジに向かって叫ぶ。



オッサンディア(桜野)!!!」



 桜野と叫んだハズなのに、どういうわけかオレはプレイヤーキャラクターの名前を叫んでしまった。


「え、なんで?」



 オレは困惑する。どうなっているのだろうか?いや、それは置いておく。


 今は目の前の男についてが肝要だった。とにかく、懐かしい顔だった。それがCULOの中での顔にせよ。


 あのピンク変態ハゲデブオヤジは、オレの親友である【桜野圭一】なのだから。


オヤジウス・オッサンディア :桜野圭一のアーマメント。キモイ太り過ぎたオッサンの容姿をしている。この世界では法術師と思われるかもしれない。

 レイジが、彼の本名を呼んだにもかかわらず、どういうわけかプレイヤーネームに変換されてしまった。



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