プロローグ -手紙
初投稿した作品を、大改訂したものです。よろしくお願いいたします。
拝啓、前世を引きずっている俺へ。
本日、俺は前世と決別することを決めた。
長い事迷走したものの、遂に俺は決断した。現在進行中である、二度目の人生を日本人として平和に過ごしていくことを。
ようするに、アイツらへの復讐は忘れ、別の人間として人生を歩むということだ。
この世界に転生して、今日でちょうど10年になる。
日本という国で俺は産まれ、新瀬零司という名をもらった。
当然、赤ん坊から人生が始まるワケだが……。
正直、最初の頃は地獄だった。
行動しようにも、動けない、言葉はしゃべれない。
出来るのは泣くことだけ。情けなくて死にたくなった。
腹がへって、必死に母親の乳首を吸った時は、涙が止まらなかった。いろんな意味で……。
それでも俺の中に宿った、復讐の炎は消えなかった。
前世において俺は国に尽くした、民の為に戦った。
戦って戦って、己の人生すら犠牲にしてきた。
その結果はどうなったか? 国を民を救う為に仲間は俺に言った。
首をヤツらに差し出せと。
何が国だ、民の為だ。本当は自分が助かりたいだけだった癖に。
長年、仲間だと思っていた連中に裏切られた。
もちろん、連中ごときに害される俺ではない。だが、身内を殺すと脅されて、やむなく俺は死を選んだ。恨みと怒りを抱えて死んだ。
だからこそ、こうして生まれ変わったとき、俺の人生の目的は決定した。
何とかして俺の故郷へと戻って、ヤツらに復讐すると。
しかし、それは無理難題だった。地球と呼ばれる、この世界の概念を調べれば調べるほど、俺のいた世界に戻るのは不可能に近いことを悟ったのだ。
科学という魔法のような力が支配する、この地球の技術力を駆使しても人類が人を送り込めるのは、月がせいぜいなのだ。
魔法のような、と言ったが地球には俺のいた世界にある力の類は存在しない。
地球において超常的と呼ばれそうな概念。神人、魔人、悪霊、凶獣、その他諸々は全く無い世界だ。
知性を持った存在は、人間だけという世界。単一の種族が支配する世界なら平和なのかと思いきや、毎日世界のどこかで戦争は起こっているのだから、人間の戦好きは何処の世界でも共通しているようだ。
ただ、俺が住んでいる日本を見れば、それは当てはまらない。毎日平和そのものだ。もちろん何も問題が無いワケじゃない。毎日のようにテレビニュースでは社会問題を取り上げているし、殺人事件を報じていたりして天国ってワケじゃないが、それでも俺の前世よりは大分マシだ。
そう、来る日も来る日も血生臭い日々を過ごしていた俺にとって、この日本での生活は実に快適すぎた。前世のことを忘れてしまいたくなるほどにな。
あ、そうそう。今日は誕生日なので、両親と妹がお祝いしてくれた。ごちそうとケーキを食べた、うまかった。
この文書は、誕生日プレゼントのパソコンで書いている。
俺が、ねだったとはいえ、最新型の上位機種を買い与えるのは、どうなのだろうとは思うが。
ま、裕福な家庭だし、大丈夫なのだろう。俺がいい子だから、親も多少甘やかしているのかもしれない。
いい子なのは当然だ。中身は大人なのだから。
俺が転生した家。新瀬家はいい家庭だ。
両親はきちんとした仕事に就いている。父親は政に携わる仕事、国会議員という名前だったかな。母親は医術を駆使する仕事、医者というらしい。
もう10年も食わせてもらっている。なにも礼を返せていない。向こうは血のつながった親子だと思っているだろうが、こっち他人の感覚が抜けない。
だが、これからは違う。新瀬零司として、家族として新瀬家に溶け込んで見せる。心からだ。
家族はもう一人いる。3才年下の妹がいるんだ、名前は莉亜という。
少々生意気だが、俺を慕ってくれている。大事な存在だ。守ってやりたいと思っている。
前の世界でも、年の離れた腹違いの妹はいたが、あまりかまってやれなかった。慕ってくれていたのだがな……。
新瀬家に生まれ、そして日本で10年間暮らした結果。俺はどうなったのか?
結論から言うと、諦めたよ復讐。
いや、諦めざるをえなかった。
先に書いたとおり、戻る方法が無いということが大きな理由だが、心境が変化したというのも理由のひとつだ。
前世において、俺の人生は苛烈だった。ずっと戦いばかりの人生。落ち着いた時間なんか数えるほどしかなかった。
それが、この世界では毎日平穏。いつの間にか、俺から牙らしきものは抜け落ちていた。
しょうがないだろう? 戦争なんてないし、警吏も腐敗していないから治安もいいし、犯罪も少ない。野盗や盗賊だって現れない。
争いごとが少ない世界ってのは実に新鮮だ。たまに戦いたくなる時もあるが、養ってもらっている以上、家族に迷惑はかけられない。こういった己の奥に潜む闘争本能は自重しなければ。
戦いたい時は、ネット対戦機能を有した戦闘系のゲームをやることにしている。ゲームは実によい、本気でやっても相手が死なないからな。
格闘技とか武道をやろうかと思ったこともあるが、所詮はスポーツという名の試し合いだ。常に殺し合いをやっていた俺としては、はずみで相手を殺しかねない。
まあ、今の俺のように“仙気”が使えない以上、強力な力もない人間ができる事などたかが知れているだろうが。
まあいい、肉体を駆使した戦いは前世で死ぬほどやったのだ。新たな人生ではやらなくてもいいだろう。
そうだ、もう、どうにもならない。その事実が、俺から復讐心を徐々に奪っていったんだ……。
いつしか妻子のことも思い出さなくなっていた。
俺は非情な男か? もし、この事実を知った大半の人間はそう思うだろうな。
でもな、どうしようもないんだ。この日本において、俺は“新瀬零司”という一介の高校生でしかない。もう、俺にできることなど何もないんだ!
そう、だから、俺は過去を忘れる。
これからはこの世界、いや、日本でスローライフとやらを送るつもりで第二の人生を生きていくと決意した。
スローライフってのはこの世界の用語だ、定義はないらしいが。ようするに忙しい日常を捨て、のんびりとした生活に移行することを言うらしい。この世界で例を挙げると、都会でバリバリ働いていた企業戦士が、会社を捨てて田舎で畑を耕すことをいうのかな?
俺の前世は、あまりにも忙しく、血なまぐさい人生だった。これからは日本で楽しく平和にスローライフだ!
ああ、こんなもんでいいかな。できれば二度とこのファイルを開かなくて済むことを祈る。
俺しか見ないファイルだが、万が一の事を考えて、パスワードをかけておく。
パスワードは、おまえが生涯で唯一愛した女の名前だ。
できればこの先、その名前を忘れるくらいに、この世界での人生を楽しめるようになることを祈る。
最後に一言、おまえに言っておく。復讐は忘れろ、もうどうにもならないのだ。前世の俺は死んで、生まれ変わったのだ。昔の事は忘れ、新瀬零司としての人生をしっかりと務めるんだ。
じゃあ、もういいだろう。さようなら、前世の俺。
そして、おはよう! 新しい俺。新しい人生を楽しむんだぞ。
一時間後、2話目をアップロード致します。