第13話 仕事 -side零司
少し遅れました、すみません
偵察に出かけた男が戻ったのは、朝日が昇る直前だった。男はタブサに何か報告をした後、簡単な食事を済ませると仮眠をとった。疲れていたらしく、すぐに眠ってしまった。
朝焼けが東の空に広がりを見せたころ、タブサに起こされ男たちは目を覚ます。偵察が伝えた情報から、哀れな標的は思いのほか早く、この近くを通り過ぎるのかもしれない。
男たちは、昨日のうちに移動させた小型の馬車から荷物を下ろしていた。ある者は馬に飼料を食わせている。
移動用の馬と、仕事に必要な機材を積んだ馬車を別の場所に待機させ、拠点を確保するために徒歩で移動していたところを、青尾狼に襲撃されたのだった。
馬に搭載した荷物は結構な量だった。騎士を相手にするのだ。かなりの準備をしたのかもしれない。
「よお、姐さん。眠れたかい? いい朝だな。仕事にはいい天気だ」
タブサが朝の挨拶をしてくる。えらく機嫌が良さそうだ。オレは昨夜のコトもあって、軽快な返事という訳にはいかなかった。
ちなみにオレは一切寝ていない。マントに包まって一晩じっとしていただけだ。この身体はまるで眠気を感じないのだ。昨晩、食事と飲酒はしたが、食べる前も後も空腹は感じなかったし、酒を飲んでもまったく酔わなかった。この身体は一体何なのだろうか?
「ああ、まあまあだよ」
他の男たちは、設営した拠点を片付けたり、装備の点検などをしている。
「あー お、おばよう。おねえちゃん、ぎ、ぎょうもが、がわいいねえ、げへ、えへへ」
ピトという名前のいろいろ抜けている大男が、こちらに笑みを向けながら、朝の挨拶をしてくる。昨日程には獣の視線を向けてきてはいない。男たちが向ける視線が嫌なので、マントの調整機能を使って身体全体を包み、視線が来ないよう努めていた。
オレはタブサを何気なく見る。
タブサは部下たちと何やら相談をしていた。仕事の打ち合わせでもしているのだろう。
タブサの横顔を見ながら、ふと昨晩の事を思い出した。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「オレの女房と子供はな、暴虐の絶仙が率いる軍に殺されたんだ。村も、友達も知人もすべて暴虐の絶仙が食い尽くしたんだ」
オレは固唾を呑んで、タブサの語りを聞く。身じろぎせず、視線すら動かさなかった。
「村が襲われた時、俺はその場にいなかった。仕事で外に出ていたんだ。戻ったのは村が襲われてから4日後だった」
タブサの手にあった猪口に力が込められているのがわかった。
「村に戻った俺は急いで家に向かったよ。村は、暴虐の絶仙が率いる軍によって略奪しつくされていた。そして、家に入って俺は絶望した。そこにあったのは二つの亡骸だ。
女房は犯された後、首をへし折られていた。まだ8か月だった娘は床に叩きつけられて殺されていた」
タブサは猪口に入った酒を一気に煽ると。再び酒を注いだ。そして口を開く。
「俺は絶望したよ。そして気づいたらこんな稼業に身を落としていた。なんでさっきこんな仕事が何とか言っていたな? 単純だ、大切な何かを壊されちまった人間はな、もう元には戻れないんだ」
オレは何も言えなかった。昔のオレにとって、身内以外は敵だった。敵には何をしてもいいと考えていたのだ。
「ま、こんな稼業でも気づいたら大事なモンはできる。こいつらな、出来が悪かったり、色々足りなかったりで親からも、世間からも捨てられた連中さ。縁があって俺が拾って鍛えたんだ。ま、ホントに出来が悪いから、柔軟性はねえわ、やれることは少ないわで困ってはいるんだがね。それでもな、俺の可愛い息子たちさ。」
タブサはまた猪口に入った酒を一気に飲み干す。強い酒だ、流石に気になった。タブサは大丈夫と言った、酒で失敗したことはないと。
「姐さん、俺は決めたんだよ、あの日から。奪われる前に奪うと、殺られる前に殺ると。奪わなきゃ、敵に奪われちまう、苦労して時間をかけて築き上げたものも何もかもだ。殺らなきゃ、愛しいものは殺されてしまう。世の中そういうものなんだ」
◇ + ◇ + ◇ + ◇
タブサの話をいまだに気にしていることに、思わず自嘲してしまう。なにを今更、当時ならよくあることとして割り切っていたことだ。日本で暮らした影響か、自分を善人だとでも思いこんでいたのだろうか?
ふと、男たちの姿が目に入る。馬車から下ろした仕事道具の点検をしているようだ。まず、目に入ったのは戦棍だ。男たちが装備しているものは1メルト(メートル)の長さがある両手持ちタイプだった。頑丈な木材であるアカガシから削りだした、柄の先端に備え付けられた金属製の柄頭は、プレートメイルを装備しているであろう騎士との戦いを想定してだろう。
青尾狼に襲われたとき、タブサを除く男たちは銅製の剣を装備していたが、お世辞にも使いこなしているとは言えなかった。剣は扱いが難しい、訓練には時間と金が必要となる。
もう一つが小さな鉄球を発射するクロスボウだ。武器の特徴から弓よりは近い距離で使うものだが、プレートメイルを装備した相手には有効だろう。
そして、おそらくこの襲撃のメインディッシュなのだろう、それは、赤ん坊の頭くらいの大きさの陶器だった。小型の馬車で運んでいた物のほとんがコレだったのだ。
中身は何なのだろうか……。爆弾か? この世界でも爆弾くらいはある。もっとも科学の進歩がイマイチな為、たいしたものではないが……。その程度のもので仙技を使用する騎士を止められるものなのだろうか。
「来たぜ、オヤジ! お客さんが来やしたぜ!」
タブサの部下が興奮した様子で知らせてくる。その声でオレは我に返る。どうやら領主の娘が乗った馬車が見えたらしい。
「そうか、ご苦労。姐さん、そろそろだ、頼みますよ」
「……正直乗り気じゃないが。援護くらいならするさ」
「いや、それでかまいませんよ、よろしく頼んます」
男たちが配置につく。馬車が接近したら、斜面を一気に駆け下りて急襲する算段だそうだ。随分と捻りが無いとは思ったが、話が本当ならば騎士が半分裏切ることになっている。半分が味方になるわけだから、うまくいく可能性は高いとは思うが……。
オレはこれからタブサの仕事を手伝うことになってしまった。正直、断ることもできただろう。だが、俺はそうしなかった。タブサの過去を知り、それが自分のせいだから? 罪悪感から? だとしたらとんでもない欺瞞だ。
「お前ら、仕事だ。気合いれろ。姐さんは、まぁ、俺らの援護ってことで改めて宜しくおねがいしますわ」
タブサたちが斜面に沿って、あるものを並べる。昨日のうちに配置させた、手製の茂みだった。偽装材料として、本物の雑草を使うことで自然に身を隠すことができた。当然、持ち運びも可能だ。
これを使い、斜面の下にある道路を見張れるわけだ。
まだ遠いが、馬車が3台こちら側に向かってくるのが見える。
EFスキルランチャーより【複合的情報解析】を作動させる。視界には各種解析情報が表示されていた。
蹄の音が響いてくるのを感じる。馬が駆ける音だ。
姿を見られないよう、タブサたちよりも下がり姿勢を低くする。下の様子は見えないが、問題はない。
【複合的情報解析】が地形情報や敵の人数など戦闘に必要な情報を取得し、視界に表示していく。敵の人数は35人。三台の馬車を30の騎士と馬が取り囲むように並走しているようだ。
3台の馬車と騎士たちが乗った馬が近づいてくる。鉄火場の香りが漂ってくるのはもうすぐだった……。




