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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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六十四 属性化

「嫌だけど」


 予想外の返答が来たと言わんばかりに目を見開いたミアは口を半開きのまま呆然としていた。


「は?」


「僕は敵しか殺さないんだ。味方を殺すつもりはない」


「私はあなたの味方ではありません。あなたが私を破壊しないというのであれば、私は再びユグドラシルに与するだけです」


「まあまあ、人形のくせに短絡的だなあ。どんな事情があってミア自ら死ねないのか知らないけど、君が自分の意思で死ねるように何とかしてみせる。それでいい?」


「あなたにそんなことができるのですか?」


「僕にそんなことができると思う?」


「思いません。あなたに機械操作の知識があるとは思えない」


「だから、その知識がある人を探すよ」


「見つからなかったとしたら?」


「その時は僕が壊してあげる」


「あなたは味方を殺さないのではなかったのですか?」


「ケースバイケースだよ。僕は柔軟な思考を持ってるんだよねえ」


「思い付きで言っているだけのようにも聞こえますが」


「まあほぼ正解だよ」


「あの少女が何故あなたに恋心を抱いているのか、甚だ疑問です」


「それは僕も疑問に思ってるよ。男を見る目ないよね」


 ミアは冷たい目でナチを一瞥した後に、頤を上げた。


「……早く脱出しましょう。あなたと会話しているとエネルギー消費量が増大した気がします」


「大丈夫? システムがバグってんじゃない? 電気流そうか?」


「本当に五月蠅い男ですね。早くその手に持っている符を起動させてください」


「はいはい。まだ一回も試したことがない符術だから、気を付けてね」


「…………」


 ナチは手に持っている符に属性を二つ付加した。一つ目は《光》。


 そして膨大な霊力とともに付加した二つ目の属性は、《天日牢》。

 

 属性を付加した符を頭上に投げ飛ばし、ナチは二つの属性を解放した。


 一枚の符から爆発的に膨れ上がる白縹色の光。それは尋常ならざる破壊力を持つ神殺符術《天日牢》で間違いない。全方位に放たれるはずの霊力の光は《光》の属性によって、上空の一点にのみ放射され、頭上の土を驚異的な破壊力で消滅させていく。


 抗うことは許されず、耐えることも許されない。許可されたのは為す術もなく消滅することのみ。ナチが発動した符術は瞬く間に地上へと繋ぐ穴を抉じ開け、その光は二人の生存を示すように夜空に向かって天高く伸びていった。


「一応、符術の属性化は成功……かな」


 ナチがナナに言われて、決意した符術の改良案。


 それは詠唱が必須のマトイ式符術を詠唱という行為を省き、属性化することで簡易的に発動できるようにするナチ式符術への変換。元々、ナキとの旅の中で変換術式だけは完成させていたために後は実行に移すのみという段階だったが、師であるマトイへの罪悪感から実行に移せずにいた。


 彼女の誇り高き符術を弟子である自分が穢してしまっているようで。


 けれど、これからの旅でマトイ式符術の改良は遅かれ早かれ必要になっていた。


 マトイとナチ、二人が作り出した二つの符術を一つにしたナチ式符術の完成形。


 この改良を加えたナチ式符術が元来の符術の性能を上回ったのは間違いない。戦闘中にその場で詠唱しなければならない、という致命的な欠陥はこれで解消された。ナチの属性を組み合わせることで破壊力や持続時間、利便性も間違いなく向上している。


 それでも、《神威》にはまだ及ばない。この段階ではまだナチ式符術は未完成だ。


 ナチは上空に大きく空いた地上へと繋がる大穴を見上げながら、全身に《強化》の属性を付加した。


「行こう」


 二人は跳躍し、壁を蹴り上がりながら地上へと到達。雪が吹き荒ぶ地上にはナチ達が地中深くに落とされる前と同じ死体と瓦礫が無数に転がっている光景が広がっていた。変わっているのは『貴族区』と『商業区』を隔てる塀が破壊され、その残骸が地面に積み上げられていることだ。その先には炎と瓦礫、まだ破壊されていない『貧民区』に通ずる塀が見える。


 文字通り一瞬で街は崩壊してしまった。


 たった二人の人間によって。


 さらには吹き続ける強風の音に混ざって、甲高い悲鳴や子供の泣き声が木霊している街の光景は明らかな異常事態。


 ナチは周囲を確認し、送り出したはずの少女の姿を探した。マナの姿はどこにもいない。けれど、よく見知った黒い獣が一心不乱にナチ達の下へと歩いてきているのを二人は確かに視界に捉えた。


「ナチ!」


 明らかに焦っているイズの声が二人の下へ届く。イズは二人の前にたどり着くと、呼吸を整えながら口を開いた。


「生きていたのだな……よかった」


 一瞬、懐疑的な視線をミアにぶつけた事には言及せず、ナチは彼女の言葉に頷いた。


「うん、ギリギリだったけどね。イズ、悪いけど状況を教えてくれる? マナがそっちに行ったと思うんだけど」


「状況は移動しながら説明する。すぐに『商業区』に向かってくれ。マギリが一人で戦っているんだ!」


 イズはナチの肩に飛び乗ると、整わない呼吸のまま叫ぶように言った。


「行きましょう」


 二人は常軌を逸した高速移動で『貴族区』を駆け抜けた。


「マギリが一人で戦ってるってどういうこと?」


「リーヴェとマナはコトと一緒にいた男に気絶させられてしまったんだ。それでマギリがお前達に救いを求めるために我を逃がした」


「マギリが負けるとは思えないけど……」


 マギリが敗北するとは思えない。それでも相手はオズだ。絶対はない。ナチは一抹の不安を抱きながら、速度を上げた。ミアも合わせるように速度を上げた。


「ですが、先程から戦闘音は聞こえません。彼女は敗北してしまったと考えるのが」


「分かってる。急ごう」

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