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第11話 タブサ -side零司

序盤、三人称です。


 その光景は阿鼻叫喚だった。予想外の敵、赤尾狼(レッドテールウルフ)が突撃してきた為、男たちは、態勢を立て直した直後にもかかわらず、パーティは再び崩壊したのだ。


 致命傷を負った者は少なかったが、陣形は崩されてしまった。

 それでもヒラメ顔の大男が受けたダメージが、もっとも深刻だった。赤尾狼(レッドテールウルフ)の突撃をモロに受け、その衝撃で吹き飛ばされ後頭部を地に叩きつけられたのだ。


「ピト! 立つんだ! やられるぞ!」


 ピトと呼ばれたヒラメ顔の男は、よろよろと立ち上がる。

 青尾狼(ブルーテールウルフ)は野生動物だ、容赦なんてものはない。本能が知っているのだ。自分たちの(おさ)が作った絶好のチャンスは逃すまいと、ピトに襲い掛かる。


 リーダー格の男がピトを助けようと向かうが、連携するかのような動きで、他の青尾狼(ブルーテールウルフ)が割って入る。


「どけよ! この野郎!」


 リーダー格の男は、鋼鉄製の剣を持っていた。この世界において、鋼鉄製の剣は高価だ。冒険者でも極銀級以上のクラス。もしくは、それなりの財を持つ騎士でもなければ持てないシロモノだった。


 怒声が飛ぶ。鋼鉄製の剣を腰だめに構えると、踏み込みと同時に突く。錬仙功(れんせんこう)で強化した肉体から繰り出される、威力とスピードが増した突きだった。


 が、あっさりと青尾狼(ブルーテールウルフ)が、突き出した剣の下に潜り込み、リーダー格の男の喉に喰らい付こうとする。


「あっ! ぶねえっ!」


 寸前の所でぎりぎり身体を捻ると、同時に青尾狼(ブルーテールウルフ)錬仙功(れんせんこう)で強化した蹴りを叩きこむ。実戦を潜り抜けた男ならではの攻撃だった。必死だったため、何処にあたったかは分からないが、ダメージはあった。

 男は反動とともに、横に転がる。

 

 だが、男の態勢が崩れた隙を逃さず、背後から赤尾狼(レッドテールウルフ)が静かに間合いを詰めると、一足で飛び掛かれる間合いに入った瞬間、襲い掛かる。

 凶獣は頭が回るのだ。青尾狼(ブルーテールウルフ)と連携して、同じく首元を狙っていたのだった。


 野蛮な牙が首元に突き刺さる……はずだった。

 青尾狼(ブルーテールウルフ)が咥えたのは鋼鉄の剣だった。

 これまで、男が生き抜いてきた数々の経験と、実戦で磨いた勘がそれをやりぬけたのだ。

 背後から急襲する赤尾狼(レッドテールウルフ)の牙を、振り向かぬまま鋼鉄の剣で防いだの

だ。 リーダー格の男は、九死に一生を得た形となる。

 

 リーダー格の男は、肉体の反応速度を強化しつつ、錬仙鍛(れんせんたん)で鋼鉄の剣を強化した。だからこそ、赤尾狼(レッドテールウルフ)の牙に鋼鉄の剣は耐えられたのだ。

 


「ピトォォッ!逃げろおっ!」



 リーダー格の男が叫ぶ。


 ヒラメ顔の大男、ピトは両手で頭を押さえ、亀のような態勢でうずくまっていた。最悪の防御方法だった。ヒラメ顔の大男は、皿の上に載ったメインディッシュと大差なかった。周りに二匹の青尾狼(ブルーテールウルフ)が囲み、革の鎧が守っていない箇所に牙を立てる。

 

 ピトが絶叫し嗚咽した、リーダー格の男は駆け寄り助けたかったが、赤尾狼(レッドテールウルフ)は剣を咥えたまま離さない。剣を離せばすぐにでも、赤尾狼(レッドテールウルフ)の餌食と化すだろう。


 ピトは古株だ。現在のパーティでは、リーダー格の男と最も付き合いが長い。

 部下が、死ぬ瞬間を目撃するのだ。リーダー格の男はピトの名を呼び、慟哭する。


 そのときだった。



 ピトの周りにいた、二匹の青尾狼(ブルーテールウルフ)の頭部を光芒が貫く。同時に青尾狼(ブルーテールウルフ)の頭部が飛散し、ピトの身体に、獣の血と脳漿(のうしょう)がまき散らされた。


 この何者かによる介入に、真っ先に気付いたひとりと一匹。


 ひとりは当然リーダー格の男だった。何らかの飛び道具だと見抜き、発射地点を特定する。

 自分たちがいる窪地から、斜面を上がった先120メルト(メートル)は離れていた。

 リーダー格の男が狙撃者の姿を捉える。昼間だったのと、撃った者の姿が印象的だったせいだろうか。銀髪(ぎんぱつ)の女だ。弓らしきものを構え、立ち射の姿勢をとっていた。


 一匹は赤尾狼(レッドテールウルフ)だ。

 この凶獣の反応は早い、これを潰さなければやられると判断したらしい。

 暗く燃える眼が紅い残影を残し、狙撃者に向かっていく。速い! リーダー格の男はそう素直に感じた。傍から見ると、ここまで速いとは!


 狙撃者との間合いを、左右へと飛び跳ねながら、やすやすと間合いを縮めてみせる赤尾狼(レッドテールウルフ)


 赤尾狼(レッドテールウルフ)の毛皮は硬い。大型の弓矢でも致命傷を負わせるのは難しい。

 普通の弓では一発当てたところで、そのまま突撃され餌食にされてしまうだろう。


 だが、そうはならなかった。餌食になったのは、赤尾狼(レッドテールウルフ)のほうだった。


 銀髪(ぎんぱつ)の女が構えている弓に、白色の粒子が一か所に集まっていく。そして、それは光芒の矢となって放たれる。

 それも一発ではなかった。


 一度に光芒の矢が10発も放たれたのだ!


 銀髪(ぎんぱつ)の女に到達するまでもなく、たっぷりの間合いを残して赤尾狼(レッドテールウルフ)の身体は消し飛ぶかのように飛散する。

 

 一瞬のことだった。


 あとには辛うじて狼だとわかる程度の肉塊と、まき散らされた血だけがそこにあった。


 青尾狼(ブルーテールウルフ)たちの動きが止まる。それと戦っていた男たちの動きも止まった。


 狙撃者が斜面を降り、こちらに歩いてくる。ゆっくりと、悠然と歩いていた。


 身目麗しい、若い娘だった。

 露出が派手な動きやすい軽装鎧に身を包み、白のマントを羽織っていた。ショートボブにカットされた美しい銀髪(ぎんぱつ)が、風になびく様は活発さを感じさせる。


 はっきりと表情がうかがえる距離まで彼女は近づいてくると、大声で呼びかける。

 高めで美しく、よく通る声だった。



「狼ども! まだやる気か?! おまえらのボスは倒したぞ! 同じ目に遭いたくなければうせろ!」



 まさか青尾狼(ブルーテールウルフ)に伝わるわけはなかったが、雰囲気から察したのか、単に自分たちの(おさ)が倒されたからなのかは不明だったが。青尾狼(ブルーテールウルフ)たちは、蜘蛛の子を散らすかのように逃げて行った。


 銀髪(ぎんぱつ)の女がリーダー格の男に向かって言った。



「おっさん、大丈夫か? 助けてやったんだ感謝しろよ?」




◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 



 

(ねえ)さん、ありがとうよ、助かった。あやうくやられるところだったぜ」



 狼たちに襲われていた、男たちのリーダーが感謝を述べた。


 男の名はタブサというらしい。本名かどうかは怪しいが。

 背丈は、俺と同じぐらい。あ、いや、()()のほうのね。


 全体的に小汚い恰好をしていた。マントに革の鎧。そして、ひときわ目立つ鋼鉄の剣。



「なに、通りかかっただけさ、あんた達もこんなところで何やってたんだ?」



 もちろんウソ200%だ。ここが何処だか、サッパリ豚酢煮のごとく俺は知らない。なおサッパリ豚酢煮は俺の得意料理だ。新瀬家の女性陣には大人気だ。肉なのにヘルスィ~というのが理由ね。オレとオヤジは好きじゃないが(男はすっぱいものが嫌いだろ?)



「いやいや、(ねえ)さん、それはこっちが訊きたいさ。この辺りは獣が多い地域だし、ご覧の通りの僻地だよ」


 

 コイツ、こっちの問いに問いで返す気か? いまの返し方は探られたくない腹があるってことか?



「なんだい? 訊かれたくないことでも?」


「いやいや、そんなことはないさ。なあ!? おまえらもそう思うだろ」


 タブサが男たちに同意を求める。

 すると、男たちがぞろぞろと集まって来た。体格のいい男たちだった。皆、服や革製の鎧の上からでも、筋肉質で鍛え上げられた体躯をしているのがわかる。

 そして、全員柄が悪い。



「やい、ねえさんや、ねえさんやい。げへへ、いいカラダしでいるな。おいらと●●●●しようぜえ」


 

 知能のカケラも無さそうな人相の悪い男が、臭そうな口から下卑(げひ)た物言いをしてくる。

 他の男たちも、獣じみた視線を向けてくる。特に胸や尻に視線が突き刺さる。



「うひひ、オヤジぃ~ この娘っコたまんねえよぉ~ ヤっちゃいませんかい? ()()前の景気づけってことでさあ」


 ガチムチな身体をした男が視線をこちらに向けたまま言う。(いや)らしい視線だった。


 この男の肉体を見てると、高場を連想させた。そっくりの体つきなのだ。あ、高場はこんなに厭らしい目線で女性は見ていないな。アイツはむっつりスケベ(ムッツリーニ高場)だから、せいぜいチラ見だな。



 ところで、この偽高場が言ったオヤジとは、タブサのことらしい。ところで、仕事? ()()とはなんのことだ? ていうか、『ヤっちゃう』とはどういうことだコノヤロウ。



 俺は不快感をタブサに伝える。言葉ではなく表情でだ。もし、タブサが部下の提案を受け入れ、仲間たちと共に蛮行に走るのであれば、この場で殺していただろう。



 だが、このタブサという男。その辺はわきまえているらしい。



「バカヤロウ! おまえら! 命の恩人だろうが! 敬意を示せ! ぶっ殺すぞてめえら!」


 怒声が男たちに叩きつけられる。冷水を浴びたかのように大人しくなる男たち。タブサというこの男、どうやらこのパーティの指揮官として有能といっていいかもしれない。荒くれものを抑えることができるのが、パーティーの指導者としての基本だからだ。


 この男たちは、冒険者や傭兵といった(たぐい)の連中とは異なる印象を受ける。獣や凶獣との戦闘がメインの冒険者ではないだろう。

 先ほどの凶獣との戦闘を見るに、凶獣相手の知識があまりないように感じたからだ。ひょっとしたら赤尾狼(レッドテールウルフ)相手の知識がなかったからかもしれないが。

 タブサは違う、きちんと凶獣相手の戦い方を知っているように思えた。ただ、間違いなく他の男たちは経験が浅かった。


 では、傭兵か? それも違うだろう。統率された兵士の動きではないからだ。

 タブサは兵士としての知識もありそうだ。動きにその片鱗を感じた。


 この男たちは戦闘力はある。だが、獣相手の冒険者や、戦争が仕事の傭兵ではない。


 だと、すると……。


 俺は質問する。命の恩人の質問は、きちんと答えろ的なニュアンスを含めて。


「なあ、オレはあんたらを助けたよな? 改めて訊きたい。べつにあんたらが悪党でも気にしないさ。こっちは何も宮仕えの(たぐい)ではないんでね」



 タブサの目じりが厳しくなる。それでも俺は言葉を続ける。



「あんたらは何者だ? 答えてくれ」



 タブサは少し俯くと、目線を俺に戻しつつ答える。



(ねえ)さんよ、何かに気付いたようだな? ま、助けてもらって礼さ。答えてやるよ、俺たちはな【ウェットワーカー】さ」


 【ウェットワーカー】主に、暗殺などの汚れ仕事を請け負う連中だ。ランク分けされているとも訊くが、さっきの体たらくを見る限り、こいつらのランクは下の方だろう。裏ギルドだとか闇ギルドとか言われている組織に加入しているという。


 しかし、何故、オレに話したのか? オレを始末する気かな? そうなればタブサたちにとって()()()()()()になりそうだな。



「何故、オレに教えた? オレを殺す気か」


「まさかまさか、そこまで外道じゃねえさ。それに(ねえ)さん、アンタ強いだろ? わかるよ、さっきの光の弓矢。アレはスゴかったぜ、噂に聞く【仙晶武具】ってやつだろう?」



◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 


仙晶武具(せんしょうぶぐ)

 錬仙(せんれん)された仙気(せんき)を含んだ、天然の鉱石を仙晶石(せんしょうせき)という。

 仙晶石(せんしょうせき)はその大きさや、純度により価値が変わる。サイズが大きく、石の純度が高いと、下手な希少な宝石よりも高価な場合がある。

 その仙晶石(せんしょうせき)を使用し、造られた武器や防具を【仙晶武具(せんしょうぶぐ)】という。

 【仙晶武具(せんしょうぶぐ)】は通常の武器や防具よりも仙気を透過しやすく、仙晶武具(せんしょうぶぐ)を使用して仙技(せんぎ)を使うと、他の武具よりも高い効果が得られる。

 場合によっては、普通の武具ではできないような仙技を使うことができるようになり、仙晶武具(せんしょうぶぐ)はとても貴重だった。仙晶武具(せんしょうぶぐ)専門の職人は、国や特定の権力者が厚く遇している。



◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 



「さあね、どうかな? ただ、こいつの威力は結構なもんさ、さっきのを見たよな? おかしな真似はしない方がいい」


「わかってるさ、部下にも言い聞かせておく。改めて礼を言わせてもらうぜ。ありがとうよ」


「ああ、命あってよかったな」


 オレは思う。

 仙晶武具(せんしょうぶぐ)という懐かしいキーワードを聞いて、思案する。


 この【エレメンタルシューター】が仙晶武具(せんしょうぶぐ)か定かではない。

 それでもだ。

 CULOの課金武器が、こうして顕在しているという事実を、どう捉えれば良いのか……。

 正直、オレには分からなかった。


 今よりさかのぼること7年前、オレは平和に生きると決めた。それがどうだろう。

 相手が人ではないにせよ、17年ぶりに命を奪った。これからオレはまた多くの命を奪っていくのだろうか……。

 

 だれか……。オレに教えてくれ、これからどうすればいいのかを。







 


ジスエクス・ニゴレイアル(レイジ) この世界に来て、初めてEFスキルを使用して生物を殺傷した。


タブサ 汚れ仕事専門の裏ギルドに所属するウェットワーカー。


ピト 下品な男。いろいろ足りていない。


その他の男達 反社会的な者たち、まともな教育は受けていないが特殊な方向の訓練は受けている。

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