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アヴェリアム・コード ~消えゆく世界と世界を渡る符術使い~  作者: ボジョジョジョ
第六章 鋼糸が紡ぐ先には人形と少女がいる
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五十八 オズの目的

 駆け出したマギリとマナ。二人の背後から放たれる風雪。蛇のように螺旋状に回転しながら突き進む風雪はオズが軽く触れただけで一瞬で消滅した。


 リーヴェの能力が消滅したことに誰も驚きはしない。それはもちろんリーヴェも同じ。驚愕することもなくリーヴェは次々と豪雪を付加した竜巻をオズに再び放った。地を這うように進む竜巻は路面を凍結させながら、オズに迫る。が、それもオズが触れた瞬間に消滅。雪の残滓すらも残ることなく跡形もなく消滅した。


「無駄ですよ」


 竜巻も雪も消滅した。それでも凍結した路面はまだ残っている。


 凍結した路面をマギリが急速にオズが佇む方向にのみ、拡大。オズに触れた瞬間に彼の靴底と凍結した路面を連結。それと同時に路面から極太の氷柱をオズの心臓目掛けて発射した。その二つの作業も瞬く間に打ち消されてしまう。氷柱は水に戻り、凍結した路面に降り注いでいく。


「まだまだ!」


 マギリは光雪を、リーヴェは灰雪を大量に生み出し、同時にオズに向けて放った。光雪に呑まれていく灰雪は外見を白銀に変え、温度すらも塗り替わり、文字通り《絶対零度》と遜色ない温度へと変化する。


 呼吸すら封じるほどの氷結温度。


 一息でも吸えば、死に至ると言っても過言ではないほどの温度を持つ光雪もオズの前では全てが無に返る。


 大量の雪が消滅した瞬間に姿を消していたマナが高速で移動し、瞬息にオズの前に姿を見せる。右手に持つのはナイフ。能力を使わせなければ、必殺の威力も武器もいらない。


 ただのナイフでもオズは殺せる。


 突如、眼前に現れたマナをオズは無表情で見つめ、気が付けばマナのナイフによる一撃を躱していた。どう躱したのかすら判然としない回避。素早く動いたのか、それともコトが何をしたのか全く分からないまま、オズはマナの背を蹴り飛ばした。


 地面を転がるマナはすぐに体勢を取り戻すも何が起きたのか分からないと、愕然とした表情でオズを見ていた。


「あなた方二人が連続で攻撃を繰り出し、注意をあなた方にのみ向けさせる。そして、私の注意から完全に外れた、と思い込んでいるマナが止めの一撃を放つ。まあ、即興にしては上手く連携が取れていると思いますよ」


「随分、上から言ってくれるじゃないの」


 こいつは今、何をした?


「弱い人間に敬意を払うほど、私は懐の広い人間ではありませんから」


「あっそ。どうでもいい情報ありがとう」


 こいつはさっき、どうやってマナの攻撃を躱した?


 光雪が消滅した瞬間に現れたマナのタイミングは完璧だった。躱すことは不可能な速度でマナは現れ、同じく『加速』が付加された腕でナイフを振り抜いたはず。


 それにあの男はマナの能力を相殺せずに、躱し、蹴り飛ばした。


 娘に対するせめてもの情けなのか温情なのかは分からないが、何故あのタイミングで『虚構遡行』を使わなかったのか。それとも『虚構遡行』を使用して躱したのか。


 いいや違う、とマギリはすぐに否定した。


 使用したのならば、彼女の腕に付加されていた『加速』も解除され、、尋常ならざる速度で振り抜かれた刃は視認できるほどの速度にまで落ちていないとおかしい。けれど、速度は落ちていなかった。やはり『虚構遡行』をオズは使用していなかったと断言できる。


 ならば、あの男はあの瞬間、なにをした?


「そろそろ決着をつけましょうか。時間ももったいないですし」


「できるもんなら、やってみろ……よ」


 言葉を言い切る前にはもうリーヴェの前にオズは立っていて、拳は腹部に深く沈んでいた。拳が鳩尾を強打していると認識した瞬間に空気と唾液が空気中に勢いよく噴き出し、リーヴェは地面に倒れこんだ。完全な不意打ち。攻撃を受ける準備すらままならない内に拳をすんなりと受け入れていた。


「あなた方は娘の友人みたいですから、命だけは助けてあげますよ。少し眠っていなさい」


 オズは腹部を押さえ、膝をついたリーヴェの頭を鷲掴みにすると地面に叩き付けた。オズの右手が触れると同時に意識が薄れていく。間違いない。この男の能力は人の意識すらも零へと回帰することができる。抵抗する事もできないままリーヴェの意識は深い闇へと落ちていった。


「リーヴェさんに何をしたの? お父さん!」


 激情に任せて一直線に突っ込んでいくマナのナイフによる一撃を容易く躱し、オズは肘で鳩尾に一発。体勢が崩れたところに貫手による一撃が喉元に直撃する。呼吸が出来ず、悶えているマナもリーヴェ同様地面に叩き伏せられ、強制的に意識を奪われていく。


 徐々に閉じていく視線の先にいるのは呆然と佇むマギリ。鮮やかな紅の瞳に宿るのは純粋無垢な驚愕、疑問。何が起きているのか分からないことに対する恐怖。


 マギリはそこでふと気づく。


「あんたの弟子は?」


 コトの姿がどこにもないことに。上下左右前後。どこにもコトの姿は見当たらない。


「時間は効率的に使え、とコトには教えていますから。既にシャルという子供を追っているころだと思います」


「シャル? あんな幼い子供を攫ってどうするつもり?」


 マギリはイズを肩から下ろした。そして、穏和に微笑むと首を縦に振った。イズもそれに頷き返す。真っ直ぐに『貴族区』へと向かうイズを横目に、マギリは右手に六つの花弁を模ったような戦輪を作り出した。

 

「あの子供の能力は自分や自らが深く関わった人間、場所の危機を察することができる危機察知能力。その効果範囲を本人はまだ自覚していませんが、上手く使えばこの世界全体にまで効果範囲を行き渡らせることができる」


「だから? そんなことして何になるってのよ?」


「この世界から能力を消滅させる」


 オズは先程までの感情の伴わない笑みではなく、明らかに感情を込めた笑みを浮かべてそう言った。不敵に、力強い笑み。


 この男は本気で言っている。妄言染みた発言ではあるが、この男が本気で実現しようとしていることはマギリにも分かった。


「なるほど、コトを連れて旅してる理由はそういうことね。色々と合点がいったわ」


 人の能力を奪うことができる能力。そして、奪った能力を同時に使用し、使いこなすことができるコトの優れた演算能力。事実、奪った能力を組み合わせれば、この世界から異能を消し去ることは理論上は可能だろう。


 だが、目的が明確なだけに必要な能力も明確化、限定される。また、この世界に現状で必要な能力が存在するのか自体曖昧だ。


 ナチが《世界を救う四つの可能性》を見つける旅と同等くらいには途方もない夢物語といっても過言ではない。


「死ぬまでに叶うといいわね」


 マギリは思い切り馬鹿にするように言った。ふん、と鼻で笑いながら。


「無知な人間はこれだから嫌いですよ。必要な能力はもうすぐ揃う。私の計画は」


「禁書、かしら?」


「おや、禁書を知っているのですか?」


 笑顔から感情が消え、再び作り笑顔がオズの表情に浮かび上がる。


「さあ? どっちかしらね」


「素直に答えたほうが身のためですよ?」


「《アン・リ・フィメイリ》だったかしら?」


 その言葉を聞いた瞬間にオズの笑みは崩れた。先程までの余裕が消え失せ、代わりに冷たく鋭い空気で満たされていく。

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